5W 純A級DCアンプの製作 令和4年11月更新                                                    

 ここで紹介するアンプは、1W時 THD 0.00006% SN 111dB を実現します。全部で20ch製作しましたが、このスペックとなりました。それほど難しい回路構成ではありませんし、ミューティング、中点電圧保護、温度保護があり、実用性も高い物です。短絡保護は、設けていませんが、実用時にその心配は無用と判断し、音質劣化を避けました。製作にあたって、出力トランジスタをダーリントン構成単位で、hFEを合わせる事と、OPアンプの負荷抵抗4本を極限まで同じ抵抗値とするなどの、原則は守る必要があります。
 2018/11/07
 たまたま、別件で紹介が有ったトランジスタ技術を購入したところ、黒田氏の興味深い付録記事があり、サブタイトル「学生、新人エンジニアのための」では無く、自称オーディオマニアの私にとって、新世代アンプOPA1612 Aクラス、ひずみ率0.00031%とあり、製作意欲を湧き立たせるには十分でした。記事の最大出力は15Wでしたが、発熱が問題となる、純A級アンプで、ベーシックスペックとなる15Wでも、実機の発熱はかなり有り、110dB/Wものホーンスピーカーを鳴らすのだから、出力はそれほど必要では無いので、どこか切りの良い出力は無いかと模索しました。

最大出力について
 15W以下となると、10Wもそれなりの切りの良い数値ですが、もう少し別の観点を考えてみて、秋月にある、33,000μF 16WVの電解コンデンサを主役として、周りを構築してみました。パワーアンプ回路は、普通のSEPPなので、正負電源で、このコンデンサを使用し、汎用電源トランスをと、16Vセンタータップ付きトランスが、各種入手しやすく、2ch仕様は、3A 4ch仕様は、5Aと容量を決めました。整流は、40A低損失SBRダイオードブリッジがあり、これもすんなりと決まりました。整流電圧は、無負荷で12.7V、負荷時10.8Vで、耐圧16WVには、丁度良いとなりました。電力部の電源はこれで決まりましたが、OPアンプや、その他の保護回路用電源が必要で、シンプルで性能が安定している、12V三端子レギュレーターによる、定電圧とし、24Vリレーも動かせるように決めました。電源トランスは、汎用品なので、もう一個追加となりましたが、低残留雑音は、これらの設計により、確保できる事となりました。OPアンプは、電源の雑音排除能力が高く、普通電源でも十分では有りますが、何気なく電源のデカップリングを入れた回路と、別電源にした場合と、残留雑音が一桁違うという実験結果が有り、別電源にする事が、低雑音の為に欠かせない条件でした。

低利得アンプの実例が少ないのは何故か?
 オーディオの足跡を参照すると、パワーアンプの利得は、おおむね25〜30dBが多数派です。デジタルオーディオが当たり前になった現在、オーディオ出力は、DACの回路構成上2.5Vが多くなりました。2.5Vは、8Ω出力に換算すると、0.78Wです。90dB/Wの平均的な能率のスピーカーを鳴らした場合は、89dBの音圧が得られますが、家庭では、すでに過大な音量です。言い換えれば、何も電圧増幅しなくても、電流だけ増幅すれば、やかまし過ぎる音量が得られる事となります。利得0dBでやかまし過ぎるのに、さらに増幅をしてしまうパワーアンプの役割は完全に矛盾します。そうなると、DACの出力を如何に都合良く減衰させるかが、普通のパワーアンプを使う為のテクニックとなります。
 0dBパワーアンプは、皆様も同じ考えに至られるようで、検索も多くヒットしました。しかし、メーカー製品が無いのは、アンプとして何か欠陥を含んでそうなのではという考えが湧いてきます。一番考えられるのが、NFBが深くなりすぎて、安定した動作をしなくなるという事でした。しかし、OPアンプでの電圧増幅では、そのような利得制限もなく、全ては、外付けの抵抗で、理論どおりに動作してくれます。そのままスピーカーが駆動できるかどうかは別として、OPアンプを使用すれば、必要な利得のアンプが作れるという推論が成り立ち、Y社製品の回路解析を行ったり、ネット検索をして、構想を温めてきました。
初期のシステム 
2010/12/13  メーカー製アンプによる完成形 2016/10/13

 このマルチシステム初期の実験段階では、YAMAHA MX-55 ベリンガーA500 SONY TA-F333ESJなどで構成し、様々な不都合を解決しながら、右のサンスイ AU-α607XR4台に落ち着きました。サンスイのアンプも、SLF用が、中点電位のエラーで、プロテクションが動作したぐらいのトラブルはありましたが、順調でした。これとは別に、インピーダンス測定信号用アンプ部が、単電源と、2電源回路の混成で、ハム雑音が解消できず、2電源動作のLM3886にて、それを解消し、支障なくインピーダンス測定ができるようになりました。
予備のLM3886が余っており、スピーカーを鳴らせるよう、アンプ製作をした結果、LM3886は、発振しやすく、残留雑音も特別良いわけでもなく、選外となりました。
参考までに、中古アンプに発生した不都合
MX-55     ミューティングリレーの接触不良 NFB経路を原因とする違和感ある音質
A500      1kHzでは発生しなくても、4kHzで発生するスイッチング歪み、大きめのハム雑音
TA-F333ESJ 残留雑音が大きく、ホーンスピーカーを鳴らせない
AU-α607XR DCドリフトが大きい
P-60D     内部配線の取り回しで10kHz以上で歪率が増加、放熱容量が小さく、すぐに温度上昇する

