2023年 個人山行・燧ヶ岳 山行記

筆者 K・S (3年生)

6月18日(日) 晴れ

 今回は、山行前夜の23:30集合であった。普段あまり見ることのない終電を眺めながら時間を潰した後、北千住0:00発の「尾瀬夜行」に乗り込み、会話を楽しむ間もなく就寝。兼ねてより行きたかった燧ヶ岳に行けるという興奮もあってなかなか寝付けなかったが、空調が効いた車内は快適であり、疲労が残ることはなかった。

 3:50に会津高原尾瀬口駅で列車を降り、バスに乗り込む。明るみ出した空と車窓から見える山容に期待を膨らませつつ2時間程バスに揺られ、5:40に御池ロッジに到着。ここで朝食とトイレを済ませ、燧ヶ岳に向けて歩行を始めた。
少し肌寒かったが、登っていれば暑くなると思い、アウターは着用せずに歩いていった。この日は梅雨の時期とは思えないほどの好天であり、絶好の登山日和であった。日頃の行いの良さが出た結果だろうか。

 少し木道を歩いた後、岩場混じりの急な登山道を登っていく。雪解けと梅雨の長雨のためか、道には水がちょろちょろと流れていた。実際には行ったことがないので分からないが、気分としては沢を遡っているかのような新鮮な登り出しであった。所々で深いぬかるみに驚きつつも、普段行く奥多摩や丹沢などでは味わったことのない雰囲気の山歩きを楽しんだ。

 しばらく登っていくと一気に平らになり、広沢田代に到着した。ここで第1回休憩を取った。ここではじめて帽子を被り、登りでかいた汗を拭うためにタオルを取り出した。野鳥の鳴き声と快適な気温も相まって、木道と湿原の尾瀬らしい光景はとても美しく映った。7時5分に休憩を終え、歩行を再開。木道の脇に僅かに残る水芭蕉に尾瀬を感じながら歩を進める。4合目、5合目と登ってゆき、振り返ると先程の広沢田代が一望できた。

 7時44分、熊沢田代を通過。ここに来て漸く俎嵓が姿を現し、登頂に向けて気合いを入れ直した。西方を見ると沼の向こうに雪を纏った山々が見え、とあの山はなんだろうかと話しながら歩いていった。木道が終わってしばらく進んだ辺りで休憩を済ませ、歩行再開。

 6合目を過ぎると、登山道は雪渓へと突入した。最初はチェーンスパイクを付けなくても歩けるのではないかとも思ったが、雪上を歩いた経験があまりないため、結局、装着することにした。最初こそ手間取ったものの、直ぐにコツを摑み、順調に登って行った。雪渓と高度のおかげで日差しの割に涼しく、汗っかきな私にしては珍しく一度も眼鏡に汗が垂れることはなかった。東京近辺の山ではそうもいかないことはわかっていても、普段の山行もこのくらい快適であれば良いのになどと思わずにはいられなかった。

雪渓を抜け、荒れ気味の山腹をトラバースして、俎嵓を目指す。雪渓を抜ければすぐ着くものだと思っていたため、俎嵓直下の登りは意外と堪えた。

 9時6分に俎嵓に到着し、少し早いがここで昼食を摂ることにした。昼食はカップ麺であった。やはり山でのカップ麺は何度味わっても特別美味しく感じられる。俎嵓はゴツゴツした岩にハイマツという、如何にも高山といった風貌であり、燧ヶ岳山頂(柴安嵓)が見渡せた。

 昼食を終え、記念撮影をすませて9時45分出発。 山頂(柴安嵓)まではかなり急に見えたが、20分ほどで到着。途中、雪が残っている箇所があったが、俎嵓直下の雪上歩行のおかげで特に苦戦することなく登ることが出来た。今回は個人山行であった上、せっかくの百名山を素通りするのは勿体ないということで、15分ほど景色を楽しむことにした。山頂は森林限界を超えており、視界を遮るものもなく、涼やかな風が心地よかった。山頂からは尾瀬ヶ原や尾瀬沼、俎嵓、至仏山などの美しい尾瀬の景色を一望出来た。また、まだまだ雪を纏っている越後山脈の山々や去年の夏合宿で行った日光白根山や男体山なども見渡すことができ、今までで一番の圧巻の眺望であった。流石は東北最高峰の百名山といったところか。

