変遷
以前ラジオの民謡の番組で聞いた話ですが、「おしまこ」の最初の
「田名部横町(たなぶよこまち)の川の水飲めば 八十婆様(ばさま)も若くなる」
という歌は、もともとは今とは違った歌詞だったそうです。ではどういった歌詞だったかというと、
「田名部横町(たなぶよこまち)のタガの水飲めば 八十爺様(じさま)も若くなる」
というものだったというのです。
「タガの水」とは、「樽に入った水=酒」のことだそうで、つまりこの歌は、
「田名部横町にある遊廓で遊んで、その遊廓の樽に入った酒を飲むと、八十歳のお爺さんでも若がえる」
という意味の歌なんだそうですね。
いつの頃からかこの歌から「女郎遊び」の匂いが消え、「酒」が「川の水」になり、それとともにお爺さんからお婆さんへと登場人物も変わりました。民謡というとずっと昔から変わらずに歌い継がれてきたものというイメージがありますが、このようにその時々の時代や人々の生活に合わせて、少しづつその姿形を変えていくものなのかもしれませんね。
さて、今までは主に「おしまこ」と五台の山車の運行に関してご紹介してきましたが、「田名部祭」の魅力はそれだけではありません。8月20日の五町引きのさいには、山車と一緒に猿田彦(さるたひこ)神やそのお供、のぼり旗を担いだ人達、何人ものお稚児(ちご)さん、お公家(くげ)様、裃(かみしも)を着たお侍などの、雅(みやび)なお神輿の行列が続きます。今ではもう管理が大変なのでいませんが、私が小さい頃は綺麗に飾られた馬もこの行列に加わっていました。
白装束に黒い烏帽子(えぼし)をかぶった一行もいて、こちらは山車とは別のルートを歩きます。肩に担いだ長もちのような木箱には、沿道の人たちが納めたお米などが入っています。周辺各地の神楽も家々をまわって歩きます。
一方郷社の方ですが、郷社のすぐ横に「舞台」があって、そこでは能舞いや権現(ごんげん)舞いが奉納されます。下北地方は昔から農家や漁師の皆さんが能舞いや権現舞いを伝えていて、祭や正月にはその素人とは思えない、見事な舞いを舞うのです。
ところでこれらの舞いには当然歌が歌われるのですが、その歌の中には「おしまこ」の参考になりそうな歌も含まれていますので、そういった歌も「おしまこ」の最後の方でご紹介しておきましょう。
これらの歌は、今は亡き私の母方の祖父の蔵書の中にあったものです。祖父はこれらの歌も含め、能舞いや権現舞いの歌を詳しく書き留め、きちんと保存していました。私が「おしまこの参考のために見せて欲しい」と言うと、大事な資料であったにもかかわらず快く協力してくれた祖父。祖父には今も感謝の気持ちでいっぱいです。
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