2022年 夏合宿 山行記

筆者 T・M (3年生)

 ワンゲルの今のメンバーは、これまで泊まりの山行を経験したことがなかった。一度もだ。理由は言うまでもなく、新型コロナウイルスの感染拡大である。6月下旬でも感染が広がっていることを考慮して、今回の山行はテント泊ではなく、宿に泊まる形で実施されることとなった。
 合宿に参加することになった部員たちは、泊まりの山行に対する不安と興奮を抱きながら、この山行に挑むこととなった。

7月27日 (水) 曇り

 今回は東武日光駅に9時30分に集合することになっていた。理由は、特急日光1号が9時27分に東武日光駅に到着するからである。駅に集合するとなると、毎回1名ほど遅刻する者が出てくるが、合宿で気合いが入っているということもあってか、来るべきメンバーは誰一人として遅刻をしなかった。乗る予定のバスまで時間があったので、ここでCLが持ってきた全員分の昼食を配った。

 9時45分に湯元行きのバスに乗車する。我々以外に乗る人はほとんどいなかったので、我々は全員、席に着くことができた。バスの中では各々が外の景色に見とれていた。途中でカーブが続くいろは坂に入った。誰かバス酔いをするのではないかと心配したが、駅に着いた段階で酔い止めを飲むように指示していたこともあり、誰一人として体調に異常は見られなかった。

 赤沼に着いたところで使用する車をレンタルしていた先生と合流した。小広いスペースがあったので、各々持ってきた軽食を出し、昼食の時間にした。その後、そこで準備体操とお手洗いを済ませて、隊列を組んだ。いよいよ歩行の開始である。我々の気分も高まっていた。そして、11時20分に我々は赤沼を出発した。

 道はひたすら平坦だった。しかし、慣れないメインザックの中に大量の荷物を入れていたので私は肩を痛めてしまった。後で先生に言われて、肩を痛めた原因は私がザックを自分に合うように調節していなかったことが原因だと知った。

 休憩を一度は挟みながら、平坦な道をひたすら歩いていると、12時40分に湯滝についた。この滝は私が今まで見た中で一番勢いのある滝だと感じた。ここで記念に全員の集合写真をとった。だが、険しい道のりはここからであった。私たちは重い荷物を背負いながら、湯滝の横の急な階段をひたすら登っていった。階段を登り終わると、12時58分に湯ノ湖についた。ここからは再び平坦な道であった。湖を横目に歩くのはとても気持ちがよかった。

 13時26分に湯ノ湖ビジターセンター無料休憩所に着いた。もう宿舎は目の前だ。先生方がチェックインの処理を済ませている間に、我々は休憩所で休息をとっていた。着いて数分もしない間に雨が降り出した。雨が降る前に休憩所に着いて本当によかったと思う。先生方が戻ってきたので、レンタカーで宿舎の湯守釜屋に向かった。

 14時に宿舎に到着した。私はここ2、3年、プライベートでも宿に泊まるという経験をしていなかったので、とても感動した。着いてからは自由時間で各々温泉に入るなどした。

 17時から、ミーティングを行った。そこでは歩いた道のり、そして明日の道のりを確認した。いよいよ本格的に山に登り始めるのだという実感が湧いてきた。

 18時に宿の夕食を食べた。メインメニューは鍋料理であった。使用されていたのは山の野菜であろう。鍋の汁が染み込んでとても美味しかった。

 明日は3時起床する必要があったので、19時消灯として各自就寝した。私はこんなに早く就寝するのは小学生以来で、眠れるか不安だったが、思ったよりも早く眠れた。



7月28日 (木) 晴れ時々雨

 3時に起床。起きてからすぐに宿の集合場所に集まり、朝食をとった。朝食は食パン2枚だ。各自、パンの上にツナマヨやコーンマヨ、チョコレートソースなどをかけて食べた。6枚切り2枚は少々、朝ご飯としては多かったようである。皆、食べるのに苦戦している様子が見受けられた。ただ、全員残さず食べきった。

 4時に準備を済ませて集合。二組に別れてレンタカーに乗り、金精峠駐車場に向かった。第一陣は4時05分に宿を出発し、第二陣は先生の運転する戻ってきたレンタカーに乗り、4時33分に出発した。

 4時50分に体操などを済ませて歩行開始。とても急な道であった。しかし、練習をきちんと行い、日帰りの山行とはいえ、回数をこなしてきたメンバーだからであろう、難なく登り、5時19分に金精峠に到着した。ここからの眺めは湯ノ湖が見えて、気持ちの良いものであった。ここでは休憩を取らずに、次の目的地である五色山に向かった。

