2011年 秋季第1回山行 山行記

筆者 Y・K (2年生)

 夏に山に行って以来はや2ヶ月。不安がないと言えば嘘になる。今回は初CLにして更に天気は雨の予報。そうは言っても久々の登山と紅葉に期待せずにはいられない。……というわけで雲取に往きます。

10月29日(土) 〈1日目〉 快晴

 雲量ゼロの完璧な快晴が大変心地よい。絶好の登山日和である。我々は学校から西武線、JR、バスと延々西に行き、東京都最奥の地に至るわけである。集合こそギリギリだったが、問題なく奥多摩駅に着き、バスもお祭まで快走。青梅線の車窓はさすがに色づいていなかったが、バスからの奥多摩湖はぽつぽつ明るい木々を映していた。なかでも目に付くのが、正面に聳える御前山だ。奥多摩三山というだけあって、なかなか端正な姿をしている。

 お祭からはひたすら後山林道を三条の湯まで登るだけである。舗装された林道は足が痛むので敬遠したいところだが、この林道は砂利が敷かれているだけなので足取りも軽い。早速林道に入ると、紅葉の始まりが出迎えてくれた。

 実はこの山行、当初は先週行われる予定だったのだが、関東甲信越120mmという雨で今週にずれ込んでしまった。そのため日没が8分早まった。たった8分かもしれないが、バス停に着いた時点で日没まで残り1時間という場合割合貴重な長さだ。しかも初CL。要するに不安だった。ましてまともなヘッドランプ行動をしたのは、今年の夏合宿だけである。そのような背景もあり少し早めに歩いたが、当然虚しく日没。ここから2時間ヘッドランプだけを頼りに進むことになるのだが、砂利の白さは暗くても視別でき、迷うことはなかった。今考えると、そもそも一本道の林道を迷うことができるわけがないのだが。

 林道が終わると本格的な登山道だが、崖の中腹につくられたこれまた一本道で、さくさく進める。こうしてみると、夜の登山道というのもなかなかいいものだ。時折ヌッと現れてはスッと溶けていく人1人ではとても抱えきれないくらいの巨木は、ここが山梨の森百選に選ばれているのに十分頷ける貫禄であった。生憎雲取山の真上は飛行機の航路になっており、ジェット機の音だけが夜の静寂(しじま)の饒舌に水を差すのであった。

 そんな真っ暗闇では灯りは大変目立つもので、かなり遠くから三条の湯らしき灯りを見ることができた。ただしこの灯りはテント由来のもので、突如現れた小屋本体の圧倒的な光量には驚かされた。私は正直、失礼な話だが、延々と続く林道の最果てにある上、山頂までも同様に遠いこの小屋はもっとひっそりとしているものだと思っていたのだが、まったくそんなことはなかった。

 幕場の方もテントで埋まっており張れるかどうか不安だったが、若干の傾斜部になんとか土地を確保。お隣のテントの方、すみませんというくらいの近さだった。というわけで幕営を始めるが、暗いうえ部員も少なく、多少時間がかかる。

 張り終わるとすぐに食事の支度を始める。今日の献立は当初夏合宿で作るはずだった春雨とお麩の麻婆豆腐の素和えである。こう書くと実にまずそうだが、しっかりと味が付いて悪くはなかった。ただし春雨の一人勝ちだったが。お麩は水の味しかしないし、出汁用に入れたスルメイカと桜エビも仕事をしない。しかしこの乾物だけを使った料理は長期登山にも向いているので是非育てていきたいものだ。

 さて、食べ終わった段階で8時、明日に備えて寝る準備をする。テントから顔を出すと、上空では無数の星が瞬いていた。こうして星を見るのも久々であり、この夜は安眠に至ったのであった。



10月30日(日) 〈2日目〉 曇り

 雲のおかげか、あまり寒くない朝の4時半。早速ラーメンを作り始める。わが部活においては大変悪名高いラーメンだが、いざつくってみるとそうでもない。朝食のスープをこんなにおいしく飲めたのは初めてであった。これが海老の力なのだろうか。

 朝食後、撤収を開始。やはり2人だと時間がかかる。そして出発。実は幕場と小屋とはかなりの標高差があるのだが、今回はテントの中にしかいなかったのでこの立派な小屋の全容をほとんど掴めなかった。温泉もあるらしいのでいつか機会があれば来てみたい。

