第40回

40. < エアロバウンシング、ポーポジング (2)> >

ではバウンシングを継続させている理由を探っていきます。

やはり実際に起きていることを知らないといけない、ということでスポイラー下面の圧力を直接測ってみることにしました、なかなかそんな計測をやる気になる、できるレース会社はありません、貴重なデータが取れました。
スポイラー下面に小さな穴をあけてそこへ圧力センサーを取り付け、走行してデータを記録します。
もちろんスポイラー部にレーザーの車高センサーも埋め込んで車高も測定します。

そうすると面白いことが分かったのです。
スポイラー下の気流が通常の状態ではスポイラー車高と圧力の間に一定の関係がありその線上をデータは行き来しています。
グラフを見てくださいここでは簡略化して直線で書いてありますがこの線上を行ったり来たりするのが通常の状態です、圧力は負圧なのでグラフを見やすくするために負圧が高いほうを上に持って行っています。
車高が下がると負圧が高くなる、そしてダウンフォースが増える、前回の説明の通りです。

そして車高が下がりすぎると(Z点)負圧がストンと落ちます、空気が流れなくなったからですがZ点でとどまるのではなく負圧は落ちてしまいます。
次にバウンスが始まると空気が流れなくなる点(Z)から落ち込んだり通常域の直線に戻ってきたりするかと思いきやそうでもありませんでした。
バウンス中には圧力と車高の関係は図のように3角の形でぐるぐる回っていました。
XとYの関係が直線から丸くなるということは測定データの変化に遅れがあることを示しています、つまりはここでは圧力の変化が車高の変化に対して遅れを伴っているということです、圧力が変位に対して位相遅れがあるとも言いますね。

どいうことかといいますと、図のA,B,C,D を見てください、まずAで空気が流れなくなります、ダウンフォースが激減するので車高が上がっていきます、ここで負圧がすぐ回復すれば車高はすぐ落ち着くのですが一度失った気流、下がった負圧がなかなか回復しないとその間に車高はどんどん上がって行ってしまいます(B)。
ようやく気流が戻り負圧が回復すると(C)上がりすぎてた車高がどんどん下がっていきます(D)、そうするとまた空気の流れないAの状態に戻ってしまいABCDをぐるぐる回る、つまりはバウンシングを繰り返すのです。

一度止まった気流がすき間が広がったからっていってすぐにすぐに元通り流れるわけじゃなくて回復するのに時間がかかる、これが消える魔球の残りの3割です。
スポイラー下に空気が流れなくなると空気は一旦よそへ流れてしまいます、それをまたスポイラー下へ流れの向きを変えるのですから遅れがあるのは考えてみれば当然ですが測定するまでは思いつきませんでした。
確認のためシミュレーションのダウンフォースの計算に時間遅れ、1次遅れの時定数って言ったほうが専門的でかっこよいですね、を入れると見事にバウンスを始めました。
そもそもこれはシミュレータでバウンシングしないとシミュレータとして現実味がないし、実車で起こることがシミュレータで起きないなんてモデルがおかしいんじゃない?っていうところから始まったのでシミュレータのモデルにも取り入れてバウンスすることを確認しています。

空力的に車両が直線でバウンスするのは、スポイラー車高が下がりすぎてスポイラー下に空気が流れ込めなくなってダウンフォースが突然に激減すること、車高が上がり始めても気流が回復するには時間遅れがあること、この2つにより発生し継続するのです。

バウンシングを防ぐには最高速まで空気が流れなくなる車高に下がらないようにするしかありません、そのためにイニシャル車高を上げると全域で車高が上がってダウンフォースが減っちゃうのでやりたくありません、ばねの特性を非線形のプログレッシブにしてダウンフォースに対する車高の変化を小さくするのが得策です。
でもばね定数の立ち上がった状態でバウンシング状態に入ると柔らかいばねより跳ねあがりの勢いが強いのでバウンスは激しくなるので注意です。
もう一つの策は直線でリヤの車高を下げてやることです、これはなかなかトリッキーなことをしないといけないのでここまでにしときます。


実際に計測したり、仮説からモデルを作ってシミュレーション等で実証することで真実は明らかになるので「妄想のみ」とか「難しそうな言葉で分かってる風を装う」のダークサイドに落ちないようにしましょう。



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