2017年 新歓山行 山行記
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筆者 R・N (3年生)
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今年度の新歓山行は例年の三頭山から離れ、奥多摩北部の都県境尾根に聳える蕎麦粒山を目指した。
栃木での雪山事故の影響が懸念されたが、ビラ配りやパンフレット制作などの過去に例を見ない決死の勧誘の結果、5人の1年生と2回目の2年生が1人入部してくれた。また、今年度から地歴科のM先生が加わり、新歓山行は大人数のパーティ編成となる。更にCLは2年生のSが務め、次世代のワンゲルのスタートに相応しいものであった。なお、前回の春合宿で頭を怪我した3年生のBと膝を痛めている2年生のKはこの山行に参加していない。
5月6日(土) 〈1日目〉 天候:晴れ
当日は13時10分に上石神井駅に集合であった。CLのSの意向で、通常より10分遅い時間だった。4時間目を終えた私はMやKと一緒に上石神井駅へと向かった。道の途中で大きなザックを背負った新入部員が狭いバス通りを悪戦苦闘しながら歩いている姿がふと目に映り、2年前の自分と重ね合わせながら、あっという間に過ぎ去っていく高校生活に少し寂しさを感じた。
上石神井駅に着くと続々と部員たちが集合した。しかし、時間が迫っても1年生のR・Kの姿が見当たらない。心配したSが改札口の手前で待っていると2分程遅れて集合した。どうやら集合場所を学院だと勘違いしていたようだ。このようなミスは新歓ならではだが、準備会で周知していたはずなので、次からは気をつけてもらいたい。
西武線から青梅線へ乗り継ぎ、15時ごろ奥多摩駅に到着した。ここから氷川キャンプ場まで徒歩で向かう。氷川キャンプ場へは前年度の6月山行以来、約1年ぶりの幕営となる。奇しくもその際のCLは当時2年生だった私で、今回のCLであるSと同じ状況だった。私は経験者として彼の緊張を察することができたが、成長の場であると考え、心を鬼にしてなるべく助け舟を出さないようにした。
幕営地に着くとゴールデンウイーク終盤の週末ということもあり、大学生や家族連れでごった返していた。そんな中、たまたま4張り分のスペースが空いていて、幸運にも水場に近いスペースを確保することができた。
河原にザックを置くと一斉に幕営を開始した。事前に幕営方法を丁寧に講習していたこともあり、ペグ打ちも含め9分という好タイムで幕営を完了できた。これは素晴らしいことで、幸先の良いスタートを切ることができた。
息つく間もなく炊飯が始まった。炊飯職人のMは熟練の技術を後輩たちに教えていた。一方の食事係も少し早かったものの、きのこカレー作りに着手した。またこれらと同時並行で気象係もライエス・テントで天気図の書き込みを始めた。しばらくすると炊飯係から悲鳴が上がった。どうやら片方のコッフェルから焦げ臭い匂いを強く感じたという。確かに湯気というより煙に近いものが吹き出している。戦々恐々としながら蒸らしが行われた。
その後A先生とM先生が合流し、いよいよ炊飯のコッフェルを開ける時が来た。Mが重い足取りでコッフェルへ向かい蓋をあけると美味しそうなご飯が炊きあがっていた。底に多少の焦げはあったが、許容範囲内で、我々の心配は杞憂に終わったようだ。きのこカレーも、調理後あえて一度冷ました後に温め直すことでトロみが増して最高の出来だった。
夕食が終わり、ミーティングでSからサークルなどが騒いでいることを考慮して就寝を1時間遅らせることが発表されると、空き時間に橋に登って歓談するなど、奥多摩ならではのひとときを満喫し、この日は眠りについた。
5月7日(日) 〈2日目〉 天候:曇り時々晴れ
2日目の朝、隣に寝ていたSに起こされて1日が始まる。どうも昨日の夜は大学生のサークルが大騒ぎして禁止されている花火を打ち上げていたようで、部員達は寝たり起きたりの繰り返しだったようだ。眠い目をこすりながら朝食ができるのを待っている1年生を横目に食事係の私はコーンスープを作っていた。しばらくすると教テンから先生方も出てこられて4時半ごろには朝食を開始することができた。
