2020年 秋季第1回山行 山行記

筆者 K・S (2年生)

 今回の秋季第1回山行は、伝統ある当部の歴史の中でも、殊に特殊な山行となった。それというのも、例年の秋季第1回山行は、3年生の先輩方が引退された後、2年生が1年半の経験を生かして、山行を主導する、いわば世代交代山行であった。

 しかし、今年はCOVID-19の世界的な流行が起こり、今まで幸いにも世界的な感染症の被害が少なかった日本も例外ではなかった。早大学院もその影響を受け、一時的な休校、オンライン授業の実施という異例の対応へと踏み切った。そのような時勢の中、早大学院ワンダーフォーゲル部は令和2年度、1学期中の活動を休止するとの決断に至った。そのため、2月末から8月一杯まで山行はおろか、先輩方や新入部員との練習も行えなかったのである。

 つまり、今回の秋季第1回山行は新入部員にとっては新歓山行、2年目の部員にとっては半年間のブランクがありながらの世代交代山行となったのだ。更に、感染症対策によりテント泊を行えないため、秋山行でありながら、日帰りという珍しい形式を採ることになった。

 以上のような状況にありながらも、我々は感染症対策に留意した練習と度重なる意見交換を重ね、遂に山行の実施へと漕ぎつけたのである。特に、4役を務めている3人は、今回のルート決めや食事メニューの決定、計画書の作成などの仕事を率先して行ってくれた。支えて下さった先生方や所属部員一同に併せて、謝意をここに表す。

 この度、登った三頭山は日本三百名山や山梨百名山に名を連ねる標高1,531mの山であり、貴重なブナ林を持つことでも有名である。その名の通り、3つの山頂を持ち、それらを巡るハイキングコースも整備されているため、比較的登りやすい山である、などと口では言ってみたものの、後述する予期せぬ事態の影響もあってか、身体的な疲労は当然のことながら、精神的な疲労を大いに感じた山行であった。

10月21日 (水) 曇り

 今回の集合時間は午前7時30分、集合場所は拝島駅の改札であった。普段は新宿駅や上石神井駅に集合であったため、違和感が少しあった。そのため、数名遅刻者が出てしまうのではないかと危惧していたが、今年の新入部員は軒並み優秀で、5分前にはほぼ全員が揃っていた。ただ、「ほぼ」と書いた通り、残念ながら1名遅刻者が出てしまった。彼の言い分を聞くと、7時30分ぎりぎりにつく電車に乗ろうとした結果、電車遅延によって幾ばくか遅れてしまったようだ。幸い、予定に大きな支障を来す程では無かったが、次回からは、時間に余裕をもって行動をして欲しいものだ。

 全員集合後、まず7時45分発のJR青梅線〈青梅行〉に乗り、8時3分に青梅駅に到着した。その後、8時4分発のJR青梅線〈奥多摩行〉に乗り、8時39分に奥多摩駅へと至った。ここまである程度順調に進んでいた山行であったが、ここでアクシデントに見舞われることになる。本来の予定では、奥多摩駅より西東京バス〈鴨沢西行〉8時42分発に乗り、9時過ぎには深山橋から歩行を開始するはずであった。しかし、平日であるにもかかわらず、そのバス内は他の登山者の方々で一杯であった。これを受けて、我々は同所に向かう9時25分発のバスが来るまで、実に40分近く奥多摩駅バス停で待機を余儀なくされたのである。

 この原因として、従来の山行のように早朝ではなく、朝8時台のバスだった事により、他の登山者の方々も目指しやすい時間であったということが考えられる。これはテント泊が出来ない日帰り山行の盲点とも呼べる事態であり、検証を重ねていく必要がある。思わぬ足止めにあった我々であったが、その時間を利用して、新入部員の面々に登山靴の履き方を教えたり、トイレ休憩をしたりと、与えられた時間を有意義に使えていた。これは、少しの時間も無駄にしまいという意思の表れであり、各々がそのような意識で山行に臨んでいるのは、非常に良い傾向だと感じた。その後、前述した9時25分発のバスに乗り、9時56分に深山橋についた。

 久しぶりの深山橋に懐かしさを抱きながら、同時に少し新鮮さを感じた。程よく風が吹き、気候も穏やかな絶好の登山日和であった。
 
 その後、準備体操を経て三頭橋の先よりムロクボ尾根へ10時1分に第一回の歩行を開始した。ムロクボ尾根は全体的に坂が急で、1年生が体力切れを起こすのではないかと懸念していたが、少し早めのペースにもしっかりと付いて来られていた。これは、彼らが日頃行ってきた練習の賜物であり、誇って良いと感じた。ちょうど50分歩行した後、10時51分に第1回休憩に入った。今回から感染症対策の観点から、プラスチック容器に入れた水を、コップに注いで飲むことになった。以前のように回し飲みで無くなったことで、清潔さは保たれるのだろうが、今までの形式に慣れている身からすると、少し物足りないものも感じた。新入部員の顔を見るとまだまだ余裕があるようで、とても頼りになると思った。

