2021年 秋季第1回山行 山行記

筆者 T・H (2年生)

 今回の山行は、有志の3年生によるご助力を受けながらも、1年生にとっては初の山行として、2年生にとっては初めての役職の仕事が任された山行として、とても初々しく、能力向上というよりは、現在の問題点、そして今後の目標や方針を見極めるデータ取得という側面が強いものであったと思う。

 ただ一方で、少し視野を広くすると、「最初だから失敗もしょうがない」と安心する余裕は例年と比べてないように思われる。なぜならば、新型コロナウィルス感染拡大の影響で当部は6ヶ月にわたり山行が行われない状態が続き、部での世代交代に必要な活動内容の継承が不十分と思われるからだ。ただ単に例年よりも時間的余裕がない。より一層努力する必要があることを噛み締めて、今回の反省を活かしたいと思う。

 とはいえ、久々の山行として、もちろん楽しく登ることができた。厳しい山ではないから、各々が余裕を持って山行の感覚を知るあるいは再確認することができたと思う。

10月21日 (木)  晴れ

 当日の朝、前日に行われた準備会で見られた様々な不手際や、半年ものブランクが呼び起こす不安と、御前山くらいなら心配する必要はないだろうという楽観が入り混じる中で私は電車に揺られていた。しかし実際はそんな呑気なことを考えている暇はなかった。集合場所への到着予定時刻は7時30分、計画書に記載されている集合時間も同時刻。遅刻しそう。予定ちょうどに集合駅到着も、チャージ不足に気付き、チャージ。結果として1分の遅刻となる失態に。遅刻魔の私にしては良くできた方だと慢心がよぎったが、待機していた部員たちの視線を受け猛省。部活動であること、規範を示す上級生として振る舞う義務があることを頭に叩き込んで、今後の活動に取り組まねばならないと実感した。

 さて、今回の山行に選ばれたのは前回の山行、4月の初めに登った大岳山のすぐ西にある御前山である。集合場所の拝島駅から青梅駅へ向かう電車の中では、部員たちが地図を確認しあったり、暇つぶしにデバイスを見つめる様子が見られた。東京は一応秋の季節。目を通していた歌集の紙と私の首すじに、後ろの窓から差す陽光が木々にパタパタと遮られながら、まだはっきりとしない秋の片鱗を伝えていた。

 電車で奥多摩駅に着くと、少しバスが来るのを待って、奥多摩湖まで乗車した。乗車直後、座っていた部員が戸惑いながらも恐らく全員が乗り合わせたお年寄りに席を譲っていた。善行なのだからもっと自信を持って譲っても良いと思ったが、特に1年生には私たちが声かけするなどして指示を与えた方が緊張がほぐれて良かっただろうと思った。指示もコミュニケーションの一つだから、適宜行なっていく必要がある。

 そして奥多摩湖に着くと、準備体操と靴紐の確認などを経て、日差しを避けて帽子を被り、9時21分に歩行開始となった。予定通りである。ちなみに、ここで帽子を忘れている部員がいたため、装備の必要性を確認する必要が感じられた。すれ違う人と挨拶を交わしながら奥多摩湖の道を歩行、10分ほど経って御前山登山を開始した。

 登り始め。久々の部活での登山、舗装路から抜けていきなり現れる登山道の始まりに懐かしさを覚えながら、段々と体を慣らしていった。順調に登り進めてしばらく経った頃、私の属するA隊とB隊の差が開き、一度止まって歩調を合わせた。「最初はみんなこうだから」という先生の慰めも虚しく、以後度々差が開き、山行中ほとんど終始進んでは止まりが繰り返された。ペースメーカーのCL曰く、今回の隊列構成に明確な根拠はないとのこと。登山中もあまり振り向いている様子がなく、課題が浮き彫りになったといえる。これは彼一人の責任ではなく、ある種の任命責任が2年生全員にある。また、私も差が開いたことに気づいていてもCLに伝達しないことが多々あったことを反省している。少なくとも私には純粋に集団に尽力する心持ちが欠如しており、これは解決すべき重要な課題だと考えられる。

