最近はちょっと2輪づいてるのでフロントフォークの計算をしてみます。
というのも自分のミニバイクの油面高さを標準から15mm上げてみたら押してみてもてんでストロークしないし乗っても固くて良くなかったんですが、15mmでそんなに変わるもんかなー?と思ったので検証してみようと思った次第です。
フロントフォークは金属ばねとエアばねの合成なのでちょっと計算が面倒です、更に量産車の多くは2段ばねと言ってばね定数が途中から変化するのでさらに難しいです。
でもフォークは自分でエア量を調整することでばね定数をチューニングできますしプレロードやクランプ位置で車高も調整できるしいろいろいじってる人も多いみたいです、ここはしっかり計算して理解しましょう。
<エアばね>
エアばねの計算方法についてはダンパー講座のno.64,65,66で解説しましたので復習してみてください、ここでもやり方は同じです、でもちょっと最初にエア容量を割り出すのが面倒なんです。
マニュアルではフォークからスプリングを抜いて一番縮めて油面まで130mmとかって指定されています、その時のエア容量はすぐ計算できますが欲しいのは伸び切りにしてばねも組み入れた時のエア容量です。
どうやって割り出すか順番に行きます、まずは前記の状態(図の1番左)のエア容量V0は簡単です、V0=(内径の面積)x(油面高さ)、簡単です。
そこからフォークパイプを伸ばします(左から2番目の図)、パイプが抜けた分油面が下がりますこれによるエア容量増加がV1です、パイプが伸びて増えたエアがV2です。
V1はパイプの肉厚分の体積が抜けていくので、V1=(パイプのドーナッツ面積)x (ストローク)、V2は見た通りで
V2=(内径の面積)x(ストローク)
となりますので両方足すとV1+V2={(パイプのドーナッツ面積)+ (内径の面積)} x (ストローク) =(外径の面積)x(ストローク) --(1) となります。
スプリング分の容量をだすのがちょっと面倒と思いましたが簡単な方法を思いつきました、重量を測っちゃえばいいんですそれを鉄の密度で割れば体積です --(2)。
これで最初のエア容量が分かります、Vair=V0+V1+V2-V3 です、上のキャップをねじ込むとちょっとエアが減りますが無視しました、あと実際のフォークにはリバウンドスプリングが入っているのでスプリングにプレロードを掛けていくと全長が伸びていきます、つまりはエアが増えるわけですがこれとさっきのキャップで減る分が相殺される方向なので両方合わせて無視しました。
さあ初期状態が判明しました、おっと圧力が必要ですね、フォークの圧力はゲージ圧でゼロ、絶対圧で100kPaでいいでしょう、昔は加圧したフォークもありましたが今は見ません。
あとは各ストローク時の体積を(3)式のV1に入れてP1を求めればいいのです、そのP1に(外径の面積A)を掛けたのがフォークの反力です。
V1の出し方は、エア体積の変化が(外径の面積)x(ストローク変化)となります、えっ内径の面積じゃないの?って言う声が聞こえてきそうですがエアがシャフトの中にあるので誤解しやすいですがダンパーと同じでシャフト面積、つまりは外径の面積が入ったり出たりするので (外径の面積)x(ストローク変化)です。
結果がグラフの青の線です、ぎゅいーんと立ち上がった非線形形状ですね。
<スプリング>
今度は金属スプリングです、図にある6つの寸法を測ればOKです、シングルレートスプリングなら4つ測るだけです。
式(4) ばねの計算はコイルの平均径で行うので外径から線径を引いて平均径を出しておきます。
式(5) ストローク初めの柔らかい部分のばね定数はこの式で出します、コイル径、線径、巻き数が分かれば良しです、簡単でしょ、7850は材料によってちょっと変わりますがフォークならこれでいいでしょう。
2段スプリングはストロークの途中でばね定数が変化します、どういう仕組みで変化するのでしょう?
前述したようにばね定数の計算にはコイル径、線径、巻き数しか使いませんでした、ってことはこれのどれかがストロークの途中で変化するってことです、コイル径、線径は変化しませんね、って言うことで巻き数が変わるのです。
どうやって巻き数が変化するかというとばねの写真の左側は巻きが密になっていますよね、ストロークして行くとワイヤーとワイヤーの隙間はどこも一様に狭まっていくわけですが密に巻いてある部分は元々隙間が小さいのであるストロークでワイヤーとワイヤーがくっついてしまいます、これを密着すると言いますがそうするともう密着したところはばねじゃなくなっちゃうわけですよ。
そうすると巻き数が減っちゃいます、(5)の式を見ると巻き数nは分母にあるので小さいとばね定数は大きくなりますよね、これがばね定数が変わる仕組みです。
密に巻いてある所の長さ(Lf) と巻き数(nf) を測っておけばばね特性の変化点と固い方のばね定数が計算できます。
式(6) かたいばね定数は密部の巻き数(nf) が減って(n-nf) になりますからそれを入れて出ます。
式(7) どこで密巻き部が密着してばね定数が変わるかを計算します、密巻き部と粗巻き部の2つのばねとして密巻きばねが密着した時粗巻きばねがどれだけ変位するか出して足します。
あとスプリングのプレロードも測っておいたほうがいいですね、前述したようにリバウンドスプリングもたわむのでひと手間かけないとプレロードが出ません
(手順1) 伸び切った状態でパイプのクロームの長さを測る(A)、引っ張りすぎてリバウンドスプリングをつぶさないように
(手順2) キャップをねじ込む時にキャップをスプリング/カラーに乗せた状態でフォークパイプの上端とキャップのつばまでの距離(B)を測る。
(手順3) キャップをねじ込んだ後リバウンドスプリングが縮んで分全長が伸びているので(手順1)と同じ所を測る(C)
CはAより長いはずです、長くなった分プレロードが少なくなっているので 本当のプレロード =(B)-((C)-(A)) となります、でも(C)-(A)は数ミリでしょうから無視してもいいかも。
以上でネタは全部そろいました、エクセルで各ストローク位置のエアばね、金属ばねの反力を出して足してあげれば出来上がりです。
結構エアばねが立ち上がっていました、そして金属ばねも1Gちょっと手前から倍のばね定数になっているのが分かりました。
きっと2人乗りを満足するにはこうなるんでしょうね、トータルのばね特性を見るとフォーミュラカーのような非線形性です。
ミニバイクレースを考えると「油面を上げて奥で踏ん張るようにして」とか考えそうですが、もう十分に立ち上がっています立ち上がりすぎなくらいです、それよりばね定数が2倍にもなっちゃう金属ばねを何とかしたいところです。
ばね定数の変化を小さくして、ばね定数をちょっとあげて、油面はかえってちょっと下げて、みたいな方がいいかもしれません。
スプリングは専用部品になるので思ったような物はなかなか売ってないし、単品で作ってくれて更に値段も安いところを探すのは大変です、密巻き部の半分くらい切っちゃうのも手かも、でも切ると端面の直角度が出なくなっちゃうしプレロードをいっぱいかけて始めからある程度密着させるか。
現在の状態が分かればいろいろと考えることができます、何事も妄想だけで理屈を言うには並外れた天才的な妄想力が必要です、凡人はピント外れなことを考えてトライアンドエラーで時間ばっかり掛かるのが関の山ですから真面目に現状把握するしかないですね。
サスペンションに興味はあるけど計算は苦手っていうバイク乗りの方で自分のバイクのチューニングにこのエクセルを使ってみたい方いますか? 「7post@lemans.co.jp」へ連絡ください、個人使用に限り差し上げます。
他人に能書きたれるようなジイさんとかショップな人にはあげませんのであしからす。