 10時17分に山頂(柴安嵓)を出発し、来た道を俎嵓まで戻ったのだが、この下りが問題であった。登りは大したことはなかったのだが、傾斜のきつい下りの雪道には、私だけでなくも苦戦していた。山頂直下は雪の残っている距離が短く、親切な登山者の助言もあったので良かったが、予定では俎嵓からは更に長い雪渓を下ることになる。このことに不安を覚え、ペースもかなり遅くなってしまうことが予想されたため、安全策を採って、長英新道を下るコースにルートを変更した。長英新道は比較的なだらかで歩きやすく、順調に下っていけた。

 11時1分にはミノブチ岳を通過。振り返ると燧ヶ岳が見え、多少の名残惜しさを感じながらも、目の前の道に気持ちを切り替えて下山する。こちら側の斜面には、点在する白い枯れ木と低い笹薮の、まるで別の場所に来たかのような気持ちにさせる不思議な景色が広がっていた。高度が下がっていくにつれ、背の高い針葉樹が増えてゆき、下ってきた実感が湧いてくる。

 11時11分、尾瀬沼の見える少し開けた場所で休憩を取った。ここまでくると会話のネタも尽き、静けさの中に野鳥の声や植物が風にそよぐ音だけが響くようになった。山は誰かとワイワイ登るのも良し、静かな山歩きを楽しむも良し。そんなことが頭に浮かび、山の良さを再確認することが出来た。

 しばらく下っていくと、眺望の悪い樹林帯に入った。傾斜の緩いぬかるんだ道が延々と続いたが、それでも苔の綺麗な場所や如何にも森林といった雰囲気が心地よかったおかげで飽きることはなかった。

 12時48分に沼尻方面との分岐に差し掛かり、久しぶりに現れた木道に再びテンションが上昇した。鹿よけの柵を通り、木道を進んでいく。鹿の食害の影響は意外と深刻なのだなと思いつつ通過する。噂によく聞く三本杉を横目に見ながら、尾瀬沼ビジターセンターに向かう。ただ、湿原を出た安心感から気が緩み、ペースがだいぶ落ちてしまったのは反省点である。

 13時9分に尾瀬沼ビジターセンターに到着し、休憩がてらに中の展示を観覧した。尾瀬の成り立ちや四季折々の尾瀬の風景、観察できる動植物の紹介など、様々な展示があった。中でも熊や鹿の毛皮の展示はとても新鮮であった。

 休憩を終えると、気を取り直して木道を再び進んだ。最後に尾瀬の風景を目に焼き付け、沼山峠を越えた後、14時15分に沼山峠休憩所に到着した。ここで尾瀬の余韻に浸りながら余った行動食を食べ、15時50分のバスが来るまで時間を潰した。

 バスに乗り込み、行きと同じく2時間程バスに揺られ、会津高原尾瀬口駅に到着。ここで特急列車に乗り換えた。そこからは北千住まで乗り換えもなく、前日あまり眠れなかったためか、列車に乗って間もなく眠りに落ちてしまった。そして北千住駅で解散し、各々の家路に就いた。

 今回の山行は夜行列車を使う珍しい行程であったため、しっかり歩けるのか不安ではあったが、参加者は二人とも3年生であったため、問題なく歩き通せた。しかし、個人山行であり、急がずに歩行していたとはいえ、やはり慣れないぬかるみではペースが落ちてしまった。6月山行でも問題になったとおり、下りのペースの遅さは改善しなければならないと感じた。

 これからは、試験明けから7月山行、夏合宿と続き、すぐに引退の時期が来てしまう。3年間のワンゲルの活動の集大成として悔いのない夏合宿に出来るよう、時間を無駄にせず、これからもトレーニングに励んでいきたいと思う。


《「稜線」第44号(2023年度)所載》



▲2023年度の山行一覧に戻る▲

■ワンゲル・トップページに戻る■