第38回

38. < エアロマップ & ライドハイトシミュレーション (2) >

では車速を含めた車高の変化を計算して低速から高速まで車高がエアロマップ上でどう変化するか見ていきます。
前回で触れたようにダウンフォースと車高は相互に影響しあうので本来なら繰り返し計算をしなくてはいけませんが今回は車速を少しずつ変化させて計算することで解決します。
計算は車速を少しずつゼロから最高速まで上げていきその都度ダウンフォースと車高を計算します、車速をちょっとずつ上げるところがミソです。

手順は「車速を上げる」 > 「今の車速と車高でダウンフォースを計算」 > 「サス、タイヤ変位を計算」 > 「新しい車高を更新」 > 「車速を上げる」、を繰り返して計算します。

これで計算した車速による車高の変化を“トータル”と“バランス”のプロットに重ね書きしました、そうするとこの車の車高がエアロマップのどのあたりを使っているかが分かります。
なるべくダウンフォースの高い赤い所を使いたいですし、バランスも希望の所に収めたいです。

サスペンションのばね定数やプログレッシブ具合、イニシャル車高(車速ゼロの時の車高)を調整して車高の変化の線をうまい所に持って行きます。
以下に例を使って説明します。

1.リニアばね、イニシャル車高F/R = 50/80
線形のばね定数で車が止まってる状態で前後の車高が50, 80mmというセットアップです。
このセットアップの車高変化を青色の線で示します、前半は黒と同じなので下に隠れてしまっています、“トータル”のプロットでは車高は黄色から赤の領域に収まっています、ちょっと低速でのダウンフォースが黄色で低いかな、それとフロントの車高が高速でどんどん下がっていって低すぎになるギリギリです。
“バランス”では高速で前よりに変化して行っています、高速では少し後ろ寄りに変化させたい。

2.プログレッシブばね、イニシャル車高F/R = 50/80
さて1.の結果からフロントのばねをプログレッシブにしました、プログレッシブっていうのは図にあるようにばね特性がバナナ形状でばね定数がだんだん高くなっていくものです。
この車高変化を黒色の線で示します、“トータル”ではフロントの高速へ向かっての沈み込みが抑えられています、でも車高に余裕がありすぎでダウンフォースは減ってしまいました。
“バランス”は高速でチョイ後ろ寄り方向へ変化していていい感じです。

3.プログレッシブばね、イニシャル車高F/R = 42/80
次に2.の結果からフロントのイニシャル車高を42mmに下げました。 この車高変化を緑色の線で示します、“トータル”でオレンジから赤の領域になり1.の時よりダウンフォースが低速域で1ランク向上しています、高速の車高は1.よりちょっと上がっているのでOKです。
“バランス”も2.と同様で高速でチョイ後ろ寄りのバランスでOKです、でもバランスが1ランク前寄りになっちゃいました。

という具合にサスペンションのばね定数やイニシャル車高を変えることでダウンフォースもダウンフォースのバランスも変化します。
だからと言ってダウンフォースの為だけにばね特性を決めると本来のサスペンションの役目、メカニカルグリップ、がおろそかになってしまいます、メカニカルグリップとダウンフォースの両方の妥協点を見つけなければいけないのが空力車の難しい所です。

その妥協点はエンジニアによって違うので空力命のエンジニアは「固めて下げる」と言われる古典的なセットアップですごく固いばねに低いイニシャル車高で最大のダウンフォースを狙うでしょうし、メカニカルグリップ派は柔らか目のばねにちょっと高い車高なんていうセットアップになるでしょうね。
本当はどちらかではなくサーキットによって使い分けるのが正しいのでしょうね。

今回は走る前の計算検討でしたが、実際に走る時にレーザー式の車高センサーをつけて車高が本当に計算と合っているか見なきゃいけません、ずれていたら補正して車高を希望の領域に持って行くためにばね特性やイニシャルの車高を調整しなくてはいけません。
車高合わせに時間を取られていると走行時間が終わってしまいかねませんからやっぱり事前に精度よく検討していくのが大事なのです。

7ポストリグではトラックリプレイという機能で走行時の車速データとエアロマップを基に車両に実際にダウンフォースを掛けて車高のチューニングができます。
ばねやバンプラバー、イニシャル車高をいろいろ変えながら、例えば鈴鹿のヘアピンの車高はいくつで、デグナーはいくつ、またストレートで床を擦らないギリギリ車高を走る前にいろいろ試して探すことができます。



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