 それはともかく、雲取山を目指していく。小屋周辺もすでに色づき始めていたが、登るにつれ徐々に深みが増していく。CLは前方の景色を独り占めできるため、これからの900mの登りも辛いものではなかった。

 しばらく樹林帯の中を進んでいくのだが、一度だけ森が開けるところがあり思わず写真を撮る。しかしこの景色はまだ序の口のものであった。さらに上に行くと葉はますます色合いを増していき、紅葉真っ盛りという道を歩く幸運に恵まれた。

 そのような道は落ち葉で敷き詰められていて、歩くと音が鳴る。道中、私達の他にずいぶん派手に音をたてる者がいるので誰かと思いきや鹿であった。そういえば地面をよく見てみるとドングリが落ちている。この辺りはずっと広葉樹林であるから、野生動物も食糧には困っていないのだろう。

 さらに標高を上げていくと、木々は葉を落とし始める。落ちてからあまり日が経っていないらしい葉は、紅葉の面影を漂わせている。色は赤よりもさらに濃い、紫といえるもので、これもなかなか趣深い。

 落葉絨毯の道を登っていくと、紅葉の主役は広葉樹から針葉樹へと変わっていく。唐松が見え始めると、雲取山も近い。案の定すぐに三条ダルミである。ここで、遂に富士山登場。大菩薩嶺を前衛に、雲を漂わせ、水墨画のように美しい稜線を空に描いている。この雄姿を見れば、日本人がいかに富士山に傾倒するかが誰にでもわかるだろう。

 三条ダルミからは最後の一登りである。200m以上を登るなかなかの急坂で堪え時であったが、しばらくすると木が切れ、青空が見えてきた。

 山頂である。目の前に弧を描く石尾根、そして右手には富士山。空を彩る唐松に、連なる奥秩父山塊と三方に開ける視界に大満足である。さらにまさか雲取で見られるとは思っていなかったが東京・神奈川方面には雲海が広がっており、島のように顔を出す丹沢の山々も素晴らしかった。

 そんなわけで山頂で昼食にする。様々な山を眺めながらのお昼は最高であった。寒かったが。昼食後も、しばらく景色を堪能する。雲が出ている割に南アルプスもちゃんと顔を出す本当にいい景色であった。

 下山ルートは、小雲取山から富田新道、日原林道そして東日原というコースである。雲取山から小雲取山までは唐松が綺麗で道も広くなだらか、さらには景色もいいという三本揃いの気持ちのいいコースであった。小雲取山は雲取山の弟分のようなものかなと思っていたのだが、ただの分岐点のようである。

 小雲取山からの富田新道も、急激なアップダウンのない歩きやすい道であった。ただ、「新道」というだけあって歩く人も少ないらしく、笹や落ち葉に道が覆われている。私達も順調に下りていけたのだが、途中で道が尾根から急に北に外れ、これは地図と違うではないかという話に。リボン等道の痕跡はあるのだが遭難しては話にもならないため、一度引き返す。しかし結局問題なかったようで、下りて行くといつの間にかまた尾根の上に戻っていた。

 尾根はぐんぐん高度を下げていき、再び紅葉ラインの中を歩くことに。広葉樹の織りなす複雑な色彩に心を奪われていたらしく、気づくと日原林道にいた。こちらは残念ながら舗装されていたが、標高が低いにもかかわらず色づいている木々も多く、また脇を流れる日原川の力作の渓谷も綺麗で気持ちよく歩ける。

 八丁橋まで来ると、巨岩群が目に飛び込むようになってきた。このあたりは石灰岩が多いらしく、浸食に強い石灰岩がこのような巨岩を形作るのだそうだ。道理で鍾乳洞、鉱山がたくさんあるわけだ。そして空に突き刺さる巨大な鋭角、稲村岩が見えたらそこはもう日原である。

 バス停には一番乗りだったが続々と人が降りてくる。皆、天気予報に裏切られ大満足の面持ちだ。私も初CLを無事終え山行としても楽しむことができたので、青梅線では夢の中であった。


《「稜線」第34号(2012年度)所載》

▲2011年度の山行一覧に戻る▲

△以前の山行・目次に戻る△

■ワンゲル・トップページに戻る■