第十章

 

血統家宝 神魔斬滅刀

 

 

 金属同士が大きく鳴り響く剣戟音のような物が音羽の耳から入り込んだ。先程の光景からすればそんな音が鳴り響くわけが無い。そう思いつつ音羽はゆっくりと瞳を開ける。

「えっ?」

 目の前の光景が信じられずに音羽は思わず声を上げた。確かに天津甕星の剣は墨由に向かって振り下ろされていた。だがその剣が墨由に届く事は無かった。なにしろ天津甕星の剣は墨由が手にしている刀によって阻まれたからだ。

 墨由はいつの間にか神菜の束縛から脱出しており、しっかりと両足を地面に付けている。そして何処から取り出したのか、墨由の手には刀が握られており、音羽の視線も自然と墨由が握っている刀へと向かった。

「あの刀は……なに?」

 そんな言葉を呟く音羽。そんな音羽の視界にゆっくりとナベの姿が写りこんでくる。どうやらナベも無事らしいが、先程の衝撃で音羽を庇ったのか、ナベの足取りは悪く。少し左右に揺れながらも空中を歩いて音羽の横に立った。

「まさか……あれが墨由の血統家宝じゃったとはのう」

 そんな事を呟くナベに音羽はワケが分からないと言った顔をする。ナベの言葉から察するに墨由が手にしている刀が墨由の中にあった血統家宝らしいが、それが何なのか音羽にはまったく想像が付かなかった。

「ナベ、あの刀について知ってるの?」

 そんな音羽の質問にナベは一度だけ頷いた。

「あの刀は……お前も名前だけなら聞いたことがあるじゃろ……神魔斬(しんまざん)滅刀(めつとう)という血統家宝をな」

「なっ! まさか……それが墨由の血統家宝!」

「まず間違いないじゃろうな」

 ナベの言葉に驚きを隠せない音羽はよろけながらも前に一歩だけ進み出ると墨由が手にしている刀を見詰める。

 その刀は紫色の刀身をしており、柄もつばも見事な装飾がなされている。そして刀を持っていないもう片方の手には鞘が握られていた。その鞘にも見事な装飾がなされており、溢れんばかりの力がにじみ出ていた。

 そんな墨由が手にしている刀を見詰めて音羽は呟く、神魔斬滅刀の事を。

「あれが……墨由の血統家宝。あれが……禁忌の血統家宝である……神魔斬滅刀」

 まるで信じられないと言わんばかりの音羽の言葉にナベは音羽の言葉を肯定するかのように頷いた。

「あの刀身とよい、あの力とよい、まず神魔斬滅刀で間違いないじゃろうな」

「そんな……そんな禁忌の血統家宝が存在してるなんて。それも墨由の中に」

「信じられんのも無理は無いじゃろ。なにしろ儂も文献でしか、その存在を知らんからのう。じゃがあの刀身と力は間違いなく神魔斬滅刀じゃろう」

「けど! 神魔斬滅刀は禁忌の血統家宝。決して存在してはいけない血統家宝で、今ではもう存在していないはずじゃないの?」

「ふん、そんなものは退魔士が勝手に歴史を書き換えて神魔斬滅刀の存在を闇に葬っただけじゃろ。よく見るんじゃな、目の前にあるのは間違いなく神魔斬滅刀じゃ。それだけは疑いようが無い。もう少し見ておれ、あれが神魔斬滅刀なら天津甕星を切れるはずじゃ」

 ナベにそう言われて音羽は素直に墨由へと目を向ける。墨由は神魔斬滅刀を持った片手だけで天津甕星の剣を防いでおり、俯いていて顔は良く見えないが未だに瞳を閉じている事だけはここからでも良く分かった。

 そんな墨由がゆっくりと顔を上げると、一気に瞳を開いた。そんな墨由の瞳を見て音羽は驚きを隠せなかった。本来なら黒いはずの墨由の瞳が今では金色の瞳となっている。そして表情はほとんど無く、無表情と言っても良いだろう。

