「今更ですけど……どうして私達はここに居るのでしょう?」
そんな疑問を呟いてみる瑠璃菊。まあ、そんな瑠璃菊の気持ちも分からなくもない。あの勝手な入部騒ぎの後、瑠璃菊は備前姉妹と更紗に連れられて、とあるファーストフード店に居るからだ。ちなみに、桃華の話では既に瑠璃菊は入部した事になっており、この四人が神道部の部員となっているようだ。ちなみに、言わなくても分かると思うが部長は桜華である。
そんな桜華がフライドポテトで瑠璃菊を指し示しながら、はっきりと口にする。
「瑠璃、そんなの決まってるじゃない。学校でこんな話をして、誰かに聞かれたら、どうするつもりなのよ?」
「それって、学校ではしてはいけない話をする事が前提になってますよねっ! というか、校則違反を前提としてますよねっ!」
桜華の言葉からしっかりと裏を読み切った瑠璃菊が、そんな突っ込みを連発すると、すっかり今の状況に慣れている更紗が隣から割り込んでくる。
「瑠璃、校則が絶対的に正しいと誰が言えるの? むしろ、ルールが間違っている方が多いでしょ。だから、たまにはこうした事も必要なのよ」
「更紗さん……今回だけは、やけに桜華さん達に協力的ですね」
「まあ、こっちの利益も大きいからね〜。私としても、この件に関しては私も賛成なのよ……まあ、時給も高くなるしね」
「最後だけ、ボソッっと呟いてはいけない事を呟いたように聞こえたんですけどっ!」
瑠璃がそんな突っ込みを入れていると、そろそろ話を進めたいのだろうと、桃華が手を軽く叩いて瑠璃達の話を中断させる。
「はいはい、瑠璃、そこまでにしておきなさい。このままだといつまで経っても話が進まないし、話の進行を邪魔した罰として、ここの会計を全部瑠璃に回すわよ」
「それは黙らないと全部私におごらせるという事ですか?」
「そうよ」
はっきりと断言する桃華。そんな桃華の断言に瑠璃菊は黙るしかなかった。なにしろ桃華の事だからこそ、これ以上の抵抗は絶対に有言実行してくるのは簡単に想像できる事で、決定事項なのだから。
だから瑠璃菊は諦めたように座りなおし、ジュースのストローを口に付けて吸うのだった。その間にも桃華は話を進めてきた。やはり、実質的な部分は桃華がやった方が効率が良いのだろう。なにしろ裏で動くのが桃華の適役なのだから。
瑠璃菊はそんな事を思いつつ、桃華の話しに耳を傾けるのだった。
「役立たずだけど戦力には変わりない瑠璃のために一から説明するわよ。まず、神道部の活動内容として神社での奉仕行使が認められたわ。そのため、主な活動として神社での奉仕が基本となる、分かった、瑠璃?」
一応、桃華なりに神道部の活動内容を説明した訳だが、瑠璃菊には、どうしても聞いておきたい事があったのだろう。桃華に向かって、軽く手を上げると質問する。
「神社での奉仕って、どこの神社なんですか?」
『ウチだけど』
「サラウンドではっきりと言い切ったっ!」
桜華と桃華が異口同音で答えてきたので、瑠璃菊は思わず突っ込みを入れてしまった。そんな瑠璃菊をなだめるかのように、更紗が落ち着くように瑠璃菊の肩を揉みながら話し掛けてきた。
「桜華達の家は神社を営んでるのよ。だから、私達はそこの仕事を手伝うってわけよ。まあ、最初は時給が低いけど、仕事を覚えれば時給が上がるから、頑張り甲斐があるわよ」
「えっと、更紗さん」
「どうしたの、瑠璃?」
「私達って部活をするんですよね。更紗さんの言葉だと、まるでバイトをするように聞こえ」
「それ以上の事を口にすると、上から何をされるか分からないわよ」
って、それって思いっきり脅しですよねっ!
