第33回

33. < 2輪車と4輪車のアンチダイブ、アンチスクォート >

今回は2輪のアンチダイブ、アンチスクォートをきちんと数字で出して4輪と比べてみようという試みです。

インターネットには玉石混合の情報があふれているわけですが「モータサークル、アンチスクォート」で検索すると図の左下みたいなのがたっくさん出てきます、バイカーズステーションという雑誌でも紹介していました。
でもこれって正しいですか?
スイングアームとチェーンの延長上の交点から接地点へ引いた線が2輪のアンチスクォート角だというものです。
ある解説にはスイングアームとチェーンの交点が瞬間回転中心になると書いてありますが、後輪の回転中心はスイングアームピボット以外にありえません、チェーンはサスペンションのリンクではないですから後輪の移動軌跡に関与していません。
さらに回転中心から接地点へ線を引くのは第14回で説明しましたが駆動回転反力をサスペンションが受ける場合です、チェーンによる駆動反力はエンジンを通してフレームが受けています、ですから接地点に線を引くのもおかしい。
ただしチェーンのスイングアームピボットに対する角度によりチェーン力がスイングアームを回転させようとします、そのへんを説明したのが第16回です(+と-を間違えちゃいましたが、アーカイブの方では修正してあります)。
今回は私の理論で計算して比較していきます。

というわけで2輪の前輪アンチダイブと後輪アンチスクォートです。
まずは前輪のアンチダイブです、2輪のアンチダイブ角がマイナスであるというのは第25回で書きました、ですからアンチダイブではなくプロダイブとなります。
プロダイブとは減速度による荷重移動分以上に前輪が沈み込むという事です、これは間違いありません。
減速度による荷重移動にプラスして前輪へのブレーキ力が側面視の仮想前輪スイングアームをフォークが縮む方向へ回そうとするということです。
図にあるキャスター角、ホイールベース、重心高、ブレーキバランスを使ってプロダイブを計算すると67%でした。

4輪屋さんからは考えられない数字です、4輪(後輪駆動)はアンチダイブが40%くらいです、私の知ってるラリー車ターマック仕様が60%でした、別のGTカーは100%でした、ブレーキングでフロントサスペンションが全く沈まないってことです。

4輪特にレース車ではブレーキング時の前のめりをかなり嫌います、車高が低いので車体前部が地面に擦っちゃうっていうのもありますがドライバーも前のめりになるとリヤのグリップが抜けるとか言って嫌います、ここでウンウンと納得してはいけません、アンチダイブとリヤの荷重抜けは何の関係もありません、荷重移動は減速度と重心高、ホイールベースで決まります、これもウンウン納得しちゃいがちなウソの一つです、そんな気がするという事です。
一方2輪では前のめりにならないとコーナーに入って行ける気がしません、フロントが突っ張るとフロントから滑っちゃうような気がします、この場合も荷重移動分以上の接地荷重は得られません、前のめりだとフロントタイヤの接地荷重が高いというわけではありませんそんな気がするということです、まあ前のめりになって傾いて重心が前に移動した分の荷重が前に掛かるでしょうがほんのちょっとです。

次にリヤです、2輪のアンチスクォートは私の式があっているとして図の数字を使って計算するとこれまたマイナスです、つまりプロスクォートです、プロスクォート3%となりました、まあほぼゼロですからアンチジオメトリーなしと言ってもいいと思います。

じゃあまた4輪と比べてみましょう、4輪はアンチスクォートです、その値は20%くらいでしょう、アンチダイブよりは通常低い値になってるはずです、昭和のころには加速時に見て分かるほど尻下がりの車がありましたが今ではもう見ませんね。
2輪のレースも一頃スイングアームピボット位置を上げたり下げたり調節できるようなフレームが出てきたりしてスイングアームの角度に注目されていましたが最近は見ないところを見るといいとこに落ち着いてきてるんでしょうか?

とすると2輪は加速時に自然な尻下がりの方がいいという事になります、どうでしょう? 確かに加速時にリヤが突っ張るとそのままスライドしてしまいそうな気がします。
アンチスクォートでは2輪と4輪でアンチダイブのような天と地ほどの差はないようです。

2輪のアンチスクォートはスイングアーム角度とチェーンの角度で変わってきますから高速コーナーのようなサスペンションが沈んだ時にはスイングアーム角もチェーン角も変化します、その変化はスイングアーム角が小さくチェーン角が大きくなる方向です、つまりプロスクォートが大きくなる方向です。
リヤサスペンションが沈むほど駆動力がサスペンションを縮めようとする力が大きくなるという事です、「高速コーナーの立ち上がりでなんか尻下がりの感じで開けられない」なんていうのはこの辺が関係していると思います、この辺は別に詳しく見てみたいですね。

今回の2輪と4輪の比較ではアンチダイブに大差があり、アンチスクォートには小差がありました。
2輪と4輪のアンチダイブの違いは面白いですね、2輪はフロントが入らないと不安だし4輪はフロントが支えてくれないと不安。くどいようですがアンチダイブはあくまで姿勢の話で接地荷重の話ではないので2輪と4輪でコーナーに入って行くのに必要な姿勢が違うのだと思います、姿勢によるライダー/ドライバーの“グリップしてる感“が大事なように思えます。

今回は解説というより考察でした。



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