中編

いきなり話を振られてイルカは焦った。
視線は向けねども、周囲の人々の意識が。
カカシの顔が。
青年の瞳が。
全てイルカに向けられているのが分かった。皆イルカの返事を待っているのだ。
参加したくも無い会話に強制的に引き摺りこまれて、イルカは度を失った。何も答えずに切り抜けたいが、状況はイルカにとって思わしくなかった。水を打ったような静けさがイルカにプレッシャーを与える。

ど、どうしたらいいんだ!?
カカシの、本気を。
信じてるって....?俺が?
そう言ってるのか。

イルカはゴクリと唾を飲みこんだ。

里きっての遊び人。上忍の戯れ。一時のお遊び。
初めて関係を持った時のシチュエーションも最悪だった。
カカシが本気だなんて、思ったことはない。思ったことは無いけど。

イルカは我知らず、口を開いていた。

「お、俺は...カ、カカシ先生が本気だとは...信じていません...けど、」

けど、なんだ!?何を言うつもりだ、俺!?と、勝手に動く唇にイルカは内心焦った。

「本気だといいな、と思ってます....。」

言ってしまってから、イルカは愕然とした。今、俺は一体何を....!?

イルカの背後から回された手に力が篭った。ぎゅうぎゅうと痛いくらいイルカを締めつける。

「いだだだだだ.....っ!」イルカは思わず悲鳴を上げた。逃れようと身を捩っても、ガッチリ回された腕はイルカを離さなかった。

「嬉しいです〜...。」カカシがうっとりと呟いた。

「イルカ先生から初めての、愛の告白ですね!」

そう言うが否や、イルカの拘束を緩めないまま、カカシが突然立ち上がった。カカシは立ち上がる際に上手く左手をイルカの膝裏に滑らし、いつの間にかイルカをお姫様抱っこしていた。

いい年をした大人の男が、これまたいい年をした大人の男に姫抱っこされている図。

爆笑の渦となっていいはずのその場は、相も変わらず静寂に包まれたままだった。イルカはというと、あまりに急激な展開についていけず、抵抗も忘れ呆然としていた。しかし、すぐに自分の恥ずかしい格好に気付き、見る見る間に顔を茹蛸のようにさせる。どうにかしてこの場を取り繕いたい、でも今更どうやって?何かいい訳させてくれ!と口を開くのだが、出てくる言葉は「あー」だの「うー」といった意味不明のものばかりだ。じたばたともがくイルカを物ともせず、カカシはそのままの格好で青年を見遣った。

青年はあんぐりと口を開け、奇妙なものを見るような目つきでカカシを見ていた。

「これが、あのカカシ....?」

やっとのことでそう呟く。

「あんたのお蔭でイルカ先生の気持ちがわかったから、今日のところは許してやるけど、イルカ先生に手を出したら次は絶対殺すよ?」

青白い炎がカカシの身体から立ち昇る。青年の顔に初めて怯えの色が浮かんだ。カカシの本気を悟ったからだ。

カカシは言うだけ言うと、突然ご機嫌な様子で「じゃ、今日はもうこれで失礼するから!」と素早く片手で印を組んで姿を消した。
抱きかかえた、イルカごと。



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