2014年 夏合宿 山行記

【前半】 筆者 Y・O (3年生)

 7月山行から中4日、いよいよ3年生にとって最後の山行である夏合宿を迎えた。今回のコースは、2年前の夏合宿と全く同じである。私としては、その時体力不足により途中下山という形になってしまったので、その雪辱を果たすことに燃えていた。また、ただ歩き切るだけでなく、最上級生となってしまった以上、できる限り後輩のサポートをしていかなければならない。楽しみでもあるが、そのようなプレッシャーも感じながら夏合宿当日を迎えた。

 今回は3年生のMが激しい足の痛みのため、2年生のHが体調不良のために山行を断念せざるを得なくなってしまった。特ににとっては最後の山行なので残念だったと思うが、ここはゆっくり休んで、しっかり完治することを願うばかりである。


7月26日 〈1日目〉 
晴れ

 集合は新宿駅にて7時であった。皆5分前には集まっていたので特に問題はなく良かったと思う。そして特急あずさ3号に乗って終点の南小谷駅まで向かう。しかし、この列車は新宿始発ではないため、早くから並んで待っていても、着席は甲府駅まで不可能であった。しかも途中の豊田駅にて人身事故が発生し、そのため約29分遅れてしまった。でも、私は事故の処理がたった20分で終わることが逆にすごいと思う。どうも中央線は人身事故が多い気がする。復旧が早いのも慣れてしまったためであろうか。

 だが、この20分の遅れのために南小谷駅で乗り換えるはずであった列車が待たずに行ってしまい、2時間以上待つ羽目になってしまった。20分の遅れで2時間以上待つこととなるとは……。仕方なく皆駅の待合室やベンチで昼食をとったりして待った。そして大糸線に乗って、平岩駅に向かう。そこから1時間程バスに揺られ、幕営地である蓮華温泉に到着した。私は、バスの中で寝たり起きたりを繰り返していた。

 予定では13時20分頃に着くはずであったが、結局バスを降りたのは16時近くであった。もう集合してから9時間近くたっており、長い道のりであった。着いた途端、そういえばこんな感じであったなと、2年前の記憶が一気に蘇ってきた。今度こそは、最終日、ここに帰ってきて温泉に入るぞ、と再び決意を新たにしたのであった。

 時間がないのですぐにテントを立て始める。この時点でテントに不備はなかったので一安心する。もし何かを忘れたりしたらこの先4泊大変なことになるからだ。やはり、事前に皆で装備を点検しておいて良かったと思う。

 そして、休む暇なく夕食の支度を始める。メニューはカレーである。新歓山行の時にも作ったが、その時は水が多すぎてスープカレーのような感じになってしまったので、その反省を生かして水の量を少なめにした。そうしたらちょうどいい味となり、毎度のごとく炊飯もうまくやってくれたので、とても美味しくいただけた。これからどんどん食事も質素になっていくので、初日にこのような美味しいものをいただけたことはとても良かったと思う。

 あたりを見回してみると、奈良県の高校でおそらく何校か合同で来ているパーティーがいた。彼らは明日、白馬大池山荘には泊まらず一気に頂上宿舎まで行くのだという。結構大変であると思うが、彼らにも頑張ってほしいと思った。

 そして、ミーティングを済ませて20時に就寝する。列車が遅れたりと、ハプニングはあったが、それ以外には特に問題はなく、明日からの歩行を頑張ろうと思いながら眠りについた。



7月27日
〈2日目〉 雨のち晴れ

 朝の4時、アラームの音で目覚める。床が草でふわふわになっていたのでとても寝やすかった。朝食のラーメンを各テントごとに作り始める。ちょっとスープの量が少ないかと思ったが、特に気にせず流し込んだ。

 水汲み等を済ませて、5時15分に撤収を開始する。皆協力してテキパキと終わらせて出発しようと思ったその瞬間、なんと雨が降り出してしまった。通り雨だと思って少し屋根のあるところで待っていたが、一向に止む気配はない。一時間程待機した後、仕方ないので、雨具をつけて歩き始めた。

