第12回

12. < ロール剛性、前を固めるのか? 後ろを柔らかくするのか? >

オーバーステアとかアンダーステアとかを調整することを分かってる風に言うと“ステアバランスを取る“とか言ったりしますが、そのバランスを取る時に一番使うのがアンチロールバー(ARB)です。
まあ以前に言ったように“ジオオタク”の人はサスペンションアームの取り付け位置を変えてロールセンター高さを変化させたりするわけですしダウンフォースのバランスを変えてもステアバランスは変えられます。
今回はARBでステアバランスを調整する時の話です。

例えばステアバランスがちょっとアンダーステアだったとしましょう、ARBで調整するならフロントを柔らかくするかリヤを固くするかですよね。
こういう時よく言われるのが「リヤを悪くしてバランスを取りたくないんだよ! フロントをよくしてバランスとってよ」です。
ほんと?

アンダーステアですからフロントが先にグリップの限界を到達するっていうのはいいですよね?
それを直すにはフロントの限界を上げるかリヤの限界を下げるか(その両方か)してアンダーステアが減るようにするわけです。

なんでARBでそれを調整できるかっていうと、“左右輪のタイヤグリップの合計は荷重移動が大きい程低くなる“ からです。
旋回中に左右輪で荷重の増える分と減る分は同じです、いいですよね、そうじゃないと車重が変わってしまいます。
そういうと“ピッチングが...”とか言う人がいると思いますが、ピッチングで両輪に同じ荷重が増えたり減ったりした後左右輪で同じだけ増えて/減ってするのです。 同じだけ荷重が増えて/減ってした分グリップが増えて/減ってしたら荷重移動しても合計グリップは変化ありません。
でもタイヤは荷重が増えたほどはグリップが上がらない物なのです。
つまり(荷重が減ってグリップが減った分)より(荷重が増えてグリップが増えた分)の方が小さいのです、だから荷重移動する前より荷重移動した後の方が左右グリップ合計は低いのです。
その減り分は荷重移動が大きい程大きく(悪く)なります。

アンダーステアをARBで直すためにはフロントの限界を上げなくてはいけないですからフロントの荷重移動を減らさないといけないことになります、なのでARBを柔らかくしなきゃですね。
一方リヤの限界を下げるにはリヤの限界を下げなくてはいけないですからリヤの荷重移動を増やさないといけません、なのでARBを固くしなきゃですね。
このARBを固めるとリヤの限界が低くなるっていうのが引っかかって「リヤARBは変えるな」になるんでしょう。


例題を使って説明します。
ARBだけ変えるとして他は変わらないとします。
現状ロール剛性がF=60, R=40 だとします(あえて単位なしの分かりやすい数字にしてみました)、ちょっと前が固いですね、なのでアンダーステアなのだとしておきましょう、これをフロントを柔らかくして40/40にするか、リヤを固くして60/60にするか比べてみましょう。
40/40、60/60どちらも場合もフロントとリヤのロール剛性は同じでロール剛性バランスは50%です。

第9回で説明した荷重移動の式をもう一度図に示しました、見てください。
式に出てくるロール剛性はフロントでKf/Ktです、つまりはフロントロール剛性 / トータルロール剛性 = ロール剛性バランスです。
だから40/40だろうが60/60だろうがバランスが同じなら両者の荷重移動量は同じです。

すると「固くすると全体の荷重移動が...」がまた始まっちゃいます。 トータルの荷重移動量は第4回で説明したようにロール剛性に関係ありません。


答えは前を柔らかくしようが後ろを固くしようがロール剛性バランスが同じなら前後での荷重移動量も同じでどちらでも同じ、です。
どっちかだけが良くなったり、どっちかだけが悪くなったりはせず、全体の荷重移動の配分を変えているのです。
要するに前のARBを柔らかくしたら前の荷重移動が減りその分後ろでは増えるのです、逆に後ろのARBを固くしたら後ろの荷重移動が増えその分前では減るのです。
トータルの荷重移動量に変化はない、ロール剛性バランスがその荷重移動の配分を変えるのです、配分を変えるだけだからどっちかの荷重移動が減った分反対側が増えるということ。

まあしいて言えばトータルのロール剛性を上げる方向でステアバランスを取ると左右輪の独立性が失われていくのでホイールの路面追従性が悪くなる、とは言えます。


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