桜が散り始めた、今日この頃の月央高校。瑠璃菊達も新たなる高校生活をスタートしたのだが、まさか、いきなり桜華がクラスの実権を握り、桜華体制のクラスを作るとは瑠璃菊にしてみれば予想も付かなかった事だ。
だから瑠璃菊はすっかり桜華達の仲間と思われてるせいだろう、クラス中から痛い視線を受ける事を覚悟していたのだが、意外な事に、ごく普通に高校生活を送る事が出来た。
確かに、このクラスでのルールは桜華だが、桜華は決して暴君染みた事はしなかった。確かに委員や係りなどは自分勝手に決めたが、その他にまつわる、つまり学級委員として面倒な事は誰かに押し付けたりはしなかった。それどころか、クラスの誰かが学校に対して不満を口にすると、それを聞き付けた桜華が学校に直談判して、実際に校則を二つほど改善させたほどだ。
そこまでされては、さすがに桜華に逆らえないとしても、桜華に不満を抱く者は居なかった。もちろん、それは生徒達の間だけであり、教師にしてみれば桜華に権力を持たせてしまったからには桜華と対立関係になっても不思議では無いのだが、短期間での桜華が行った実績によって桜華を指示する声が大きくなり、今では教師も桜華に対して下手な事は言えないようになってしまった。
もちろん、桜華の影で桃華がさまざまな陰謀と策略を攻したからこそ、桜華も短期間で実績を作って、誰からも文句を言えない存在にしたのだ。だから今では備前姉妹は生徒会長以上の権力を持っていると言っても不思議では無い。
そんな事に時々、瑠璃菊も巻き込まれるのだが、桜華の暴論と桃華の陰謀、それをフォローするかのような更紗の活躍によって、今ではすっかり平穏な高校生活へと瑠璃菊達は戻っていた。だから瑠璃菊もすっかり桜華達の行動に慣れてしまった、今日この頃であった。
そんな瑠璃菊が帰り支度をしていると、そこに満面の笑みを浮かべた桜華がやってきた。桜華達も普段は普通の女子高生とは何の変わりも無い……ように見えて、そして過ごしている。そんな桜華が笑みを浮かべてやってきたのだ、瑠璃菊も桜華も時には、はちゃめちゃな事をするが、普段は普通の女子高生と変わらないと最近になってやっと気付いたものだから、桜華が笑みを浮かべながらやってきても、まったく不思議に思わなかった。
そんな桜華が瑠璃菊の机に手を置くと話しかけてきた。
「瑠璃、瑠璃、もう部活って決めちゃった」
「部活ですか、少し迷ったんですけど、文芸部に入部しようと思ってます」
そう言いながら瑠璃菊は部活の入部用紙を桜華に見せて自分の意思を示した。
ちなみに、月央高校では必ず部活に入らないといけない。なにしろ部活には、他の高校には無い古文部とか、数学部とか、学問に関する部活が多数存在するからだ。だから月央高校では部活も勉強の一端として考えられていた。だからこそ、全員が部活に入らないといけない。もちろん、普通の高校みたいに瑠璃菊が示した文芸部や吹奏楽部、更には軽音部などの文科系はもちろん、陸上や剣道に水泳などの体育系部活などもある。つまり、月央高校は部活も多彩に渡って充実しているのだ。
だが、桜華は何か気に食わない事があるのだろう。瑠璃菊が差し出してきた入部用紙を半目で見ると、強奪、それから瑠璃菊の入部用紙をビリビリに千切って、ゴミ箱に入れてしまった。
「って! 桜華さんっ! いきなり何をするんですかっ!」
まさか、いきなりこんな事になると思ってなかった瑠璃菊は半泣きなりながらも桜華に抗議する。そして、その桜華はというと……まるで瑠璃菊を諭すように明後日の方向に目を向けながら勝手に語りだした。
「瑠璃、確かに、この学校の部活数は充実してるわ。でも、それで良いと思ってるわけ?」
いきなり語りだした桜華に瑠璃菊は溜息を付いてから返事をする。どうやら、瑠璃菊も桜華との付き合い方に慣れてきたようだ。だから、桜華に行動に口出しはせずに、まずは桜華の話を聞くことにした。そのために、桜華の質問に答えるのだった。