 最初の歩行からこうだったので、この先天候はずっと悪いままなのかと不安になりながら登って行った。ましてや頂上宿舎まで行く奈良県の高校のパーティーはもっと不安に駆られていただろう。しかし、今日の歩行はまだほとんどが樹林帯の中だったので、まだ雨でもなんとかなった。これが明日からの森林限界上での歩行だったら停滞であったかもしれない。

 2本ちょっとで天狗の庭に到着した。晴れていたら、これから行く雪倉岳や朝日岳の眺めが素晴らしいそうだが、雨のためほとんど何も見えず、残念だった。

 そこから1本半で幕営地である白馬大池山荘に到着した。雨と風が強いので、まとめてやるのではなく、皆で1つずつのテントを順番に立てていった。そして、立て終わると、天候が悪いことや、これまでの疲労を考慮して、乗鞍岳へのピストンは中止と決定された。

 テントごとで昼食のサンドイッチを食べていると、なんと、今までの雨や風が嘘のように晴れはじめた。歩行中だけ雨が降るなんてついてないなと思いながらも、明日以降の天気に希望を持てるようになった。さらに、濡れた雨具やシャツを干すことができたので良かった。

 2年前に来た時も思ったが、ここの幕営地はとても景色が良い。高山植物のお花畑や雪が残っている山の姿、つい目を引かれるものばかりである。機会があればまた来てみたいと思える場所である。

 ピストンが中止となったことで、かなり時間が余ったので、トランプやウノをしたり、睡眠をとったりと、各自思い思いの時を過ごした。私自身、30分程昼寝をしたのだが、これ程気持ち良かったと思えるのは久しぶりであった。

 16時から夕食の麻婆春雨とわかめ入りみそ汁を作り始める。当初の予定ではハンバーグであったが、保存があまり効かないということで変更された。昨日のカレー同様、美味しくいただくことができた。麻婆春雨はあたりだったと思う。

 そして、ミーティングを行い、19時に就寝する。明日は晴れますようにと願いながら、眠りについた。


【後半】 筆者 I・D (3年生)

7月28日 〈3日目〉 晴れ

 ワンゲルでの最後の山行である夏合宿。これはワンゲルでの活動の集大成である。私は主将としてまたCLとして、なんとしてもやり遂げようと心の中で誓っていた。一昨年に同じコースを行っていたが、荷物の重さも全然違うし、先輩についていくのと先頭に立って登るとでは全く違うものであるので気を抜けない。

 今日はこの夏合宿のメインである白馬岳に登る日である。気を引き締めて登らなくては。2日目より1時間早く起床。今日の朝食はスパゲッティであった。いつも通り朝食を食べ終えて撤収準備に入るところなのだが、私だけは違っていた。今までずっと朝食の麺類がきついと思っていたが、今回はついに残すことになってしまった。朝食は1日の行動の活力源なのでちゃんと摂らなければならない。今頃になって普段の食生活を考える必要があったなと思った。

 朝食が終わり、撤収をして出発した。左手に見える白馬大池に別れを告げ、少し速いペースで順調に登っていった。小蓮華岳を越えて、2本で三国境の少し前まできた。

 この白馬大池から白馬岳への道は人気があって登山客が多い。そんな中自分らは少し速いペースで行っていったので、何度か他の登山客を抜かすことがあった。そこで靴紐の結び直し等で一旦止まることがあったことで、抜かしたり抜かされたりして他の登山者に迷惑をかけてしまった。自分達にも言えることだが、ペースが乱れると余計に疲れてしまう。緊急でない限りできるだけ途中で止まらないようにしてペースを一定に保つようにしたい。

 そんなところで出発してから3本で白馬岳に着いた。この日は昨日とは打って変わり良い天気であったので、標高が2932mなだけあって周りの山々を一望できた。なかなか味わうことのできない絶景であった。しばし景色を堪能した後、キャンプ地である白馬岳頂上宿舎まで下り、大きな岩がゴロゴロ転がっているようなキャンプ地でテントを張った。

 そこで昼食を摂ってから、杓子岳のピストンに出発した。サブザックなので楽だと高を括っていたら、結構きつかった。何度も登り下りを繰り返し、最後にガレ場の急登を登り、杓子岳に着いた。途中私が全く違う所を杓子岳と勘違いしたりしたが、なんとか一本で登り切れた。頂上で眺めを見た後、少し速いペースで頂上宿舎まで戻ってきた。

