紅蓮の灯火

 

第一話

 

 

「焼死体?」

 天城神社にある奥の院。双葉と紅葉は菫の呼び出しにより、奥の院にある一室にいた。

「それがただの焼死体じゃないみたいなの」

「というと」

 菫は腕を組んで少し考えながら話し始めた。

「とりあえず、被害者は五人。なんでも肝試しとかである場所に行ったみたい。そしてその翌日。五人とも焼死体となって近くの山中で発見された」

「最近流行ってる集団自殺じゃないんですか?」

 いや、紅葉、そんなものは流行ってないから。

 そんな突っ込み衝動を抑えながら双葉は菫の言葉を待った。

「紅葉、もし普通の人間が焼身自殺をする場合、どうすると思う?」

 意外な切り返しをしてきた菫に紅葉は驚きながらも考える。だがそんなに時をおかずに答えは出た。

「やっぱり、灯油とかガソリンとかをかぶってから自ら火を付けるんじゃないですか?」

「そうね、でも、そんな事をすれば周りの草木に少なくとも焦げ後は残るわ」

 焦げ跡が残る?

 菫が言った言葉に引っ掛かりを感じた双葉はその点について考え始めた。

 確か、焼死体は山中で発見されたって……そうなれば当然、周りには草や木があってもおかしくない。そして、そんな場所で焼身自殺なんてやれば当然周りの草木に燃え移ったり、焦げ跡が残っても不思議は無い。でも菫さんの物言いだと、まるで……人間だけが燃えたように聞こえる。

 その事を確かめるべく、双葉は菫に尋ねてみた。

「つまり、周りの草木には一切燃えた形跡が無いと」

「さすが双葉ちゃん、そういうことよ」

「でも、そこで燃えたとは考えられないんじゃ?」

 そう答える紅葉にも菫は満足そうに頷く。

「確かに、その場所で燃えたとは限らない。どこかで燃やした後、誰かがそこまで運んだ可能性があるのも確かだわ」

「でも……そうなると他殺ですよね。だったらウチにまで周ってくる事が無いんじゃ」

「そう、普通の他殺ならウチにまで周ってこないわ」

 つまり普通の他殺ではないのだろう。双葉も紅葉もその事を感じ取って顔を見合わせる。

「その五人が最後に行った場所に警察が何人か入り込んでるの、そして行方不明。翌日、先の被害者同様に焼死体が発見されたわ。歯形から焼死体はその警察官に間違いないそうよ」

「その警察官も殺されたってことですか」

 無言で頷く菫、だが紅葉は少し人差し指を顎に当てると少し考えて、それから口を開いた。

「そうなると他殺という事は確かね。でも、警察官がむざむざと焼死体で発見されたという事は……普通なら相手を気絶させてから火を付けるはずよね」

「けど先の焼死体も警察官の焼死体も外傷は一切無し、そのまま焼かれてるわ」

 先の焼死体が集団自殺ならともかく、警察官まで外傷が無くそのまま焼け死ぬとは明らかに。

「おかしいですね」

 双葉の言葉に菫は頷いて見せ。それから二人に書類を差し出した後、満面の笑みで二人に告げるのだった。

「そんな訳で、この事件はウチに周ってきたからよろしく」

「いや、そんな満面な笑みで言われても」

 さすがに呆れた表情になる双葉をよそに紅葉は封筒の中身を見てみる。

「……『燃え続ける村』」

「そう、そこが先の五人が肝試しに行った場所。あの地域ではそう呼ばれている場所みたいよ」

「燃え続ける村……か」

 双葉は渡された書類に目をとおしてみる。

 

 

奇怪焼死体について ─燃え続ける村─

 

 現在は地図にすら載っていない村であり、あるのは朽ちた家だけで人は一人も住んでいない。故に村とは認められずに現在でも放置状態にある。

 放置の理由として村が山奥にあり、近くに水源も無いなめ、一切開発の理由が見つからないという事。更に近隣の村人もこの村の存在は知っているが、いかがわしい由縁があるため誰も近寄ろうとしない。故に、この村は長い間放置され続けてきた。

