第61回

<61. シャシねじり剛性>


今回は4輪レーシングカーのねじり剛性についてです。 長いよ。
レース関係でない人はもちろん関係者でもシャシのねじり剛性試験を実際にしたりその結果を見たことのある人は少ないでしょう、その割にねじり剛性について語る大御所の人たちはいますが。
試験の準備が大変ですしねじり入力を負荷するのがまた難しい、ちょっとやってみるかってならないのがこれまでのねじり剛性試験でした。
7ポストリグを使うとセットアップが比較的簡単で再現性の高い結果が得ることができます、これまでにたくさんの試験を行ってきたので紹介しようと思います。
レースカーコンストラクターや学生フォーミュラの人たち、モノコックの経年変化を気にするチームにこそ読んでもらいたい記事です。
シャシねじり剛性試験とはどういうものでしょうか? シャシつまりボディをねじってその剛性を測定する試験ですがレーシングカー特にフォーミュラカーの場合シャシというとモノコックのことですがモノコックだけねじってもしょうがないのでエンジンやギヤボックス、さらにサスペンションもくっつけた車体全体をねじります。
サスペンションのコイルばねの代わりに太い鉄の棒を取り付けます、これの試験時の変形は非常に小さく剛性は十分に高いものとしてみなします。
そしてホイール位置から車体をねじるモーメントを掛けていき車体各部のねじれ角を測定しますがねじれ角は非常に小さいのでマイクロメーター等で測ります、今なら非接触の3次元測定器で車両全体の変形も測れます。

測定結果をグラフにしたのが右下の折れ線です、上の図のようなフォーミュラをねじってみたとイメージしてみてください。 横軸がホイールベース方向の位置、縦軸がねじれ角です、7ポストリグの場合前後軸の片方を固定するのではなく両側からねじるので車両前端は右にねじれて後端は左にねじれてマイナスになっています。
では結果を詳しく見ていきましょう。
左上の点と右下の点の差がトータルのねじれ角になります、それを入力モーメントで割ったものが全体のねじり剛性(rad/Nm)になります、でも大事なのはその内訳です、どの部位が柔らかいのか?どこか特別に柔らかいのか?などです。
モノコック、エンジン、ベルハウジング、ギヤボックスのねじり剛性はその部分の線の傾きを見ればわかります、傾きが大きい程ねじれ角は大きく剛性は低くなります、各コンポーネントの傾きを比べて見るとエンジンが一番柔らかいのが分かりますね、エンジンも直4とV6ではまた違ってきます。
モノコックは風呂桶みたいに上が開放な割には結構硬いですね、一般に高さがあって筋交いが入ってるほうがねじりには強くなりますからモノコックは不利なのですがさすがカーボンです。

右端と左端にすごく急な部分があります、これはサスペンションの取り付け剛性です(installation stiffness)、プッシュロッド、ロッカーの支持剛性、スプリング/ダンパーのボディ側取り付け部の剛性などです、ブラフを見ても明らかなようにサスペンション剛性は全体の中で一番剛性の低い部分です、ここはがんばって剛性を上げる努力をしないといけない場所です。
前から見てプッシュロッドが寝てて水平に近くなるほど効率が悪くなってプッシュロッドに掛かる力が大きくなり剛性が下がります、プッシュロッドはできるだけ立てたい、でもフォーミュラのノーズは細くて低くどうしてもプッシュロッドは寝てきてしまいます、だからリヤよりフロントの方が剛性が低くなるんですね。
でもちゃんとした車はできるだけ角度を立てるために努力をしています、プッシュロッドのアップライトへの取り付け点をできるだけ下げています、ロアアームを貫通してアップライトの最下端へアクセスしてたりしますよね。
2015年ころのF1でフェラーリとケータハムがプルロッド式をフロントに採用していましたがプルロッドが水平に近くて大丈夫か?と思ったら続きませんでしたね。
あとプッシュロッドが昔はロアアームに取り付けられていましたが今はみんなアップライトに取り付けられているのも剛性アップのためです。
さらに言えばプッシュロッドとダンパー/スプリングに落ち関係が一直線に近い程ロッカー軸に掛かる力が小さくなりロッカーの支持剛性が上がります、プッシュロッドとダンパー/スプリングがなす角が90度くらいが一番よく見ますね、MRのフロントとかでダンパー/スプリングが2本バルクヘッド前に立ってて角度が45度くらいの車もありますがあれは剛性のことはあまり考えてないのかと思います。
サスペンション取り付け剛性はとても大事です、ここが柔らかいとスプリングとボディの間にもう一つばねがあることになり、そこには減衰がないということになってしまいます、ストラットのマウントラバーみたいなもんです。懸架ばねに対し取り付け剛性を何倍にするかは設計者のノウハウですね。

余談になりますがプッシュロッドのアップライトへの取り付け点がキングピン軸上にないとハンドルを切った時に車高が上がったり下がったりします、これを利用してコーナーで舵角が付いた時の車重の分布(コーナーウェイトとかいうとかっこいい)を変化させるのがエボサスと呼ばれるものです。

もう一つ注目してほしいのが各コンポーネントの結合部の剛性です、モノコックとエンジンの接合面、エンジンとバルハウジングの接合面、ベルハウジングとギヤボックスの接合面です。
ちょっと見にくいですが接合面の前後で計測しているので近い距離で2つの点がプロットされているのが見えると思います、その2つの点の間にはねじれがありますね、そうです接合面の滑りがあるのです。
まあ垂直な平らな面を4,5点で止めてるんだからダウエルとかきちんとしないと滑りますよね。
フォーミュラってなんで垂直面でくっつけていくんでしょう? ねじり剛性に不利に決まってるのに。


さて皆さんも興味あるであろうねじり剛性のいろんな車の比較が左の図です、カテゴリー別に色分けしてあります。
比較できるように単位モーメント当たりのねじれ角に換算してリヤホイール位置基準で重ねています。
縦に長い程剛性が低くなります、どれがどのカテゴリーか妄想してみてください。

そもそもの話になりますがねじり剛性はどれだけ大事なんでしょう?
どういうときにねじりの力が掛かりますか? ブレーキングで? コーナリングで? ピッチもただのロールもねじりにはなりませんよね、ねじりになるとすれば前後のロール剛性の差でしょうか。
そうですねコーナーに入っていく時に前後のロール剛性の差が車体をねじっていくんでしょう、コーナーの中ほどではねじれちゃって定常ですからそんなに影響はないのかと思います。
だから「ターンインでピシッとしない」とか「セットアップ変えても反応しない」とかいうコメントが出てくるんでしょう、別の所が動いているんですから。

それに関連してよく「モノコックがへたった」とか「何やってもダメなのはモノコックがへたったから」とか言いますよね、「モノコック新品にしたら車がビシッとした」とかね、この経年変化についても7ポストリグは調査してきました。
これはとても貴重なのでとても教えてあげられませんが是非毎年シーズン終わりにねじり剛性を測りに7ポストリグに来てください、「あーこれなの」っていうのが分かると思いますよ。

7ポストリグでは加振とは違うねじり剛性測定も行っています、測定ポイント等の準備をしておけば1日で試験完了できます。 ぜひ試してみてください。
学生フォーミュラの車両なんか笑っちゃうような結果が出ることもありますがそれも後々の為の糧ということでいい勉強かと思います。


Copyright(C) 2007-   富樫研究開発