 音羽も墨由の幼馴染として墨由と長い間の時間を過ごしてきたが、こんな墨由を見たのは始めてた。

「あれが……墨由?」

 まるで別人のように思えた墨由の姿に音羽はそんな言葉を呟き。ナベはそんな音羽の呟きに答えるような形で言葉を返してきたので音羽はそちらに目を向けた。

「たぶんじゃが、未だに気を失っておるんじゃろ。そこに天津甕星からの攻撃を察して防衛本能で自らの血統家宝を取り出した。そんなところじゃろ」

 つまりは墨由は未だに無意識の状態であり、防衛本能だけで動いているという事になる。その防衛本能により本来ならそう簡単に取り出す事が出来ない血統家宝を取り出し、こうして使用している。その事だけでも音羽を驚かせるには充分だった。

 そして音羽は再び墨由に目を向けると墨由はゆっくりと動き出した。

 天津甕星の剣を受け止めている刀を少しだけ下げると、今度は一気に上に跳ね上げて天津甕星の剣を一気に振り払う。

 その事で体勢が崩れた天津甕星に向かって墨由は一気に振り返ると、神魔斬滅刀を一気に下から斬り上げた。

 その剣閃だけで天津甕星の身体には一直線に剣筋が入ると、天津甕星は悲鳴を上げながら手にした剣を地面へと落とした。

「これであの刀が神魔斬滅刀である事は間違いないようじゃな」

 そんな事を呟くナベに音羽は黙って頷いた。

 そう、これこそが神魔斬滅刀の力であり、禁忌の血統家宝と言われる由縁でもあった。

 本来なら刃を向ける事すら大罪とされる神である。そんな神を傷つける事はもっと許されることでは無い。それどころか神を殺すことなどは大罪を通り越して極罪とも言える罪だ。だが、神を殺すどころか傷つける事などは人間どころか妖怪でも出来るはずが無い。だからこそ神といわれる。

 けれどもどんな事にも例外というのが存在する。それが神魔斬滅刀である。この神魔斬滅刀はその名の通りに妖怪も神も殺す事が出来る唯一の血統家宝。そしてその力ゆえに決してその存在を許してはならない禁忌の血統家宝。

 そんな物が目の前に存在する事ですら奇跡に近い状態だというのに、墨由の血統家宝が禁忌の血統家宝である神魔斬滅刀とは音羽を驚愕させるには充分だった。

 そんな神魔斬滅刀に切り裂かれた天津甕星の身体が徐々に薄くなっていく。天津甕星は未だに斬られて苦しがっているが、その存在は少しずつ消えて行くように身体が薄くなって行く。

「まさか、墨由が神様を殺したの?」

 天津甕星の状態を見て、そんな言葉を発する音羽。けれどもすぐにナベは音羽の言葉を否定してきた。

「いや、神降ろし事態が不完全じゃったんじゃ。そのうえ神魔斬滅刀に攻撃されたんじゃから神降ろしの効果が完全に消えるんじゃろ」

「じゃあ天津甕星は?」

「神降ろしの効果が消えて天界に帰るだけじゃ。じゃから墨由が神殺しという大罪を負う事は無いじゃろうな」

「そっか」

 ナベの言葉で一安心する音羽。確かに墨由の血統家宝は決してその存在を許されない神魔斬滅刀ではあるが、墨由も好んで神魔斬滅刀をその身に宿しているわけではない。ただ偶然にも禁忌の血統家宝をその身に宿していただけである。

 だからそれだけで墨由の身に退魔士側からの処分があるとは音羽には思えなかったし、今回の事でも全面的に非は神菜にあるから、その点でも墨由に何かしらの手を打つという事は神津家としてもしないだろう。

 少なくとも音羽はそう考えており、もしかしたら当主は墨由の血統家宝が神魔斬滅刀だと言う事も知っていたのかもしれないと思うようになっていた。

 まあ、何にしても、天津甕星は天界へと帰り、神菜によって引き起こされた今回の騒動はこれで終わりを告げるだろうと音羽はほっと胸を撫で下ろすのだった。

 

