2018年 夏合宿 山行記

筆者 R・N (3年生)

 7月山行から中5日、我々3年生にとっては最後の山行であり、今年度の部活動の集大成でもある夏合宿を迎えた。今年度は蓮華温泉から白馬岳、雪倉岳、朝日岳と縦走し、蓮華温泉に戻る周回コースを選んだ。高山植物が豊かであり、先生も素晴らしいコースであるとおっしゃっていたため期待が高まった。

 しかし、様々な問題が露呈した7月山行を受けて、準備会は少々重たい雰囲気で進められ、夏合宿に対して不安を感じずにはいられなかった。また、東から西へ進む異例のコースをたどった台風12号が日本列島に停滞していることから、気象係としては天候を案じずにはいられなかった。今回の山行は、いつも以上に緊張し、絶対に成功させるという少し覚悟に近いものを胸に挑んだ。

 なお、今年度の夏合宿は、7月山行を受けて体力不足と判断されたとそうしても外すことのできない用事ができてしまったは不参加となってしまった。残念なことではあるが、次回以降は歩きとおせるよう頑張ってほしいものである。



7月30日(月) 〈1日目〉 晴れ

 これまでワンゲルの夏合宿で白馬岳に行くときは大糸線直通の特急あずさを利用していた。しかし、大糸線直通の特急が乗れないほど混雑することを考慮し、今年は北陸新幹線を利用することとなり、集合場所をいつもの新宿駅ではなく東京駅丸の内南口とした。東京駅は普段利用しない人が多く、全員が集合することができるか不安だったが、全員が集合時間の30分前に集合し、一部の食料の配分を済ませることができた。

 このとき1年生のNのザックのなかでプラティパスの水が漏れ、ザックが濡れてしまうという問題が発生した。よく見るとプラティパスの飲み口付近に穴が開いていることが分かり、使用できない状態だった。プラティパスはポリタンよりも軽いうえ、持ち運びしやすいため便利だが、扱いには気を付ける必要があるのかもしれない。先生と相談し、は今回の山行中は先生のプラティパスをお借りし、先生はペットボトルに水を入れて持ち運びいただくことが決まった。

 先生方がいらっしゃった後は全員で新幹線のホームに移動した。はくたか号に乗車し、糸魚川駅で下車。2時間待機したのち蓮華温泉行のバスに乗車し、1時間半ほどで蓮華温泉に到着。幕営手続きを済ませ、600メートルほど歩行し、目的地の蓮華の森キャンプ場には15:10に到着し、幕営を行った。幕営時間は15分であり、早くはないが遅くはないといったところだろう。

 蓮華の森キャンプ場は虻が多かったが、テント場が芝生となっており、とても気持ちの良い幕営地だった。だが、水は飲用不可で、煮沸が必要なのは残念だった。今回は、先生が以前いらっしゃったときは飲用していたため大丈夫だろうと考え、全員がそのままで飲んでしまった。今回はその後腹痛を起こす人はいなかったため結果オーライとなったが、誰かが食中毒を起こしていると大参事であったため、今回のように翌日の行程が短いときは時間をかけてでも煮沸するべきだったのかもしれない。

 その後は特に大きな問題が起きることはなく、食事・炊飯・気象を済ませた。今日の夕食は牛丼だった。ご飯は少し硬かったが、味のよくしみた牛丼とよく合い、とても美味しくいただくことができた。気象に関していうと、台風は鹿児島県付近で停滞していたため問題なさそうだった。

 その後は、18:09に夕食を終えて、18:16にミーティングを開始し、余裕をもって19:30に就寝となった。翌日は行動時間が短いとはいえ、約900メートルの登りとなる。いよいよ始まる夏合宿への期待と不安を胸に、眠りについた。



