2007年 6月山行 山行記

筆者 K・M (1年生)

 山はどこか洗練されている。
 日々、街の喧騒と人ごみに溶け込んで生活してる自分にとって、雄大な自然と清涼な空気しか存在しない山はある種の聖地と感じられる。これが自分がワンゲル部に所属している最大の理由だと思う。

 今回の山行は1泊2日の至って普通なものである。「合宿前の重要な山行だから歩き甲斐のあるコースにしよう」ということで歩行時間が前回の大菩薩嶺の時よりも1時間以上長くなっても、前日の深夜までレポートと格闘していても、当日の僕が期待に胸を膨らませながらザックを背負っていたのは、やはり人よりは山が好きなのだからだろう。



6月16日 〈1日目〉

 授業が終わり、朝の憂鬱な気分から心機一転。T君とザックを背負ってスーパーへ直行する。夕食となるしゃぶしゃぶの肉を買うためである。そして、肉を買って集合場所へ。着いたときには既に他のメンバーは揃っていた。

 予定より早い電車に乗り、新宿で乗り換えて新松田駅で降りた。ここからバスで西丹沢自然教室へ向かい、5分ほど歩いて奥箒沢山の家に到着。今夜はここで幕営する。

 今回の食事の担当は炊飯であったが、役立たずだった僕は殆どK先輩の作業を見ているだけだった。最後に、材料を入れた鍋を煮込んで夕食のしゃぶしゃぶが完成。とても美味しく、ご飯もいつもより多めに4杯食べる。途中でしゃぶしゃぶから鍋に改名することになった。

 食事も終わりミーティングを行ってからテントへ。そして、各々で寝袋を敷くときにA先輩がささっとマットを敷いて自分の寝床を確保する。このとき僕は共同生活の厳しさを知った。寝床は分け合うのではなく、奪い取るものである。この事実を心に刻んでおく。そして就寝する。初めの頃は寝付けずテント内でしりとりをしていたが、直ぐに自然消滅。潔く寝ようとするが、1つのテントに7人も入るとさすがに狭い。ザックも中にあるとなると尚更である。足を折りながら固いザックを枕にしたのでは寝付けず、上半身をザックの上へ。意外な心地よさに驚く。そのおかげでなんとか寝たが、何回も起きてしまう。ようやく安眠を得たのは日付が変わってからだったと思う。



6月17日 〈2日目〉

 草木も眠る午前2時、そんな時間からワンゲルの1日は始まる。朝食のぺペロンチーノを頬張る。香辛料の効いた味が学食の七味唐辛子を連想させ、下界に帰ろうという気持ちが強くなる。テントの撤収を終え、準備運動としてラジオ体操をで……きなかった。A先輩から初めに声を出す役に指名されたが、体育の授業でまじめに覚えていなかった為グダグダになる。これからは真面目に覚えておこうと思う。

 何とかラジオ体操も終わり、いざ出発! この時の時間は3時半頃だった。最初の1本はヘッドランプを点けながら車道を歩いていく。日が出ていないためか少し肌寒い。日が出れば暑くなるだろうと思い歩き続ける。

 ひたすら平坦な道にそろそろ飽きてきた頃、ゲート前に到着。ここから分岐し犬越路を目指して登っていく。山道を登っていると「山に来てるのか」という充実感に満ちてくる。ザックの重みや登山靴の感触は1カ月ぶりとは思えないほど懐かしいものだった。

 しかし、この感覚も犬越路で休憩を終えてからは、段々と辛くなっていった。少し登っては平坦な道を歩き、また登っていくことを繰り返していくからである。本当に山頂があるのかと思いつつも、足を進めていく。

 そして、何度目かわからない登りを終えて遂に山頂に到着。ザックをと下ろして休憩をとる。日も出ていて、気持ちがすっきりとした。登りきった充足感に満たされながら行動食を頬張る。下界の時よりも格段にうまい。十分に疲れが無くなった頃に休憩が終了。これからは下界を目指して山を下っていく。登る時よりも足に負担がかかるが、体力的には楽だったのでハイキング気分で周りを眺めながら進む。

 日も高くなり、加入道避難小屋で昼食をとる。内容はホットドックとチーズであった。芋虫が降ってくる状況下で僕はパンに注意を払いながら食べる。パンの直ぐ近くに芋虫が降ってきたときの感覚は忘れられないものになるだろう。

 昼食で体力を回復し、先へ進む。残りは下りだし余裕なのではと考えていた僕は周りの景色を楽しみながら進む。けれど、畦ヶ丸へ向かう途中で僕の甘い予測はいとも簡単に砕かれた。下りの途中での登り、これは精神的に1番キツイ。30分という短い時間で疲れ果ててしまい、自分の根性の無さと石神井公園でもっと体力をつける必要性を感じた。

 畦ヶ丸を越えた後はまたのんびりと進んでいく。そして最後は沢の近くを通りながら目的地の西丹沢自然教室を目指していく。街の溝川とは比べるまでも無く澄んだ水が流れる沢とその音。最後での感動もまた忘れられないだろう。

 そして西丹沢自然教室に着いてからは解散式を行って、今回の山行は終了。横浜駅で迷うことやザックに潰されながらバスに乗ることになるのも知らない僕は新松田駅へ向かうバスの中で眠りに落ちていた。


《「稜線」第29号(2007年度)所載》


大群山山頂

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