チャ ファミリー

チャ

チャは、コシロと茶色の猫の間に生まれた。チャが産まれた時には、コシロは既にこの世にはなく、母親の茶色の猫から、冬でも大学の教室の窓から講義を聴くように言われ、厳しい教育を受けた。頭は良かったが、コシロのような天才猫ではなかった。茶色の猫の遺言で、ココと一緒に香奈の家に行き、香奈の世話になった。努力と経験を積み重ね、大きなお不動さんの後押しもあり、やがてスイスカナコインの基礎を作る事になった。性格は温厚だが、リスクの高い取引を好んでいた。大量、一気の成行き売買をよくした。香奈と同様に、注文桁数を間違える癖があり、それが大儲けを結果的に招いてきた。

チャはおとなしい温厚な猫だった。猫にしては頭が良かったが、それでも普通に育っていれば、単なる賢い猫で終わっていた。それが母親の茶色の猫の厳しい教育方針で、早くから高度の教育を受けさせられた。香奈の家に来て、香奈の世話を受け、恩返しのつもりで取引も一生懸命、勉強した。水が好きだったので、水を飲む内に、どんどん頭が冴えてきた。大きなお不動さんの手助けもあり、取引は上手くいった。チャは更に勉強した。どんどん儲かった。香奈は喜んでくれた。鯛の活け造りやカニの足もくれた。チャは香奈の喜ぶ顔が見たいので、尚も頑張って、勉強した。鯛やカニの身にも魅力はあったが、香奈の笑顔が見たかった。猫は儲けたとしてもどんな事も出来ない。銀座に遊びに行ったり、変なクラブで楽しんだり、若い姉ちゃんを連れ歩く事も出来なかった。ただひたすら、香奈の笑顔が見たかった。香奈は猫には優しかった、忙しいので、世話はお手伝いさんに頼んでいたが、同じ時期に産まれたココと一緒に大事にしてくれた。ココもチャも香奈と一緒にのんびりするのが、喜びだった。

チャは、伝え聞く父親のコシロのような天才猫ではなかったが、精一杯努力した。思わず長生きをして、結構いい歳になって、初めて猫が好きになった。ココと一緒に夜遊びもした。子供いや子猫も産まれた。真っ白な猫と自分とそっくりの茶色の猫だった。猫の雄は、子供いや子猫に無関心な事が多いが、チャは自分の生きた証と可愛がっていた。しかし母親の猫は産後直ぐに死んでしまった。敷地内では、高齢でも、みんな元気だったので、まだ若い奥さん猫の死に、チャは慌てた。偶々通りがかった奈津美に必死に訴え、なんとかお葬式を出した。子猫は引き取った。香奈も黙って世話をしてくれた。人間でも父子家庭は少なく、猫ではもっと少なかった。香奈は牛乳を子猫のために用意してくれた。チャも頑張って育てた。二匹の子猫は、チャと違い、香奈以外の人間にも人懐こい猫で、頭もよく、すくすく育った。二匹の猫は色々と勉強もして、パソコンにも詳しく、経済にも詳しかった。チャは取引以外、教えられる事もなかったので、取引の基礎から、二匹の猫に教えた。二匹の猫は、取引については、やたら詳しくなった。成長すると、真っ白な猫は素直な猫に育ち、チャに似て温厚な猫になった。しかし、茶色の猫はぐれた。なんで猫に産まれてきたんだよ。俺は産んでくれと頼んでいないよと言った。チャはそれでも優しく、茶色の猫に接した。茶色の猫は取引では天才的だった。取引で儲ける内に、なんとか立ち直った。二匹の子猫には、チャは優しく接した。二匹の猫もチャの言う事はよく聞いた。二匹とも、父のチャは好きだった。チャもリスク管理を教えたものの、二匹の面子を傷つける事はしなかった。チャは子供たちに自分の悲しい思い出も話した。母猫の事も話した。チャは、敷地外では、病気になったり、事故を会うから危ないよと言っていた。この敷地は特別なんだよとよく言った。