更紗に口を塞がれているために突っ込みを言葉に出来ない瑠璃菊。そんな瑠璃菊が更紗の腕を軽く払い除けると、更紗は簡単に離してくれて、座り直してから目の前にあるハンバーガーを口にするのだった。そんな更紗を思いっきり呆れた視線で見ながら瑠璃菊は小声で話を整理するかのように喋り始める。
「つまり、こういう事ですか。私達は部活という名目で桜華さん達の神社でバイトをするという事ですか」
「まあ、そういう事ね」
瑠璃菊の言った言葉をあっさりと肯定する更紗。そんな更紗との会話に割り込んで来るかのように桜華が身を乗り出して瑠璃菊に顔を近づける。それから、やっぱり小声で話すのだった。
「大丈夫よ、瑠璃。ちゃんと部費は四人で山分けだから心配無いわよ。それに、しっかりと部費申請も水増ししておいたから、かなり儲かるわよ」
「って、それって校則違反どころか犯罪行為じゃないですか。そんな事をして大丈夫なんですか。バレたら停学どころか退学ですよ」
「何を言ってるのよ、私達がそんなミスをする訳が無いじゃない。瑠璃が密告して、私達から追われる身にならない限りは大丈夫よ」
「それはつまり、既に私も共犯に入っているという事ですか」
「だって、入部届けを出したじゃない」
「……はぁ」
もう溜息しか出ないのだろう。そもそも瑠璃菊が備前姉妹だけではなく、更紗までを相手にして対抗しようものなら数秒で瑠璃菊が潰されるのは目に見えている事だ。だからこそ、瑠璃菊は溜息しか出なかった。
そんな瑠璃菊を呼び寄せるように桃華が手招きすると、瑠璃菊は首を傾げながらも桃華に向かって身を乗り出す。そんな瑠璃菊に耳打ちをする桃華。その数秒後……。
「確かに、私、欲しい本が沢山あるんですよね〜」
『よしっ、瑠璃陥落』
どうやら桃華が瑠璃菊に誘惑の甘い言葉を言ったのだろう。瑠璃菊はすっかり桃華の甘い誘いに釣られて、甘い未来予想図を描く。そんな瑠璃菊を見て、桜華と更紗は万事順調とばかりに声を合わせて、タッチを交わすのだった。
……数分後……
すっかり元の状態に戻った瑠璃菊が桃華に尋ねる。
「そういえば桃華さん、顧問は誰になったんですか? 名目はともかく、こんな事が顧問に知れたら問題になるんじゃ」
「そこはしっかり手を打ってあるわよ。零ちゃんに『何もしなくて良いですから、顧問のところに名前とハンコをお願いします』と言ったらあっさり、顧問を引き受けてくれたわ」
うわ〜、相変わらず、やる気が無いんですね〜、私達の担任って。ちなみに、零ちゃんとは瑠璃菊達のクラスを受け持つ担任教師である霧島怜子の事だ。桃華が一番最初にやる気がゼロの怜子に向かって零ちゃんというあだ名を付けて以来、クラス中が怜子の事を零ちゃんと呼ぶようになり、今ではすっかり定着している。まあ、怜子の仕事振りを見れば、それも仕方ないと言えるだろう。更に本人に自覚や悪気が無いから余計に性質が悪いと言えるだろう。
だが、桃華はそんな怜子の性格を利用して、ちゃっかりと顧問にしてしまったのだ。もちろん桃華の事だ。本来なら部活を立ち上げるのに必要な書類も怜子が作る代わりに作ってしまったのだろう。もちろん、自分達の都合が良いように……。
まるで、その光景が目の前に浮かぶように瑠璃菊は呆れたように大きく息を吐くのだった。そんな瑠璃菊を無視するかのように、桜華は勝手な事を言い出す。
「とりあえず瑠璃の事は上に伝えてあるから大丈夫よ、準備も全部こっちでするから、特に持ってくる物は無いわよ。さて、そんな訳で、話もまとまった事だし、活動は明日からよ。そんな訳で皆、よろしく〜」
「よろしく〜って、桜華さんは随分と気楽ですね〜」
未だにこの状況に慣れていない、というよりも明らかに上からものを言っている桜華に対して瑠璃菊がそんな言葉を口にする。そうなると当然のように桜華から返ってくる言葉は決まっていた。