 6時04分に開けた場所に着いたので第1回休憩をとる。74分も歩いたこともあり、ここでは20分の長めの休憩をとった。

 6時25分に出発。五色山に至るまでの行程では草が生い茂っている道を通る必要があり、前日に雨が降っていたこともあってか、皆、服がかなり濡れていた。

 7時14分、五色山山頂に到着。五色沼が見えて景色が綺麗だったので私は写真を撮った。五色山山頂から、白根山に続く道、そして白根山の頂上が見えた。そこで私は少し絶望した。今までに見たことがないほど急な尾根が見えたからである。地図を見てある程度予想してたとはいえ、実際の尾根ははるかに私の想像を上回るほどの傾斜であった。

 ただ、私はやる気が出てきた。これを登れば友達や家族に自慢できるのではないかと。そんなことを考えながら、五色山山頂に着いた時から始まっていた第2回休憩が終了した。

 7時30分に出発。7時47分に五色沼に着いたので私は一枚写真を撮った。やはり、上から取る五色沼の写真と、近くで撮る写真はまた違った良さがある。

 8時16分に避難小屋への分岐に到着。いよいよ、あの尾根を登る時がきた。第3回休憩をとる。覚悟を決めて私は携行食を口にした。

 8時27分に出発。急な傾斜を足を止めることなく登っていく。地面の色が灰色から黒色に変わっていく。足を踏みしめながら周りを見てみると、もうすでに木が生えていなかった。森林限界である。先生方も森林限界を見るのは久しぶりだとおっしゃっていた。

 8時56分にCLの判断で水を飲むだけの小休憩を設ける。9時に出発。途中で岩場に差し掛かり、先の道が見えないことが続いた。もうすぐ頂上だと思うたびにまだ道があるということが続き、心が折れそうになったが、その度に集中して気持ちを切り替えていった。

 9時30分にとうとう白根山山頂に着いた。ただ、頂上はスペースが狭く、危険だったので、まずは3年生だけで記念撮影を行ったのち、その後、2年生だけでも記念撮影を行った。頂上から少し下りたところで休憩をとり、昼食を作り始めた。

 作り始めたと言っても、昼食はアルファ米なのでお湯を沸かすだけなのだが。ただ、ここで少しアクシデントが起きる。私たちはガスを2つ持ってきたのだが、片方のガスが点火しなかった。仕方なかったので1つのガスと1つの鍋だけでお湯を沸かした。その際に必要な水の分量を誤り、何度も継ぎ足して湯を沸かすことになってしまった。気圧の関係で湯がいつもより沸騰しやすかったのが救いであった。ただ、それでも40分で済ませる予定の休憩が60分もかかってしまった。

 10時28分に出発。前白根山を目指した。この行程でも急な傾斜があったが、白根山の尾根での経験がすぐに活きたのだろうか、皆、難なく登っていき、12時02分に前白根山頂に到着した。ここで霧が出てきたので、景色はほとんど何も見えなかった。

 特に休憩も取らず、そのまま出発。天狗平に向かっていたところ、雨が降り出して霧も濃くなっていった。ここで全員が雨具を着用して、ザックカバーをザックにかけ、再び出発した。途中で濃霧ゆえ、CLが道を間違えそうになったが、後続のメンバーたちがすかさずフォローした。先生曰く、森林限界で、かつ、霧が濃い時にはよく道を間違えてしまうのだそう。

 12時25分に天狗平に到着して休憩をとる。宿舎まではもうすぐであったが、地図をみると「急坂続き、足場も良くないガレた道」との記述があったので、私たちは気を一層引き締めた。

 12時32分に出発。いよいよ雨が激しくなってきた。そこからはひたすら急な坂を下っていった。地図にもあった通り、あまり足場の良い道とはいえなかった。雨で滑らないように気をつけながら慎重に下っていった。

 14時25分に下山が終了した。間違いなく今までで一番辛い下りの道であった。かかった時間を見てみると、コースタイムの1.5倍であった。これだけでどれだけ私たちが苦戦したかがわかる。先生方も、この雨では仕方のないことだとおっしゃっていた。

 約2時間もの間、雨が降っていたので休憩を取らなかった反動がきたのだろうか、14時25分からとり始めた休憩では幸せそうな顔をしている部員が多く見られた。

 14時35分に出発。ここまでくると、宿舎までは傾斜の緩い道を下るだけで良い、雨ももうやんだから楽である。そう思ったが、道は石をひたすら敷き詰めたようなものだったので、下りで消耗した脚にダメージを加えた。途中で見られた鹿の群れだけが癒しだった。