7月31日(火) 〈2日目〉 晴れ

 2日目の朝は3:30に起床。私のテントでは3:53に朝食を開始した。朝食はスティックパンと味噌汁だった。比較的食べやすいメニューだったが、量が多く、食べるのに苦労している人が何人かいた。その後はいつも通りの撤収作業だった。1年生にとっては初めて暗い中での撤収作業だったことや靴紐を結び忘れた人がいたことはあったが、さほど遅れることなく4:47に歩行を開始した。

 10分ほど歩き、蓮華温泉ロッジの前を通過し、いよいよ本格的な登山道が始まった。蓮華温泉周辺は湯船に向かう登山道との分岐があったり、時々硫黄臭が漂っていたりして面白いが、次第にそのような光景は失われ、樹林帯の急登が始まった。先頭ののペース配分はちょうどよく歩きやすいペースで歩いたが、夏合宿序盤の重い荷物が次第に体力を奪っていく。1年生は特に辛そうにしている人が多く、次第にが遅れ出した。2人の水を先に消費する工夫をしたが、あまり改善は見られなかった。

 そのような状態で歩行を続け、7:10に天狗ノ庭を通過した。4日目に歩く稜線を望むことのできる場所らしいが、あいにくのガスで何も見ることができずに通過となった。天狗ノ庭通過後は1回の休憩をはさみ、8:30に白馬大池山荘に到着した。到着後すぐに会計が手続きをし、9:04に幕営を終了させた。

 時刻はまだ午前9時だが、幕営後はすぐに昼食となった。昼食はパスタだった。コッヘルの容量の関係で全員分を1度に作ることができないため、2度に分けて調理した。合宿2日目の昼ということもあり、高いパスタソースを買った人も多く、ポロネーゼやトマトクリームなど普段見慣れないものも多く並び、かなり豪華な昼食だった。

 昼食後は1時間ほど休憩したのち、先生によるアイゼン歩行の練習を行った。近くの登山道上に残雪はなかったが、4日目に通る鉢ヶ岳の巻き道では雪渓の横断があるため、幕営地の近くの小さな斜面を利用して行った。ワンゲルでは冬山行の前に1年生は4本爪のアイゼンを購入しているが、まだ使い方を知らなかったため、とても勉強になり、良かったと思う。実際に4日目、5日目は残雪の上を歩いたため、ここで練習することができてよかったと思う。

 その後は食事の準備まで4時間の自由時間となったため、池のほとりで談笑したり、昼寝をしたりして過ごした。白馬大池山荘周辺は大池だけでなく、雪渓の雪解け水が流れた湿田があり、普段見ることのできない高山植物の花が咲き乱れていた。無料で飲むことのできる水や水洗トイレあってとても快適であり、個人的には今まで行った中でも特に良い印象を受けた幕営地だった。

 残念ながら、このときが体調不良を訴え、熱を測ると少し熱があった。風邪薬を飲んでもらったが、今後のことが非常に心配になった。

 夕食はカレーだった。大豆ミートとレトルトパックに入った下ごしらえ野菜を使ったため、2日目にしてはかなり豪華な夕食となった。大豆ミートは賛否両論が分かれたが、山では貴重なたんぱく・食物繊維源あるため、全員の同意が取れる時は取り入れるべき食材だと感じた。パスタのゆで汁をカレーに使おうとしたら、でんぷんが固まってしまったのは誤算だが、それ以外はうまくいき、美味しいカレーが完成した。炊飯も1つのコッヘルを除くとうまく炊くことができ、美味しい夕食にありつくことができた。気象に関していえば、東の太平洋上に熱帯低気圧が発生してしまい、太平洋高気圧の勢力が弱まりそうで、安心できない状況だった。

 夕食後の後片付けは17:38に終わらせ、17:41にミーティングを開始した。ミーティングの時点での離脱が決まり、本体の体力も考慮して杓子岳のピストンも中止することが決まった。は明日先生と一緒に蓮華温泉へ下山し、先生はなんと、その後、白馬岳頂上宿舎まで登っていただくこととなった。離脱者が出るのは残念なことであり、これは本人も望んでいない事態であろう。今後は体調管理に気を付けるとともに、体調が悪い場合はすぐに報告することを徹底してもらいたいものである。下りる人はミドルテントを持っていくことも決まり、3日目の夜は2つのジャンボテントにそれぞれ6人が泊まる事も決まった。

