2025年 個人山行 仙丈ヶ岳・甲斐駒ヶ岳 山行記

筆者 R・H (1年生)

8月24日(日) 〈1日目〉 晴れ

 朝、高尾駅に集合。7時の甲府行きに乗車し、甲府で乗り換えを挟みつつ、茅野へと向かう。茅野から戸台パークまでの南アルプスジオライナーに乗り込む。このバスは休日のみ運行している。戸台パークから北沢峠までは南アルプス林道バスで移動した。

 北沢峠から長衛小屋まで10分歩き、そこで手続きを済ませて、すぐにテントを設営する。15分ほどで設営を完了し、昼食を食べる。

 初日にやることはひと通り済んだので、あとは空き時間を満喫した。

 夕食は飯を2合炊き、マーボー春雨と一緒に食べた。炊飯はコッヘルへの焦げ付きなどのトラブルもなく、うまく仕上がっていた。炊飯担当は私だったが、悪くなかったと思う。

 19:00に就寝する。夜は雨が激しく降り、雷鳴もあった。あとで聞いた話によると、いくつかのテントは浸水したらしい。



8月25日(月)
〈2日目〉  晴れのち曇り

 2日目は3:00起床の予定だったが、我々はここで5:00に起床する失態を犯し、行程に2時間遅れをとることとなった。その原因は2つ。アラームをかけ忘れたこと、時間通りに起きたメンバーが他2人を起こさなかったことだ。振り返れば、自分には「誰かがなんとかしてくれるだろう」という怠惰の念があり、それが今回の失態に繋がったと思われる。

 朝食はコッペパン。5時40分、メンバーそれぞれがサブザックを背負い、登山口から木々が支配する領域へと足を踏み入れ、登山を開始する。それから大滝ノ頭までの1時間20分程度の歩行は、メンバーの1人が体調不良に悩まされたため、予定した休憩までの間に何度か立ち止まって、回復を待ちながらのものとなった。

 大滝ノ頭付近は木々の生える間隔が広い。それは森林限界が近いことを示す兆候だ、ということ先輩に教えていただいた。

 そこから10分ほど歩くと、植生は、背の高い木に代わって、ハイマツが台頭する。ちょうど仙丈ヶ岳六合目だ。ここを境に眺望は一気に様変わりする。

 我々が辿ってきた登山道の先、北東の方角を目で追うと、甲斐駒ヶ岳の岩肌の威容を望むことができ、南東の方角では北岳が自身の存在を主張している。南の方角、我々がこれから登る道の果ての空に浮かぶ1つのピークは、おそらく小仙丈ケ岳だろう。その陰に仙丈ケ岳が隠れている。

 約100万年前の地殻変動による隆起で形成された南アルプスの山々は、今もなおフィリピン海プレートの移動を受けて隆起を続ける一方、温暖多雨な気候は一帯に多くの雨を供給する。隆起と侵食、現在進行形のそのせめぎ合いにより、多くの険しい山や深い峡谷が形成されたのだ。

 となれば、我々が見ている景色は、我々が観測した時点での隆起と侵食のバランスが提出したものであり、それは一次元的な時間の進行のある一点に表れる結果なのだろう。山のそびえるさまは、一見すると確固さ、不変といった言葉を連想させる。しかし、時間の一部にあるということは、むしろ山は不確実、変化の象徴のように思えるのではないだろうか。

 小仙丈ケ岳までの道のりは、私との1年生2人にはかなりの困難として立ちはだかった。体力不足だろう。夏合宿以降はワンゲルで集まって練習する機会がなかったことが招いた問題だと思われる。

 ほんの2L入りの水でもふらつくには十分だった。最大限の努力を傾けた一歩には、いつも浮き石を踏むような危うさがつきまとった。結果として、我々の所要時間は地図に記載されたコースタイム通りとなってしまった。

 小仙丈ケ岳の山頂に着いたとほぼ同時に山頂は雲に覆われた。これ以降は景色に期待できそうにない。それでも、一瞬だけ拝むことのできた仙丈ヶ岳のカールは登頂の予感を我々に与えてくれた。ここで通常より5分長く休憩をとって、仙丈ケ岳を目指す。