「良いんじゃないですか。ウチの学校は部活でも多方面に渡って活躍してるって話ですし」
「そうじゃないわよっ!」
「じゃあ、何ですか?」
「確かにウチの学校は部活で多方面に渡って活躍してるかもしれない。でもっ! その数多くの部活動が存在している中で、自分の実力を充分に発揮できる部活が存在してると言い切れる。答えは否っ! 自分自身の才能を開花させるためには、自分に適した部活に入らないといけないのよ。そこで瑠璃には、これよっ!」
「……………………えっと」
長い沈黙の後にやっと声を出す瑠璃菊。まあ、そうなっても仕方ないだろう。なにしろ桜華が差し出してきたのは入部用紙であり、そこにはしっかりと瑠璃菊の名前が書かれており、神道部と聞いた事が無い部活名が記載されていたからだ。
「桜華さん」
「どうしたのよ、瑠璃」
「……突っ込むべき場所が多すぎて、どこから突っ込んで良いのか分からないので、この紙が意味している事柄を説明してください」
「瑠璃が神道部に入部しました、以上」
「短っ! って、たったそれだけですかっ! そもそも神道部って何ですかっ! そんな部活なんて聞いた事が無いですよっ! それに私の意志はどこに行ったんですかっ! なんで勝手にワケの分からない部に入部する事になってるんですかっ!」
あまりにも短い桜華の説明に思わず突っ込みを連発する瑠璃菊。まあ、桜華の言葉だけで全てを理解しろ、という方に無理があるのは確かな事だろう。だからこそ瑠璃は連続で突っ込みを入れたのだが、そんな瑠璃の突っ込みすらも無視するほどに見当違いな言葉を口にする。
「じゃあ、巫女部にする? まあ、やる事は同じなんだけどね、名称が違うだけで。それに……瑠璃が居てくれたおかげで、こちらとしても拉致、じゃないか、勧誘する手間が省けるからね〜」
「……え〜っと、桜華さん。先程、犯罪行為に似た言葉が聞こえたんですけど。とりあえず、思いっきり突っ込んで良いですか?」
「却下、もうめんどくさいし。だから瑠璃、さっさとこれを出してきて、それから部活を始めましょう」
「いや、だから、桜華さんが何をしようとしているのかを問い質したいんですけど?」
「何って、だから部活よ」
「いや、その部活内容が、まったく分からないんですけど」
「あ〜、そこは大丈夫。しっかりとした教育係が居るから、だから仕事内容を覚えるまで、そんなに時間は掛からないと思うわよ。まあ、最初は時給安いけど、慣れれば良い稼ぎになるわよ」
桜華の言葉を聞いていた瑠璃菊は思わず笑顔のまま、というか顔が硬直しているのだろう。それだけ桜華の言葉には意味不明な部分があったのだ。だからこそ、瑠璃は桜華に問い質す。
「えっと、桜華さん。私達は部活をするんですよね」
「だから、さっきからそう言ってるじゃない。瑠璃、一度耳鼻科に行った方が良いわよ。もしかしたら、瑠璃の耳に寄生虫が生息して文明を築いてるかもしれないから」
「それは、どんな寄生虫ですか?」
「そんな事知るかっ!」
「何を逆に突っ込んでるんですかっ!」
「はいはい、二人とも、それぐらいにしておきなさい」
「更紗」
「更紗さん」
更紗の登場にすっかり漫才となっていた瑠璃菊と桜華の会話が一旦中断する。そんな更紗が瑠璃菊の目の前に置いてあった入部用紙を手にすると、記載に不備が無い事を確認すると、とんでもない事を言い出してきた。
「じゃあ、これは代わりに私が出しておくわね」
「今回は更紗さんも説明してくれないんですね〜」
そんな事を言って涙を流す瑠璃菊。そんな瑠璃菊を見て、更紗は桜華に尋ねる。
「桜華、瑠璃に説明出来る部分は説明したの? あまり公に出来ない事は口にしてないでしょうね」
「何か更紗さんまで黒く見えるんですけどっ!」