 ミーティング後は18:30に就寝した。近くに雪渓がある幕営地ということもあり、予想以上の寒さに襲われた夜だった。



8月1日(水) 〈3日目〉 ガスのち晴れ

 3日目の朝は3:00に起床。気温は低くテントは露で搾れるほどまで濡れていたが、天気は快晴であり、秋の星座と月明かりに照らされた稜線が美しかった。朝食はリッツとオニオンスープ。リッツは昨年度採用したものよりも量の多いパックを採用したが、食べきれない人もいたため良い結果とはならなかった。オニオンスープは意外と香辛料が効いていて体が温まったため良かったと思う。

 朝食後の撤収は8分ですませ、離脱する先生に見送られて、4:13に出発した。すぐに待ち受ける雷鳥坂はさほど急な坂ではないうえ、雪渓はなかったため、順調なペースで歩行することができた。1度目の休憩は日の出を眺めるため、少し早めの4:54に取り、全員で絶好のコンディションの中で日の出を眺めた。

 船越ノ頭を通過すると稜線歩きが始まったが、次第にガスがかかってしまい、風も強くなった。この稜線はアルプスらしい稜線であり、道の両脇には様々な高山植物が咲き乱れていたが、小蓮華岳につく頃には立ち止まると寒くていられないほどまで天候が悪化してしまった。小蓮華岳は写真撮影を含め10分の休憩にとどめ、白馬岳を目指した。

 小蓮華岳を過ぎると次第に登山者が多くなり、頻繁に道の譲り合いが必要になり、歩行時間を上回る時間を要してしまった。道の譲り合いは山頂まで続いたが、三国境を過ぎたころから天候が回復し始め、ペースを保つことができた。

 白馬岳に到着したときには天候が完全に回復し、小蓮華岳の天候がまるで嘘のようだった。今日は行程が短いため、山頂で30分の長い休憩をとることが決まり、全体や3年卒アル用の写真の撮影をした。山頂では地図に書かれた通りの大展望であり、素晴らしかった。白馬岳は標高が2900メートルを超える山であるため、周りの山々全てを見渡しているような気分を味わうことができた。

 白馬岳の展望を満喫した後は白馬岳頂上宿舎までの下りが待っている。下りは予想以上に急だったが、難なく下ることができた。途中、白馬山荘を頂上宿舎と思ってしまうことはあったが、それ以外には特に問題なく、白馬岳頂上宿舎に到着し、幕営を済ませた。

 幕営終了後は、すぐに昼食をとった。昼食の時に各自で食べることにしようとしてしまい、先生の注意を受けることとなってしまった。山行中は各自が自分の食料を持っているときでも食事は全体で取るべきであり、今後は気を付けるべきだろう。昼食はカニパンだった。子供用のパンだが、日持ちするため採用した。案外甘いパンであり、山の昼食としては良かったと思う。

 昼食後は約6時間の自由時間となり、それぞれが体を休めながら過ごした。私は雪解け水が飲める水場に行ったが、雪渓のすぐ下にあり、キンキンに冷えていてとても美味しかった。夏合宿中でも冷たい水を好きなだけ飲めるのはとてもありがたいことだ。

 長い自由時間もすぐに終わり、夕食づくりと気象に取り掛かった。夕食は麻婆高野豆腐だった。高野豆腐の吸水に手間がかかったが、うまく作ることができた。炊飯も少し硬い部分があったが食べる分には問題なく、麻婆高野豆腐をよく合って美味しかった。気象が作った天気図は夏型が崩れてしまい、不安要素が残るものだった。作業中にM先生と合流し、夕食はご一緒にいただくことができて良かったと思う。