真っ白の猫はチャタロウと呼ばれ、茶色の猫はリトルチャと呼ばれた。男所帯だったが、猫では一般的な母子家庭のココと一緒に暮らしていた。香奈は、みんな優しく扱ってくれた。大好物だった鯛の活け造りやカニの身も時々くれた。みんなで楽しく食べた。取引では、チャは、息子たちとスイスカナコインで、大儲けをした。チャタロウもリトルチャもパソコンが得意で、猫のくせに、自分で取引も出来た。香奈に手を煩わす事もせずに済んだ。

チャタロウ

チャタロウは、可愛いソマリのステラを奥さんにした。ステラは、可愛いとペットショップで評判になり、ヤングカップルが買い、二人のペットになって、当座は可愛がってもらっていた。ステラはこのカップルと仲良く暮らした。しかし幸せは長く続かなかった。カップルの奥さんが妊娠し、実家に帰り、猫の毛が赤ちゃんに悪いと聞いて、ステラの前で、猫は赤ちゃんに良くないらしいと言った。ステラは悲しくなって、家を出た。それでも家に未練があり、暫くたって、家の様子を伺っていると、赤ちゃんが出来て、笑い声の溢れる家になっていた。ステラはこうして地域猫と言われる野良猫となった。ちやほやされていた今までと比べると食生活は惨めで、食うや食わずの日々が続いていた。たまたま、優しいチャタロウと出会い、チャタロウと出会い、妊娠した。チャタロウはステラを香奈の家に連れてきた。香奈は何にも云わず、ステラの面倒も見てくれた。ステラは、家庭にあこがれていて、家庭的な猫だった。チャタロウを励まし、チャタロウの子供いや子猫を生んで、優しく育てた。子供たち、いや子猫たちは、スクスク育った。ステラは、香奈の家の水を飲むうちに、段々頭も良くなっていた。本やネットで勉強していたが、いつも控えめで、チャタロウを励ましていた。折角掴んだ家庭だと思っていた。ステラは、2回出産し、八匹の猫が生まれた。子供たちは、賢く、学究肌の猫になり、勉強に取り組んだ。英才揃いの子猫になった。偶々近くに出来た研究所や大学院大学で勉強して、益々知識も増えた。経済学を勉強して、チャタロウを助ける猫、実際に取引して、チャタロウを直接助ける猫、ロボットや遺伝子工学を研究する猫などがいた。チャタロウは涙もろく、頭もいいものの、一本気な性格でもあった。取引は順調だったが、イケイケどんどんと波に乗って取引する事もあった。それが結局大儲けにつながり、失敗なんて考えた事もない猫になっていた。