 仙丈ヶ岳の山頂は、天気にこそ恵まれなかったものの、靴底越しに山頂の岩の感触を味わう時の喜びはひとしお。そう、山は景色が全てではないのだ。

 昼食は山頂から10分下り、仙丈小屋で摂った。魚肉ソーセージで作ったホットドッグを食べた。

 仙丈小屋から30分ほど歩くと馬の背ヒュッテに到着し、5回目の休憩をとった。水場があるので、ついでに水を継ぎ足す。

 馬の背ヒュッテから2分進んだ地点の藪沢重幸新道分岐から沢沿いに続く道をとり、30分ほど歩いて休憩6回目をとる。ここを最後の休憩として、戸台分岐に出て、北沢峠近道のほうを進み、長衛小屋まで歩いて、2日目の行程を終えた。

 馬の背ヒュッテから長衛小屋までの登山道はなだらかで歩きやすい道が続く。沢のせせらぎを耳にしながら、リラックスした歩行を楽しめる。

 1年生のが体力に不安があることから、15時のバスに合わせてリタイアした。先輩とともにを見送りに北沢峠まで行った。この時間帯は人が多く、待合所が混雑するため、予定を組む際には注意すること、というのを記録しておく。

 2日目の夕食は、フリーズドライのアルファ米に即席親子丼の素をのせたご飯、通称フリーズドライ丼である。使ったアルファ米の袋はそのまま生ごみ入れなどに使いまわせるため、山行のうち一食は入れておくと便利だ。

 2日目の予定を話し合い、10時のバスに乗るために本来の予定を早めて2:00起床ということに決めた。17:00に就寝する。雨は降ったが、初日ほど激しくはならなかった。



8月26日(火)
〈3日目〉 晴れ

 予定通り2:00に起床して、朝食のスープを作った。素早く準備を整え2:50に長衛小屋を出発した。既にいくつかのテントの光が、幕を通して灯篭を思わせるぼんやりした輪郭を未明の闇の中に見せていた。テン泊登山者の朝の早さには驚きを隠せない。

 ヘッドランプで視界を確保しながら進むこと30分、仙水小屋に到着した。ここで1回目の休憩をとる。仙水小屋は水場が利用可能である。クマ除けのために常に会話をするのだが、こういうときリタイアしたがいると話に花が咲くのかもしれない、と思った。普段から彼に頼っていた部分は大きい。

 仙水小屋から15分ほど歩くと、登山道は森からガレ場に出る。暗闇では目印となるケルンを辿ることが困難なため、先輩が先行してケルンを探す間、私は待機することで登山道から大きく外れないようにするという方法をとった。

 ガレ場を過ぎると再び道は森に入る。勾配は上がっているようだった。ここで休憩2回目をとる。

 5:17、駒津峰に着いた頃に空が明るみはじめた。雲一つない天気に恵まれたのは朝早い出発の恩恵だ。肝心の太陽は甲斐駒ヶ岳の山頂の陰に隠れて見えなかった。

 駒津峰から50分、途中で鞍部を通って稜線を進むと、山頂直下の登りになる。道は甲斐駒ヶ岳を形成する花崗岩が風化して細かくなった砂や小石に敷き詰められており、滑落しないよう気を付けて歩かなければならない。目印の赤い鉄板を探しながら進む。

 6:18、甲斐駒ヶ岳の山頂に到着する。時間が早いこともあり、我々以外には登山者の姿はなかった。山梨方面は雲海で埋め尽くされ、中天まで昇った陽が白く照っていた。八ヶ岳や富士山、北岳、仙丈ヶ岳などの山々が雲を突き抜けてその姿を見せていた。あらかた写真を撮ったあと、昼食に先輩はカップラーメンを、私はフリーズドライ丼を食べた。

 6:57に山頂を出発する。坂の上から球を転がすように、あとは全て順調に進んだ。途中の駒津峰と双児山で休憩をとり、地図のコースタイムを1時間半巻いて、8:58に北沢峠に到着した。到着したことを軽く喜び合いつつ、テント撤収のために長衛小屋に向かう。

 撤収完了し、再び北沢峠に戻って、バスを待った。平日は戸台から麓へのバスの運行がないため、タクシーを利用してJRバス高遠駅まで移動し、そこから伊那市駅までバスに乗った。ここで解散する。