 だが最近ではこの村は心霊スポットになっているが、危険すぎるという理由で近隣の村人達がこの村に近づけなかった。だが過疎化が進んでいるとはいえ、村に若人が居ない訳じゃない。

 今回の被害者は焼死体の歯形から近隣の村に住む若人と判明。どうやらこの村の噂を確かめるべく、そして肝試しとして面白半分で村に入ったもよう。

 だが翌日、燃え続ける村に入った五人は近くの山中で焼死体として発見される。故に、近隣の村では再びこの燃え続ける村の祟りとして、その忌まわしい記録を蘇らせる事になった。

 

 

 書類に目を通した双葉は中に同封されている写真に目を向ける。

 ……やっぱり、この焼死体は変。

 写真の中には焼死体が写っているの物があった。それを見る限り、焼死体はほとんど原型が分らないほど焼け焦げており、少し動かしただけでも崩れてしまいそうだ。

「これって、どうやって運び出したんですか?」

 焼死体の写真を見ながら菫に尋ねる双葉。だが菫は思いっきり溜息を付いてから答えた。

「見てのとおり、ちょっとでも動かせば崩れそうでしょ。まあ、実際に崩れたみたいだけど、それでも集められるだけ集めてなんとか復元して身元が判明したみたい」

「それでこっちが燃え続ける村ですか」

 紅葉が封筒から写真をテーブルの上に差し出してきた。それは双葉の封筒にも入っているものだが、どう見ても朽ちた村にしか見えないが、ここに居るのは三人とも腕利きの退魔士である。写真からでも出ている霊気に気が付いた。

「見た目どおりの村、というワケじゃないみたい」

「だから私達に周ってきたという訳、ちなみに依頼主は近隣の村長ね。どこかで退魔士である私達の噂を聞きつけたみたい」

「それで私達がこの村に行く事になった」

「まあ、そういう事。それに二人なら分るでしょ、写真から出ている異様な霊気に」

 双葉も紅葉も再び村が映し出されている写真に目を向ける。二人には確かに写真からにじみ出ている霊気をはっきり感じる取る事が出来た。そのうえ霊気はかなり淀んでおり、穢れている事は確かだ。

 それを確認した紅葉は写真を手に取る。

「これって、霊視はしたんですか?」

 写真に写しただけで、これだけの霊力を帯びるほどだ。そこから霊視という霊的な情報を読み取る能力があれば更に深い事が分るのだが、双葉は前線専門だからそういうことには向いてない。一方の紅葉も少し苦手だったりするが出来ないわけじゃない。

 だから確実に霊視が出来るのは菫だけだ。

「まあ、一応やってみたんだけどね。良く分からないのよ」

「分らないって」

 双葉の問に菫は答える事無く手を差し伸べてきた。

 百聞は一見に如かずか……。

 菫の手に自分の手を重ねる双葉と紅葉。そして菫が目をつぶり霊力を集中させると双葉と紅葉の脳内に直接、霊視のイメージを送り込んできた。

 これって……なに?

 双葉の脳内に直接送り込まれたイメージは、燃え続ける民家に逃げ惑う人々。だが村には結界が張っており村から出ることが出来ずに、炎は放射されるように人々を焼き続ける。正しく村は阿鼻叫喚の有様だ。

 そしてイメージは瞬時に次の場面に写る。そこはどこかの洞窟だろうか、置くには大きな炉。つまり鉄を溶かすような道具が置かれているが、その大きな炉の前に一人の巫女装束に身を包まれてた女が立って大きく高笑いを上げている。