自作アンプは、LM3886からスタート(発振しやすさが印象に残った)
 LM3886歪率特性 
2017/01/12

 次いで、2017年トラ技5月号黒田徹氏の記事を参考に、A級アンプをLME49720とLT1115でA級アンプを試作しました。色々と実験をしていく中で、低雑音、低歪率さが、今までのどのアンプよりも、優れている事に確信を持ちました。オシロの波形も、細く、くっきりと出て、期待が持てそうでした。下は試作ドライブ基板部と歪率特性です。最初の試作品の残留雑音は、16.6μV(A)で、改良を重ね、6.2μV(A)まで下がりまして、開発の方向が間違い無い事を確信しました。
LME49720を使った実験用アンプの特性(ケースなし) 
2017/06/09
 上の基板のデカップリングコンデンサは、パワー回路用の電源を使う為で、試作のステージを重ねるうちに、このコンデンサを無くし、パワー回路とは、別の定電圧電源とした所、残留雑音が一桁まで、下がるという大きな効果がありました。簡単な3端子レギュレーターでも良いので、電源トランスが別に必要となりました。
 LT1115を使った実験用アンプの特性 10W出している事にも注目(ケースなし) 
2017/06/13
 上の実験用アンプで、LM3886は、0.01%程度の歪率で、並みの特性で有ることが解ります。LME49720では、10kHzで難が有りますが結構良い特性です。LT1115では、それがもっと向上し、0.01W時THD+Nが0.01%を下回ります。手持ちのアンプのどれよりも、低雑音、低歪率であり、スピーカーでの、試聴結果も、
小音量時の分解能が特筆物で、長時間聴きたくなるというものでした。この好結果を見て、後継アンプとなるよう、実用化する事にしました。事のついでに、アイドリング電流は、広範囲に変化させて、歪率特性を測定した結果、0.2A以上では、性能限界に達するという結果を得ました。この試験結果により、5Wアンプでの、アイドリング電流は、計算で得た、0.6Aと決定して問題無い事になりました。LT1115は、低雑音ですが、低利得は、得意でないので、OPA1611〜2で、利得15.6dBを多く製作しました。LT1115は、ドリフト調整端子が有るので、DC漏れを少なくするには、都合が良いので、こちらも2台残しています。

製作したアンプの基本構成
 まず、100Wアンプの場合の運用レベルが、最大で、-20dB(1W相当)で有ることより、出力はそれ以上なら可です。電源の大容量電解コンデンサで、16V33,000μFが秋月で入手できるので、この能力を最大で活かせるよう、電源電圧を決めました。もう一点、同じく整流ダイオードに、SBRを使用して低損失を狙うとし、それら条件より、電源トランスを16V3A HT-163とし、ドライブ回路の電圧を、±12Vとしました。
 保護回路は、電源ON-OFF時のミューティング、中点電圧、過熱時の3条件を想定し、基板面積の都合と、音声電流の流れるエリアが広くなるので、短絡保護は省略しました。ミューティング回路では、電源検出に、電源トランスを1回路使いますので、2巻き線のHTR-2005とします。ミューティングリレーは、使いたくない部品ですが、MOS-FETのスイッチングも、アマチュアでは一般的では無いので、いつものG2R-2-AULとします。
 入力は、利便性より、RCAを装備し、本格運用時の接触不良回避の為、XLRを併設。出力は、ワンタッチで脱着可能なノイトリックのスピコン。電源は、ノイズフィルター内蔵の、3Pタイプとします。スピコンは、一般には馴染みが無いのですが、ネジ式ターミナルでは、勝手に緩み、結線時も、時間がかかる事で、スピコンの電気性能の良さ、脱着性には勝てません。平衡入力は、回路構成が複雑になるのと、SN比が悪化するので、避けました。
 AU-α607XRは、今後不用で、処分をしなければならないので、立派な放熱板と、パワートランジスタ部の基板を流用する。サンスイの回路構成と、今回のA級アンプは、同じ構成なので、保護回路等の不用な部品を外し、エミッター抵抗、出力コイルなどはそのまま流用し、他は新しい部品と交換。パワートランジスタと放熱板間の銅板も流用し、サンスイの技術を拝借します。
ブロック図 
回路図 class a.pdf
 ケースは、放熱板の高さがあるので、タカチの133mm品から選択し、4chは、WS133-43-33とし、2chは、OS133-26-33を選定。WSシリーズは、オーディオアンプらしいサイドウッドパネルなのですが、幅260mmでは、鉄製上蓋の放熱口が無いので、2ch仕様は、厚手アルミのOSシリーズとなりました。OPアンプ用レギュレータ−電源は、バラック配線では、ノイズ面で難しい時も有り、写真のキット(放熱板が2ケの基板)は、そうした心配もなく無難に仕上がります。ネジは、真鍮製、サポートも真鍮、アース系は、圧着端子、線径は、最低0.3SQ、太い線は、0.75SQ、パワー系は、1.25SQを使用する事にしました。