 続いて、一行は奥多摩湖が展望できる広場を経て、10時44分にサス沢山頂に至る。休憩中も1年生は地図を確認したりと落ち着いている様子が見られた。一方で、水を回す際にポリタンクにスポーツ飲料を入れている1年生が1人見られた。先生からもご指導があったが、我々もしっかりと持ち物の説明をする必要があると分かった。

 さて、登山も中盤を迎え、景色が少し変わってきた。やや寒さが増し、木々にもほんの少しだけ秋めいた紅葉が見られた。周りは緑の葉と風にも靡かない物質的な落ち葉に囲われ、所々白い大きな枯れ葉が地面に模様をつけたり、栗が転がる湿った場所はあったものの特に変化はなかった。ただ、登り始めに見えた、木々の間から日の光をきらきらと反射する奥多摩湖の水面は見えなくなり、少し寂しくなった。他方、道のりは鯨の腹のように膨れた地形が二度ほどあり退屈ではなかった。後ろを見ても殆ど全員歩くことができていた。

 しかし、2回目の休憩を終えた後、やや勾配が激しく、泥濘のある足場の取りづらい山道に入った。手をついたり息遣いが荒くなる者も増え、間隔は次第に開いていった。恐らく今回の一番の難関だっただろう。

 ゆっくりながらもそこを越え、しばらく歩くと、12:00丁度、惣岳山に到着した。この時、B隊の1年生のが隊列に追いつけず離され、先生と2人で遅れて登っていた。確認後、当人が体力的に厳しいという判断が下り、彼が追いつかないまま我々が惣岳山で昼食休憩30分を過ごし、先に御前山を目指すこととなった。ちなみに、昼食時、みんなは暑いとも寒いともつかない日差しの中で、ゆったりと笑顔で過ごしていた。

 体を休めた後、12時31分に歩行を開始。途中で分岐を通過し、順調に12時46分に御前山に到着した。部員は達成感からか息をつきながら笑顔をこぼしていた。空は広く、空気は冷たかった。写真撮影などを済ませ、10分後に下山を開始した。時刻は計画通りに進んだ。遅れていて山頂には辿り着けなかったにも分かち合って欲しい景色と感情だった。

 下山が始まる。先ほど通過した分岐にて遅れてきたと先生に合流し、そこから登りとは違う山道を下っていく。ちなみに合流した際に1年生たちが心配そうにのために何か自分にできることはないかと探していた。この優しさは是非大事にしてほしいと思う。下山に関しても、は無理をしないようにと隊列から外れて先生と歩行した。

 下山開始からしばらく経つと、ジグザグのぬかるんだ道に入った。数人が少し足を滑らせていた。盛大に転ぶものはいなかったが、練習で体幹を鍛える理由がわかっただろう。

 その道を過ぎると今度は歩きやすい道に入った。直立するきれいな杉の木に囲まれたよくある下山道の景色で、木々が頭上の太陽の熱や光を和らげ、心地よい空気のなか、着々と下っていった。途中で一度、すぐに訂正されたもののB隊の1年生が1人、谷と山道を間違えて進んでいたらしかった。前の人との間隔の空きすぎや、疲労による注意力散漫が原因だろう。再び気を引き締めて歩みを始めた。

 山腹に沿って歩行し、13時23分にアセビの広場分岐を経てしばらく歩き、同31分に休憩が行われた。その後、歩き始めると、割と横の木々が開けており、心地よい空と風が感じられた。地面には倒れた木々が目立っていた。

 そして、しばらく歩き、14時46分、ヒノキの公園分岐に辿り着いた。しかし、そこでどちらに進むべきか10分ほど右往左往した。部員たちが出し合った意見をもとにCLと先生が判断し、割とスムーズに正しい道が分かったが、地図とルート、方角や地形をもっと意識して、注意深く歩行する必要があると感じた。今後の山行ではこのようなタイムロスがないようにしたい。

