第22回

22. < エアサスとハイドロサス >

今回はエアスプリングの続きとしてちょっと面白い比較をしてみます。

世の中の車のほとんどは金属スプリングを使っていますが一部の車にエアサスペンションとハイドロサスペンションが採用されています。
しかしどちらのサスペンションも気体をばねに使っています、ハイドロだからって油がばねになる訳がありません。

エアサスの場合大概はローリングダイヤフラムという前回の写真に出てきたものを使います、ハイドロの場合はアキュムレータという玉にガスを封入したものを使います、でもどっちも気体がばねになっているのに違いはありません。

ここにエアサスとハイドロサスの2つの例を挙げました、車重もピストン面積も圧力も容積も同じです。
ばね定数を決める3つの要素が同じですからばね定数も同じです、ばねとして2つには差がありません、ハイドロマニアが、エアサス教信者がどう言おうとばねとしては同じです。

2つのシステムの1番の違いは車高調整に空気を使うか、オイルを使うかです。
まずエアサスやハイドロサスで車高調整ができない乗用車はまずありません、車高調整しないんなら金属ばねでいいじゃんてなります。
空気で車高調整するか、オイルで車高調整するかは実は大変な違いなのですよ。

車重が変化して2倍になったとします、そして車高が下がった分をそれぞれ空気とオイルで補充して元の車高に戻したとしましょう、図の右側の状態です。
車重が2倍になったので圧力は両者とも2倍になります。
ところが空気容量は違ってきます。
まず初めに車重が2倍になってまだ車高調整をする前をイメージしてみてください、どちらも圧力が倍ですから空気容量は半分になります。ハイドロサスはそこへオイルを注入して車高を戻すので空気容量は半分になったままです。
一方エアサスは空気を注入するので元と同じ空気容量に戻ります。

そうなると何が違ってくるかというと車が重くなった時のばね定数が違ってくるのです。 ばね定数の式は下記でしたね。
k= (1.4x A2xP)/V

上に書いたように重くなった状態で両者の面積と圧力は同じです、でも空気容積Vがエアサスとハイドロサスでは倍違ってくるのです。
ばね定数の変化を元のばね定数を比べてみると、エアサスは圧力だけが2倍になってばね定数も2倍です。
ハイドロは圧力が2倍、容積が半分でばね定数は元の4倍になります。
どっちも2倍と4倍と固くなってますね、これって良いの?悪いの? 良いとすればどっちの固くなり方がいいの?

皆さん一般庶民は金属ばねの車しか乗ったことない人がほとんどでしょう、自分の車に4人乗って荷物積んだらどうなります?
まず遅くなってしまいますが、それ以外に車がブワンブワンするでしょう、車の動きが大きくゆっくり動くようになりますよね。
ブワンブワンして乗りにくいですよね。
これは固有振動数が下がるからです、固有振動数はダンパー講座のno.84で説明しましたが、ばねに重りをぶら下げて引っ張って離した時の自然に上下する周波数のことです。まあ減衰比も下がっちゃったからでもあるのですがそれはここでは脇に置いておきます。
固有振動数の式は下記です。

fn= 1/(2π)x√(K/M)

質量が大きくなったのにばね定数が変わらないとルートの中が小さくなって固有振動数が下がってしまい、まるでばねが柔らかい車に乗ってるような感じになりますね。
そうです、おなじ固さの感じを保つには重くなったらばねも固くした方がいいのです。
エアサスもハイドロサスも重くなるとばねが固くなりますから都合がいいですね、高い車に付いてるだけのことはあります、ではどっちの固くなり具合の方がいいでしょうか?

エアサスは質量2倍でばね定数も2倍になりますから固有振動数が変わりません、いいじゃないですか、おなじ感覚で運転できます。
対してハイドロは? 質量は2倍でばね定数は4倍ですから固有振動数は√2、つまり1.4倍になります、ハイドロの場合重くなると重くなる前より固く感じるという事です。
金属スプリングの場合の逆ですね。

今回車重変化に対するばね定数の変化をエアサスとハイドロサスで見てみましたが、この点ではエアサスの方が優れていると思います。
固有振動数を重量によらず一定に保てます、後ろに乗った人にも金属ばねのようにブヨンブヨンしないし、ハイドロのようにひょこひょこしないし良いと思います。
ばねが固くなった分減衰力も固くしてくれてロールモーメントが増える分アンチロールバーも固くしてくれればいう事なしです。




でもね、理屈じゃないんですよ、私はシトロエン、ハイドロサスペンションのファンでありまして車も現行車で唯一のハイドロのモデルに乗っています。
ボクサーファンとかロータリーファンとかと同じようなもんでしょう、いい悪いより拘り続けるかどうかですよ、うちは何十年もエアサスをずっと改良し続けて世に送り出してきたなんてメーカーないですからね。


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