2023年 個人山行・雲取山 山行記

筆者 Y・E (3年生)

7月13日(木) 曇り時々雨

 奥多摩駅に近づくにつれ、次第に雨が強くなっていった。私は、1日目が雨であることを覚悟して、電車の中で雨具を着た。全員がほぼ同着で、集合場所に到着した。全員が同じ電車に乗っていたようだ。

 各々でトイレを済ませた後、バスに乗り込んだ。この時、雨具を着ていたのは私だけだったので、バス中で脱いだ方がよいかと思案していた。しかし、強くなる雨足を見て、全員が雨具を着ることとなった。私の勝利だ。初めは座れなかった部員も、途中から座ることができ、落ち着いて雨具を着られているようだった。

 バスを降りると、強くはないが小雨とは言えないくらいの雨が降っていた。準備体操を済ませ、いよいよ歩行開始する。とはいっても、最初は車道歩きが続いた。幸いなことに、この間に雨はほとんど止んだ。

 登山道に入る手前で遂に雨は完全に止んだので、ここで全員、雨具を脱ぐことになった。山の天気は変わりやすいと痛感する。またいつ雨が降り出すか分からないので、部員の中には、上だけ脱いで、下は脱がない者もいた。いつ雨が降り出すか分からない不安はあったものの、雲のおかげで日差しはなく、それほど気温が上がらなかったので、快適に登山することができた。

 今回の個人山行では、一つ、部活の山行と違う点があった。それは荷物の重さの差である。私やMは、メインザックできたのに対して、ほかの部員はサブザックで来ていた。特に、5月、6月の山行に参加できていない私は、トレーニングも兼ねて、2食分の食料など、テント泊並みの荷物を背負っていた。この差が私を苦しめた。軽めの荷物を背負う部員たちのペースに重い荷物を背負ってついていくのになかなか苦労した。それでも、先頭に声をかけて少しペースを落としてもらったりしながら、何とか七ツ石小屋に到着。

 昼食は流水麺だ。これがなかなか便利で、冷蔵の麺にタレをかければそのまま食べることができる。普通に作る冷やし中華と比べても遜色ない味でおいしい。唯一の欠点は、全員分の生麺を持っていくのが少々重いことくらいである。流水麺に錦糸卵とハム1枚を乗せた私たちの昼食は、山の上の昼食としては、豪勢で良かった。

 しかし、この私たちの幸せな昼食を邪魔する集団があった。小虫の群れである。私たちの汗に誘われて、私たちの周りをブンブンと羽音を立てて飛ぶ。Nが虫よけを取り出した。パッケージには中国語がびっしりと書かれている。聞けば、中国で買った虫よけらしい。……怪しい。中国製と聞くだけでなぜこんなに怪しく感じるのだろうなどと談笑して、煩わしい小虫から気を紛らせながら昼食を終えた。結局、虫よけを使ったNの周りにも小虫がたかっていた。山の虫が逞しいのか、中国製が悪いのかは定かではない。とりあえず、次の山行では私も虫よけを持って行ってみようと思った。日本製を。

 個人的に、この昼食の最中に1つ大きな選択を迫られていた。この後の雲取山に行くか否かということである。他の部員と比べた時の私の体力消耗具合から言えば、雲取山まで往復4時間の道のりを私だけリタイアして、七ツ石小屋で待機するというのも十分に考えられる選択肢だった。しかし結論から言えば、私は雲取山に行くことを決めた。昼食で流水麺と自分の水半分を使ったこと、夕食の肉を小屋に置いていくことができたことのお陰で、私の荷物がずいぶん軽くなったからだ。

 この決断は間違っていなかった。登山口から七ツ石小屋までの道のりに比べれば、かなり楽に雲取山に登ることができた。ランナーズハイ的なあれが機能したのだろう。ここで、私が1日目の夕方、小屋の中でこの山頂の景色について書いた山行記の草案を挿入したい。1日目を無事に終えた達成感で、何というか、かなり己惚れた感じの文章になっているが、私の山頂でのテンションが分かる資料としてご容赦いただきたい。

 「山頂に聳える碑に刻まれた「東京都最高峰」の文字に心躍る。そう、私たちは今、東京の人間の誰よりも高いところに立っているのである。課題や成績に追われる私たちの陰鬱な日常の遥か上空に私たちは立っている。爽快だ。私がどんなに大きな失敗をしても、この山の上からの景色は変わらない。数日前(試験期間)まで私を支配していた不安や焦りは全てちっぽけなものだと思い知らされる。」

 再び七ツ石小屋に戻った後は、夕飯のプルコギの支度をする。あらかじめタレに付け込んだ肉に火を通せば完成だ。少し味が薄かったが、飯が会心の出来だったのでおいしく食べられた。

 夕飯が終わって反省会を済まて7時半に就寝した。物音の度に起きてしまうような浅い眠りではあったが、疲れはとることができた。



7月14日(木) 曇り時々雨


 2日目。皆、予定通り3時半に起床し、朝食の棒ラーメンを食べる。全員がてきぱきと行動して、4:45に小屋を出発した。小屋泊でテントをたたむ必要がなかったのもあるが、素早く出発できたことは良かった。

 2日目の行程は、下り中心の縦走で、そこまで大変なものではなかい。しかし、今までにないくらい小虫が煩わしい。1人が数十匹の虫にまとわりつかれる。ある程度は、山の中だからと看過できるが、耳元で飛び回られるのは不快で仕方がない。休憩で立ち止まると、さらに虫が群がってくるので、素直に休憩を喜ぶこともできなかった。結局、縦走路を歩いている間は小虫に悩まされ続けた。

 少し登り返して、鷹ノ巣山に到着した。山頂だけ緑がなくなり、岩や土がむき出しになっていて、前日の雲取山よりも雰囲気があり、眺望も良好だった。前々から鷹ノ巣山という名前の重厚感に憧れがあったが、期待通りの眺望でよかった。

 鷹ノ巣山を過ぎてからもいくつかピークはあったが、六ツ石山以外は全て巻き道を選択して歩いた。試験直後の2日間にわたる山行で皆に疲れが見えていたこと、11:32奥多摩駅発の電車に間に合わせるために急いでいたことが要因だ。

 標高が下がってくると、登山道はジメジメしてきて、滑りやすく歩きにくい。しかし、それ以上にきつかったのは、林道に出てからだった。コンクリの硬い地面を歩くと、疲労がたまった足に激痛が走る。登山道を下る時、少々乱暴に下りすぎたことを後悔し、反省する。それでも何とか足を動かし、奥多摩駅に到着した。結局、昼休憩をとるまでもなく、山行を終わらせることができた。

 今回の山行で、皆と同じように雲取山まで歩けたことは、夏合宿に向けて、自信になった。入部した頃には、やれるかどうかも分からなかった長丁場の山行が、あと2週間まで迫っている。不安も多いが、3年間の部活動の集大成だ。雲取山よりずっと高い頂上に辿り着き、未来の自分に誇りたい。そんな決意を固めることができた山行だった。


《「稜線」第44号(2023年度)所載》


   
雲取山山頂 (遠景右は飛龍山)  
 
   
     
 七ツ石山山頂   鷹ノ巣山山頂 



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