「何だテメーわ!」
絢世を守るように現れた少女に相手は食って掛かる。当然だ最上級の獲物を前にしてそれを妨害されたのだから、相手の怒りのボルテージは登る一方だ。
そんな相手を無視するように、少女は薙刀を相手に差し向ける。
「伊達川菜(だてせんな)」
「ああっ」
「いくら雑魚でも一応名乗っておこうと思ってね」
あっ、なにかブチッと血管が切れるような音がした。……ってそんなこと気にしてる場合じゃない。
「あの……」
恐る恐る川菜に声を掛ける絢世。
「大丈夫、私はあんたの魔力に興味は無い。私の魔力限界値はあなたを食いきれるほど余ってない」
「はあ……」
振る向くことなく川菜に絢世は曖昧な返事を返す。
さっきから魔力、魔力ってワケが分かんないですけど。
「テメー、じゃあ何で邪魔すんだよ。あいつの魔力を食いきれねえんだろ、だったらそこをどけ!」
「嫌」
「なっ」
「確かに私はこの人の大きすぎる魔力には興味ないけど、このままあんたに食われるのもしゃくなのよね。それに結界も張らずに一般人を襲うなんて魔道士の風上にも置けない。だから今ここであなたを排除する」
「はんっ、テメー今朝のニュースを見てねえのか。世界が魔道士の存在を認めたんだ、もうこそこそ狩る必要もねえんだよ」
「ゲス」
「なんだと!」
「人の魔力を奪うことだけしか出来ないなんて、三下以下ね」
「くっ、このっ、もういい、フレイムランス行くぞ」
「流水やるよ」
「そういえば、まだ名乗り返してなかったな。俺は小糸飛住(こいとひずみ)だ」
「そう、気が向いたら覚えといてあげるわ」
「てめっ、いい加減にしろ」
飛住の怒りを表すかのようにフレイムランスが全身に炎をまとう。それに対して川菜の薙刀『流水』は水がまるで蛇が巻き付いているように水が流れている。
先に動いたのは飛住だ。
「フレイムスピア」
フレイムランスから飛び出した炎の槍は一直線に川菜へと向かっていく。だが川菜は慌てる様子も無く、流水を前に出し横に構える。
「流円斬」
流水から溢れ出た大量の水は川菜の前に円状の壁のようになり、渦を巻くようにもの凄い勢いで回転している。そして向かってきた炎の槍を一瞬にして蒸発させてしまった。
小手調べだったのだろうか飛住はそんなに慌てることなく、次の攻撃に入ろうとするが、川菜の水の壁が水平になりそのまま飛住へと向かっていく。
難なく避ける飛住だが、川菜の水はそのまま飛住を通り越してかなり後ろにある壁を切り裂き外へと飛び出していった。
……ああっ、確か水って勢いが凄いと凄い切れ味を持ってるんだっけ。
のんきな事を考えている絢世だが二人の攻防は続いている。お互いに魔術を繰り出し相手を攻撃している。
どんなゲームですか、というか俺、無視されてる。
一応川菜は絢世を守るように戦っているのだが、一般人の絢世がそんなことに気付くことなく、ただ成り行きを見守っているだけ。
だが絢世の中にある物は二人の戦いで生じる戦闘魔力に反応し始めていた。
絢世自身、まだそのことに気付いてはいない。
続く