それがある事で、大失敗した。結局チャがリスクを取っていて、そのリスクの取り方が桁間違いだったので、大儲けにはなっていたが、チャタロウは、怒られて、社会奉仕活動を命じられた。チャタロウとその子供たちには、甥のリトルホワイトに、命令口調で特訓を受け、人間の心が読める猫になった。保養施設で株で大損害をして、逼塞して暮らしている老人にあった。チャタロウの回りの人間には、そんな人はいなかった。香奈は猫には優しく、世界的な大富豪だった。色々と仕事での苦労はあるものの、みんなナンダカンダと言いながら、金もあり、頭もよく、世間を器用に渡っていた人ばっかりだった。チャタロウとその子供たちは、衝撃を受けた。今のチャタロウには、老人の失敗に至る経過も手に取るように判った。チャタロウは、猫チャンネルが出来ていた正人とは、友達だった。その老人の老後がもう少し楽になるように助ける事にして、その老人と一緒に運用会社を作り、援助する事にした。ココたちの子猫たちも、同情して手伝ってくれた。チャタロウは単に分析的に人の心が読めるだけでなく、人の悲しみや希望、その人の能力なども判る猫になっていた。自分の失敗や老人の失敗なども、分析して、慎重に対応する事にした。人や猫たちの意見をよく聞いて、対応する事にした。チャタロウの子猫たちもチャタロウを助けてくれた。チャタロウは、人や猫の希望を信じて、優れた面を伸ばそうと思った。兄弟のリトルチャの天才的な儲け方にも対抗心を持つ事は止める事にした。猫それぞれに個性があり、役割は違うと思うようになっていた。やがて、チャタロウは、リトルキャット運用会社で、チャタロウチームを作り、買った売ったの売買差益だけの取引から、少しは変えて、猫独自の事業展開を助ける企業群を、自分たちのチャタロウチームで苦労しながら、作っていった。九州事業で、最新式の工場を作り、それをカバーする企業群の積もりで作ったが、少しづつ関連企業群を、ジブトラストが手薄だったアジアとアメリカで作りだしていた。チャタロウチームは無理をせずに、長い交渉をしながら、出資したり、割り当て増資を受けたりしながら、やがて結構大きな企業集団になった。チャタロウは、自前のチャタロウチームからの報告をよく理解して、研究班や技術班の猫の意見も聞きながら、早い決断を下していた。チャタロウは、人や猫の能力を伸ばしていこうと思っていた。チャタロウの子猫たちも助けてくれた。チャタロウは、いつしか売買差益よりも、自分達の関連企業に協力できる企業群を作る事に、時間を使う事になった。チャタロウは、決して威圧的な、強力なカリスマ性はないものの、現場の意見をよく聞き、現場への権限を任せるリーダーになり、チャタロウチームは、チャタロウの判断に、絶大な信頼をもっていた。チャタロウは、それこそ香奈の家からは出なかった。時々庭を散歩したり、隣の会議室に行くだけだったが、何故か色々な情報を持っていた。チャタロウチームの首脳部は、チャタロウに時々面談に来て、色々と相談していた。普通の人は、香奈の家の横の会議室で、チャタロウチームの最高会議が開催されているとしか見えないが、その会議で、小さい白い猫のチャタロウが、自分の子供たちを連れて、皆から報告を受けている事はほとんどの人は、判らなかった。チャタロウの関連企業グループの首脳部では、チャタロウに、当然絶大な信頼を持っていたが、首脳陣以外では、グループの統括をしているチャタロウの存在を知る人は限られていた。首脳に近づく立場に上がるにつれて、少しづつ判ってくる、知る人ぞ知る公然の秘密となっていた。

リトルチャ

リトルチャは、頭の良い、ハキハキした正真正銘の雑種のテレサと出会った。リトルチャは頭の回転の鈍い猫には、イライラした。テレサはテキパキしていた。テレサは妊娠した。チャが言っていたように、敷地外には危険や病気があった。テレサも病気がちだった。テレサを香奈の家に連れてきた、テレサは見る見る間に元気に、更に賢くなった。そうして、子猫を生んだ。リトルチャは子供が出来てもそんなに嬉しくなかった。テレサは、母親でもそんなに子煩悩でもなかった。直ぐに自分で大学院大学で勉強を始めた。子猫たちは勝手にスクスク育っていた。テレサは最初の妊娠で三匹の子猫を生んだ。その中には、やたらと頭の賢い猫もいた。生まれて直ぐに、コシロの再来と自分で言って、リトルホワイトと名づけられた。その他の二匹も、リトルホワイト程ではないが、頭は良かった。リトルチャは子供たち、いや子猫たちには、無関心だった。子猫たちは勝手に勉強して、どんどんと賢くなった。子猫たちは、父親に反感を持つ猫もいたし、反対に、リトルチャの歓心を引こうとして、取引を手伝う猫もいた。リトルチャは、子供いや自分の子猫にも厳しく取引を教えた。リトルチャはやたらと儲ける猫だった。ココの子猫の子猫の中にも、その儲け方に惹かれて、リトルチャの配下になる猫もいた。リトルチャの配下になると、運用枠もドーンとついた。配下の猫たちの稼ぎ方もハンパではなかった。みんな一生懸命に頑張って、競争して儲けた。

香奈の家の子猫は、自分の子猫たち、つまり子猫の子猫たちと一緒に取引するのが通例だった。リトルチャはそれに拘らなかった。猫にもそれぞれ、役割も関心も違う。自分の優れている所を活かしてこそ、香奈の家の猫なのだと言った。チャタロウのチームはファミリーで仲良くしていたので、それ以外の猫たちは、あっちこっちと自分の適性にあったチームに編成されていった。無論子猫たちの配偶猫にも、頭がよくなり、取引適性を持つ猫もいたし、取引以外にも研究所や大学院大学で勉強や研究に取り組む猫もいた。自分の適性とか云う言葉が、子猫の子猫たちの流行語になった。