 

 墨由が瞳を開けると見慣れた天井ではなく満点の星空が瞳に写った。

 ……あれっ、え〜っと? とりあえず自分が何か固い上に寝かされており、夜空を見上げている事を理解した墨由は上半身を起こす。

「あっ、墨由、気が付いた」

 するとすぐに音羽の声が聞こえてきたので、そちらの方に目を向けるとそこには音羽とナベ。そして何故か正座をして頭に大きなタンコブが出来ている神菜が瞳に写った。

「……えっと、何があったの?」

 思い掛けない光景に墨由は未だに霞が飼っている頭を揺らしながら立ち上がると音羽に尋ねる。そんな墨由の問い掛けに音羽は問い掛けで返してきた。

「墨由は何処まで覚えてる訳?」

「えっ、どこまでって?」

「そこの御堂神菜に拉致されてからの事よ」

「の〜、拉致じゃないの〜、協力してもらったの〜」

「お主は話をややこしくするから黙っておるんじゃ!」

 ナベに一喝されると神菜は涙目になり、そのままうな垂れると黙り込む。そんな神菜を確認した音羽はもう一度同じ質問をしてきたので墨由はその質問について考える。

 えっと、確か放課後に神菜さんに呼び出されて、でもそこに居なくて、帰ろうとしたら捕獲されたんだよね。その後……その後は……その後はどうしたんだろう? 結局は拉致された後の記憶が無い墨由は素直にその事を音羽に告げると、何故かナベが溜息を付いた。

「やっぱり無意識での行動じゃったか」

 えっと、なにが? ナベは墨由が無意識の内に自らの血統家宝である神魔斬滅刀を使った事を推測しており、墨由の言葉に納得が行ったかのように数度頷くとナベは音羽に向かって話し掛けた。

「ほれみい、やっぱり何も憶えておらんかったじゃろ」

「そうね、そうなると……全部説明しないといけないわね」

 説明っていったい何? 音羽とナベの会話に首を傾げる墨由。やっぱり何も憶えていない所為か、二人の言っている事がよく理解できていないようだ。それもしかたない、なんしろ墨由は無意識の内に神魔斬滅刀で天津甕星を撃退したのだから。

 それから音羽は墨由が拉致されてからの事を事細かく説明した。その説明に墨由は納得したり、驚いたりと大変だったが、最後の出来事にはやっぱり驚きを隠せなかったようだ。

 そして音羽の説明が全て終わると墨由は疲れたように溜息を付いて音羽を見た。

「ごめん、なんかまた助けてもらったみたいだね」

「別に気にしなくていいわよ、いつもの事だから」

「それにしても……」

「まったく……」

 そんな言葉を呟きながら墨由と音羽の視線は未だに正座で涙目になっている神菜へと向けられた。

「僕はあれほどナベは僕の血統家宝を狙ってないって言ったのに」

「だってなの〜、矢頭君がそこまで知ってるとは思わなかったの〜、だから守ってあげないとって思ったの〜」

 そんな神菜の言い分に音羽は思いっきり溜息を付いて見せた。

「だから墨由の血統家宝は神津家の管轄なのはあなただって知ってるでしょ。そこに勝手にしゃしゃり出て勝手な事をするからこんな目に遭うのよ」

「だってなの〜、そこの猫ちゃんは怪しすぎるの〜、疑って当然なの〜。それなのに神津家が動かないから心配になったの〜」

「まあ、ナベが怪しいって所だけには同意するわ」

「そこは否定せんかい」

 音羽の本音に突っ込みを入れるナベ。けれどもそんなナベの突っ込みは無視されて音羽は神菜との話を続ける。

「けど、こんな行動を取る前に神津家に確認を取るとか、私に現状を聞くとか事前に確認を取る手段はいくらでもあったでしょ。どうして何も確認せずに勝手な事をしたのよ。それに墨由の血統家宝の守護者は私だって事も知ってたんでしょ。なら私に確認すれば一番手っ取り早いじゃない。なんでそういう事をしなかったのよ?」