 その後はもはや合宿でお馴染みとなったカードゲーム類に興じたり、休養を取ったりと自由に時間を過ごし、適当な時間に夕食作りに取り掛かった。

 今日の夕食はお茶漬けだった。お茶漬けの素とお湯を入れるだけなので楽であったが、炊飯係は責任重大である。ここの宿舎は標高が2700m越えとかなり高いため、うまく炊くのはなかなか難しい。少し時間がかかってしまったが、ちゃんと炊けていた。

 夕食を食べ終わった後ミーティングをして、18時半に就寝した。今回の山行でエスケープできるのはここから大雪渓を通って猿倉に行くルートしかないため、調子が悪い人やきつそうな人はここで下りるしかない。一昨年は2人エスケープして5人になってしまい寂しかったが、今回は12人全員で行けそうであった。



7月29日
〈4日目〉 晴れ

 この合宿で体力的にも精神的にもきつい4日目である。ここを乗り切れば合宿も大詰めであるので、気合を入れなければならない。

 白馬岳頂上でご来光を拝むため、昨日よりさらに30分早く起床。とてもいい天気で、天の川が見える綺麗な星空であった。朝食のカレーうどんを食べ、撤収をして4時過ぎに出発した。ゆったりとしたペースで登っていき、頂上に着くとご来光を待つ先客が大勢いた。到着して少しするとついに太陽が顔を出した。昨日に引き続き今日も快晴であり、言葉が出ないほどの絶景であった。来た甲斐があった。

 しばらく景色を眺めたり写真を撮ったりした後、再び出発した。三国境で一度休憩をとり、次なるピークの雪倉岳に向かった。途中何度か雪渓をトラバースするところがあったが、先頭を行くというのはなかなか難しいことがよく分かった。あまり足跡が残ってないと普通に滑る。登山靴を突き刺すように進んでいったが、両手を雪渓について渡る始末であった。先生が見兼ねて次からは雪渓は先生を先頭にすることになった。

 長い雪渓を渡った所で休憩を入れ、雪倉岳を登った。登頂するとここでも良い景色であった。今回の山行は本当に天気がよくて、去年の夏合宿とは大違いである。

 しばし休憩を取り、最後の関門である朝日岳に向かった。途中で昼食を挟み、どんどん進んでいくと、木道へと辿りついた。木道の周りには美しい湿原が広がっていたが、この先に待ち受ける朝日岳のことを考えるとあまり景色を楽しみながら歩くということができなかった。

 ほどなくして水平道分岐に着いた。途中ですれ違った人の言っていた通り、水平道は残雪で使えず、朝日岳を登ることになった。分岐で休憩を取り、英気を養った後、朝日岳を登り始めた。やはりかなりの急登できつかった。ゆっくりと一歩ずつ登っていったが、全く終りが見えない。時間になり休憩を取って、再び登り始めてすぐに、Oが腹痛を訴えた。何が問題だったのか分からないが、心配である。しばらくして木陰から戻ってくるともう大丈夫そうであった。日程が長いだけあって消費期限がギリギリなのも多いだろうから、お腹の調子を気にしなくてはならない。

 その後、再出発してから、あっという間に頂上についてしまった。ゆっくり登ったはずだったが、意外と速いペースで登っていたらしい。頂上は若干雲がかかっていた。私は見ることができなかったが、雲の切れ間から一瞬虹が見えたらしい。朝日小屋まであと少しなので、休憩を少し取った後、すぐに出発した。

 下りの道はなかなか長く、途中雪渓もあったので、結構時間がかかった。下っている途中、朝日小屋の方から声が聞こえたが、着いてみるとそこには中学生がたくさんいた。おそらく学校の行事で来たのだろう。私たちが幕営を終えてゆったりしていると、中学生の団体がどんどんやってきた。話によると100人来るらしく、夜うるさくならないか心配であったが、どうやらその団体も朝早く起きるらしいので大丈夫であった。

 夏合宿最後の夕食は恒例のレトルトである。3日目と同じく炊飯係の腕にかかっているのだが、上手く炊けていた。本当に炊飯係には脱帽である。炊飯係の皆さん、おいしいご飯をありがとう。

