2005年 新歓山行 山行記
|
筆者 K・N (2年生)
|
|
5月3日 〈1日目〉
その時、私は眠りから覚めた。「どこだ?」あたりをきょろきょろと見渡す。……どうやら国分寺まで来たようだ。それにしても電車で立ったまま眠りにつくというのは、何年ぶりであろう。ふと、反対側の開いているドアに向くと、子供たちが車内に入ってきた。ドアの硝子に反射した彼らの姿を、私は見つめた。彼らは私のザックに興味があるらしい。彼らのつぶらな目にとって、私の非日常的なザックの大きさは、さながらウルトラマンがコテンパンにする怪獣にでも映るのであろうか。……まぁ、いいさ。今の私は、こんなことで己の恥を感じる人間ではないのだ。光陰矢のごとし。もう2年目。
集合場所の高尾駅に着くと、T先輩とY、そして今回がワンゲルでのデビュー山行となるAが視界に入った。5分ほど雑談をしていると、向こう側のホームからK先輩が姿をあらわした。(ちなみに今回、Tは別の用事によりお休みである。)
8時43分発の電車に飛び乗れば、ここからは手馴れたもの。小淵沢までの道のりは慣れている。乗車している3時間強の時間を、私達は「全て」トランプに費やした。
小淵沢でF先生とA先生に合流。F先生が校外学習の仕事の関係で自宅に戻られるとのことだったので、ここから先はA先生と行動することに。
小海線の車内はGWの影響か、異常に混んでいる。混雑する車内に身をゆだねること1時間、電車は小海駅に到着した。
そこから長者の森までタクシーで行くのだが、そのタクシーの運ちゃんが強烈だった。
改札を出るなり「ようこそ、ご一行様ぁ!」と歓迎の気持ちを言葉いっぱいで表現する。タクシーに乗っても、車内でこのあたりの名所の観光案内をこなす。まさにヤル気まんまんだ。「えぇー、ここが村役場でございます。」「川沿いに釣り人がおりますね。」「えぇー、これが……。」こうしてアナウンスをしている間にも、彼は遅い軽トラが前を走っていると見るや、一気にアクセルを踏みどんどんと追い抜いていく。対向車線などおかまいなし。S字カーブも右へ左へと軽快なハンドリングを見せつける。彼は今、最高のドライビングプレジャーを感じているようだ。思い出をありがとう、小海タクシーのKさん。
さて、長者の森に無事到着し、さっさと幕営。新入生のAもボーイスカウトを経験しているだけあり、かなり手際が良い。あえて教えることもなくできてしまった。……ちょっとサミシイ。
今日の夕飯は久しぶりにカレーとした。カレーと言っても今回はシーフードカレーだ。シーフードはもともと八宝菜用のものだったので、カレーには明らかにそぐわないものも入っていたが、結果として美味しくできたのでよかった。
気象係のT先輩によると明日はかなりいい天気らしい。明日の展望を期待しつつ、眠りに入る。
5月4日 〈2日目〉
午前3時半。Aの携帯にセットしておいた、着信メロディーで目が覚める。……ほとんど眠れていない。今までのワンゲル生活のなかで、一番眠れていなかったのではないだろうか。私の横で「いゃー、よく寝られたわ。ノンレム(睡眠)いったかも」とさわやかに話すYに妬ましい視線を一瞬おくると、私は朝食の準備に取り掛かる。
朝食はおしるこ。特に問題もなく、美味しくいただく。これもすっかりワンゲルのおなじみのメニューになった。
撤収も今回はかなり速い。予定の15分前には撤収を完了してしまった。
長者の森を出発し、登山道に入る。階段が多く、かなりつらい。結局、尾根に乗るまでの1時間強、ほとんど階段を登る羽目になってしまった。きっと設置しているほうは良かれと思ってやってくれているのであろうが、登山者としてはこのような無駄な設備投資は慎んでいただきたいものである。
尾根をひとしきり登ると、見晴台が木の枝の間から姿を見せた。なかなか良い展望であったので、小休止をとることにする。Aも先日新宿で買ったカメラを片手に、被写体を追っている。カメラを趣味とする私にとって、このような部員が増えることは喜ばしいことこの上ない。
見晴台から山頂まではそれほど苦労せずに到着できる。ただ、この区間は小枝がかなりうるさく、非常に歩きにくい。また、途中にちょっとしたヤセ尾根が点在している。山頂直下の登り返しもややきつい。それ以外は、あまり印象がない。
最後の登りを越えると避難小屋が現れ、その裏が山頂だ。
山頂は細長く、岩場になっている。すでに先客が何人かいるようだ。あたりは360度の大パノラマ。まさに「頂点を極める」という言葉が良く似合う。そしてこの瞬間、見事にA先生のジンクスは解消された。部員全員でこれを祝福し、記念撮影を済ませると昼食をとることにした。いつもの菓子パンとコーンスープ、そしておやつサラミである。
時間に余裕があると言うことなので、かなりゆっくりと休憩をとってから、栗生へと下山する。山頂から少し下ると、クサリ場の急斜面があり、年配のパーティーが次々と息を切らせながら登ってくる。登ってきたおじいさんに学校名を聞かれたので、答えると「おお、早稲田の方かい? じゃあ、これからよろしく頼むよ」と一言。まだまだ早稲田は一般の人からも信頼されているのかと思うと、ちょっぴりうれしく思えた。
途中の休憩ですこしペースが遅いとの指摘が出たので、少し速めることにした。その時のK先輩の「じゃあ、本気でいくよ?」という言葉が、妙にコワかった。
K先輩の気合注入の効果もあり、それからのペースはかなりいいものになった。
栗生に下山した私達はそこからタクシーで小海駅に向かう。小海駅前のタクシープールには行きにお世話になった、小海タクシーのKさんがいた。こっちを向いて、タクシーの窓から親指を立てている。なんとナイスガイなおやじさんであろう。
帰り道、ワンゲルご用達の「甲斐大泉パノラマの湯」へたちよる。(詳しくは、私の拙文「千露里庵滞在記」をご覧あれ。)これまた館内は異常な混雑ぶりであったが、クサイ体で帰るよりはずっとマシである。我慢して入ることにする。
こうして終了した2005年の新歓山行であるが、今振り返ると非常に内容が濃いものであったように思われる。きっとAにも、満足してもらえたに違いない。
帰りの車内。自己満足に浸っている私に、風邪のウィルスは刻一刻と私の体を蝕んでいたようだ。翌日、私は高熱を出してダウン。体温計を見る。38度。欠席1……グスン。
|
《「稜線」第27号(2005年度)所載》
|
|