1996年度 冬季日帰り山行 山行記

筆者 【A隊】 D・K (1年生)

2月2日

 
一人、二人の遅刻者はいたものの、なんとか無事に奥多摩湖まで着いた。

 我々は、二つの隊に分かれて行動することになっている。我が隊は、サス沢山経由の行程を歩く。登り始めると、雪、氷が姿を現し、軽アイゼンをつけることになる。一歩一歩アイゼンで雪を刺す。はじめはいいが、すぐ飽きた。足の裏の具合が悪いのだ。

 しばらく歩くと、粉雪を踏むようになり、気持ちが高揚してきた。足の先で、軽く蹴ってやると、箒で掃いたように舞った。全く自然は美しい! 気違い女のように叫びながら、辺りを駆け回りたい、そんな衝動に駆られる。

 さて、我が隊は、さして大した問題も起こらず、順調に登っていき、惣岳山の頂上に到り着く。そこで休みを取った。その休みの間、「鑾野神社」の「鑾」の文字についての会話が交わされた。どうやら、平安時代から鎌倉時代にかけての高僧親鸞の「鸞」と同じ意味だそうだ。帰りの電車に揺られながら思ったが、この言葉を学ぶという行為は、言葉に劣る我々、言葉に支配されている我々のささやかなる反抗と受容なのかもしれぬ。

 この休みを終え、10分程で御前山頂上に。どうやら、我が隊の方が先のようだ。

 景色は美しい。空を見上げても、下界で見られる、あの空を何等分かにするような忌ま忌ましい電線なる存在はない。

 20分後に、もう一つの隊は来た。午後1:00。時計の針はいつも冷徹だ。

 御前山山頂での昼食を済ませ(わたしの食料に起きた惨事には触れないでおこう)、午後2:00に出発。

 ひたすら下る。下りに下る。

 斜面が急だの云々でなく、氷の存在に気を配らなければならない。とはいえ、あまり体力を消費しないで済む。そんな調子で、2時間程下る。

 林道に入ると、文明社会の御出座しだ。(そのぬるま湯にどっぷりとつかっているので、批判する勇気も湧かない。批判する気も別にないが。)

 自動車が排気ガスを残して走り去る。朝、駅前に流れていた下界の倦怠した空気を、それが喚起させる。その自動車の後ろ姿を見送りながら思った。もう山にはいないんだ、と。そして、また、あらゆる強烈な感動がそうであるように、山で享受する感動も、ただ後には空虚を残すのみだ、と。


〔付記〕この山行では、A隊(大ブナ尾根経由)とB隊(小河内峠経由)に分かれ、御前山に集中登山を行った。



《「稜線」第18号(1996年度)所載》

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