 確かに神津家と御堂家の仲は良好でお互いに情報交換をしている。それで効率良く情報を整理し、なおかつ円滑に退魔士達を動かす事が出来るからだ。だから神菜は事前にそうした情報網で神津家にナベの事を確認していれば、こんな勝手な事は起こさなかっただろう。

 それだけではない。なにしろ同じクラスに音羽という墨由の守護者が付いているのだ。神菜としては音羽に直接尋ねるという手段の方が確認するにも手っ取り早いのは確かなはずだ。

 そんな音羽の言い分に神菜は恐る恐る口を開いた。

「だってなの〜、猫ちゃんが現れてから神津家からは何も連絡が無いし、守護者の音羽ちゃんもまったく動く気は無いように見えたの〜。だからこれは職務怠慢だと思ったの〜」

「何でそこで勝手に決め付けるのよ。一言私に尋ねれば良いだけの話でしょ」

「だってなの〜、知らない人と話すのは怖いの〜。音羽ちゃんが矢頭君の守護者だって事は聞かされてたけど、やっぱり知らない人だから話すのが怖かったの〜」

「あ〜、音羽は普段からでも人を寄せ付けない空気を出してるからね」

 墨由の一言に音羽は思いっきり睨み付けてきたので墨由は素直に黙り込む事にした。確かに音羽は目尻が上がっている所為か、普段からキツイ印象を受けてしまうのは確かだ。それに自ら積極的に人と仲良くしようとはしない。

 そんな音羽でもクラスに溶け込めるのはやはり撫子がいるからこそで、撫子が放っている特有の雰囲気が音羽の印象を和らげているのだろう。けれども神菜からしてみれば二人とも知らない人には違いない。撫子でもそんな神菜の人見知りをどうにも出来なかったのだ。そんな神菜が自ら音羽に尋ねるなんて出来っこないと墨由は神菜の話を聞いて勝手に納得した。

 けれども音羽はそんな説明で納得できるはずが無く、更に神菜を追求する。

「それなら神津家に確認を取ればよかったじゃない」

 確かにそれも確認をするには一つの手段であり、神菜にとってはやり易い手段だろう。だからこそ音羽もその事を口にしたのだが、神菜からは意外な言葉が返って来た。

「それは確認したの〜、そうしたら今は確認中だって言われたの〜、妖描の事だから調査には時間が掛かるって言われたの〜」

 そんな神菜の返答に音羽は疲れたように溜息を付いた。

「それは妖描の調査なんだから時間が掛かってもしょうがないでしょ。なにしろ妖描の調査は他の妖怪よりもより一層時間が掛かるものなんだから」

 音羽に言わせればそれだけ妖描という存在がやっかいだという事だ。なにしろ自分勝手の自由気ままだ。そのうえ何を考えているのかを本気で分らない事が多い。だから味方のフリをして裏切ったりとか、そうした事例が今までに無かったわけではない。

 けれどもそういう妖描ほど何かの組織に属していたり、徒党を組んでいたりするものであり、ナベのようにまったくの野良猫がそのような事をする可能性は限りなく零だった。音羽もナベの調査にあたり、その事を突き止めるまでかなりの時間を要したものだ。

 だからこそ墨由が他の妖怪に襲われてナベに助けられるという結果となってしまった。それでも味方のフリをしている可能性があるからこそ、未だに調査中とした結果が出ておらず、その事が御堂家まで伝わっていてもおかしくは無い。だから神菜もナベの事に関しては首を突っ込む権限などまったく持っておらず、今回の事はやっぱり暴走特急の名に恥じない暴走ぶりだったのだと音羽は疲れたように肩を落とすのだった。