 最後の夕食を美味しくいただいた後ミーティングなのだが、ここで問題が判明してしまった。5日目の朝食はジフィーズなのだが、半数以上がジフィーズでない雑炊などを買ってきていたのである。作り方もお湯をかけるものやお湯につけるもの等、バラバラであった。この問題の原因は、皆でまとまって買い出しに行くのではなく、個人で分担されたものを買うというスタイルである。先輩方はちゃんと皆で買い出しに行くスタイルでやっていたのにもかかわらず、自分たちが勝手に個人で買い出しに行くスタイルに変えてしまった。これからはちゃんと皆で買い出しに行くようにしなければならない。

 この話を含めミーティングが終わった後、余裕をもって明日の行程を終えるために、早めの18時に就寝した。



7月30日
〈5日目〉 晴れ

 ついに合宿も大詰めである。4日目が正念場であったが、この最終日もなかなかきつい行程だ。最初と最後にある登りが鬼門である。

 この日も綺麗な星空だった。時間が惜しいためさっさと朝食、撤収を済ませて3時半前に出発した。下るときに長いと思ったが、登りになるとさらに長く感じる。

 なんとか1本で頂上に着いたが、ここで中学生団体の登場である。休憩をしているとどんどん中学生が登ってくる。流石に出発しようにもできない状態だったので、最後尾が来るまで待っていた。やはり早めに出発しておいて良かった。登る時間が重なっていたら大変だっただろう。

 最後尾がようやく到着したので、朝日岳を下り始めた。雪渓やぬかるんだ道があったが、2本で花園三角点についてしまった。そこからの長い木道は、湿っていたら滑りやすくて危険だが、乾いていたのでなんということもなくものすごい速さで下っていった。10時10分のバスに間に合いそうなぐらいであった。最終日は今までの疲労が溜まっており、さらにこれが終われば帰れるという気の緩みからけが人が出ることが多い。最も慎重に行かなければならないのにもかかわらず、こんなペースで行ったのは流石に問題である。私がCLをやることはもうないので、これからCLをやる1、2年生はこの反省を活かしてほしい。

 結局1本で白高地沢まで来てしまった。あともう少しで蓮華温泉に着くのだが、初めに言ったとおり、最後に登りがある。まだまだ気を抜くことはできない。白高地沢の橋の手前で休憩を取り、再び出発した。ゆっくりと登り下りを繰り返してなんとか1本で瀬戸川まで辿りついた。ここまでくると疲労もピークに達している。だがしかし、蓮華温泉にたどり着くにはまだまだだ。頑張ってあと1本乗り切らなくてはならない。最後の休憩を取り出発した。

 やはりきつかった。登りがあることはわかってはいたが、やはりきつい。もう登りは終わりかと思ったらまだ先がある、終わりが見えない地獄のような登りが延々と続いた。やっと兵馬ノ平に着いて一息つくことができた。美しい湿原でいくらか疲れが和らいだ。

 しかし、ここを抜けるとまたしても登りであった。もういい加減にしろと心の中で思いながらも、ゆっくりと一歩一歩進んでいく。ついに分岐のところに着き、あと少しなので休憩を入れずに蓮華温泉まで一気に行くことにした。懐かしの蓮華温泉キャンプ場を通り過ぎ、蓮華温泉に辿りついた。感無量であった。

 ささっと解散式をやり、長かった夏合宿は終わった。結局10時10分のバスに間に合ったのだが、流石に疲れたので、ゆっくりと温泉に浸かり、次のバスに乗ることにした。

 今回の合宿は今までの山行の中で一番だったと思う。天気はほとんどが快晴でとてもいい景色が見られ、行程に大きな問題もなく、全員で無事完走できた山行なんて滅多にないものだろう。

 私たちは1年生の時から問題を起こしてばかりで、天気が悪いことも多かった。しかし、最後の最後でこんな良い山行ができたということは、私たちワンダーフォーゲル部の本当の実力と日頃の行いの良さが出たのだろう。最後の山行をこのような形で終えることができてよかった。私たちはこの夏合宿を一生忘れないだろう。



《「稜線」第36号(2014年度)所載》



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