2017/11/05 2017/12/09
電源トランスは、ゴムを挟んで取付、トランスの唸り音を低減 デスクトップで使用しても気になりません

理想的なスピーカー駆動の為、アンプに求めた事(トップページと重複)
 1.残留雑音10μV(A)以下、THD+N(80kHzBW)歪率 
0.01W時 0.01%以下とする 利得偏差は、F級金属皮膜抵抗を、更に抵抗値選別して、高精度を実現 パワートランジスタも、精度の高いペア選別を行う 
 2.A級動作で、スイッチング歪みを原理的に避け、B級やD級時の、
信号量に追従するような電流変動が無いという、純A級増幅の利点も活用 すなわち、効率の悪さを逆手に取る 電解コンデンサ容量は、33,000μFを使用
 3.102〜110dB/Wの高能率SPを駆動するので、純A級 5Wx2の最大出力とし、100W級プリメインアンプと同等の
無信号時消費電力(30W)と、十分な放熱面積を確保し、温度上昇を少なくし、高信頼化
 4.音楽のエンベロープを忠実に再現するように、DCまでフラットに増幅 市販DCアンプの測定や調整の経験上、DCドリフトは、それほど安定ではなく、熱平衡度が原理的に高いOPアンプにて、高いDC安定度を得る。
位相補正はスチコン使用
 5.クロストークに関しては、アースポイント、電源配線長と線径に配慮して、
クロストーク量を少なく、波形も綺麗にする (2mm厚アルミシャーシー+リン青銅歯付きワッシャー+真鍮ネジ+圧着端子 etc.)
という、目標を掲げましたが、更に詳しく解説すると以下のようです。

1.0.01W出力でTHD+N(雑音歪み率 80kHzBW) 0.01%以下
 0.01W出力というのは、最大出力を誇示する市販アンプから見て、小さすぎて意識できない方が多いと思いますが、隙間の多い、クラシックやJAZZでは、この辺りの音量が多く出現します。音量的には、70dBですが、BGM的な使用では、これがピーク音量となります。それでは、100Wを越えるようなハイエンドアンプは何故必要かという疑問が生じます。過去には、ピークマージンを多く取るとか、クリッピングによる、スピーカーの破損を防ぐとかという説明がされてきましたが、アナログ時代ならば、そのようなピークの出現も説得力が有ったと思います。しかし、デジタル時代になり、0dBを越えられないデジタル音源の原理により、ピーク音量が、正確に決まるようになりました。○○tubeで、マッキン1.25kWアンプの動画を見ました。レベルメーターが動画中で指していたのは、1.2Wのポジションでした。とすれば、1.25kWまでのマージンは30dBも有りますが、このマージンは何のために有るのでしょう。1.2W出すのに、5Wアンプと1.25KWアンプでどのような違いが有るのかですが、1.2W時の電圧、電流は同じであり、しかし、そこに含まれる雑音量が、5Wアンプの方が少ないという事です。

 有名なマークレビンソンのパワーアンプは、250W出力ですが、このアンプは、定格値として、SN比2.83V時85dBと記されています。マッキントッシュ1.25kWでは、SN比最大出力時124dBとされており、2.83V時換算では、93dBです。このSN比は、値段を考えれば、商品として保証される、最悪レベルだろうと思います。実際には、もっと良い値の可能性が有ります。しかし、製作した5Wアンプの2.83V時、実測SN比は114dB、ハイエンドアンプより高いSN比かつ、0.01W時 THD+Nは、0.005%以下です。これならば、110dB/Wもの高能率なホーンスピーカーを直接鳴らす事も可能で、しかも、過大入力の心配も有りません。

2.A級動作の長所と短所
 A級アンプの最大の利点は、増幅素子がカットオフにならない為、スイッチング歪みが無いという点です。その為、無信号時でも、大きな電流を流し、大きな発熱となり、電力効率は非常に悪く、温度上昇も、気になります。しかし、効率の良さと音の良さは、全く無関係です。
ところで、温度補償付きパワートランジスタがありますが、トランジスタの電流増幅率は、温度に関係し、温度が高いほど、増幅率も高くなります。この非直線を改善する為に、精密に温度をキャッチしようとしたものと考えられます。出力の増加と、動作電流増加が連係するB級アンプでは、動作温度の変動が大きくなります。A級アンプでは、元々発熱が多いので、必ず動作温度も高くなります。そうなると、適切な温度補償が無いと、温度上昇に応じて、バイアス電流も増加し、その結果、それを原因として、さらにバイアス電流が増えるといった、いわゆる熱暴走状態になってしまい、最終的に、接合部で、定格温度を超えて、短絡状態になり、増幅も停止する事になります。
   パワートランジスタの接合部温度を求めた自作4chA級アンプ
 このグラフは、製作したA級アンプのパワートランジスタの接合部の温度を求めたものですが、トランジスタのB-E間の電圧は、温度に依存しており、その電圧を知ることにより、動作温度も求められます。この実験では、動作電流は、0.6Aで、外気温35℃、室温は、エアコンにより、28℃に冷房がかかっています。エミッター抵抗は、0.22Ωで、トラ技のオリジナルの0.47Ωよりも、低い値にしています。エミッター抵抗が低いほど、熱暴走が起きやすくなりますが、アンプの内部抵抗の低さが、音の良さと関係しそうという仮定で、アンプ製作しており、この種の冒険もしなければなりません。
 無謀な冒険とならない為には、放熱容量を大きくするという事が必須となりますが、実験に用いた放熱板は、B級時、50Wx4用で、ケースは、タカチWS133-43-33 定価\20,460 シャーシはAC43-33 定価3,300、2mmのアルミ板で、自重770gす。真夏での実験いにより、70℃ぐらいのところで安定しています。
 Tjは、150℃ですので、まだ余裕が有ります。温度保護は、放熱板に取り付けた、サーモICが、70℃に達すると、パワートランジスタ電源トランスの通電を遮断して、それ以上加熱しないようにしています。製作時の試験用として、43℃で動作する設定も有り、こちらで、動作するか確認します。
ついでに中点電圧ですが、数Hzのような低い周波数が入っても、動作しますので、こちらも簡単にテストができます。尚、短絡保護は、設けておりません。ところで、このケースは、上下の蓋が、鉄製で、上部用が、放熱用のスリットが有ります。水晶発振で、安定度を高める為に、恒温漕を使いますが、その温度は60℃程度です。半導体を安定的に使うには、A級アンプの動作温度は、決して悪い方向では無いと思います。
サンスイアンプ100Wx2の放熱板を流用した現在の4chA級アンプ

