ストーカー100日(2)

いつも覗いてるけれど・・・
イルカ先生が俺が見ていると知っていると思うと、なんか興奮する・・・

カカシはドクドクと早鐘を打つ胸を押さえながら、熱い眼差しでイルカの入浴姿を見詰めた。
いつもは何処も隠さずに堂々と風呂に入っているのに、やはり見られているのが気になるのか、キョロキョロと辺りの様子を窺いながらタオルで前を隠したりしている。その頬が羞恥にほんのりと赤く染まっているのを見て、カカシは鼻息を荒くした。

イルカ先生、お、俺の視線を気にしてるんだな・・・

視姦プレイという言葉がナチュラルにカカシの脳裏に浮かぶ。今まさにそんな状況ではないか。
いつもだったら、イルカの股間を隠すタオルの存在に苛立つところなのに、どうしてなのか、イルカが恥ずかしがっているのだと思うと、モロ見えの時よりも燃えるものがあった。

こ、こういうのもいいなあ・・・なんか新鮮な感じ・・・

カカシは顔を緩ませながら、躊躇う事無く自分の息子に手を伸ばした。
イルカの入浴シーンを覗きながら一発抜く。時には数発。
それは朝起きたら顔を洗い歯を磨くように、カカシにとっては至極当たり前の事だった。
これをしないと一日が清々しく終われないと思うくらいだ。

はあー・・・今日のイルカ先生はまた一段とイイ・・・

これまでイルカに微塵も気配を悟られまいと、自慰をしながらも今一つ集中できないところがあった。
しかし今は気配が漏れてもいいのだ。
カカシが見ているとイルカ自身も知っているのだから、何の不都合もない。
そう思うと、カカシの己を鍛える手にも熱がこもった。

あ・・・っああっ・・・イ、イルカ先生・・・っvv

折りしも眼下ではイルカが自分の体を泡を立てて洗っていた。
勿論あそこも丁寧に洗っている。
カカシは息を乱し、血走った眼でそれを凝視しながら、己の手の動きを早めた。

や・・・やばい・・・なんだか良過ぎ・・・声でそう・・・

カカシが甘美な焦りを感じた時、突然天井を見上げたイルカとばっちりと目が合った気がした。
その瞬間、「あ、カカシ先生、そこにいらしたんですね!」と屈託無く笑ったイルカに、
「う・・・ッ!」カカシはドピュッと早すぎる発射を終えていた。
それを少しだけ情けなく思いながらも、

こ、この生活いいかも・・・っ

カカシは新たなストーカー生活の始まりに、胸と萎んだ股間を早くも膨らませていた。





意外に気配ってのは分かるものなんだな・・・

イルカは風呂に入ってからというもの、先ほどまで全く感じなかったカカシの気配を、次第に感じ取れるようになっていた。
野郎の入浴シーンに真面目にやってられない気持ちもあるのかもしれないが、やはり天下の上忍といえど、四六時中気配を殺しているという事は負担なのだろう。
イルカは勝手にそう解釈して一人申し訳なく思っていた。

これは報酬のある任務でも何でもないし・・・
カカシ先生の手をここまで煩わせてしまっていいんだろうか・・・?
それにカカシ先生は食事とか風呂とかこれからどうするつもりなんだろう・・・?取り合えず、今日の着替えや睡眠は・・・?

考え出すときりがなかった。

ひょっとして俺が食事や寝床といった最低限のものは提供するべきなんだろうか・・・。

しかしそれを口にするのは躊躇われた。こんな事、イルカの本意ではないのだ。
それにイルカには一抹の不安があった。
一流の忍びとして、木の葉の里でも屈指の実力を誇るカカシですら、こんなにも気配を感じるのだ。
それに比べると、自分がストーカーされているかもと感じていた違和感は微々たるものだ。
カカシ以上に気配を殺せる凄腕の輩が、自分をストーカーしているなんて絶対にありえそうもなかった。

や・・・やっぱり気のせいだったんしゃないか?
ス、ストーカーされてるかもなんて、俺の思い過ごしじゃ・・・?
ああ〜!でもこんなに大袈裟になってしまった後ではとても言えないよ・・・!

イルカは確信のないまま、軽々しく口にした自分を激しく後悔していた。
カカシにこのまま見張られるのは辛い。だがあれほど切々と訴えておいて、今更ストーカーは勘違いでしたとは口にできない。

はあー・・・俺はどうしたらいいんだ・・・?

