スピーカーの上手な鳴らし方  (音響システム設計資料)                                             ホームに戻るボタン           

チャンネルデバイダ用 フィルターの実測データベースです。フィルター特性に詳しい方は読み飛ばしてください。

 チャンネルデバイダーのフィルターについては、意外とに詳しい解説が見あたりません。よく見掛けるのは、簡単な低次フィルターの周波数計算式や、数学的な解説などで、実用的なものでは無く、頭でっかちと言わざるを得ません。スピーカー用3WAY 12dB/octネットワークで問題は、ミッドの極性です。測定器で確認すれば、ミッドは反転させるのが正解なのですが、ヒアリングでは、優劣が判然としません。その為、ヒアリングのみで判断する事は、無謀であるという事になります。又、バタワース、ベッセル、リンクウィッツライリー等の方式も、数学的な違いと、測定上の違いが、理解できず、ここでも頭でっかちな議論となります。ここでは、実際にデジタルチャンネルデバイダーを動作させ、デジタルミキサーでその出力を合成し、PC解析した結果を表示しています。フィルター選択のデータベースとして活用してください。

フィルターの性質

 スピーカーをマルチWAYとして駆動する場合、無くてはならないのが帯域を分割するフィルターです。用途により、ハイパスフィルター、ローパスフィルター、バンドパスフィルターという名称で呼ばれます。ある工房のメールマガジンで、フィルター通過後の成分を合成した音と、以前の音では、明らかに差があるという情報に接しました。今まで気にも留めなかった事で、早速、実験を行いました。元音と、3WAYフィルター通過後の合成音が違うのは、どうやら確かなようです。デジタルフィルターであるとか、安物であるとかの非科学的論理で決めつけるのは、一般受けするには違いないのですが、我がポリシーに反するので、コンピューターを使用して、過渡特性の厳しい波形で、わかりの良い1kHzで1波のトーンバースト波を、バタワースフィルターを通し、各帯域を合成し、その波形を比べてみました。バタワース特性のみとしたのは、ソフトの都合上の事で他意はありません。その結果、2WAYで、6dB/octの場合のみ、原音と、フィルター通過後の合成が一致するのみで、他は、一致しませんでした。

2WAYのクロスオーバーは、1kHzと5kHzとし、3WAYでは、自家用と同じ、805Hz、4980Hzを使用し、6dB、12dB、18dBについて調べてました。PCソフトでミックスして解析。
Pは正極性、Nは逆極性の意味です。BUT6は、P-P、BUT12は、P-N、BT18はP-Pが正しい極性です。
 2WAY 1kHzクロス
プロ音響用2WAYでよく使用されるクロス周波数です。


 2WAY 5kHzクロス
オーディオ用として一般的な2WAYで、1kHzトーンバースト波は問題無く通過しています。


 3WAY 805Hz,4980Hz
接続の極性でも随分波形が変わりますので注意する必要があります。スピーカーからの実音では、極性違いは、あまり判りませんが、極性違いの場合は、クロスポイントで、深いディップが起きやすく、それが判定の決め手となります。


フィルター特性による違い

下の表は、DCX2496で選択できる減衰量とフィルタータイプの一覧です。試用期間中のSmaartV7(現在のバージョンは7.3です)にて、各フィルター特性を測定してみました。
クロスオーバー周波数2WAY時は、1kHzで、3WAYでは、296Hzと3.04kHzを使用しています。

バタワース ベッセル リンクウイッツ
 6dB/oct    ○   −     −
12dB/oct    ○   ○     ○
18dB/oct    ○   −     −
24dB/oct    ○   ○     ○
48dB/oct    ○   −     ○

フィルターは、バタワース、ベッセル、リンクウィッツライリーの3タイプが選択できます。バタワースの傾斜は、6,12,18、24,48から選択でき、ベッセルでは、12と24、リンクウィッツライリーでは、12,24,48が選べます。
以下にSmaartV7での測定結果を掲載しておきます。測定条件は、DCX2496の各出力をデジタルミキサー01V96V2に入力して測定を行いました。YAMAHA DMEデザイナや、BOSE CSデザイナで、音響システムを設計する際の参考にしてください。
バタワース特性 6dB,12dB、18dB、24dB、48dBいずれの傾斜においても、1kHzでは-3dBという値となっています。位相変化は次数x90°で48dBが一番位相変化が大きくなります。