朝食が終わるとザックの整理をした後、撤収を行なった。撤収は8分で完了し、幕営同様、新歓山行としては異例の好タイムであった。ここからはSを先頭にF、B、R・K、M・K、Sの順に1年生を並べ、ダブルKの間に私が入るという変則的なパーティを組んで歩行を開始した。これはSのペースメイクと1年生の消耗具合の確認をサポートする目的のもので、登路では私、下山路ではMが務めた。こうして奥多摩駅に着くと、新入部員はA先生にザックの調整してもらい、東日原行きのバスに乗り込んだ。東日原に到着すると、準備運動をした後に、歩行を開始した。
蕎麦粒山の登りはヨコスズ尾根に乗るまでが急坂で、一旦尾根に乗ってしまえばそこから頂上の手前まで目立った急登は少ないことから、登山路の最初にして最大の正念場といえる。ここで心配はしていた通り、やはり脱落者が出てしまった。1本目を歩き始めて30分ほどで1年生のSが足を挫き歩行が難しくなってしまった。そこでA先生と一緒に東日原まで下山し、A先生はそこから私たちを追って登山していただくことになった。Sに関しては、今回は足の怪我での離脱となったものの体力不足の感が否めず、これから一層練習を積んでいってもらいたい。
Sの離脱によって残された1年生はここから驚異の力歩を見せる。コースタイムを上回るタイムで一杯水避難小屋に到達し、頂上の手前で小休止を取るなどの工夫を組み合わせながら、一気に蕎麦粒山まで登りきった。途中の休憩でFが靴擦れを訴えたが、それは新歓ならではといえよう。その他に特段大きな問題もなく頂上へたどり着いた。1年生に合わせながらの絶妙なペース配分はやはり教育係として1年生と共に練習をしてきたSの経験に裏打ちされているのだろう。
記念撮影を終え、昼食の用意をしていると、Sを下ろして追いかけていたA先生が合流した。あの急坂を2回も登ることのできる体力と常にワンゲルを考えてくださる姿勢には毎回頭が上がらない。こうして昼食を食べ終えた一同は、いよいよ魔物の棲む下山路へと向かった。
ここから日向沢ノ峰、曲ヶ谷北峰などのピークを数々跨ぎ、終わりの見えない下山に精神的にも堪える行程が待っている。しかし、そんな行程でも1年生は疲労の中、弱音をほとんど吐かずに耐えてくれた。CLのSも舟井戸に到着するまでに一度道を間違えそうになったが、それ以外は任された仕事をそつなくこなしていった。途中で巻道を用いるなどの細かな変更はあったが、当初の計画通りエスケープすることなく、15時30分過ぎに鳩ノ巣駅に下山してくることができ、その場で解散式を行った。
今回の山行は3年生として覚悟をもって臨んだ山行であり、2年生のSとKや1年生全員がその覚悟に応えてくれたとても良い山行だった。これは、当日の暑すぎず歩きやすい天候にも解散式でのA先生の話の短さにもよく表れているといえるだろう。とはいえ、夏合宿に向けて課題はある。それぞれが問題意識と向上心を持ち、体力と精神力の両輪で成長を達成していくことが重要だ。
これは余談だが、解散式が終わった後、鳩ノ巣駅前の休憩所にSを呼んで「今回のCLの出来栄えは何点くらいだと思う?」と訊いてみた。彼は「50点くらいですかね…」と答えた。私としてはもっと高くてもいいかなと感じたが、先輩の前で謙遜したのだろう。でも、そんな姿勢がSのいいところであり、そのひたむきな性格がこの経験を経て彼を決定的に成長させたことは言うまでもない。今回の経験で見聞きしたことや学んだこと、反省したことや成功したことを一つ一つ振り返り、私達が引退した後も、初心を忘れずにワンゲルの次代を担っていってほしい。
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《「稜線」第39号(2017年度)所載》
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