 夕食後はいつも通りミーティングを行い、18:00に就寝となった。この時点でバテ気味だったのエスケープが決まった。安全面を考慮し、2人と先生は明日もと来た道を戻り、蓮華温泉へ下山することが決まった。脱落者が出てしまうのは残念なことだが、エスケープ組も長い行程となるので頑張ってほしいとなった。

 また、ここで昨晩と同じテントに泊まっていたM・Kが微熱を出してしまった。の風邪がうつってしまった可能性が高いため、とても心配になった。2人には風邪薬を飲んでもらい、明日の回復を期待することとなった。このようなことから、明日の起床時間を2:30とし、長めの休息をとることとなった。明日の縦走のことを思いながら眠りについた。


筆者 H・S (3年生)

2
8月2日(木) 〈4日目〉 晴れ

 この日は2時半に起床した。まず前日に微熱のあった2年生に体温を計らせる。結果は2人とも36度5分、平熱に戻っていた。一安心。しかし、今日の歩行時間は7時間もあるため、ホッとため息をつく暇もなくすぐさま朝食の準備に取り掛かった。

 朝食は2年ぶりの復帰となる悪名高き棒ラーメンだ。寝起きには重たすぎる麺と大量のスープは、朝が弱い部員にとっては大きな苦しみとなる。そのことを見越して私のテントでは若干少なめに作った。しかし今年の代は朝に強い部員がほとんどのようで、「もっとたくさん食える」「美味い」と言いながら皿に盛られた量をガツガツ食べていた。次の代は余った食べ物の消費に悩むことはなさそうだ。後片付けもそこまで時間はかからず、スムーズに撤収に入ることができた。

 3時31分から撤収を開始。寒い。秋山行とまではいかないが、おおよそ夏とは思えない。風もテントが吹き飛ばされそうになる程強く、撤収に時間がかかることが予想されたが、全員がテキパキと動いてくれたおかげで8分で完了することができた。テントの数が異なるため一概に比較はできないが、7月山行から大きな進歩だろう。

 準備体操を済ませ3時52分に頂上宿舎を出発。相変わらず夜明け前の歩行は精神的に辛く感じるが、少しずつ空が明るくなる様子は実に美しい。この景色は夏合宿でしか味わえないのでしっかりと目に焼き付けておくことにした。

 1本目でほとんどコースタイム通りに三国境に到着。エスケープ組とはここで別れることになる。離脱の1年生2人は少し残念そうな様子だったが、まだ2回チャンスが残っているので、しっかりと体力をつければ次回は完全制覇できるだろう。合宿を続行する我々は、その後雪倉岳方面へと歩行を開始した。雪倉岳までの道のりは稜線が続いており、気持ちがいい。早朝の涼しい風を感じながら周囲の山々を眺める……最高だ。この爽快感が味わえるのも今回が最後だと思うと少々寂しい気もする。

 あと数分で休憩になろうかという時、思わず「うおっ」と情けない声を出してしまうような景色が目に飛び込んで来た。残雪だ。事前に過去の山行記を読んでいたので、その存在は知っていたが、いざ実際に見てみるとなかなかに迫力がある。おまけに積もっているのは斜面だ。滑ってしまったら怪我こそしなくとも、戻ってくるのは骨の折れる作業だろう。たくさん人通りのある道でもないため、道しるべの赤ペイントはあるが踏み跡もほとんどない。

 とりあえずアイゼンはつけずに渡ってみようとしたのだが、荷物の重さか恐怖で足が震えていたのか、半分渡ったあたりで転倒してしまった。全力で踏ん張ったのでなんとか滑落は回避したものの、左半身がペイントで真っ赤に染まってしまった。情けないかぎりである。とりあえず全員残雪のない箇所まで引き返し、アイゼンを装着。先生に先導していただいて、なんとか渡りきることができた。初めての経験だったので一気に疲れが溜まってしまった。