 その後、11時2分から第2回の歩行を開始した。序盤こそ順調に進んでいたが、徐々に道が険しくなるにつれ、一同の顔や姿勢にも疲れが見えるようになって来た。斜面が急であるのに加えて、土や石の大きさが粗く、足が踏ん張りにくいため、上級生である私も少し辛さを感じるほどであった。そのような道で、1名が足を攣(つ)りかけたものの全員無事にヌカザス・ムロクボ分岐に至ることができた。これにより少なくとも登りに関しては、心配がいらないと思った。

 11時54分に第2回休憩を開始し、同時59分に昼食を開始した。メニューは、食パンにチョコソースやハチミツ、ピザソース、ツナマヨなどをかけたサンドウィッチと、魚肉ソーセージだった。風が吹き、木々が日光を遮っていたため肌寒かったが、短時間の昼食によって得られた喜びは、それを遥かに超えるものであった。しかし、つね泣き峠で抑圧されていた元気が溢れてしまい、一人だけハイテンションになり、騒いでしまった。これは、感染症対策の面からも、風紀面からも、慎むべきでことであり、猛省して次に繋げたい。

 12時26分に昼食を終了し、27分に3回目の歩行を開始した。部員一同も休憩をはさんだ事により、心なしか軽快に歩けているように感じた。その後、12時51分に入小沢ノ峰、13時10分に鶴峠分岐へと至った。その後、13時19分に第3回休憩に入り、13時30分に第3回歩行を開始した。そして、約15分後の13時44分に三頭山山頂に到った。景色はそこまで良いわけではなかったが、山頂に辿り着いた喜びにより、格段に素晴らしく思えた。写真撮影と小休憩を挟んだ後、13時55分に山頂を出発した。ここから下りが主となり、純粋な体力より、技術や精神力が重要となる。私はいわゆる脳筋タイプであり、下りが実に苦手であるため、自分自身で不安なところもあったが、今回は上級生としての責任が無意識に支えてくれたのか落ち着いて歩くことができた。私の見える範囲であったが、新入生の中に特別下りが苦手な人はいないように見えた。技術がある程度あるのは喜ばしいことである。私も負けないように練習を行っていかなければと身が引き締まる思いであった。

 そして、緩やかな下り坂を歩いていき、14時45分に第4回休憩開始、14時55分に第4回歩行を開始し、16時45分前後にアスファルトで整備された道へと至った。予定通りであれば、数馬まで下り、16時9分発や17時15分のバスに乗る予定であったが、先に記した通り、バスを一本見送ったため、50分かけて数馬に下りても、大幅に時間が余ってしまう事態に陥った。また、部員1名が足の痛みを訴えており、長時間の歩行は厳しかった。これらを受けて、急遽ルートを変更し、近くにあった都民の森でバスを待つことにした。この判断に少し時間がかかってしまい、車道付近で立ち往生してしまった。次回から柔軟な対応を心がけていきたい。

 16時2分に都民の森に到着した。しかし、到着して少しの間、トイレ休憩を設けた際、まだ反省会、解散式を行っていないのに、自動販売機で飲料を買う不届きな輩が数名いた。本来であれば、私たち上級生が窘(たしな)める必要があったのに、そこまで気が回らなかった。初めての山行とはいえ、そのような行為は慎むべきであり、私たちも次回から式を行うまでが山行という意識を共有していく。

 その後、16時12分から反省会、解散式を都民の森で執り行った。初めての山行ということもあり、私自身も至らぬ点が多かった。しかし、それらに対してただ漫然と反省するのではなく、原因を探り、次回に向けて対策することが、最も重要であると感じた。

 解散式が一段落ついてから、16時45分のバス出発まで、温かい飲み物を買ったり、お土産を買ったりと束の間の休息を得た。そして、西東京バス〈武蔵五日市駅行〉16時45分発に乗った。蓄積した疲労から解き放たれ、ほとんどの人が眠っていた。かく言う私もウトウトとして、気が付いたら武蔵五日市に着いていた。あまり疲れていない感覚だったため、意外であった。

 そして、1時間近くバスに揺られ、17時53分に武蔵五日市駅に到着した。そして、集合から実に10時間22分を経て秋季第1回山行が終わりを迎えた。こうして数字にしてみると、かなりの時間がかかっており、これを乗り切ったことは大きな財産になると感じた。

 最後に、今回の山行を総括すると、今回は不測の事態が多々あり、私たち上級生も久しぶりの山行に探り探りであったが、不調を訴える者も少なく、大きなミスも無かったため、様々なことを鑑みても、十分に良い山行であったと思われる。当然のことながら、改善すべき点は多々あるが、部員一同、力を合わせて三頭山に登れたのは、良い経験であり、自信となるであろう。次回に向けて早急に改善すべき点を挙げるのであれば、時間に余裕を持つことと、ルート変更などを想定して様々な道を事前に考えておくことである。ただ、今回は雨も降らず、離脱者も出なかったことから、穴田先生が普段仰っているように日頃の行いが良い方向に働いたとのではと感じた。来年のことを言えば鬼に笑われてしまうかもしれないが、今から夏山行が楽しみになるような、今後に期待できる山行であった。


《「稜線」第42号(2021年度)所載》


三頭山山頂にて

三頭山山頂から北を望む (中央は鷹ノ巣山)

 
 
三頭山から下る 



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