 更に女の後ろには紅蓮の炎、その姿は人のように見えるが、どうもはっきりとしない。

 そしていきなりテレビの電源が落ちるように、突然イメージが消えた。

 ゆっくりと目を開ける三人。菫はお茶を一口飲んでから口を開いた。

「これが霊視の結果よ」

「……なんか、あまり良く分かりませんでしたね」

 普通の霊視なら原因たる物が見えるはずなのだが、今回見えたのは逃げ惑う人々と巫女装束の女だけ、他には何も分らなかった。

「こっちの焼死体はどうでしたか?」

 双葉が聞くと菫は困った顔になってしまった。

「それがね、よく見えなかったのよ。かなり力を入れて見てみたんだけどね。やっぱり写真越しだと良く分からないのよね」

「やっぱり、こんな写真一枚だけだと複雑な事情がある場合は分りませんね」

 写真を手に取り、紅葉はそんな事を言ってきた。

「そうなのよね。たぶん、今回の事件は複雑な事情が絡み合ってると思うの。だから、その写真から引き出せる情報はそれだけ、後は現地に行って直接、接してみないと分らないわ」

「それで私達に行って調べて来いということですか」

「そういうことだからよろしく〜」

 いや、そんな満面の笑みで言われても。まあ、お仕事ですから行きますけど。

 それから菫は何かを思い出したかのように手を叩いた。

「そうそう、今回の事件は何があるから分らないからフル装備で行ってね」

「そんなに危険なんですか?」

「分らないわ」

「えっと、それってどういう意味です?」

 菫は村が映し出されている写真を手に取ると少し不安そうな顔になる。

「これを霊視する時ね。村の人達が逃げ惑うのはすぐに見えたんだけど、それから先は強い障害があってね。それを突破してみるとさっきの女の人が見えたの。どうやら、その女の人がやってることだと思うけど、たった一人の力で私の霊視を妨害できるほどの力は出せないはずなの」

「つまり裏に何かあると?」

「そう考えるのが普通よね。しかも私の霊視を妨害できるほどの強い力を持ってるわ」

『……』

 菫の言葉に沈黙で答える二人。

 菫だって伊達に退魔士の元締めをやっているわけではない。戦闘能力やその他の能力に比べても二人より強い力を持っている。そんな菫が完全に霊視で出来ない程の相手なのだから用心に越した事は無い。

「分りました。とりあえず充分に準備してから出発します」

「とりあえず行って見ないと何も分らないでしょうからね」

「……ごめんね二人とも、こんな危険な仕事を押し付けちゃって」

 菫の言葉に二人は笑顔で答える。

「大丈夫です。私達も伊達にこの天城神社で退魔士をやってるわけではないですから」

「今回の事件もちゃんと片付けてきますよ」

 その二人の言葉に菫も笑みを浮かべる。

「そうね、二人とも天城神社きっての退魔士だもんね。でもね」

 菫は立ち上がると二人の手を取る。

「今回の事件はかなりキツイ仕事になると思うの、だから気をつけてね」

「はい」

「ええ」

 返事を返した二人はすぐに準備をするために各々の部屋に戻って行き、その後姿を菫は少し心配そうな微笑で見送る。

(まあ、今回はかなりキツイ仕事になると思うけど……あの二人なら大丈夫でしょう。私だって伊達にあの二人を鍛えてきたわけじゃないんだから。もう立派に退魔士として働いてもらわないと)

 そうして菫は自分の仕事へと戻っていった。

 

 

 途中で一泊してその村に着いたのはすでに夕暮れ、西の空が赤く染まり、東の空が青くなりかけてた時だ。

 一応二人が村の入り口に着いたのはかなり前なのだが、真昼だと天照(あまてらす)大神(おおみかみ)の加護もあり、霊的なものはその活動を著しく制限される。だが逆に真夜中だと月読(つくよみ)(のみこと)の力があり、その力は死と再生であり、よって成仏できない霊が活性化する。