上がバタワースフィルターの位相特性、下が電圧特性です。

12dB/octの3タイプの比較で、上は位相特性、下は、振幅特性で、1kHzの値がバタワースが前述の−3dBですが、リンクウイッツライリーでは、-6dBでベッセルはその中間の値です。位相の違いはフィルター解説からうけるイメージほどの差はありませんでした。
バタワース、ベッセル、リンクウィッツの位相特性、及び振幅特性

dbx VENU360は、バタワースとリンクウィッツが選択できますが、ベッセル特性は選択できません。


チャンネルデバイダの極性について
 3WAYシステムの場合、MIDの極性についての議論を見かけることがありますが、チャンネルデバイダのように、理論に合致しやすい機器の場合はMIDを反転させないと、大きなギャップが生じてしまいます。ピュアオーディオ製品では、位相回転を嫌うあまり、BUT6dBの製品を見かけることがあります。位相的にはベストなのですが、肝心の帯域外の減衰という主目的が忘れられていると思います。ところで、チャンネルデバイダを使用するにあたり、極性をどうして良いのか迷います。説明書を読んでも分かりにくいし、かといって、誰もがSmaartV7を購入して測定できる訳でもありません。以下にSmaartV7を使用して、DCX2496の各特性を測定した結果をのせておきますので、参考にして下さい。基本的に、クロスオーバーポイントで、深いギャップができてしまうのが間違った接続です。バタワースのようにピークが有っても、正しい接続であったりします。目的に応じたフィルタータイプと、傾斜を選択してください。
ギャップについてですが、スピーカーのように、空間合成される場合は位相が不安定なので、ミキサーで電子的に合成した場合よりも、ギャップができにくくなります。(誤接続に気付かぬ事もありうるということです。

以下で使用した測定系のFLAT特性ですが、高域で位相が真っ直ぐになっていないのは、デジタル機器のレイテンシィの為で、48kHzのサンプリング周波数では真っ直ぐにできず、もっと高いサンプリング周波数で、遅延時間を適用して測定する必要があります。

スマート測定系の位相特性   YAMAHAデジタルミキサー01V96V2

測定機材 測定ソフト SmaartV7 USBキャプチャ UA-5 SRC2496(デジタル変換)→DEQ2496(フォーマット変換)→DCX2496(デジタルチャンネルデバイダ AES/EBU接続)
右側 サミングアンプとしてデジタルミキサー01V96V2を使用。DCX2496の出力を それぞれミックスした結果を同軸デジタル出力後、UA-5のUSBでPCに入力。01V96V2は、0.1dBステップで精密なミキシングができますので測定にも重宝しています。

以下 DCX2496 2WAYの場合 1kHz 3WAYの場合 303Hz 3.04kHzというクロスオーバーです。
1.6dB/octの場合 BUT6(バタワース特性のみ)
2WAYでは、正極同士の場合と反転した場合とで、通過利得の違いは有りませんが、反転した場合位相がfcで90度となり、高域では180度まで回転します。このような事から、左側正極同士が良いでしょう。 P=ポジティブ N=ネガティブ

6デシベル バタワース特性 2WAY 

3WAY BUT6 では、正極同士とMIDが反転する場合の2通りが考えられますが、正極同士の方が位相特性は、目的のリニア特性となります。平坦性は中音域で軽い盛り上がりが見られます。MIDを反転した時のディップよりはましです。3WAYでも、左側正極同士の接続が良いようです。
6デシベル バタワース特性 3AWY


2.12dB/octの場合 隣同士は反転させます。
2WAY 12dB/oct バタワース特性 スピーカーを聴いてみるとさほどではなくても、左側の正極同士のディップは相当に大きく、反転させる右側が正解です。クロスオーバー周波数で3dBの上昇が有ります。

12デシベル バタワース特性 2WAY

2WAY 12dB/oct ベッセル特性 バタワースとほとんど変わりませんが、右側のクロスオーバー付近の盛り上がりは、約1dB程度で許容範囲内に入ってきます。
12デシベル ベッセル特性 2WAY

