第23回

23. < 取り付け剛性、ばね, タイヤばね + α >

サスペンションのばねの話です。
レース車ではいろんなセンサーを積んで走行中の測定をしています。
サスペンション関連ではダンパーのストローク、レーザーで車高、サスペンション荷重などを計測するのが普通です。

いろいろデータがあると組み合わせてみたくなりますよねー
荷重を台上試験で求めたタイヤのばね定数で割ればタイヤの変位が分かるとか、車高変化からダンパーストロークを引いたらこれもタイヤ変位だとか。
荷重をダンパーストロークで割ったらばね定数で台上試験のばね定数と比べてみたり。
まーどれも合いません、どこにもゴムブッシュとか使ってないレーシングカーでも合いません、計測精度だとかフィルターの設定だとかいろいろ理由を考えると思いますが合いません。

合わない大きな理由はもう一つばねがあるからなのです、それはサスペンション取り付け剛性です。
(インストレーションスティフネスとかいうと外国でも仕事してる風です)
サスペンションのばねっていうとコイルばねとタイヤばねと思うと思いますがそのコイルばねの反力を支えてるボディの取り付け部もまたばねでありたわむのです、普通ボディとかカチカチのソリッドだと思うでしょうが意外にそうでもありません。

取り付け剛性の要因はばね取り付けの車体側の剛性、ホイール側がアームに取り付けられている時はアームの剛性、レーシングカーの場合ロッカーの支持剛性、プッシュロッドの角度による効率などが影響してきます。
取り付け剛性が低いとまるでもう一つ減衰のないばねがあるのと同じになってしまうのでなるべく高くしたい所です、車両メーカーなどでは「取り付け剛性はばね定数のX倍以上のこと」みたいな基準があります、みなさん秘密にしていることなので数字は出さないことにしておきますが取り付け剛性がばねの10倍以上もあるなんてことはまーありません、意外にサスペンションの取り付け剛性というのは低いのです。
例え10倍だとしてもサスペンションストロークの1割は取り付け剛性による変位になります、実際はもっとですから取り付け剛性は立派なサスペンションを構成するばねの一つです。


2014年にF1でフェラーリとケータハムだけフロントにプルロッド式のサスペンションを使っていました、プルロッドが非常に寝ていてサスペンションのストローク方向とずいぶんとかけ離れているのでプルロッド、ロッカー、車体に掛かる荷重がかなり高くなり取り付け剛性を適正値まで高くするのは大変です。
まあ「こっちの方がダウンフォースが出るんだ」ってエアロ担当に言われるとそうしなきゃいけないのがF1というものでしょう。


車両にセンサーをつけてサスペンションストローク(ホイールストローク)を計測しようとする場合、普通はスプリング/ダンパーの変位にサスペンションのレバー比を掛けてサスペンションストロークを計算するか、ロッカーの回転角に係数を掛けてサスペンションストロークを算出します。
このレバー比や係数は幾何学的に(サスペンション変位)/(ばね変位)あるいは(サスペンション変位)/(ロッカー回転角)を求めた物ですから取り付け剛性を考慮していません。
ですから走行データのサスペンション変位はばね変位の車輪位置換算であって本当の値から取り付け剛性分の変位が不足しています、つまり本当のサスペンションストロークより1割以上小さい値を示しているという事です。
まあ他に手がないですからしょうがありません、後は後計算で補正したりします(ほとんどの場合そのまま使います)、お金のあるF1とか上位カテゴリーではレーザー式の車高センサーで一番知りたい情報を直接測ってしまいます。


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