 1年生としては、部活の山行で先輩に頼っていた弱点が表れた場面が見られる山行であったと感じた。自分の反省点を見つけることができたという意味で、この山行での経験は貴重なものとなった。また、怪我などのアクシデントに見舞われずに終えられたことは良い結果だと考える。

 また、今回の山行で、1年生を引率してくださった先輩に、ここで感謝の意を述べたい。


筆者 H・M (OB)

 毎年8月の下旬に行われるようになってきた個人山行は、1990年代後半から2000年代に行われていた「1年生山行」をアレンジしたものである。2023年に始まったもので、今回が3回目である。1回目は日向山、2回目は硫黄岳〜麦草峠、そして今回は甲斐駒ヶ岳・仙丈ヶ岳である。回を重ねるごとにステップアップをしてきたが、今回は少しハードルを上げ過ぎてしまったように感じている。

 時々、ワンゲルの夏合宿でも使う甲斐駒ヶ岳・仙丈ヶ岳であり、1年生にとっても技術的に難なく歩けるコースではあるものの、夏休み中にあまりトレーニングを積まなかったら、体力的にきついのは当然である。その辺を少し過信してしまい、今回の山行を計画してしまったのは、大きな反省点である。

 2021年入学のわれわれの代は、コロナ禍の影響で、ワンゲル部らしい夏合宿ができたのが2023年の常念山脈だけであり、定番である甲斐駒ヶ岳・仙丈ヶ岳や白馬岳には登れなかった代であった。だからこそ、今回、甲斐駒ヶ岳・仙丈ヶ岳には強い思い入れがあった。

 個人的なことになるが、昨年、甲斐駒ヶ岳を黒戸尾根からチャレンジして、リタイヤしてしまった経験があるので、なんとしても登りたいという想いが強くなった。そんな背景を持ちつつ、今回の個人山行を迎えることになった。

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 初日はほとんど歩くことなくベースキャンプ地に到着し、まったりした時間を過ごした。

 夕飯には、1年生が炊飯と食事を行ってくれた。問題なくでき、いいスタートを切ることができた。しかし、夜は大気の状態が不安定で、雷鳴が鳴り響き、稲妻が光るたびにテントが明るくなるのが怖かった。

 2日目は、よく眠れなかったこともあり、遅めの出発であった。

 甲斐駒で日の出を見たかったため、今日は仙丈ヶ岳に登ることに変更し、5時半に登り始めた。森林限界までは比較的なだらかな山体であるものの、結構つらく、南アルプスの厳しさを味わった。その後、森林限界を超えるとものすごくテンションが上がり、ご褒美をもらった子供のようにはしゃいでしまった。そして、山頂に着き、ガスがかかりながらもなんとか景色も見ることができ、下山した。

 下りは、トップをに任せたこともあり、ハイペースで下っていき、沢の石がゴロゴロした下りで、ついていくのに苦労した。
 その後、が下山することになり、装備を分担するなどし、15時に北沢峠まで彼を見送り、16時に夕飯を食べ、17時に就寝した。

 3日目は、前日早く寝たため2時に起床し、3時にはテント場を出発した。クマが出ないか不安になりながらも、ヘッドランプを頼りに足を進めていく。4時過ぎには仙水峠につき、かすかに空が明るくなり、希望が見えたため、駒津峰までペースよく登っていく。甲斐駒山頂手前は直登を避け、迂回路で登った。最後は砂地を気力で登り切り、6時過ぎに山頂についた。

 山頂からは昨日は見えなかった富士山や赤岳、北岳、荒川三山も見られ、最高であった。また、カップラーメンを食べたのが格別であった。

 下りに関しては、昨日同様にとんでもないハイペースで下り、山頂を7時に山頂を出発したのに、9時前には北沢峠に着くことができた。

 テント場に張ったテントを撤収し、10時のバスで下山した。戸台パークから平日にはバスがないようで、タクシーを使って伊那市駅まで向かい、そして帰宅した。

 今回の山行は悲願であり、登れたのはよかったが、判断などに迷うこともあり、難しい山行でもあり、同級生のOBがいてほしい山行でもあったと思う。





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