中編
せっくす。
アルファベットのWの次はX。
靴下を英語で言うと、ソックス。
...えーと。
イルカの頭の中をオヤジな駄洒落がぐるぐると回る。
いや、そんなことよりも。
またからかわれてるよ、しかも性質の悪い冗談で。勘弁してくれ!
「あんまり感心しませんね、カカシ先生の物言いは。」イルカは怒りを隠さずに、きつく言い放った。
「へっ?じゃあなんて言えばいいんですか?やらせて、とか?」
「違います!そんな人を馬鹿にしたような冗談は、笑えないっつってんですよ!!」
怒髪天を衝く、といった形相でイルカが息巻いた。
「あ〜冗談じゃないんですけどね〜。俺、イルカ先生のことが好きなんです。」
カカシはポリポリと頭を掻きながら、のんびりとした口調で告白した。
....はい?
話が意外な方向に流れていった。しかもあまりイルカが歓迎できない展開になりそうだ。カカシ先生のことは好きだし尊敬もしている。ナルトの事もよく面倒を見てくれるし、いい人だと思っている。だけど、それとこれとは話が別だ。カカシの言うような、SEXをしてもいいような、特別な感情を持っていない。というか、イルカはやはり男なのでSEXの相手は女がいいと思う。いい匂いもするし柔らかいし可愛い。男の征服欲を満たしてくれる。それが同じ男ならどうか。汗臭いし堅くてゴツゴツしてるし鬚やら脛毛やら胸毛やら....とにかく可愛くない!勃つものも勃たんだろう。しかもカカシとだったら上下関係からいって、自分は絶対突っ込まれる側だ。男に突っ込まれるなんて言語道断だ。女は巨萬といるのに、何が嬉しくてわざわざ男と寝なければならないのか。任務でなければ絶対ごめんだ。
しかし、これでカカシと気不味い関係になるのは避けたいところだった。ナルトも懐いてるし、自分も人としてカカシを好いているのだ。
イルカはカカシの噂を知っていた。泣かした女は数知れず、木の葉切っての遊び人。遊びが過ぎて男色やらおかしなことにも手を出しているとは聞いていたが、本当に粋狂な人だ。
ま、何かの気まぐれだ。そのうち飽きるだろう。
イルカは結論付けて、なるべくカカシの気分を害さないように、慎重に言葉を選んだ。
「カカシ先生の気持ちは嬉しいんですが、俺カカシ先生のことをそういう目で見たことないんで、突然言われても返事できません。」
そうだ、ちょっと曖昧に、嫌ともいいとも言わないで煙に巻くのだ。頑張れ、俺!
イルカはカカシの様子を見ながら自分を叱咤激励した。
「そうですか。」
カカシは言いながらイルカとの距離を詰めて来た。イルカもそれに合わせてじわじわと後退る。
「じゃあ、今からそういう目で見てください。どうですか?俺のこと好きになれそうですか?セックスできそう?」
ひいいい!とイルカは内心焦った。まさかここまで追いこまれるとは。
「い、いや、その、カ、カカシ先生のこと、嫌いじゃないというか、寧ろ好きなんですけど、セックスできそうかというと、ちょっと、その」
「セックスはどうして駄目なの?男同士は気持ち悪い?」
イルカは、はい、と頷いていいものかどうか躊躇って、カカシの顔を見遣った。
すると思いがけず。
カカシが傷ついたような苦しいような、切ない瞳をしてイルカを見つめていた。
その瞳を見ていたら、やはり正直に言うのが躊躇われ、イルカは更に自分を窮地に追いこむような発言をしてしまった。
それがカカシの作戦なのだが、人のいいイルカには分からないのだ。
「気持ち悪いっていうか、その、経験ないし想像もつかないっていうか。だから、あの、怖いんです。」
それを聞いたカカシがニッコリと綺麗な微笑を浮かべた。
綺麗なのに禍禍しい。イルカは嫌な予感がした。
「そうですか〜!じゃあ、ちょっと試してみましょう。ね、全然怖くないから。」
「え、や、そ、それは、」
「試してみて駄目だったら、諦めるから。ね?いいでしょう?」
そう言われてしまっては、イルカに反論の余地はなかった。
「本当に駄目だったら、諦めてくれるんですか...?」そう答えるのが精一杯だった。
「はい。」カカシが嬉しそうに笑った。
「本当にちょっとだけですよね?」尚もうだうだと言うイルカの手を取って、カカシは歩き出した。
「本当にちょっとだけですから。あんた、どうせ着替えるんでしょ、それ。丁度良かった。ロッカー室行きましょう。」
はい、と渋々了承するイルカは、本当に底抜けのお人よしだった。
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