第2回

2. < 荷重移動とアンチダイブ >

フロントアンチダイブを増やしていくとブレーキング時の前のめり(ダイブ)が減ります、その時に荷重移動も減ると思ってる人がたくさんいます。
「アンチダイブを増やしていったら前のめり姿勢が少なくなって荷重移動も減ったのでフロントタイヤの負担が減ってタイムが良くなった」みたいにです。

タイヤに掛かる荷重の変動は前回説明したようにアンチダイブがあろうとなかろうと同じです、繰り返すとそれは
[荷重移動] = [車両重量] x [ブレーキングG] x [重心の高さ] / [ホイールベース] です。
どこにもアンチダイブは出てきません。

というと「何言ってんですか、スプリングの縮みが少なくなってるじゃないですか、それにプッシュロッドの荷重計のデータ(スプリング力)を見てくださいアンチダイブ増やすと荷重変動が減ってますよ!」って言われちゃいます。

そうなんです、だから誤解しちゃうんでしょうね。

アンチダイブがないと“スプリングさん”が全部荷重移動を支えないといけません、でもアンチダイブがあると “アンチダイブさん”がブレーキ力を使って荷重を支えるのに参加します。
すると“スプリングさん”は楽になって少ない荷重移動を分担すればいい事になるのでプッシュロッドの荷重変動は減るのです。
でも“スプリングさん”と“アンチダイブさん”両方の荷重を合計した物は変わらないのです、そしてそれがタイヤに掛っているのです。



アンチダイブっていうのは「アンチ」というくらいですからブレーキング時のフロントのダイブを減らすジオメトリーのことです。
なぜそんなことができるかというとタイヤに掛かるブレーキ力を使っているのです。

車もバイクのように横から見たときにスイングアームがあります、それも図のように前と後でハの字についてるイメージです、「うちの車はそんな風になってないわよ」て言われちゃうと思いますが「瞬間回転中心」を使った仮想のアームです、svsa(side view swing arm)とかいいます。

ブレーキの時はこのアームとホイールが一体になっているとして扱います(シトロエンDSを除く)(ロックしてなくても一体扱いです)、合体したアームは図の赤線のように扱えます。
アームの接地点にブレーキ力を前からグーっと押すとブレーキ力がアームを回そうとするじゃないですか、フロントのアームは後ろ上がりですからアームが回されると車を持ち上げようとします。
これが“アンチダイブさん“の力の正体です、アンチダイブモーメント(力)とか言います。

上に書いたように減速Gによる車体慣性力が荷重移動とダイブを生み出し、サブレーキ力がスペンションに掛かりアンチダイブ力が発生し車体を持ち上げてダイブを減らす、というのがアンチダイブのメカニズムです。
アンチダイブ力はサスペンションアームというスプリングとは違う経路で車体を持ち上げるので言ってみればスプリング力と並列みたいな関係にあります、なのでアンチダイブ力の分スプリング力の分担は減るのです。

でももう一度言いますがタイヤに掛かる荷重はアンチダイブに影響されません。

アームの角度によってアンチダイブ力は変化します、後ろ上がりの角度が大きいほど(hが大きい程、 lが小さい程)車体を持ち上げる力は大きくなります。ある角度でブレーキングの車体慣性力による荷重移動とアンチダイブ力が同じになりブレーキングで全然ダイブ(前のめり)しなくなります、これがアンチダイブ率100%です、正確に言うとサスペンションのダイブがなくなるけどタイヤはつぶれるのでタイヤ分のダイブは残ります。

ブレーキングで前のめりにならないからと言って荷重が掛かってない訳ではない、ブレーキ力の分力が車体を押し上げようとするからその分前のめりが少なくなるんだというはなしでした。


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