2WAY 12dB/oct リンクウィッツライリー特性 正極同士のディップは他の2特性と同じですが、右側の反転接続の場合の平坦性は非常に良い状態です。
12デシベル リンクウィッツ特性 2WAY

3WAY時においても、クロスする部分は2WAY時と変わりません。MIDを反転する接続でないと、深いディップが生じてしまいます。4WAY時は、正逆正逆という接続となります。
3WAY 12dB/oct バタワース特性
 
12デシベル バタワース特性 3WAY

3WAY 12dB/oct ベッセル特性
12デシベル ベッセル特性 3WAY

3WAY 12dB/oct リンクウィッツライリー特性 平坦性は2WAY時と変わらず優秀です。
12デシベル リンクウィッツの特性 3WAY


3.18dB/octの場合(バタワース特性のみ)

バタワース18dB/octフィルターは、非常に面白い特性で、極性を間違えても大崩れしません。
2WAYの場合、振幅特性はほとんど同じで、位相特性のみが違います。どちらを選択しても構わず、最終的にヒアリングで判断といったところです

18デシベル バタワース特性 2WAY

3WAY 18dB/octバタワース特性では、右側 正逆正の方が位相面で若干有利ですが、振幅特性だけでは、優劣がつけられず、こちらもヒアリングで判断といったところです。
18デシベル バタワース特性 3WAY


4.24dB/octの場合 全て正極同士の方がおすすめです。
2WAY 24dB/oct バタワース特性 クロスポイントで3dBの盛り上がりがあります。正極同士の方が良いでしょう。
24デシベル バタワース特性 2WAY

2WAY 24dB/oct ベッセル特性 クロスポイントは-1.5dB程度のディップとなります。
24デシベル ベッセル特性 2WAY

2WAY 24dB/oct リンクウィッツライリー特性 一番平坦です。
24デシベル リンクウィッツ特性 2WAY

3WAY 24dB/oct バタワース特性
24デシベル バタワース特性 3WAY

3WAY 24dB/oct ベッセル特性
24デシベル ベッセル特性 3WAY

3WAY 24dB/oct リンクウィッツライリー特性 一番平坦です。
24デシベル リンクウィッツ特性 3WAY


5.48dB/octの場合 位相回転が多く、特に急峻な特性が求められた場合だけの使用に止めるべきでしょう。
2WAY 48dB/oct バタワース特性。
48デシベル バタワース特性 2AWY

2WAY 48dB/oct リンクウィッツライリー特性
48デシベル リンクウィッツ特性 2WAY

3WAY 48dB/OCT バタワース特性
48デシベル バタワース特性 3WAY

3WAY 48dB/OCT リンクウィッツライリー特性
48デシベル リンクウィッツ特性 3WAY


スピーカーシステム実測結果
実際に自家用の4WAYマルチシステムにて、バタワース、ベッセル、リンクウィッツ−ライリーの24dB/oct4次フィルタについてSmaartV7にてPhase測定を行った結果ですが、
音色が変化するのは良くわかりましたが、期待を裏切って、フィルタタイプの違いによる位相の変化がわかりませんでした。12dB/oct 2次フィルタでも同じ結果となりました。
自家用4WAYマルチシステムの24デシベル バタワース、ベッセル、リンクウィッツ フィルターでの実測位相特性
 自家用4WAYマルチシステムの12デシベル バタワース、ベッセル、リンクウィッツ フィルターでの実測位相特性

フルレンジスピーカー F-150の場合は、素直な変化です。
フルレンジスピーカーF-150Gの素直な位相特性


このページの簡単なまとめ
1.6dB/octフィルターは素直な特性ではあるが、傾斜が緩く、ホーンスピーカーでは、低い周波数で不要な音を出す可能性が高くなる。
2.12dB/octフィルターは、隣り合うチャンネルを逆相にしないとディップが生じる。
3.18dB/octバタワースフィルターは、肩特性が良く、システムに合う可能性もある。個人の見解として、オーディオ向きです。
4.各チャンネル出力を合成した電圧的な平坦性は、リンクウィッツが最良である。ホーンスピーカーシステム向きです。

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