 つまり、夜を支配する月読命の力が霊達に力を与えるのと同時に霊体として魂を再生し続けているのだ。よって退魔士の仕事は月読命の力が一番強くなる夜になることが多い。

 だからこそ、二人は一番霊達が活性化する夜を待った。

「さて、じゃあそろそろ行ってみる?」

「そうね、もう頃合かしら」

 山奥にある村だからすでに太陽はその姿を消し、空を赤く染めているだけだ。もう少し経てば完全に日は沈むだろう。

 二人は荷物を背負うと再び歩みを進め、少し歩くと高台へと出た。そこからは村がよく見える。建物のほとんどは焼け落ちているが、中にはしっかりと残っているのも多かった。

「あれが、燃え続ける村」

「う〜ん、やっぱり入ってみないと何も分らないな」

「紅葉でも分らないの?」

「まあ、まだ村に入ったわけじゃないからね」

「そっか」

 霊の察知能力は紅葉の方が上のようだ。双葉も出来ないわけではないが、どうしても遠くだと精神集中が必要となってしまう。逆に紅葉は直感的に霊を察知できる。

 その紅葉が未だに霊を察知できないほどだ。未だにこの付近には何も居ないのだろう。

 しかたなく村へ降りていく二人、そして村の入り口には門のような物が設置してあった。これも昔の名残なのだろう。いつ敵が攻めてきても防げるように設置したはずだが、逆に内部からの火災には門が結界となり、誰一人として逃がさなかったのだろう。

 不運としか言い様が無い。

 そして二人が門を通った瞬間、世界は一瞬にして変わる。景色はセピア色しており、昔の映画のようだ。そして村は大火災になっており、村人は逃げ惑っている。

 そんな景色を見ながらも二人は冷静だ。

「なるほどね、だから燃え続ける村か」

「どうやらこの村に住んでた人が見せてるんだと思うけど、なんか変なのよね」

「変って?」

 周りは火災で阿鼻叫喚なのに双葉は首を傾げながら紅葉に聞いてきた。

「普通、こういうのは自分が死んだ時の原因を見せて自分の死を知らせる物でしょ」

「けど、これもそうじゃないの?」

 だが紅葉は首を横に振る。

「なんかこれ、村の惨状を私達に見せつけてるようじゃない」

 再び火災で逃げ惑う村人達に目を向ける双葉、後ろの門では結界を思いっきり叩いてる村人も居る。

 なるほど、確かに紅葉の言うとおりかもしれない。

 霊が見せる映像は大抵自分の死を知らせる物なのだが、現在目の前に広がっている光景はまるで村の惨状を見せ付けて楽しんでいるようだ。

「つまり、裏幕が居るってこと」

「だと思う、けど……これはこの辺にいる霊が見せてるものかな。誰かに命令されて村に入った人に強制的に見せるんだと思う」

 その紅葉の言葉を聞いて双葉は思いっきり溜息を付く。

「つまり、その命令を出している裏幕を倒さないといけないってことか」

「まあ、そうだけど。この辺のは適当に片付けちゃえば」

 簡単に言うね紅葉。まあ、この程度の霊なら簡単に片付くけど、裏幕が居るなら少しはこっちの霊力も温存しておかないと後が続かないか。

 双葉がそんな事を考えている間に世界は元に戻り、辺りから唸り声のようなものが聞こえてくるが紅葉はのんきに後ろを振り返る。

「あ〜らら、私達も結界で閉じ込められたみたいよ」

 門に張られた結界に紅葉はそんな事を言ってくるが、双葉は刀を抜くと構える。

「その結界、破れそう?」

「無理」

 即答する紅葉に双葉は呆れた顔を向けるが、そんな双葉を見て紅葉も反論を始めた。

「だってこの結界かなり強力に作られてるのよ。私と双葉が協力しても破るのは無理よ」

「という事は……誰かが作り出したものじゃないって事?」

「そうね、これだけ強い結界だと、たぶん……儀式で作り出してるんだと思う」

「そう、どちらにしても出るためには大元を叩かないとダメか。それに……相手はやる気だし」

 双葉がそう言うと辺りの温度が一気に落ちて、霊気が辺りに漂う。

「随分と早いご到着ね。もう少し掛かると思ってたけど」

「たぶん門番なんでしょ」

「なるほど、じゃああの焼死体はこの人達がやったのかな?」

「さあ、どっちにしても戦ってみれば分る」

 そして現れる八人の村人。その姿は焼かれる前だが、体が半透明で明らかに霊体だと分る。そして有無を言わさずに双葉達に向かって襲い掛かってきた。

 双葉はすでに刀を構えており、紅葉も袂から鉄扇を取り出す。

 相手が迫ってくるというのに双葉は刀を下段後ろに構えなおすと一気に駆け出す。両者の距離は一気に縮まると村人の怨霊は双葉に向かってその手を突き出すが、双葉はそれを掻い潜ると一閃の元に一体の怨霊を切り伏せる。