 15時07分に宿舎に到着。ここで今日の行動は終了とした。各自、靴をホースを使用して洗い、宿に入っていった。危ない道のりだったが、怪我人が出なくて良かったと思う。

 17時に昨日と同様にミーティングをした。そこで、明日のコースの変更について話し合った。というのも、この日の山行は予定よりも1時間ほど長く歩き、部員たちの脚に負担がかかっていることから、翌日の山行は軽いものにしたほうが良いと判断したためである。

 18時に、夕食を食べた。この日のメインメニューはすき焼きだった。肉はとても柔らかく、とろけるような最高の品で、山行の疲れを忘れてしまうほどであった。夕食の量はとても多く、私はとても満足した。

 明日の山行のルートが短くなったこともあり、消灯時間を20時に設定して各自就寝した。この日、私は溶けるように寝た。



7月29日 (金) 晴れ

 4時に起床。この朝も起きてからすぐに宿の集合場所に集まり、朝食をとった。朝食は食パン0.75枚だ。どうやら食パンの必要な枚数の計算を誤っていたらしい。朝食を食べるべき人物は8名存在するのに、食パンが6枚しかなかったのである。仕方がないので多めに買っておいたクラッカーを1人につき3枚配って補った。

 5時に準備を済ませて集合。5時04分に体操などを済ませ、涸沼の先の休憩場所を目指して歩行開始。とても緩やかな道であった。初めの方はひたすら道を登っていった。前日の行動に比べればなんて楽な道なのだろうと感じた。ただ、道は楽であったが、ペースは決して楽とはいえず、とても速かった。

 5時39分に小峠に到着。コースタイムは50分のところを35分で登っているので、どれだけペースが速かったかがわかる。小峠からは階段をひたすら下っていき、途中でチンダル現象を観測することもできて感動した。

 6時04分に刈込湖に到着し、第1回休憩をとる。刈込湖はとても壮大でパノラマ写真を取ろうとしたが、私の携帯電話のパノラマ写真の機能が壊れていてがっかりした。しかし、普通の写真は撮れたのでとても満足した。

 6時14分に出発。ここからはただ緩やかな道を刈込湖と切込湖を横目に進んでいき、6時58分に涸沼の先の休憩場所に到着し、第2回休憩を開始した。広いスペースで日差しを浴びることができて気持ちが良かった。

 7時09分に出発。折り返しだ。再び緩やかな道を刈込湖と切込湖を横目に進んでいき、7時45分に刈込湖に到着。CLの判断で休憩を取らず、小峠を目指すことにした。ただ、小峠までの道はひたすら階段を登っていく道でかなり辛かった。

 8時08分に小峠に到着し、第3回休憩を開始。コースタイムよりかなり早い時間についていることを皆で話し、自分達の成長を実感した。

 8時18分に出発。ラストスパートということもあり、部員たちに気合いが入ったのを感じた。

 そして8時48分に宿舎に到着。2日目と同様に各自、靴を洗い、宿に入っていった。

 9時15分に再び集合し、昼食を作り始める。昼食は2日目と同様にアルファ米である。前日の行動では昼食を時間通りに作れなかったことを反省し、30分という時間制限を設けた。結果は大成功。25分で片付けまで完璧に終わらせることに成功した。

 その後は各自、自由に時間を過ごし、17時に全員で集まってミーティングを開始。流れは基本的に1日目と同じく、今日の反省と翌日の道のりの確認をした。明日の男体山は朝の6時から開山するので、消灯時間は20時に設定した。

 18時に夕食を食べた。メニューは1日目と全く同じであった。宿舎の料理を食べることができるのも最後なのだと、私は一口一口噛み締めながら食べた。

 そして、20時に二日目と同じく溶けるように私は就寝した。



7月30日 (土) 晴れ時々雨

 いよいよ合宿も最後の日を迎えた。4時に起床。最後の朝も起きてからすぐに宿の集合場所に集まり、朝食をとった。朝食はクラッカー15枚だ。クラッカーといっても大量に食べると満腹になるのだと知った。

 5時に集合して出発。レンタカーに乗り、5時23分に二荒山神社の駐車場に到着した。6時の開山までに時間があるので、各自、お手洗いや体操を済ませる。すると予想に反して5時50分に開山した。会計の私が全員分の入山料を受け取り、巫女さんに渡す。その代わりにお守りを受け取った。