 信号量に追従する電流変動を嫌った理由ですが、大きな出力を出すと、電源トランス自体が、その出力と同じ音を出します。出力値の測定で、ダミー抵抗をつないで測定する時、スピーカーが無くても試験信号でトランスが鳴ります。その時、平滑コンデンサには、出力と同じ波形が載っていることが波形観測をするとわかります。大容量コンデンサで、交流が無くなって直流だけの筈ではと思いますが、実際には、出力と同じ波形が観測されます。A級アンプでは、33,000μFという値にしましたが、それでも同じです。どうせ、電源にそのような波が載るので有れば、出力と同じ、綺麗な波の方が結果が良いのではと考え、これもA級ならではのメリットと考えました。当然B級では、供給電流が大きく変動するので、そこに載る波形は、出力と異なってくると考えます。

電源の波形
B級アンプ 2020/01/05
 上は市販B級アンプのプラス電源とマイナス電源のブリッジ整流直後の平滑コンデンサに乗っている出力に応じた波形です。リップル量は0.1V/cm 0.6Vぐらいです。出力は、1W 1kHzとしています。B級ですので、プラス側と、マイナス側が交互に半波づつ電圧が生じています。コンデンサの容量は、3,300μFです。上下の波形を合成したら、出力に応じた1kHz正弦波が現れます。ほぼ直線上に並び、メーカー製品の電源トランス、センタータップの精度が高い事も証明されます。

+側  −側  合成 
2020/01/05
 同じく1W出力時のA級アンプの電源波形です。プラス側もマイナス側も、正弦波のまま乗っています。コンデンサが、33,000μFと、B級の10倍ですので、その分リップル電圧も小さくなっています。合成時に、矩形波になっていますが、これは、電源トランスの電圧精度の問題で、電圧が対称にならなかった分、オシロの合成波形がこのようになりました。合成時の波形は、B級では不連続点がありますが、A級では連続しています。

3.無信号時消費電力30W
 愛好者の多い、A社A級30WのA-36は、無信号155Wという消費電力です。自作した2ch仕様のアンプは、無信号時は、30Wの消費電力です。4ch仕様は、55Wで、こちらは、他の機器も含めて、マルチシステム全体で、A-36 1台と同じ155Wとなっています。これも、小出力ならではのメリットです。
2ch仕様A級アンプ ケース OS133-26-33SS 定価\12,330 シャーシ AC26-33 定価\2,340 加工図 配置図 class a1
 このケースは、通風口が全く無く、A級アンプとしては、難が有りそうと考えますが、側板が、3mm、パネルは1.5mm、シャーシは2mmというアルミ製なので、全部が放熱板と見なせます。動作時は、ほぼ40℃台止まりで、丁度良い湯加減並みです。


4.DCアンプとOPアンプ
 DCアンプは、直流まで増幅するアンプの事です。OPアンプは、漢字では、演算増幅器と呼ばれますが、極めて高い利得を持ち、帰還ループにより、その動作を決定します。初期の半導体アンプは、単電源で、カップリングコンデンサから出力を取り出していました。この時代のアンプは、準コンプリメンタリSEPP-OTLアンプと呼ばれ、スイッチをONにすると、出力コンデンサに充電する時の、ボンという音が聞こえました。その後、PNP、NPNパワートランジスタと、2電源にて、出力コンデンサが無い、純コンプメンタリOCLアンプが登場しました。Technics50Aなどが話題となりましたが、試聴してみると、妙におとなしい音で、意表をつかれましたが、学生の身分では、とても手が出る値段では有りませんでした。
 OCLアンプは、直流まで増幅しますが、帰還回路に、コンデンサが入っており、DCの利得は極めて低くなり、これによって、出力にDCが出ないようにしています。スピーカーを鳴らすのに不用なDCまで増幅するのかというのは、議論が分かれるところでしょう。まして、ホーンツイーターまでDC増幅するアンプが何の役に立つのかというのもあります。不安であれば、直列に、コンデンサを入れると良いでしょうが、その容量は、コンデンサ追加で、フィルターの次数が変わってしまわないよう、6dBフィルターで求める値より、大きくしますので、コンデンサのコストは高いものになります。コンデンサの耐圧は、5Wアンプなので、50Vもあれば十分で、250V物は必要ありません。50V耐圧バイポーラコンデンサが使用できますので、直結と、コンデンサ経由と聞き比べ実験をしても良いでしょう。
 使用中MIDホーンの奇数次高調波歪みが気になり、若干存在するDCドリフトの影響の有無を確認するのに、コンデンサの有無での歪率の変化を調べましたが、同じ値を示すという結果を得ています。

 DCアンプは、OPアンプが登場する以前は、差動アンプで、2個の素子を熱的に結合した物が良く使用されていました。
2SK129Aを2SK170x2で置き換え ケースは、F接栓のアルミ製リング 2015/02/16

