第6回

6. < 定常と過渡 >

ちょっと思ったんですがこれは意外に大事なことだと思うので回を分けて説明しておきます。

多くの人が定常状態と過渡状態をごっちゃにしているようです。
定常状態というのはずーっとその状態安定して保持されていることを言います、ここで扱っている事象の多くは定常状態で本に載ってるのも大概そうです。

例えばブレーキングはずーっと同じ強さでブレーキを掛けて安定して減速している状態、旋回ならぐーるぐる同じ速度(横G)で回ってる状態です。
ブレーキをかけ始めてから状態が安定するまで、ハンドル切ってから安定して旋回するまでを過渡状態といいます。
まずは定常状態を理解してください、そのあとに過渡状態です。
「ブレーキずっと掛けてたら止まっちゃうでしょ」、そうです、だから止まるまでの間の安定して減速している時間の一瞬を切り取って話していると思ってください。
「旋回するとロール角が増えていくじゃない」、そうですそれは旋回過渡の状態です。

”ある定常状態”から”次の定常状態”へ移る間が”過渡“です、例えば「直線を60km/hの一定速度で走ってる」これが”ある定常“です、次に「半径30mで60km/hの一定速度で旋回する」っていうのが”次の定常“です。
ハンドルを切り増し、車が向きを変えだし、車が傾きだし、車が安定して旋回を続けるようになるまでが“過渡状態“です。
あるいは「直線を100km/hの一定速度で走ってる」これが”ある定常“です、次に「同じ減速Gで減速し続ける」っていうのが”次の定常“です、ブレーキ掛けていてシートベルトが同じ強さで”ぎゅー“ってなりながら減速してる状態ですよ。
ブレーキの圧力が高くなりだし、車のスピードが落ちだし、車が前のめりになりだし、車が安定して減速を続けるようになるまでが“過渡状態“です、緩かったシートベルトが”ぎゅー”になるまでの過程です。

ちょっと分かりにくいですかね、じゃあ100キロから60キロへ減速するとしましょう。
ここには「100キロで定常で走る」、「一定の減速度で減速する」と「60キロ定常で走る」っていう3つの“定常状態”があります、そしてその間を繋いでいるのが“過渡状態”です。
「シートベルトゆるゆる」(定常)>「ベルトのゆるゆる“から”ぎゅー”へ」(過渡)>「ベルト“ぎゅー”状態で減速」(定常)>「ベルト“ぎゅー”から“ゆるゆる”へ」(過渡)ってな感じですかね。

だから制動の定常状態を説明してる時に「ばねが柔らかいとピッチングが速くなる」とか「ばねが固いと反力の立ち上がりが早い」とか考えちゃダメです、そういうことは過渡の状態の話ですから。
v ロール角も定常円旋回中は変化しません、「そこから加速した時にロールが増えて...」とかも言いません、一定速度です。


「あんだよ、車っていうのはいつもスピードも横Gも変化し続けるもんだろ、それも2つが一緒に」、その通りですが定常だけでも難しいのに過渡はその何十倍も難しくなります、だいいたい運動方程式が必要になりますからね。
まずは定常状態を理解しましょう、それだけでもずいぶん車のことが理解できます。
過渡は妄想しましょう、でも定常が分かっていれば妄想のトンチンカン具合はだいぶ減ると思います。


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