「何を言ってるのよ瑠璃、中学の時も同じ事をやったし、私が部長だし、神社の方でも半分以上は私が実権を握ってるのよ。つまり、ウチの神社でも私がルールなのよっ!」
「わ〜、相変わらずはっきりと言い切りましたね〜」
桜華の宣言に最早突っ込む気にもなれない瑠璃菊が適当に流すと、桃華が横から口を挟んできた。
「けど、桜姉。あまり横暴だと、またお仕置部屋行きになるわよ。だから私達をあまり巻き込まないようにしてよね」
「うっ、そ、それぐらい分ってるわよ」
桜華にしては珍しく桃華の言葉に動揺する桜華。そんな珍しい桜華の姿を見て、瑠璃菊は気なった言葉を、そのまま聞いてみる。
「その、お仕置部屋ってなんですか?」
『聞くなっ!』
桜華のみならず、桃華と更紗まで声を合わせて同じ言葉を口にする。更にそれだけではない、言葉には明らかに威圧感があり、それ以上の事を聞いてはいけないと瑠璃菊は本能で悟るのだった。そんな瑠璃菊を見て、更紗が思い出したかのように話しかけてくる。
「あっ、そうそう、瑠璃。神社の事だけど……絶対に上に逆らったらダメよ」
「あの〜、更紗さん、最後だけ、やけに声に威圧感があるんですけど」
「まあ、瑠璃なら植物人間になっても構わないから大丈夫でしょ」
「桃華さんもサラリと酷い宣言をしないでくださいっ!」
「大丈夫よ、瑠璃。そうなったら、最初の三日ぐらいはお見舞いに行ってあげるから」
「桜華さんも、それを前提にして話を進めないでくださいっ! というか、三日して来てくれないんですかっ!」
「だって、めんどくさいし」
「うわ〜、言い切った。さすが桜華さんですね〜」
もう諦めるしかないと悟ったのだろう。瑠璃は脱力した突っ込みで話を無理矢理終わらせて、残っているフライドポテトを口に運ぶと、何かに気付いたように話を切り出す。
「そういえば、さっきから上としか聞いてないんですけど。上って一体誰の事ですか?」
「そんなの決まってるじゃない」
当然とばかりに隣に居る更紗が答えてきた。しかも、フライドポテトで瑠璃菊を指し示しながら、思いっきり声に威圧感を込めて、更紗は上の人物について一言だけで語るのだった。
「桜華と桃華のお母さんよ」
「……………………へっ?」
あまりにも意外というか、当然というか、そんな答えに拍子抜けをする瑠璃菊。だが、瑠璃菊はまだ知らなかった。更紗の言葉が何を示しているのかを、そして……お仕置部屋の脅威を……。
後書き
はい、そんな訳で、気晴らしで更新してみた夏炉冬扇の第五話になりま〜す。そんな訳で、旋回の更新から……どれくらい経過したのだろう? ちょっと待って、今、確かめるから。
……作者確認中……
よしっ! 大丈夫、三ヶ月以上は経って無いから、充分に許容範囲内だよねっ! まあ、そんな訳で、久しぶりに更新してみた夏炉冬扇ですが……今回も次回に続きそうな話になってしまいましたね〜。う〜ん、やっぱり、このページ数で一話完結は難しいな。
という事で、次回の更新がいつになるかは、やっぱり分りませんが、次回はいよいよ、あの方が登場する事になります。そして……お仕置部屋の脅威とは……まあ、そっちは未だに出す予定が無いんだよね〜。
そんな訳で、久しぶりの夏炉冬扇は如何でしたでしょうか。まあ、今回は説明にページ数を使ったからな〜。そんなに毒のある場面はありませんでしたが? まあ、今回は大人しい目という事で勘弁してくださいな。その代わりに……次回は凄い人が出てきますっ! しかも……意外な人と関連性があったりして。
まあ、そんな訳で、気分次第で更新する夏炉冬扇ですが、これからもよろしくお願いしますって事で締めますね。
ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そして、これからもよろしくお願いします。更に感想もお待ちしております。
以上、次回はいよいよ、全員巫女服だっ! と巫女属性を有している者として叫んでみる葵夢幻でした。