 それでも確認すべき事があるのか、音羽は気を取り直すと、その事を神菜に尋ねる。

「それで御堂家の当主は今回の事について何て言ってたの?」

「お父様は神津家の管轄だからうかつな事をするなって言ってたの〜」

「ならその通りにしなさいよね」

 再び疲れたかのように溜息を付く音羽。なにしろ御堂家当主、神菜にしてみれば自らの父親に当たる人物だ。そんな御堂家の当主から何もするなと言われながらも、今回の事を引き起こした神菜に嫌気を通り越してもう疲れるしかない音羽だった。

 そんな音羽を見て墨由は声を掛けてきた。

「でも、こうして無事に済んだんだし、良かったじゃない」

 そんな気楽な事を言って来た墨由を睨み付ける音羽。まあ音羽としてはかなりの迷惑をこうむっただけではなく、墨由の血統家宝にまで手を出して下手をすれば墨由の命に関わった事だ。そんな出来事が起きたというのに墨由はお気楽にそんな事をいうのである。苦労した音羽にしてみれば睨み付けたくもなるだろう。

 けれどもそんな音羽の睨みも墨由にはまったく通じていなかった。墨由も自分の言葉が音羽を怒らせたなとは分ってはいるものの、音羽の睨みに腰が怖気付くような事はまったくなく、いつものように平然としている。そこは伊達に幼馴染という長い時間を共にしてきただけあって、音羽に睨まれて悪い気はするもののすごむ事は無い墨由であった。

 そんな墨由だからこそ音羽は墨由に詰め寄る。

「墨由、この御堂神菜は墨由の血統家宝にまで手を出して、下手したら墨由の命を危険にさらすところだったのよ。少しは怒りなさいよ」

 いや、そう言われても。まあ、墨由には血統家宝が未だにどのような影響を及ぼす物なのか実感が無く、そのうえ血統家宝を使った時の記憶が無いために墨由の血統家宝である神魔斬滅刀がどれだけすごい物なのかも分りはしなかった。だからこそ墨由としても特別な感情が沸く事も無く、いつものようにお気楽な墨由だった。

 だからこそナベの時と同様にお気楽な態度を取る墨由。

「でも音羽、こうして無事に収まったんだからいいじゃない、それで」

 そんな墨由の言葉に音羽は思いっきり溜息をついた後にやっと墨由に向かって笑みを向けてきた。

「まったく、これだから墨由は」

 音羽はそれ以上は何も言わなかった。音羽としても分っていたのだろう。これ以上は墨由に何を言っても無駄だと言う事を。だからこそ音羽は思った。そんな墨由だからこそ撫子は好きなり、自分はそんな撫子を応援したのだと。

 墨由と音羽の会話が一段落したところでナベが跳び上がると墨由の眼前に着地した。どうやらナベには言いたい事があるらしい。そんなナベが一言。

「マグロ」

「へっ?」

「へっ? ではない。マグロの事を忘れておらんじゃろうな」

「あんたも拘るわね」

 未だにマグロに執着しているナベに対して音羽も笑みを浮かべたままにそんな突っ込みを入れる。そんな音羽とは正反対に墨由には何の事だかすっかり忘れていたが、ナベがマグロマグロと騒ぎ出したので、ようやく約束した事を思い出して時間を確認した。

「この時間だと……どこの店も閉まってるのよね」

「まあ、結構遅くまで掛かったからね」

 時間は既に日付が変わる数十分前だ。この時間でマグロを売っている店などはこの付近には無い。そんな事実を聞かされたナベは耳を垂らして諦めるが、決してマグロの事を諦めた訳ではなかった。

「ならば明日じゃ、明日にはマグロを買ってくるんじゃぞ!」

「はいはい、わかったよ」

 墨由はしつこくマグロと訴えてくるナベをなだめるとようやく全てが終わったかのように一時の静寂が訪れる。そんな静寂を感じた墨由は皆の方を向いて一言を放つ。

「じゃあ、帰ろうか」

 その一言でその場は解散となった。とは言ってもナベは一緒の所に音羽は近所であるから帰る方向は一緒である。だから神菜だけが、一応今回の事を反省しているのか別れ際で墨由達に一言謝ってから帰って行き、墨由達も自分達の家へと足を向けていった。