テレサはどんどん頭が良くなってきた。ロボット工学の研究所でもそれは認めていた。ただ猫の手は機械の作業には不向きだった。細かい細工は出来なかった。テレサもそれを悩んでいた。テレサは理論や機械の仕組みを研究していた。

リトルチャの思い

リトルチャはどんどん儲けていた。リトルチャは儲け続けないと、不安だった。リトルチャは、自分が猫とは認めたくなかった。儲けている時は、リトルチャと云う猫ではなく、スイスの荒事師と云う謎の投機筋になった積もりだった。幸いにももう一つの大きな銀行の退職者の中で、頭が切れて、経理操作もうまく、国際業務にも強い人がいた。この人とリトルチャは、気が合った。この人を中心にリトルチャの秘密チームが出来た。そうしたチームを使い、色々と経理操作もして、運用子会社も作り、もう一つの大きな銀行の退職者の人も更に子分にして、運用小会社の子会社にも利益を落として、更に運用枠もつけて、投資ファンドなども作り、あれやこれやと考えられる手段は取った。為替専門会社まで、運用子会社の子会社の子会社にした。

正人はああ見ても経理のプロなので、なんやかやと経理の不審さを感じて、運用枠の制限などを言い出した。リトルチャは、一応ゴネて従う振りをして、更に経理操作も念入りにして、運用子会社に金を落としながらも、正人にも相当の金を渡した。そしてその金は、結局、猫たちの基金になるようにもした。猫資金で、長期保有の株式も、貴金属会社、貴金属、そして不動産も持つ事が出来て、予備費も現金で持った。

テレサがまた妊娠した。リトルチャは今度は、テレサと生まれてくる子猫が気になった。取引にも身が入らなくなった。生まれてきた子猫たちを見ていると、急にこの子猫たちの将来が気になった。テレサは、今度の出産で、更に頭が冴えて、ついに猫でも色々な作業ができる、猫の手ロボットを考案した。ロボット工学で作ってもらった。それを使って、更に精密な猫の手ロボットを改良した。

猫資金で買った山にレアメタルがでた。リトルキャット財団も作った。猫資金は膨大になってきた。リトルチャの運用子会社にも、こっそり隠していた金も貯まってきた。隠れた猫資金はもっと膨大だった。秘密チームに指示して、更に念入りに資産を隠した。

リトルチャは、猫だけの資金で、猫事業を進めたかった。チャタロウは猫たちの協力や知識も集めて、人の協力や知識も集めて、長期保有の株式も保有して、猫たちの関連企業も組織していた。そうした企業を活かせる事業をチャタロウに任せたかった。そうした猫だけの事業が出来れば、子猫たちの将来は安泰だと思った。

九州事業の話が出た。運用子会社はリトルチャの会社になるように秘術を尽くして、正人と交渉した。正人の狙いは、レアメタルの利益である事は判った。正人は所詮経理屋だと思った。目に見える金しか問題にしない。金は稼いで作るものだ。単に偶然に出たレアメタルの掠りを取るよりも、金を稼ぐ事業や組織を作る方がよっほど重要だ、運用子会社は今や一つのネットワークだった。単なる投機屋の時代は既に去っていた。どんな動きになっても、それなりに儲ける工夫をしている。金は今や世界を回っている。その金を回して、金が入るように工夫して作った運用子会社群だった。リトルチャは運用子会社群を丸ごと取って、レアメタルの掠りの一部を回した。運用子会社の隠し資産を日本に金を集める算段をしていた。