 5時59分に鳥居を通って登山を開始する。まず待ち受けていたのは長い階段であった。階段を登り終えた後、少しくらいは下りや平坦な道があると思いきや全くなく、ひたすら山道を登り、6時27分に男体山の三合目までたどり着いた。

 休憩も取らず、ここからの舗装路をひたすら歩いた。舗装路は傾斜が緩やかだったのでとても楽に感じた。6時48分に四合目に到着し、休憩を取る。コースタイムが80分のところを49分で登ってきたというのだから驚きだ。

 6時58分に出発。四合目までよりさらに急な道を登っていく。途中で岩場に差し掛かったので皆、軍手を装着して登っていく。岩場の開けたところから見える湖の景色は最高だった。

 7時50分に七合目に到着し、第2回休憩を取る。休憩をしていると、黄色の服をきたトレランをしている方に少し遠い岩場の上から話しかけられる。

 「大学生ですか?」
 誰かがこう返す。「高校生です。」
 すると彼は驚いたように「元気ですね! 頑張ってください!」

 彼は凄まじいスピードで通り過ぎていった。まさか我々が彼と何度もすれ違うとはこの時は思いもしなかった。

 8時に出発。男体山の山頂を目指す。岩場を抜けると整備されていない道を登った。元々は階段があったように思えたのだが、きっと雨で流されたのだろう。入山料を払っているのだから、もう少し整備をしてほしい。そんなことを思いながら、急な道を登っていく。

 8時40分に九合目に到着。この辺りから地面が赤褐色になり、森林限界を超える。同時に、私の脚もそろそろ限界を迎えそうだ、そのように考えながら頂上を目指してラストスパートをかける。

 8時54分に山頂に到着すると同時に、先ほどのトレランの方とすれ違い、「お疲れ様です」と会話をする。そして背景をバックに写真を撮影して休憩をとり、昼食の準備をする。

 昼食はまたもやアルファ米である。昼食の準備は前日に時間を決めて練習した成果が出たのか、30分で片付けまでを完了させることができた。その後、先生方の提案で、山頂の奥にあった刀を背景に記念撮影をした。

 そして9時47分に出発。七合目を目指す。その道中でまた、登ってくるあのトレランの方とすれ違う。彼は「二周目はいかがですか」と私たちに冗談半分で提案してきた。するとM先生が「私たち教員がついていけないので……」と返していた。

 10時48分に七合目に到着し、休憩を取る。きっと次の歩行ではあのトレランの人が下ってくるのだろうなと予想しながら、私は水を飲み、携行食を口に入れた。

 10時58分に出発。三合目を目指す。登りでも通った急な岩場をどんどん下っていく。予想通り、11時26分に後ろから来たあのトレランの人に抜かされる。「実はね、私はあなたたちのお父さんと同じくらいの歳なんですよ」、そんな言葉を残しながら彼は通り過ぎていき、彼ともう言葉を交わすことはないのであった。

 11時42分に四合目に到着するが、休憩は取らず、舗装路をどんどん下っていき、11時56分に舗装路が終わると同時に三合目に到着し、最後の休憩をとる。我々三年生にとってはこれが最後の歩行になる。そんなことを先生方と話しながら息を整える。

 12時06分に休憩が終わり、出発する。急な山道をどんどん下っていく。山道を下り終えると長い階段に差し掛かるが、それも難なく下っていく。階段を下っていくと鳥居が見えてきた。とうとうゴールである。

 鳥居を通る前に私たちは近くにあった洗い場で靴を洗う。ああ、これで最後か、そんなことを思いながら、私の他の3年生も靴を洗っていたに違いない。全員が靴を洗い終わったことを確認し、隊列を組んで鳥居をくぐる。12時25分、二荒山神社に到着。雨が降ってきたので雨宿りできる場所に退避し、その日の山行の反省を行って、解散をした。

 連日山を登るという経験は初めてで、私自身、とても不安だったが、誰一人としてひどい怪我をしないで帰ってこられたのは本当に素晴らしいことだと思う。また、これまで練習をきちんとやってきたことの成果だとも思う。

 2年生もついてこられないなどということはなく、むしろ我々3年生よりも元気なくらいだった。来年のワンダーフォーゲル部を2年生に安心して任せられると、私は今回の合宿を通して実感した。恐らく、他の3年生も同じことを思っているに違いない。

 そして、泊まりの山行を経験したことのない私たちのために宿をとるという形で合宿を実施してくださった先生方には本当に頭が上がりません。


《「稜線」第43号(2022年度)所載》



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