イルカは溜息をつきながらも体をごしごしと洗った。一生懸命洗うと心の憂いも少しは洗い流されていくようだった。
自分の大切な場所を石鹸を泡立てた手で擦ると、
「・・・!・・・!!」
吃驚するほど空気が揺れた。

ああ、カカシ先生、こんなに近くにいたんだ・・・

イルカはカカシが潜んでいる場所をいよいよ確定して、その方向に向かってぎこちなく微笑んだ。
「あ、カカシ先生、そこにいたんですね!どうもお疲れ様です・・・!」
言いながら、

カカシ先生にここまでさせて、ストーカーがいなかったら・・・俺、どうなっちゃうんだろう・・・?

上忍に凹られる自分の姿を想像して、先ほどまでは思い過ごしであって欲しいと思っていたストーカーの存在を、イルカは強く願った。
その瞬間、湯気が天井からポトリとイルカの顔に落ちた。
しかし、その湯気は冷たくなく寧ろ熱いほどで、少し粘ついている気がした。





「イルカ、最近雰囲気が変わったよな・・・!」
まるで眩しいものを見るような目つきでイルカを見詰めながら、同僚がしみじみと言った。
イルカがそんな風に言われるのは、これが初めてではなかった。
このところ、日に何回かはそう言われる。大体が好意的な意味合いで、「見違えるようになった」と。
「え?そ、そうか・・・?そんな事ないと思うけど・・・」
そう答えながらも、イルカ自身も自分の変化を認めていた。
そしてその変化を齎したのがカカシの監視の目だということもわかっていた。
カカシに見張られるようになって、早一ヶ月。
ストーカーはやはりイルカの思い過ごしだったのか、その姿を現さず、それどころか日常に感じていた不思議な違和感も感じないようになっていた。
その代わり、常にカカシの視線を感じた。

始終カカシ先生に見られているのかと思うと、きちんとしなくちゃと思うんだよな・・・

天下の上忍の前で無様な姿を晒したくない。その緊張感がイルカに生活の張りを与えていた。
まず、身嗜みには気をつけ、清潔を心がけるようになった。

以前は2〜3日風呂に入らなくても平気だったけど、今は毎日入ってるし・・・
洗濯もカビが生えるまで溜め込まなくなったよなあ・・・

イルカは自分の事を振り返った。
それだけではない。家の中でもぐーたらしなくなった。普段はパンツ一丁で横になりながらビールを飲み、少しHで低俗なTVをだらだら見るような生活だったが、今では家に帰るとポロシャツなんかを着込んで、巻物を読んだりしている。
更に外ではどんな時も笑顔を忘れずに、嫌な顔一つせずにてきぱきと仕事を片付ける。
そうした日々の努力の積み重ねによって、今では何処か爽やかな精悍さを身につけたイルカは、忍びの間で赤丸急上昇中のイケメンの一人に数えられていた。
この一週間で、もう六人もの女性に告られた。野郎を入れると十一人だ。他人に告られるなんて、イルカはそれまで一度も経験した事がなかった。
仕事の方もその働き振りが認められて、少しばかり昇格した。上司に期待される有望な部下というのが今のイルカの姿だった。

これも皆ストーカー・・・もとい、カカシ先生の視線のお陰なんだろうな・・・

何ともいえない複雑な表情を浮かべるイルカの隣から、同僚がそっとピンクの封筒を遣した。
「俺とお前の仲で今更だけど・・・いい返事を期待してる・・・」
頬を赤く染めて囁く同僚に、

この変化って俺にとっていい事なのかなあ・・・

イルカは引きつった笑みを浮かべた。






おかしな具合になってきたな・・・

カカシはこのところ焦燥を感じていた。
イルカを堂々とストーカーするようになって早一ヶ月。
何故かイルカは日常生活に隙を見せなくなっていた。
いつもきりりとしたイルカを見るのも楽しかったが、何だか少し物足りない。
その原因をカカシは分かっていた。

サービスショットが足りないんだよね・・・

それはカカシにとって深刻な事態だった。
確かに毎晩イルカの入浴シーンは拝めるのだが、それは意外性のない光景で、ハッとカカシの心を鷲掴みにするような急激な興奮の高まりは感じなかった。

入浴シーンを拝めるだけで贅沢なのかもしれないけど・・・
でも以前はもっとこう、ぐっとくる刺激的な場面にしばしばお目にかかることができたよなあ・・・

カカシは過去を懐かしむように目を細めた。
例えば。以前だったらパンツ一丁で横になったまま、ちょっとHなテレビ番組を見て自慰を始めるイルカの姿や、何処から仕入れてきた情報なのか、温めたコンニャクに切れ込みを入れて、それに息子を挟んで鍛えようとするイルカが温度操作を間違って、息子に火傷を負わせて転がりまわる姿など。心ときめく貴重な一瞬を目にすることが出来た。
それなのに、今のイルカには全くそんな気配もない。