リトルチャの秘密チームでも、銀行を買収したいと腹心の人が言った。色々と経理操作もしてもらい、今のリチルチャの組織を作るのに役立った人だった。優秀な男なのに、銀行の頭取になれなかった。報酬は一杯渡していた。小さい銀行の頭取なんて足元にも及ばない報酬だった。よく聞いてみると金ではなく、今は単なる運用会社の役員でしかない、頭取になるのは、銀行に入った時からの男の夢と言った。リトルチャは、ぐっときた。リトルチャは金は一杯儲けて、スイスの投機筋と呼ばれた。そうしないと単なる猫になってしまう。そんな思いで金は儲けた。しかしやっぱり猫ではあった。リトルチャも人間になりたかった。金だけでもなく、名前も残せる。そんな気持ちはよく判った。腹心の部下だけに、その思いに応える事にした。結構大きな投資だったが、よく考えてみると、日本に銀行があってもいい。運用子会社の日本のキーになる。銀行の名前だけでいい。腹心の部下は優秀だった。これで金融ネットワークが完成する。不良債権なんて、食い物にした連中への脅しに使えば、無駄でもあるまい。正義感ぶって追求しても、何にもとれない。世間体だけなんとか繕い、金に群がる奴らは利用した方が良いと、腹心の部下にも言った。腹心の部下は用心深く、交渉した。ただ思わず金が要った。折角集めた金は使ってしまった。金は回っていた。突然ごそっと抜き取ると大変だった。又金を集めるのに時間がかかった。チャタロウは今の金で十分やれると言っていた。チマチマした投資しても儲からない。ドーンと金を集めよう。時間さえあればなんとか集まる。それに儲かる話もあった。どーんと儲かるかもしれない。暫く様子をみよう。

投機は成功した。チャンスは生かせた。思わず大きな金が入ってきた。ナンダカンダと操作も要った。円高や円安の大きな波を利用して、金を日本に集めた。思わぬ為替会社も手に入れた。日本向け投資ファンドなんぞにも作った。ナンダカンダと子会社も作った。チャタロウのリトルキャット九州にドーンと出資した。チャタロウはああ見えて、実業には向いている奴だ。あいつに任せておけば、大丈夫だ。みんなの力を引き出して、うまくやるだろう。抜き取った金は多額だった。世界のマーケットで儲け口を探して、金を補充しようと、リトルチャは思っていた。

