えっと、ちょっと待て、なんだこれは?
いきなりそう思ってもしょうがない、何しろ目の前では武器を持った二人が対峙しているのだから。
(いったいどうなってるんだ───!)
そう叫びたいのだがその場の雰囲気がそれを許さず、結局心の中で叫んだ。
いったい何なんだ今日は、今朝から変な事だらけじゃないか。
そう、全ては今朝から始まった。
あれは朝飯を食っている時、味噌汁を飲みながらテレビのニュースがこんなことを告げた。「国連を始め世界各国で魔術の存在を認めました。皆さん、魔道士達バトルに巻き込まれそうになった時には速やかにお逃げください」そして俺は味噌汁を噴出した。
その後は至って普通だった。いつものように学校に行き、適当に授業を受けていた。そんな只の高校生が俺、池上絢世(いけがみあやせ)一七歳だ。
そして下校途中、絢世は一人で歩いていた。
別に友達がいない訳じゃないぞ、たまたま一人だっただけだ。
そんな時にいきなり後ろから声を掛けられた。絢世が振り向くと顔が少し青ざめ、逃げ腰になりカバンを抱きかかえる。それほど相手の人相が悪かったからだ。
「よう、兄ちゃん。いいもんもってんじゃん」
「べっ、別にお金なんてありませんよ」
絢世はビビリながらも声を絞り出した。それを聞いた相手は笑いながらも手を横に振る。
「違う違う、べつテメーのようなガキから金を取ろうと思っちゃいねよ。俺が言ってんのはテメーの中にある物だよ」
そう言って相手は絢世の胸辺りを指差した。
……そんなんでわかるか!いったい俺の中に何があるんだよ。
思っていることが顔に出たのか相手は不思議そうな顔する。そして何かを思いついたように手を打った。
「そうかテメー、まだ覚醒してねえな」
「はあっ、覚醒」
「あははっ、ラッキー。こんなでかい物が覚醒前に転がってやがった」
よほど嬉しいのか相手は笑い出した。
一体なんだよ覚醒って、俺に何が有るって言うんだよ。あーもう、ワケわかんねー。
混乱する絢世だが相手は待ってくれる様子は無い。手を大きく振りかざし思いっきり叫ぶ。
「来い、フレイムランス!」
手から炎が噴出し槍の様なもの形成する。そしてそれは本物の槍になり炎をまとっていた。
えっ、なにあれ、なんでいきなり槍が出てくるの!
「さーて、誰かが気付く前に狩っちまうか」
ヤバイ!
思う前にすでに絢世の体は動いていた。相手から遠ざかるように全力で走り出した。全力で逃げる絢世の右側に炎が走る。
思わず転んでしまう絢世、その目にはすでに槍を持ついかれた相手の姿が映し出されている。
絢世は横に転がると相手の一撃をかわし、素早く起き上がり再び逃げ出した。
何なんだ、何なんだ、さっきのアイツ、目が尋常じゃねえ。…それにさっき本気で俺を刺そうとしてた。あ〜もう、いったい何なんだよ。
その後も鬼ごっこは続き、絢世はとうとう廃ビルの中にある一室へと逃げ込んだ。
くそっ、誘い込まれたのか。
さすがにそれぐらいは分かるようだ。
「さーて、それじゃあそろそろテメーの中にある魔力を貰おうとするか」
「魔力?」
「ああ、そうさ。テメーもの凄くデケー魔力を持っているのさ。別に魔力を奪ったからって死にゃしーよ。だから、さっさと刺されろ」
無理です!
そう叫ぶ間もなく相手は絢世へと迫る。だが突然絢世を守るかのように一人の人影が割って入った。
絢世がその人を見ると歳が同じ位の女の子だった。手には薙刀を持ち、後姿だから顔は少ししか見えないが、腰以上まで伸びた髪が良く似合う、可愛い女の子だ。
そんな訳で俺はこんな状況になっている。
続く