溜まったりしていないのかなー・・・

カカシはちぇっと唇を尖らせる。
自分が夜寝ている間にしているんだろうか。そんなどうでもいい事を始終悶々と考えながら、イルカを物陰から覗き見する日々だ。
しかし、それだけなら己の妄想で補填する事ができるが、カカシの焦燥の原因はもう一つあった。そちらの方がカカシにとってはより深刻な問題だった。

なんか最近、本当に俺以外にもイルカ先生をストーカーしている奴がいるんだよね・・・

カカシがイルカを見詰めるその視界に、余計な姿が目に付くようになっていた。イルカに熱い眼差しを向けるのは、結構な美女であったり、むくつけき野郎であったり、よぼよばな老人であったり年端の行かない子供だったり。老若男女を問わないどころか、道端の野良犬さえも、イルカを見てハッハッと盛っている。そのもてっぷりは空恐ろしいほどだ。

どうして突然こんな事に・・・?そ、そりゃあイルカ先生はかわゆいけど・・・っ
今までこんな事はなかったのに・・・っ!

カカシはイルカを取り巻く周囲の急激な変化を理解できなかった。というのも、カカシにとってはイルカがだらしなくてもきりりとしていても、常に光り輝いて見えていたからだ。イルカは何処も変わらないのに、周囲の状況だけが激変していく。カカシは真面目にそう思っていた。

ああ・・・このままじゃ、鳶に油揚げだ〜よ・・・!

カカシの楽しみだったストーカー行為は、今やイルカを狙うライバルチェックの場と化していた。
目に付く輩は人知れず影で凹リ、闇に葬り去っているカカシだったが、取りこぼしがないか気が気でなかった。おちおちイルカばかりを眺めてもいられない。

こ、こんなはずじゃ・・・
一体どうしたら以前みたいに楽しいストーカー生活を満喫できるようになるんだ・・・?

憂えるカカシを更にどん底に突き落とすような出来事が起こった。
「カカシ、お主にはこれから2週間、Sランクの里外任務に就いてもらうぞ。」

ええ・・・っ!?こんなイルカ先生に誘惑の多い時期に2週間も・・・マジ!?

火影の勅命書をカカシは茫然と見詰めていた。






「何か・・・イルカ、雰囲気が変わったよな・・・」
同僚が何処か遠い目をしながら、憂い顔でポツリと呟いた。
その目は赤く、泣き腫らしたかのようだ。
「えぇ?そうか?」
イルカは背中をぼりぼりと掻きながら、何気なく答えた。
「そんなに変わっていないと思うけど」
そう答えながらもイルカは自分の変貌振りを自覚していた。
もう2〜3日も風呂に入っていないし、髪はぼさぼさ、その上無精髭だってはやしっ放しだ。
受付所の仕事もだらけ捲くりで、少しでも嫌な事があると、
「ったく、やってらんねえよなあ!」
口汚く罵っては報告書を乱暴に投げ捨てる。
その姿に同僚が「どうしちゃったんだよ、イルカ・・・俺の夢を壊さないでくれ・・・!」とよよと泣き崩れる。
イルカはそんな同僚の様子に嘆息しながらも、確かにこのところ俺はだらしなさ過ぎるなあ、と内心反省をしていた。
でも駄目なのだ。何にもやる気にならない。

カカシ先生が任務に出てからというもの・・・
生活に張り合いがないというか何というか・・・

イルカは眉間に皺を寄せて、ハアーと深い溜息をついた。
そうなのだ。天下の上忍の監視の目がなくなった途端、イルカの緊張は一気に緩んだ。

よーし、カカシ先生が留守の間に自堕落の限りを尽くすぞ!

始めのうち、イルカはその開放感と自由を満喫していた。思う存分アダルトビデオを見たり、パンツ一丁で酒を飲みながらゴロゴロしてみたり。
だが直に飽きてしまった。
それどころか、何の視線も感じられない生活に寂しさを覚えた。

カカシ先生がいなくなったら、何の気配もしない・・・ストーカーはやっぱり俺の思い過ごしだったんだな・・・

今やその事実は当初とは別の意味でイルカの心を暗くしていた。

以前はストーカーが思い過ごしだとばれたら、カカシ先生に凹られることを心配していたけど・・・
今はその事がばれて、カカシ先生の監視の目がなくなってしまうことの方がつらい・・・

うみのイルカ25歳、酷く間違った方向に転び始めていた。


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