 だがすかさず別の怨霊が双葉に襲い掛かるが、双葉は軽い身のこなしで攻撃をかわすのと同時に体を回転させて一気に切り伏せる。

 そうして双葉が怨霊達を何人か相手をしている間に紅葉の元へも三人の怨霊が迫ってきた。

 一気に伸ばされる六本の腕。紅葉は扇を広げると結界を張り、まずは迫ってきた怨霊の攻撃を全て受け止めた。そうして動きが止まったところで鉄扇を振ると三体の怨霊は吹き飛ばされてしまう。

 だがそれで諦めるほど、相手は物分りが良いわけではない。吹き飛ばされてもすぐに起き上がり、再び紅葉へと迫ってきた。

 今度は三人一辺でなく、起き上がってきた順のため個別に襲い掛かってきた。

 紅葉は鉄扇をたたむと攻撃してきた怨霊の腕を避けるのと同時に懐に飛び込んで鉄扇を相手の喉元に突きたてる。

 さすがに喉元をやられては吹き飛ばされるしかない怨霊。だがいつの間にか後ろに周った怨霊の一体が紅葉に襲い掛かってきた。

 紅葉は振り向くのと同時に右足を大きく踏み出し、相手が攻撃してくる前に鉄扇で横から薙ぎ、怨霊を叩きのめす。

 だが紅葉が背を向けた事をいいことに残る一体が後ろから紅葉に迫るが、紅葉は振り向く事無く後ろに跳ぶと体を少し回転させて相手の姿を捉えるのと同時に鉄扇を突き出す。

 さすがにここまで早い反撃は予想できなかったのだろう。怨霊は鉄扇に突かれて、そのまま地面に仰向けに倒れる事になる。

 自分に迫ってきた怨霊を全て倒した紅葉は双葉に目を向けると、双葉も最後の一体を相手にしているところだった。

 丁度、双葉が怨霊を切り伏せた隙に後ろから残りの一体が襲い掛かって来てたのだが、双葉は足裏に霊力を集中させると一気に解き放つ。

 そのため、初動からかなりのスピードが付き、相手に自分を認識させる前に懐に飛び込んでそのまま一閃の元に切り伏せてしまった。常人なら何が起こったのかわからないだろうが、相手は霊体で双葉と紅葉の武器には大直日神の加護を得ている。

 そのため、一撃が致命傷となり、その穢れた存在は一気に浄化されていく。

 とりあえず辺りの怨霊を一掃した事で紅葉は双葉の元へ歩み寄った。

「この辺のはこれで終わりみたいよ」

「そう、じゃあ村を調べてみようか」

「そうね」

 辺りの怨霊を一掃して村の奥へ向かおうとしている時だった。

「ッ!」

 突如、紅葉が身構える。それを察して双葉も再び構えなおした。

「どうしたの?」

 霊の察知能力は紅葉の方が高い。双葉には察知できなくとも紅葉には察知できたようだ。

「まだ近くに一体居る」

「どこ?」

 だが、紅葉は辺りを見回しただけだ。

「ダメ、良く分からない」

 という事はどこかに隠れてる?

 紅葉が完全に位置が特定できないという事はそういう事なのだろう。双葉も精神を集中させて辺りの気配を察しようとするが、それよりも早く紅葉が叫ぶ。

「双葉、下!」

「えっ!」

 とっさに飛び退こうとする双葉だが、相手の方が一瞬早く双葉の足が捕まれるのと同時に双葉の体が炎に包まれる。

「双葉!」

 双葉を呼ぶ紅葉の声。だがその声は双葉を包む炎により届く事は無かった。