 残雪の横断直後に休憩をとり、3本目に突入。避難小屋を通過し雪倉岳に登り始める。かなり急な登りではあったものの不思議とあまり苦痛に感じなかった。30分ほど登って頂上に到着した。雪倉岳の景色は蓮華温泉・白馬大池・白馬岳・朝日岳を一望することができ、実に感動的なものだった。正直な話、個人的には白馬岳よりもいい眺めだと思う。しばらくの間景色を堪能し、写真を撮ってから歩行を再開。ここから水平道分岐までは下りが続き、膝への負担がかなり大きい。やはり夏合宿は荷物が重い分かなり苦しい。燕岩に到着する頃にはかなりヘトヘトになっていた。

 しかし、本当に辛いのはここからだ。太陽の照りがとんでもなく強いのだ。白馬からかなり標高が下がったこともあり、とにかく暑くて仕方がない。人一倍暑がりで汗かきの私はすぐに地獄のような苦しみを味わうことになった。限界ギリギリのところでなんとか分岐に到着し、そこで休憩と昼食のかにぱんを食べた。しかし私は暑さですっかり食欲を失い、無理やり2個を口に押し込むのが精一杯だった。おそらくアクエリアスが感動するほど美味しく感じたのは後にも先にもこれ一度きりだろう。

 昼食後、我々はついに水平道に差し掛かった。地図に付属しているブックレットにも注意書きが書いてあるほどアップダウンが激しくて辛い道だ。一体なぜ「水平」なんて言葉を入れたのだろうか……。実際、シャレにならないほど辛い道のりであった。アップダウンはもちろんのこと、木道が改修のため一部外されていて歩きにくい。ほとんど通行者がいないのか、地面も全く踏み固められておらず、獣臭い所や熊のものと思しき糞も落ちていた。半ば獣道と化しているのかもしれない。おまけに日差しもさらに強さを増しており、暑いというより痛い領域に突入していた。炎天下の公園でうっかり鉄製のプレートに寝転がってしまったような、そんな感覚だ。

 この環境でバテるのにさして時間はかからなかった。他の部員もかなり辛そうだったが、おそらくダントツでバテていたのは、ダントツでザックが重かった私だろう。恥ずかしい話だが、あまりの苦しさにいつの間にか呻き声をあげながら登っていた。いつまでたっても終わりが見えず、登った分下り、下りた分登る、まるで拷問のようだった。数年前の夏合宿ではこの道に残雪がたくさんあったそうだが、どれだけ苦しかったのだろうか、想像するのも恐ろしい。

 ついに朝日小屋が見えた時、安心こそするものの喜ぶ元気もなかった。無理やり足を動かして最後の階段を登り、11時15分に朝日小屋に到着。相当疲れが溜まっていたが、テントの幕営には12分とそこまで時間はかからなかった。

 炊飯は14時50分から開始。3つあるコッヘルのうち1つは微妙な炊き上がりということが続いていたのだが、この日は全て完璧だ。炊飯係として安心して引退できるのでとても嬉しい。時間帯的に仕事のない部員も各自がやるべきことを見つけ、パーティー全体が洗練されたいい雰囲気に包まれていた。不思議と顔つきも初日から変わって凛々しくなっているように思える。

 夕食はお茶漬けと味噌汁だった。「これがワンゲル最後の夕食なんだなあ」としみじみ思いながら食べる。やはりお茶漬けは安定して美味しい。そして後片付けとミーティングを済ませ、18:00に就寝した。



8月3日(金) 〈5日目〉 晴れ

 この日はコースタイムが長いので2時に起床。朝食は夏合宿の楽しみ、ジフィーズだ。お湯を沸かして袋に注ぐだけなので片付けが楽でありがたい。出来上がりを待っている間に荷物整理を済ませて食べ始める。沸騰させなかったので少し硬い気もしたが、やっぱり最高だ。食べ終わるのにさして時間はかからず、2時49分に撤収を開始。この日はなんとたったの6分で撤収を完了させることができた。

 3時51分に朝日小屋を出発し、朝日岳に向かった。真っ暗な中の登りが精神的に辛かったことはいうまでもないが、意外にも山頂到着はコースタイムより10分も早かった。まだ辺りは真っ暗だったが、山頂で休憩と記念撮影を行なった。