リトルチャは、決算対策も兼ねて、資金をあっち、こっちと金を回している内に、金が増えていた。チャタロウが作った関連企業の資金の面倒や原材料や製品の決済なども手伝った。世界の色々な所に置いてある金も必要に応じて、代行する事にした。法律の裏の裏まで、知っている奴らは、世界中での決済システムを考えて、グローバルネットバンクのようなシステムを考え始めた。あっちこっちの銀行まで手を回し出した。いつもいつも投機をしている訳でもなかった。通常の取引はもう子猫の子猫たちが組織的に担当している。おいてある金を転がすと金がついてきた。腹心の部下も手伝ってくれた。ただこの腹心の部下は、小細工はうまいものの、肝心の所で怯んだ、リトルチャはそんな事では金は出来ない。ドーンと投資する所は投資して、辛抱する所は辛抱して、細かい儲けに走らず、大きな利益を最終的に取るのだと励ましていた。本来、投機とはそういうものなのだ。腹心の部下もなんとか判るようになっていた。従来のような運用も投機もしたが、それは機会を待っている必要があった。いつもいつもそんな機会はなかったが、こっちの金転がしは、いつもいつも、それなりの利益が取れた。なかなか面白いと思った。猫たちの九州事業のアジアやアメリカにも関連会社も、会社は大きくなり、それにつれてリトルチャの金融ルートも大きくなった。腹心の部下も思ったよりも早く銀行を立て直した。二束三文で、世間体のために貰った山から思わず小判も出たし、レアメタルも出た。香奈も喜んでくれた。香奈は、リトルチャに言った。「冶部一族も小判に守られてきたのよ。今も大切に保管しているわよ。この小判は猫軍団のお守りになるかもしれないわよ。大切に保管してね。リトルチャの国際金融ルートもしっかりしてきたわね。神一君も誉めて、言っていたわよ。あの銀行がこうなるとは思わなかった。今の頭取の考えではない。彼は優秀だけど、小細工が多すぎた。それが危ないと思っていた。それが彼の欠点だった。本当のトップはリトルチャですね。彼にはあれだけの大局的な判断は出来ない筈だった。彼もかなり進歩している。今の彼なら、ウチでも十分最高首脳部に入れる。正人さんにも、一族の銀行グループに参加してもらうように話したけど、断られました。リトルチャは運営だけでなく、彼も大きく育てた、リトルチャは大したものだと言っていたわよ。僕も、人を育てる重要性を痛感しましたと言っていたわ。正人も知らん振りしているけど、もう一つの大きな銀行でも、頭取が挨拶に来た時に、同じような事を言っていたわよ。彼が、あそこまで成長するなら、銀行に残しておくべきだった。正人さんに、もう一つの大きな銀行に吸収合併をお願いしましたけど、断れました。神一君からも話があったけど、断った。一族の銀行ともう一つの大きな銀行とも、双方ともに友好関係を持ちながら、運営していく方が、結局みんなの為になるよ、あれは単なる決済ルートとして大きくした方がよい。それに、リトルチャが苦労して、再建させた銀行で、その銀行を核とした国際金融ルートだよ。一つの銀行グループに拘らず、みんなで協力していった方がずっとといいよ。正人さんはそういってました。そう言われれば、確かにそうです。しかし、猫も大したものですね。ウチの猫が、じっと私を見ていると、ドキッとするようになりました。家内も欲しがっているから、猫語翻訳機を正人さんに頼んでいるけど、なかなか作ってくれないんですよ。オークションでもなかなか落札できないと家内がこぼしていました。最後にとんでもない価格を出す人がいて、負けるのですよ。正人さんは、猫はにゃーにゃーと言っている内はいいけど、大変なんだよ。猫チャンネルが出来ないと駄目だよ。猫の怖さは君は判ってないよ。と言って作ってくれないのですよ。と言っていたわ。もう一つの大きな銀行も神一君もみんな、知っているのよ。正人も知っているのよ。単なる数字に拘る経理屋の振りをしているけどね。あれが、正人の特技なのよ。だから中国相手でも通じるのよ。リトルチャも、もうそんな派手な事はしない方が良いわよ。加代子ちゃんもちゃんと修正したわよ。少し派手にやりすぎだと思ったけどね。でも加代子ちゃんも計算していたかもしれないよ。若い人や幹部たちも、自分達から経営の勉強をし出したわ。加代子ちゃんの選んだ会社は伸びているわよ。神之助君も少しづつ修正しているわよ。みんな知らない振りもしているけど、見てる人は見ているのよ。人間も馬鹿にしたものでもないのよ。奈津美も見てもわかるでしょう。わざわざ金を出して、信用をつけているでしょう。ハゲタカの瑠璃よりは、結局儲かるのよ。瑠璃も判ったから奈津美に大体任せているのよ。香奈オフィスも、協力企業が出来て大きくなったわよ。リトルチャもこれからだよ。組織の信用をつけていくのよ。当座は儲けが減っても、長い目でみれば結局儲かるのよ。リトルチャもチャタロウも、その才能はみんな認めているわよ。ただそんなに大きな声では言わないだけなのよ。」