 14時24分、順調に登山道入り口分岐に到着し、コンクリートの道に出たところで道路の隅に寄って休憩。遅れてくるを待ち、14時40分に歩行を開始した。先生から「山道を抜けても気を抜かないように」という旨のアドバイスを受けつつも、昼下がりの無機質な道路の退屈さは登山靴が落ち葉を踏む硬い音だけでは凌げず、明日の予定や考え事に思いを馳せたりしながら、そっけない足取りで下っていた。そんな矢先に、急にB隊から声が上がった。1年生のが派手に転んでいた。出血していたらしく、一度全員が歩みを止め、救急箱の絆創膏で処置がなされた。しばらく立ち止まって、先生が遅れて合流した際、も一緒に遅れて行き、途中の境橋バス停でバスに乗り帰宅することに決まった。

 ちなみに、合わせて10分ほど立ち止まっていたがCLはずっとA隊で駄弁っており、怪我の様子や計画変更等の確認をする様子は見られず、先生の指示を待っているだけに見えた。ペースメーカーなのだから状況確認を自分でした方がいいのではないかと思って眺めていただけの人間は恐らく私だけではないと思うので、特に2年生はこういったアクシデントの対応を他人事と思わずに、自分の気づいたことをしっかりと声に出すと良いだろうと思う。

 その後、、引率の先生を除いた一行は、順調に道路を下っていった。途中から民家の側を通ったり、川の音がしたりと景色も少し賑やかになっていた。適度に田舎という感じのする家々で、穏やかだった。また、ちらほらと話し声が出始めつつも、皆、先ほどのの転倒を踏まえてしっかりとした足取りで歩み、充実した時間が過ぎた。その間、車が通る際もしっかりと声かけができており、問題はなかった。

 そして、15時29分に境橋を通過し、すぐそばで最後となる休憩を取った。その際の水の受け渡しなどもある程度スムーズに行えるようになっており、ひとまず休憩中の作法は1年生もしっかりと身についたと言えるだろう。時計と地図を見ながら、疲れを口にする者も見られた。

 休憩後、歩行が開始された。皆なんとなくどんよりとした疲労感が漂いつつも、止まることなく進んだ。私も足が重くなり始めていた。景色についていえば、道路脇の山壁にはお地蔵様がいたり、よく見ると赤や黄色の小さな野花も咲いていた。下るにつれて段々と現代的で似たような家が増えてきて、山という自然よりも人間の領域という雰囲気が出てくる。一方で、階段をしばし降りたり昇ったりを嘆く部員たちを横目にくつろぐ野良猫や猿が見られた。それはそれで風情がある。

 あっという間に奥多摩駅に辿り着いた。16時半であった。



 今回の山行では、1年生の持ち物への認識不足、役割に対する責任感の不足という2点が主な問題だと感じられた。

 まず前者に関しては、確かに、道具の具体的な用途や細かい説明は我々もされなかったし、1年生にも行っていない。しかしわざわざ重量を増やして持っていくのだから、それぞれに意味があるはずだ。今後は、準備会で、持ち物や行程一つ一つへの理解という点を忘れずに共有する必要があると思った。

 次に、責任感の不足については、これは2年生に限った話だと思うが、各人がそれぞれの役職にベストが尽くせたかというと、準備会で明らかになったバスの時刻表が違うといった問題や、救急箱の中身が整備されていないといったことから、自信を持ってイエスとは言い難い。もちろん、前回の山行から半年もの間が空き、加えて初めての仕事だからミスしても無理はないと思うが、少し粗さが目立ったので各自きちんと反省する必要があると思う。

 また、私個人に関しては、朝の遅刻に始まり、独断で行動するきらいがあるから、例え自分がいなくても大丈夫と思っていても(これは一種の信頼だが)、集団への協力を惜しまない姿勢を持つ必要があると痛感した。確かに、トレーニングをすれば山は1人でも登ることができる。だからこそ、何故他人と登るのか、しっかりと問い、考える必要がある。きっと精神的成長は、その理由を問い続けることで成し遂げられるのだろうと思う。


《「稜線」第43号(2022年度)所載》


 
奥多摩湖畔で出発前の体操を始める   大ブナ尾根から奥多摩湖 (遠景は大菩薩連嶺)
     
     
大ブナ尾根を登る   大ブナ尾根を登る 

 
御前山山頂から北を望む (中央やや左に鷹ノ巣山、その左奥に雲取山、鷹ノ巣山から右に石尾根が続く)
 
 
御前山山頂にて 


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