更紗の言葉に思わず突っ込んでしまう瑠璃菊。そんな瑠璃菊を見て、納得したように頷く更紗。どうやら更紗には桜華がしっかりと瑠璃菊に対して説明していない事がはっきりと分かったようだ。だからこそ、納得した表情を見せた更紗は瑠璃菊に向かって、既に決定事項である事を告げるかのように話すのだった。
「まあ、桜華の事だから瑠璃で遊ぶ事は分ってたけど、まったく説明して無いなんて思ってもなかったわ。けど、まあ良いわ」
それだけを口にすると更紗は瑠璃菊の両肩をしっかりと握り締めて、真剣な面持ちで瑠璃菊の目を見ると、はっきりと断言する。
「瑠璃、これは既に決定された事であり、また継続されてる事でもあるのよ。更に言うなら瑠璃の事は上にも伝えてある。今になって桜華や桃華から逃げられると思う。それに……上は桜華や桃華以上に凄いわよ」
「……つまり、私が桜華さん達の仲間になってしまったからには、これは逃れられない決定事項と言いたいんですか? そして、その上の人が私に対しても何かするかと、そういう事ですか?」
「まあ、そういう事ね。それが嫌なら転校するしかないわよ」
そんな更紗の言葉を聞いて瑠璃菊は溜息を付いてから、瞳を閉じて諦めたように口を開くのだった。
「まあ、今の状況にもすっかり慣れましたから、今更どうこう言うつもりはありませんけど。せめて詳しい説明と私の人権はしっかりと保障してください」
「何を言ってるのよ。瑠璃の人権は既に私の物よ、だから私がどう扱おうが私の自由でしょ」
「桜華さんも横からさらりと人権侵害を口にしないでくださいっ!」
「はいはい、そこまでにしときなさい。まあ、瑠璃、ここだと詳しい話が出来ないから場所を移しましょ。とりあえず、これを出してから、どこかのお店でお茶でもしながら話しましょうか」
そんな事を言って来た更紗に瑠璃菊は笑顔を硬直させる。そんな瑠璃菊が更紗に向けて思う。更紗さん、本当に、その入部届けは決定事項なんですね。瑠璃がそんな事をしている間に更紗は桜華からも入部用紙を受け取ると自分の分を含めて、四枚の紙が揃っている事を確かめた。どうやら残りの一枚は桃華の分だろう。その桃華は教室には居ないものの、桃華の事だから、すぐに合流するだろうと瑠璃菊は気にも留めなかった。
そんな入部用紙の束を見て、桜華は更紗に話しかける。
「ところで更紗、ここでも神道部で良いの? どうせなら巫女部とか、巫女さんに萌える部とか、巫女さんとみっこみこ部とか、そんな名前の方が良くない?」
「それは一体、どんな部活なのよ」
「まあ、そんな名前の方が捨て駒が集って楽かもしれないけどね」
「あっ、桃華、おかえり〜」
いつの間にか会話の輪に入っていた桃華に瑠璃菊は苦笑いを浮かべながらも、相変わらず神出鬼没の桃華に少しだけ驚いていた。そんな桃華に更紗は尋ねる。
「それで桃華、どうだったの?」
「大丈夫よ、後は入部用紙を出すだけにしておいた。人数はすでにクリアしてるからね、今回は楽だったよ。特徴が無い瑠璃でも人である事には変わりないからね」
「桃華さんは私を何だと思ってるんですか?」
「……聞きたいの?」
「やっぱり止めときます。だいたい想像が付くので」
桃華の言葉にそんな言葉を返す瑠璃菊。どうやら瑠璃菊もすっかり、備前姉妹に慣れてきたのだろう。だから桃華が何を言うかなんて簡単に想像が付くのだった。もっとも、姉である桜華の方がボケるのが多く、瑠璃菊としては桜華の発言ほど分からない物はなかった。
それはさて置き、話が一段落したところで、瑠璃菊は桃華に尋ねる事にした。
「そういえば桃華さん、ここのところ終わりのホームルームが終わったら、すぐにどっか行ってましたよね。今日もそうだったし、一体何をしてたんですか?」
「そんなのこれに関する事に決まってるじゃない。瑠璃、あまり思考回路に埃を溜めておくとカビが生えてくるわよ」