猫語翻訳機は、一時市販して、ドッと売れたが、クレームが殺到して市販を中止していた。カリカリがまずいとか水を替えろとか猫トイレを掃除しろまではまだ良かったが、長い間分岐状の水やリング状の水を飲んできた香奈の家のスペシャルな猫とは違うものの、猫には案外文句言いや勝手な奴が多かった、それに猫は、飼主には寛容だが、飼主以外には結構冷たい生き物だった。奥さんが飼主と思う猫は、旦那には厳しく、酔っ払って帰るとグチグチ文句をいった。旦那が飼主と思う猫は、奥さんに、化粧が濃いとか、買物に行っている時間が長い、格好が派手とか、出会い系サイトなんぞ覗くなとか、隣のおっさんとなれなれしいとか文句を言った。子供にも説教を垂れる猫もいた。不倫でもしている時は、更に文句が増えた。告げ口する猫もいた。機械が悪いと云う事にしないと収まりがつかなかった。正人は、自分の体験から、猫の怖さも知っていたし、ある程度予想もしていたので、まだ改良してからと言って、さっさと市販を中止した。一人暮らしの年寄りなどが、特別に注文すれば、注意事項に納得してもらって、特注として作った。猫の手ロポも少しは売ったが、勝手に鍵を開け、遊びに行ったり、キャットフードを食べ過ぎる猫もいて、これも直ぐに市販を中止した。正人は特別注文には、しっかりとした理由がなければ、なかなか応じなかった。オークションでは高値がついたが、売りに出す人は少なかった。猫と話ができるのは大変な事だった。グチグチ文句は言う猫もいたが、飼主には元気だせとか慰めてもくれた。無二の親友と云う人もいた。正人は、猫チャンネルもあったが正確を期すための人とか、猫が救急車を呼べるようにしたいとかの理由がある人のために、特注に応じて、猫語翻訳機と猫の手ロボを作った。猫は、にゃーにゃーと言っている内は良かったが、文句いいの猫がグチグチ毎日文句を言うと、それはそれは鬱陶しいものだった。

香奈クラスの世紀を超える長年の猫好きには、猫チャンネルも発達し、それにリング状の水をいやと云う程飲んでいる香奈の家の猫は、スペシャルな猫だったので、それなりの自省心もあった。猫語翻訳機なんぞはそんなに必要でもなかったがテレサは更に改良をしていたし、香奈の家には、転がっていた。猫語翻訳機の講釈は別にして、香奈はチャから頼まれていた。リトルチャにも路線を修正するように言って欲しい。もう投機的な取引をして、金を儲ける必要はない。チャタロウの九州事業も成功したし、関連企業も出来た。後はこれからの子猫たちが考えていくようにして、今は、国際金融ルートをじっくりと整備していくように言って欲しい。これからの猫軍団のために、二匹で協力して、企業も金融ルートも育てて欲しい。猫は猫なのだ、リトルチャで十分なのだ。スイスの荒事師と云った仮想人間になる事はないと言って欲しいと頼んでいた。チャはいつまでたっても優しい父親だった。香奈も、リトルチャが猫に生まれた事をそれほど無念に思っていたとは知らなかったので、リトルチャにこっそりと言っていた。

香奈は、ちゃんと知っていたのだった。リトルチャも香奈には敵わなかった。香奈はお祝いだと言って、一杯の鯛の活け造りを届けさせていた。歓声を上げて、食べている猫たちを見て、リトルチャも猫軍団の将来に向けて、今の国際金融ルートの信用をつける事が大事かもしれないと考えていた。リトルチャは、チャタロウと違い、自分の子猫たちと一緒に仕事をしていなかった。自分の子猫やココの子猫の子猫、ココの子猫の配偶猫たちの混成チームが、リトルチャのチームだった。貴金属勘定を持つ商品相場のグループは、真理と親しいココの子猫の子猫がチーフだった。リトルチャのチームとは云え、独立性が高かった。猫軍団の最後の財布を預かっていると自負を持ったチームだった。リトルチャもそう言って、独立性を重んじた。投機にも参加させたが、それなりに最後の落し所とその後の展開を考えるグループでもあった。リトルチャのチームは、構成する猫は増えたが、リトルチャチームは、為替、商品相場、デリバティブなど、それぞれ独立していたので、どの猫が後継猫とは云えないチームだった。それに新しく金融担当、システム担当の猫も増えた。リトルチャは、まだまだ元気だったが、チャタロウがファミリーで色々と検討している所を見ると、後継者に、何か不安もあった。しかし、リトルチャは、チャタロウたちと違い、それぞれのグループで、誰が誰の子猫と云うのではなく、能力がある猫たちが、有能な人間たちを巻き込んで大きなグループにしていく事にしたいと思うようになった。それぞれのグループにも、役に立つ人間を確保するように言っていた。投機をする時は、リトルチャが考えて、仕掛けを考えていたが、それぞれのチームが実業まで視野に入れると、それぞれのチームは、まだまだ発展途上とリトルチャは考えていた。リトルチャは、これからの事も考えていた。