 上は、アンプ修理時に、臨時置き換え用として、2SK129Aを作った時の物で、2SK129A自身が、ケースの中に、エポキシFETが2個入っており、即席で作った2SK170x2は、同じ構造となります。初段は、このように熱結合した差動アンプが使用されていましたが、半導体チップ間には、エポキシ樹脂が有る訳で、それほど熱結合が密になる事は有りません。OPアンプのように、同じシリコン基板上に差動アンプを形成したものとは、雲泥の差があります。論として、ディスクリート構成アンプが音質が良く、OPアンプでは、音の見通しが悪いという説がありますが、プロ音響では、圧倒的にOPアンプが使用されています。DC〜可聴帯域での理想動作が簡単に実現できるというメリットは大きいものです。まして、パワーアンプに組み込んでも、特性が優れていれば、OPアンプを使用しない手はないでしょう。

半導体の磁性材料について
ところで、半導体に磁性体を使用すると音が悪くなるとされ、音響用トランジスタでは非磁性です。OPアンプでは、手持ちJRC OPアンプは、全て非磁性ですが、テキサスや、LT製品は磁石に反応します。パワーICLM3886は、非磁性です。

上の写真SOP変換基板に使用する、リードフレームも磁性体です。


5.クロストーク、アースポイント
 ステレオ音響において、クロストークは音質を悪化させる要因になります。そのうち、LR共通配線による、電圧降下が、増幅回路に紛れ込むものは、位相が逆になるので、逆相クロストークとも呼ばれます。しかし、居室内では、スピーカーからの直接音と反射音が、混じり合った状態で聴きます。壁で一度反射した音は、逆相になります。もう一回反射すれば、その又逆になり、直接音とは同相となります。但し、音の速さは、有限ですので、直接音と反射音は、同じ時間に耳に到達するわけではありません。このような状態を嫌い、リスニングルームを無響室にするのかといえば、ほとんどの人は、それを考えず、逆に、反射音が重要と考える方もおられます。もちろん、アンプ内部で発生する、クロストークは、波形が綺麗ならば、直接音を弱めるだけで、音質悪化は有りません。

プリメインアンプ TA-F333ESJ クロストークを測定したものですが、出力チャンネルに20dBm正弦波を出しておいて、入力が無い側の出力を測定しました。線が複数あるのは、ボリュームのポジションを変化させての測定値を表しています。
 出力+20dBm(7.5W相当) 測定ch 入力短絡 メインVRセンター 周波数 対 クロストーク量

 信号は、20Hz〜20kHzとし、+20dBm(7.5W相当)出力時の、入力短絡ch側の出力ですが、一番信号経路が長い条件では、10kHz時に-30dBm出力ですが、能率90dB/Wスピーカーでは、49dBの音圧に相当します。7.5W出力chは、99dBの音圧なので、その差は、50dBで、マスキングされて、クロストーク音は聞こえません。しかし、7.5Wをスピーカーで出さずに、クロストークだけを聴いたら、49dBは、結構な音量であり、しかも、高域が強調された、イヤホンの音漏れのような音となります。作りの悪いアンプでは、この音自体が、歪んだ酷い音です。モノラルアンプでは発生しないので、高級パワーアンプとされています。しかし、スペース効率が悪く、マルチアンプでこれをやると、理想とはいえ、大掛かりなシステムとなります。
   
2018/01/01
 20kHz出力のL-R間のリサージュ波形 左は、システムコンポクラスの4chアンプで歪みがあり、クロストーク量も大きいので、良くない例です。右は、自作5WA級アンプ LT1115版で、クロストーク量が非常に少ないので、かなり感度を上げていますので、OPアンプ自体の雑音まで増幅され、太くなっていますが、綺麗な直線です。

アースポイント
 アースポイントの理想は、1点アースなのですが、ステレオパワーアンプでは、これが通用しません。1点アースでは、発振しやすく、4chアンプ製作時に、3chまでは良くても、4ch目を接続した途端に発振が起きるという現象に悩まされました。解決策として、2点アースに変更して、どうにか収めました。ここで紹介している、5WA級アンプでは、パワー回路、電圧増幅回路との2点に分け、電源3Pインレットのアースは、電源トランス付近のシャーシへ別に落としています。電源3Pコードは、アース接続がない2芯物にしており、強電系のアースからはフローティングしています。回路図を請求された方には、アースポイントを含めた配置図もお渡ししていますので、低雑音性能は保たれる筈で、5μV(A)以下という残留雑音が期待できます。
 製作したアンプのアースポイントは、真鍮4mmネジを使用し、圧着端子処理したアース配線と、アルミシャーシの間を、リン青銅の歯付きワッシャーを挟んで取り付けています。4mmにしたのは、締め付け圧力を稼ぐ為で、従来の3mm系アースラグ+3mmネジ+半田付け処理はやめました。半田付けは、接触抵抗でみれば、圧着よりも、低い値ですが、太い電線では、経年劣化で、抵抗値が上昇する事があり、制御盤のように、圧着端子をネジ止めするようにしました。半田付け経年劣化の実例をあげると、5C2Vの心線を半田付けした場合、7年ぐらいで、心線が跳ね上がった例が有ります。大地アースを宅内に持ち込み、オーディオアースと大地アースを等電位にする時、かなりの電流が流れ、火花が見える事もあります。AMチューナーは、受信感度が上がり好ましいのですが、アンプ系における効能は、疑問符がつきます。


製作時に準備する材料・工具
ケース加工
卓上ボール盤、電動ドリル、ヤスリ(組ヤスリ)、シャーシーリーマ(大小)、オートポンチ、ドリル刃(2.5、3、3.2、4.2)、3x0.5タップ
配線加工
半田ごて、こて台(スポンジが大きめの物)、1φSn60%半田、裸端子用圧着ペンチ(1.25、2)、絶縁スリーブ(赤(+)、青(−)、黒(0V)、白(AC)、緑(アース))、0.6φスズメッキ線、0.4φスズメッキ線(2本差し部用)、0.5SQ電線(黒、電圧増幅系アース)、0.75SQ電線(白、赤、青、黒、AC一次側、SP出力)、1.25電線(白、赤、青、黒、整流ブリッジ周り、電力系アース) ラジオペンチ、ニッパー、リードペンチ、ピンセンット、カッター、熱収縮チューブ