そう言って桃華が指差したのは更紗が持っている入部用紙だ。だからと言って、桃華が言ったように瑠璃菊の思考回路に埃が溜まっているわけではなく。それが何を意味しているのかが分からないからこそ、瑠璃菊は首を傾げる事になる。そんな瑠璃菊を見て、桜華からとんでもない言葉が飛び出した。
「まったく、瑠璃の思考回路は既に廃品回収に出されてるようね。仕方ないから簡単に説明するわよ」
「もうそれで良いですから、最初から簡単に説明してくださいよ、桜華さん」
「つまり、私達四人で……新しい部活を作るのよっ! そのために桃華にはいろいろと仕込みをしてもらってたんだから、これから私達の新しい部活が旗揚げするのよっ! 分かった、瑠璃っ!」
「…………はいっ?」
思いもがけない桜華の言葉に瑠璃菊は疑問系の返事しか出来なかった。まさか桜華達が新しい部活を作るなんて思いも寄らなかった事だ。だが、そうなると話が変わってくるのも確かだと瑠璃菊は無意識にも自覚していた。
なにしろ、あの桜華が立ち上げる部活である。絶対と言えるほど、まともな部活動では無い事は確かと言えるだろう。そんな事に当たり前のように、というか、自然に入る事が決まってしまったのである。瑠璃菊としては桜華の言葉が意味しているのに時間が掛かるのと同時に、理解した途端に、またしても何かしら、厄介な事が始まるのではないのかと溜息を付くのだった。
後書き
はい、そんな訳で夏炉冬扇の第四話をお送りしました〜。あ〜、うん、分ってるよ。短編なのに続きがありそうな展開になってるって、分ってるよ。まあ、そこら辺を説明すると……短く終わらせるつもりだったのが長くなりましたっ! 以上っ!!!
と、まあ、いつものように予定以上に長くなったわけですよ、これが。そんな訳で、一話完結にならなくなったのですよ。まあ、続きはいつものように、気が向いたら書くので、期待しないで気長にお待ちくださいな。
というか……桜華と瑠璃の漫才が長すぎたな〜。というか、二人ともすっかり仲良くなって、一緒に暴走するから、収拾を付ける方が大変になってきましたよ。まあ、良く書いているとキャラが暴走するという話は、物語を書いている方には心当たりが多いと思いますが、私の場合はそれに少しだけ拍車が掛かってるだけですよ……たぶんね。
まあ、なんにしても、ちょっとした気分転換を兼ねて書いたので、あまり細かい事には気にせず、楽しんで頂けたのならありがたいです。
というか、この夏炉冬扇も話が次々と出来上がってるんだけどね〜。さすがに書いている時間が無いと言うか、気力と集中力が持たないとか、そういう理由で置き去りになってる作品ですね。なので……続編を期待させながらも、いつになるのか、まったく予定が立っていない状態です。
……まあ、これもいつもの事だと思って許してくださいな〜。えっ、ダメ? う〜、そんな事を言う人には……ニワトリ、ウサギ、ネコ、ニワウネコンボだっ! ……って! 全部愛玩動物じゃんっ!!! 戦闘能力なんてゼロでっせ、旦那っ!!! だが愛玩動物を舐めるなっ! 受けてみろ、ニワウネコンボの威力を……必殺……思いっきり甘えるぜ攻撃っ!!!
……ぐはっ、まさか愛玩動物の天敵である子供を用意しておくとは……やるな。ふっ、完敗だぜ。最早、我に抗う術は成し、素直にこの頸を取るが良い。……えっと、そのギロチンは何? ……本当に頸を取らないで――――っ!!!
さて、戯言にも飽きたので、そろそろ締めますね。まあ、相変わらず勝手にやっている事なので、気にしないでくださいな。
ではでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。そして、これからもよろしくお願いします。更に他の作品もよろしくお願いします。
以上、さて、昼飯にするかと日常に戻ろうとしている葵夢幻でした。