腹心の部下の彼からは、少しつづ普通の銀行に変えていく方法が提案されていた。お宝銀行に名前を変えて、地味な活動を続けるようになった。一族の銀行やもう一つの大きな銀行ともそれなりの協力もして、それぞれの銀行とも距離感も持ち、海外業務やグローバル決済システムに精通した銀行になって、協力銀行も海外にも少しずつ増やしていった。

リトルホワイト

コシロの再来と呼ばれたリトルホワイトは、国際的な心理学の権威と云われるようになった天野と一緒に、人間の心理について研究していた。研究班や技術班の猫と話して、九州事業の展開についても、人間の心理的な側面を分析して、意見を整理、集約させてきた。

リトルホワイトは、研究や技術はそんなに判らなかった。しかし研究班はあまりにも、先進的、独創的な技術に走りすぎていた。独創的なあっと驚く所は必要だが、それだけではいけない。独善的ではいけない。安定性そして汎用性も必要だ。今日は先進的な技術でも、明日はもう普通の技術になる。技術の進歩も考えて、みんなで改善できるようにしていけるようにして欲しいと言っていた。九州事業でのハイテク技術は、あっと驚く所はあったが、それ以上に、やたらと安定性で、多くの業種で使用しやすいように設計されていた。そして、あらゆる分野で使用され、細かく少しずつ進歩して、何時の間にか、世界基準になっていた。チャタロウの協力企業作りも上手かったが、今日の最新技術も次々と組み込んでいった、いつも進歩し、改善できるシステムを作り、最新的な技術を直ぐに取り組む事ができるように、研究もオープンにして進めるように言った。最高品質を常に目指す事はいい事でも、最高品質はいつも変わっていた。進歩を考慮しない、これが頂点だと思うようなクローズなシステムな研究システムではなく、いつも進歩できる、改良できる研究システムにして欲しい、そうした技術を直ぐに導入できる生産体制をして欲しいとリトルホワイトは言っていた。一部の独創的な猫だけが、すべての技術指針を示すのではなく、働く人、現場の研究室、そしてみんなで、いつも改良していける体制が大事なのだ。それが結局、働く人すべての力で進める事になり、働く人の意欲も増して、猫と人間との信頼関係も作っていけると言っていた。

リトルホワイトは、いつまでたっても、「所詮、猫」と言われた事を忘れなかった。世間は、結局そういうものだと思っていた。リトルホワイトが例え、どんなに努力しても天野の業績になると思っていた。二人、いや一人と一匹でした研究に対しても、国際的な賞も天野が単独で受賞した。リトルホワイトが多大な貢献をした事は誰も知らないと思っていた。しかし、実は多くの人がリトルホワイトの貢献を知っていた。リトルホワイトと天野は、よく話し合っていた。最初はこっそり二人、いや一人と一匹だけの検討会議だったが、次第に参加する人も増えた。若い猫まで参加するようになった。みんなリトルホワイトの見識や知見は、知っていた。リトルホワイトとの猫チャンネルが出来た人もいた。こっそりリトルホワイトに相談する人までいた。保養施設もリトルホワイトが配下の猫を通して、みんなの心理ケアをしていた。猫による癒しなんぞは超えてきた。

チビ助

チビ助は、頭はドンドン賢くなった。しかし、取引する訳でもなく、研究する訳でもなく、いつも大体香奈の側にいた。ボティーガードのようでもあり、香奈の様子をみる専属の心理ケアでもあったが、香奈はドンドン元気になり、秘書のようなものにもなった。香奈は忙しかった。香奈が無理をしないようにスケジュール管理もするようになった。香奈の役に立つような資料も集めたりするようになっていた。香奈の考え方も少しつづ判るようになっていた。香奈は早く家に帰るので、チビ助も一緒に帰った。チビ助は自分の子供たち、三匹の子猫たちには、香奈の考え方もすこしづつ伝えていた。三匹の子猫たちは、大学院大学や研究所で勉強していたが、家に帰ると、香奈ばあちゃんと言いながら、香奈に寄ってきて、香奈に今日はこんな事をしたよと言って、話をするようになっていた。香奈も喜んで、色々と話をしていた。