電線
オヤイデ電気購入 0.3SQリボン線8芯 基板周り一般配線 許容電流3A \194/m 10芯12芯物もあります。単芯シールド線 平河ヒューテック HC-3L1 \216/m 外径2mm 音響調整卓内部配線用 スパイラルシールドで、使いやすいです。

組立
ドライバー(#0、#1、#2)#1と#2の中間(RUBICON 102 #1-100)、BOXドライバー(5、5.5、7、8)、BOXレンチセット(HOZAN)

測定器

デジタルマルチメーター(部品選別、調整)、オシロスコープ、オーディオアナライザー(無ければ、WaveSpectraで代用)、8Ω50Wダミー抵抗

歪率測定は、アースポイントや、出力リレーの良否を見る為に必要です。


作業開始

AU-α607XR解体 MR,NRAでも内部は殆ど同じで、どれでも流用できますが、XRが一番廉価でした。
放熱板、出力リード線をなるべく長く残しパワートランジスタ部を外す。取付基板から、写真のように不用部品を外す。

2017/10/24
黄、灰が出力、茶はアース、赤、青は電源で長く残してそのまま流用します。半田付け部を確認し、必要が有れば、新しい半田を溶かして加熱します。エミッター抵抗0.22Ω、出力コイル、10Ωは残して使います。
2017/11/21
 新しいアンプとして構成する部品を取付、コイルの両端に、並列になる2.2Ω1Wが付けてあります。放熱板を、新しいユニット用に、穴開け加工します。パワートランジスタ取付ネジは、3mmタップを切って、真鍮ネジで取り付けられるようにします。完成品は、下の写真です。
エミッター抵抗は、アイドリング電流測定で、メーターのリードを当てますので、他の部品に触れて、短絡事故などの原因になりますので、テストピンなどを出しておくと良いでしょう。事故を起こさない自信があれば、テストピンは不用です。
クロストークの低減を目指し、上の基板は、最終的に各トランジスタへの電源からの配線を単独にする為に、ジャンパーを外しました。アース系も同じく、単独配線としました。1個のドライブトランジスタの電源が、ジャンパーを外した事で、パターンでは、供給できなくなり、配線を追加。

テストピンの例
 LUX真空管アンプに見られるテストピンジャックの例ですが、バイアス、DCバランスのアルミキャップを外せばボリュームが有り、テストピンジャックにテスターリードを差し込み、調整できます。オーナーズマニュアルには、調整方法もきちんと記載されています。現在は、高飛車姿勢のメーカーが多いのですが、出力管劣化時に、オーナーが交換作業できるようになっている事が驚きでした。
2015/10/15

部品選別
ドライブトランジスタは、出力トランジスタとで、ダーリントン接続時のペアマッチした物とします。写真のサンスイのトランジスタは、19組測定し、8組がペアとして成立したものの、hFEの範囲は、PNPが112〜138 NPNが106〜171でした。パワートランジスタは、流用しても、確かなペア性
能が保証されないことを念頭において下さい。秋月で入手できるものでも、hFEのリニアリティが良いので、使用する価値は十分にあります。
パワートランジスタの選別条件は、ベースを定電流ダイオードで2mA流し、パワートランジスタは、放熱板に取り付けて測定しました。電流は200〜300mA流れます。ドライブトランジスタは、5V定電圧電源から。、ベース抵抗金属被膜47kΩとして、10mA前後で選別しました。
他に、利得に関係する、NF回路、入力周りの抵抗は、左右で、完全なペアを選別しておきます。OPアンプの負荷抵抗も、4本組を作りました。この為、1/4W金属被膜抵抗を100本袋入り(\300)で購入していますが、製作後のアンプのポテンシャルを考えれば、十分お釣りが来ます。
位相補正のコンデンサ47pFは、ヤフオク入手のフィルムコンデンサですが、WIMA製でも良いと思います。セラミックコンデンサは、避けます。使用コンデンサの容量選別はしません。


パワー部完成写真 2017/10/09
熱容量を大きくする為に、真鍮製のサポートMB3-15を使用し、3mmタップを切って取り付けました。シャーシーへの取付アングル、ネジ類は、サンスイの物をそのまま流用しています。

各ユニット製作
1.電圧増幅部x2
2.ミューティングリレー部
3.温度検出、制御部 テストモードになるよう、ジャンパーピンを取り付けておきます。
4.電圧増幅部用±12V電源 ヤフオクで入手 取付部の寸法制約により、プラスペーサーが必要です。コンパクトにまとめ上がり、通電表示付きで、ヘンな配線で作る物と比較しても、雑音性能で困りません。
5.33,000μF平滑コンデンサ部(8P平ラグ使用) 33,000μFは、ニチコンKW 秋月で最大容量 \450