 山頂から吹上のコルまでは50分のコースタイムなのだが、26分という異例の早さで通過。しかしここからが大変だった。残雪が4日目の比ではないほど多く残っていたのだ。特に登山道にかかっている箇所はだいたい50m程度の長さがあった。しかも今回は斜め下方向に降りなければならない。思わず緊張で足が震えた。4日目の歩行のおかげで残雪を歩くのには全員かなり慣れていたが、それでも恐怖で足が前に出ない部員もいるようだった。

 三箇所目の残雪地帯を渡る直前の休憩途中、がアイゼンを下に落としてしまった。アイゼンは雪で滑り30m程度下で停止。先生が取ってくださったおかげで残雪は無事に切り抜けることができたが、次からは油断しないようにしてほしいものである。

 残雪を抜けてぬかるんだ道に差し掛かったとき、雷鳥を発見した。しかも4匹の子供を連れている。こんな光景は滅多に見られないので思わずかなり大きい声を出してしまい、若干遠くに逃げてしまった。結果としてうまく写真に収められなかったのが残念だ。

 意外と気づかなかったが五輪尾根から全体的に歩速が上昇し、コースタイムを大幅に上回るようになり始めた。全員ついてきていたので大丈夫だと思っていたのだが、あまりに速すぎると安全面で問題が出てくるので、ここは大きな反省点だ。実際、急な下りのカモシカ坂でもペースを維持した結果、先生が転んでしまった。

 白高地沢に到着すると、速度は次第に出せなくなった。途中からきつい登りが続くからだ。一気に下りた後の登りのきつさは尋常でなく、水平道を通った時のような辛さを感じ始めた。なんとか最後の力を振り絞って到着した兵馬ノ平は、まるで庭園のような美しさだった。

 この後もずっと美しい景色を楽しみながら平坦な道のりが続くと思っていたのだが、そんな期待もすぐに打ち砕かれた。美しい景色は5分程度で終了し、その後には猛烈な階段が待ち受けていたのだ。生き地獄だ。そう思いながらフラフラした足取りで階段を登る。この階段が実に長い。25分近く登り続け初日のキャンプ場に到着した頃には気絶寸前だった。初日はあんなに短く感じたロッジへの道のりも今は遠い彼方に感じる。どれだけ私が消耗していたのかというと、30m先に見えるロッジの屋根に気づかず小休止の時間を取ろうとしていたほどだ。

 こうして蓮華温泉に戻ってきた我々は、少し水分をとってからミーティングを行い夏合宿を終えた。後になって気づいたのだが、この日の歩行時間は休憩・アイゼン装着の時間を含めてもコースタイムより40分近く早いというとんでもないものだった。

 今回の夏合宿は、反省の多かった7月山行から一転、全員が協力し合い、周囲のことを考えながら行動できるように成長できた素晴らしい山行だったと感じる。きっと2年生はこのパフォーマンスの高さでうまく部を引っ張ってくれるだろうと信じている。残念ながら不参加となってしまった部員も少なくないが、体力をしっかりとつけてぜひリベンジを果たしてほしい。
 
 ワンダーフォーゲル部に入部して2年と4ヶ月。つくづく時の流れは早いものだと実感する。この部活は楽しいことばかりではなかった。時に山行中の腹痛に苦しみ、想定外のトラブルに悩み、山行翌日の中間テストの準備に悩み、先輩と部の方針で意見が分かれて議論をしたこともあった。しかし今となってはそんな出来事も全てかけがえのない大切な思い出となっている。

 この部活は小心者でヤラカシばかりしていた私を確実に成長させてくれた。1、2年生の目に映った夏合宿での私は、かつて私の目に映った先輩方のように立派なものであっただろうか。初めて夏合宿を終えた頃の私同様にコーラを美味しそうに飲む後輩たちを横目に見ながらそう思うのだった。


《「稜線」第40号(2018年度)所載》



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