6.パワートランジスタ部

ユニバーサル基板活用 アンプ試作の手法
 試作で使用している基板は、サンハヤトICB-86Gというユニバーサル基板で、200円もしない物です。OPアンプ数個程度の電子工作用に、重宝しています。2連パターンと3連パターンで各部品をつないで、回路を形成しますが、近い部分のパターン連結では、0.6φのスズメッキ線を使用し、遠い部分は、0.3SQ電線を使用します。0.3SQという線径は、手直しなどでの繰り返しストレスに対し、機械的な強度を保つためですが、製作に自信が有れば、細くても構わないでしょう。0.3SQは、穴にピッタリのサイズなので、挿入時に、先端を綺麗に揃えておかないと、ヒゲが出て、トラブルの元になります。半田付けも然りで、加熱不十分でも、機械的に固定されてしまい、接触不良のトラブルを招きますので、被覆が溶けない範囲で、半田が吸い込まれるまで、加熱するのがポイントです。基板から外部へはピンヘッダで区切りを付けていますが、コネクタの接触圧力が不安なので、接続は、リード線をそのまま半田付けしています。リード線は、隣り合った同士が短絡しないよう、熱収縮チューブを被せています。ピンヘッダへの半田付けは、複数の電線では難易度が上がり、各1本となるように、ピン数を増やします。
基板の裏面は、なるべく部品を付けないように考えますが、完全に無しにはできず、OPアンプの電源ピンへの0.1μFセラコンは、むしろ裏で付けた方が用途に合致します。パターン連結も同じで、裏面は少なくし、表面に部品を集中しておくことで、製作間違いの手直しがしやすくなります。プリント基板でないと、性能が上がらないという事は全くありませんので、ユニバーサル基板のまま、完成品としても問題ないでしょう。FET入力OPアンプの場合、他の基板との間に、シールド板を設置すると、雑音性能が向上します。アースラインは、基板中でループにならないよう、気を付け、電源ラインも、最低一箇所は、デカップリング用電解コンデンサを付けます。回路規模が大きい場合、タカス IC-701-74、IC-701-72Nで製作すると良いでしょう。24dB/oct 50Hzローパスフィルターは、IC-701-72Nを使用しました。
パワーアンプ 電圧増幅部 図面を見ながら、ジャンパーから作り始めます。Snメッキ線0.4φ、0.6φで、丸みはドライバーの軸
 2019/04/10

段々と大きい部品を取り付けていきますが、1N4148x5周りが、2本再差しありと複雑で慎重に進めます。半固定抵抗は、Idle用は、電流が最小側、TRIM用は、中間にして取り付けると調整時にあわてなくても済みます。又、半固定抵抗は、リードの出し方を少しひねっていますので、機械的な固定のみを始めに行い、半田付けは、部品配置間違いが無いと確信できる段階までしないほうが無難です。次いで、抵抗、コンデンサとなりますが、100μFx2辺り(点線)の処理も少し複雑なので、注意して進めます。この後は、トランジスタ、OPアンプ、ピンヘッダを取り付けます。裏面のコンデンサを取付、0.3SQ電線によるジャンパー線を半田付けして、完成です。
ミューティングリレー基板、温度保護回路基板1/3  ユニバーサル基板組立図 class a2.pdf 2019/04/10

ミューティングリレー基板は、電線のジャンパーが多いので注意します。-12V GND RY+は、図と異なり、一旦ピンヘッダで中継しています。図面を起こす時点と、実製作、製作後と変化しますので、落ち着くまでに、数台製作する必要がありました。
温度保護回路は、部品数が少ないので、1枚で3回路分製作できますが、製作台数に応じて、部品を実装します。熱検知部を放熱板に密着させるのが、理想でしょうが、テストモード時の動作具合から見れば、真鍮スペーサーで浮かしても問題なく動作します。実際に誤配線で、実用モード時にプロテクションがかかったのですが、パワートランジスタの破損もなく、無事に動作しました。

ケース加工
表パネル、裏パネル、シャーシなど、加工図を参照して穴開けします。XLRコネクタは、ノイトリック製品は複雑な形状ですので、ITTの77タイプにしても良いでしょう。RCAピンジャックは、サウンドハウスがお買い得で、他のコネクタとまとめて購入しました。
ケースメーカーのタカチで穴開け加工や、パネルプリントをしてくれますので、それも一考です。マルツでも取り次いでくれます。なお高級感を出すには、アルミインシュレータという手段もありますが、高価なので、4chアンプ2台にだけそれを使用し、後は、アルミカバーの本体樹脂製を使用しました。ケース付属のゴム足よりは、ルックスが良くなりますが、音質向上には、役に立つ物では無いと思います。ドリルで開けた穴のバリは、製作後の事故の元ですので、穴の倍ぐらいのドリルで、バリ取りをします。タップ用の下穴では、あまり深くバリ取りをすると、ネジ部の長さが短くなります。

ユニット取付・配線
いよいよ各ユニットを取付、配線を行います。
2017/12/02
 上は4台分です。温度保護ACカットリレーや、電源トランス一次側から先に配線します。電源トランスは、配線を半田付けしてから取付けると綺麗に仕上がります。ある程度の配線ロスをやむを得ませんので、配線が足りなくならないよう長めにしておきます。トランス取付後、整流器まわりの配線を行います。整流器は、3-1.25裸圧着端子+色分け絶縁スリーブで配線します。ネジは、できれば、真鍮で、スプリングワッシャーは、リン青銅を使用します。スプリングワッシャーは、SUSでも良いのですが、電気抵抗が、一桁悪くなり、微細部分を気にする場合は、リン青銅にこだわってください。パワーアンプ回路の電源は、1.25SQ電線を使用します。2SQ電線は、太すぎて、実装が難しく、お奨めできません。
次いで、電圧増幅部用定電圧電源の配線を行いますが、電圧増幅部へのアースは、0.75SQ電線を使用し、ネジ止め端子の裏側から半田付け配線すると良いでしょう。ネジ止め端子からは、電圧増幅部へは、左右別々に供給し、ミューティングリレーへの配線と合わせて、3系統接続します。
ミューティングリレー部から、温度保護リレーへの配線や、電圧増幅部への配線を行います。
表パネル、裏パネルに、部品を取付ます。部品の取付ネジには、必ずスプリングワッシャーをかませ、ネジの緩みを防ぎます。後から配線が難しい箇所は、先に配線を済ましておきます。パネルは、部品取付後、養生シートを貼り、傷が付くことを防ぎます。
パネルとの配線が終わってから、放熱板とパワーアンプ部を取付、配線を行います。パワー回路の電源は、長さの制約が有り、配線の難易度が高いので、平滑コンデンサ部の平ラグを外して配線すると良いでしょう。

電圧増幅部への電源、中点電位保護、アース(0.5SQ)、入力シールド、温度保護リレー出力などの配線を行います。
ミューティングリレーへの配線と、スピコンへの出力線(0.75SQ)、スピコンからアースポイント(0.75SQ)までの配線を行うとほぼ完成です。
誤配線のチェックを行います。放熱板側の側面パネルと、上面パネルを残して、各パネルを組立ます。
配線は、1φのビニル結束線を使用すると、綺麗にまとまりますし、ヘンな振動を押さえ込む事ができます。又、仮止めで、電線の束を移動しながら、本結びをしていくと、電線がねじれることなく配線できます。配線の美学にこだわればイラックス電線を使うと、完璧に揃った配線ができ、半田ごてで、被覆が溶けません。

通電・調整
いよいよ通電ですが、通電後、電源表示灯、ミューティングシーケンスを確認したら、パワー部の異常発熱に注意しながら、定電圧電源と、パワー回路の電源電圧、中点電圧を確認します。
一旦電源を切り、同時にミューティングリレーリレーが作動する事を確認します。ここまでに異常が無ければ、ほぼ完成です。
次は、アイドリング電流の調整です。アイドリング電流値は、0.6Aです。パワートランジスタのエミッター抵抗0.22Ωの直流電圧がアイドリング電流の読みですが、エミッター抵抗0.22Ωの電圧降下を測定し、電流換算します。0E=I×Rより、132mVとなるようにアイドリング調整ボリュームを回します。通電後30分経過後、エミッター抵抗の電圧と、中点電圧を測定します。中点電圧は、温度で変化しますので、時々確認します。温度保護は、テストモード時、正常であれば、43℃で動作しますので、通電後、温度保護が働く事を確認したら、テスト時のジャンパーを外し、70℃動作に変更しておきます。
熱に神経質な方は、少しでも熱くなると心配になりますので、放射温度計で、温度測定をすると、感覚と、実際の温度の関係がわかると思います。50℃〜60℃ならば、メーカー製のB級アンプでも出現する温度ですし、メーカー製A級アンプの内部温度はそれ以上になっていますので、心配には及びません。

中点電圧保護回路の確認ですが、アンプ出力と、電圧増幅基板保護出力の間を、テスターの抵抗レンジを当ててリレーが動作する事を確認したら、もう一回、テスターリードの赤黒を逆にして、動作を確認すれば、プラス方向、マイナス方向ともに、正常動作している事が確認できます。
調整が完了したら、性能測定を行います。

性能測定項目 
1.残留雑音(Aフィルター) 10μV(A)以下でなければ、誤配線のチェックを行います。
2.最大出力 8Ωダミー抵抗を使用し、1kHzにて波形を見ながらクリップ電圧を測定して、電力を算出。20Hz〜200kHzぐらいで、矩形波波形も確認します。動作利得もこの時に求められます。 
3.最大出力が確定したら、その値での、SN比測定を行います。次いで、2.83V出力時のSNも測定しておけば、なお良いでしょう。 
4.THD+NやTHDの測定 100Hz、1kHz、10kHzの3点を出力可変で行うと良いでしょう。0.01W時、0.01%以下が達成できていなければ、誤配線のチェックを行います。 
5.混変調歪率が測定できれば、測定しておきます。0.002%以下になれば合格です。 
6.ダンピングファクターが気になる方は、無負荷と、8Ω負荷時のアンプ出力端子での電圧を測定し、計算で算出します。70ぐらいにはなります。

ここまで、完成です。後は、ランニングテストを兼ね、好きな音楽で試聴を重ねます。


SNが良いので、雑音を気にすることなく、ヘッドホンもそのままで鳴らせますが、レベル(-40dB以下で)に注意してください。

アンプ出力を上げるには
5Wでは物足りない場合は、15W程度まで出力を上げますが、アイドリング電流は、0.97A 電源電圧は、±18V 電源の平滑コンデンサ耐圧は、35V必要です。
10Wでは、アイドリング電流0.79A 電源電圧は、±15V
 平滑コンデンサ耐圧は、25Vと行きたいのですが、マージン85%なので、より安全をみれば35Vとなり、コンデンサコストにおける10Wでのメリットは無くなります。
発熱量も大きくなりますので、エミッター抵抗は、0.22Ωでは不安で、0.47Ωを使用する事になります。このようにしてみれば、5Wで事足りる場合の総合的なメリットは大きいと思います。
 アンプ出力を上げるより、スピーカーの能率を上げる方が、音質面でも好結果が期待できます。低能率スピーカーは、暴れが少なく、低音域まで音圧特性が伸びますが、制動を多くした結果なので、おとなしめです。高能率スピーカーは、低域の伸びは、口径に応じた分だけなのですが、音の元気さが感じられます。マルチ駆動では、アンプの制御下に入り、LCネットワーク時の暴れが抑え込まれますので、元気の良いスピーカーほど、はっとするようなサウンドが出ます。


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