「鳴くよ鶯平安京」


「もうすぐ、ホワイトデーですね〜!」

カレンダーを見ながら、カカシは嬉しそうな声を上げた。その顔は希望に満ち、瞳はきらきらと輝いている。

ああ、期待しちゃってるよ、この人・・・。

イルカは持っていた湯飲みをカタカタと震わせながら、がっくりと肩を落とした。ホワイトデー。バレンタインのチョコのお返しをするその行事を今ほど憂鬱に思ったことはない。ホワイトデーは三倍返しだという。妙に行事にこだわるカカシのことだ。絶対に三倍返しを期待している。そうなのだ。イルカは先月のバレンタインデーにカカシにチョコを貰っていた。男同士でバレンタインもないだろう、と全くチョコの用意をしていなかったイルカにカカシがくれたのだ。超強制的に。カカシのチョコバナナ(トッピング付き)を・・・。無理矢理口に含まされ、矜持と人間性をかなぐり捨てた変態行為の数々に、イルカは次の日仕事を休んだ。なんでこんなことに、と人生に悲哀を感じた一瞬だ。愛情深い恋人の唯一の問題点はそこだった。ちょっぴり・・・いや、大分絶倫な上、変態チックなセックスが好きなのだ。変態チックというより、真性の変態だ。だけど、しかし。

好きです、イルカ先生・・・大好き・・・

行為の最中、熱い吐息混じりに囁くカカシの、苦しいような切ないような表情を見ていると、イルカも何だか胸がギュッとするような、堪らない気持ちになってしまうのだ。もう好きにしてくれと、どんな変態行為も許せてしまう。そんな時、 ああ、俺はこの人がホントに好きなんだなあ、としみじみ感じる。末期だと自分でも思う。

しかし。

ホワイトデーを過剰に期待するカカシの要望に、自分が応えられるかどうか甚だ疑問である。恋人の期待に応えてあげたい気持ちはある。あるけど、イルカは至ってノーマルな性癖の持ち主だ。カカシを喜ばせるような変態プレイを思いつく事が出来ない。イルカが考えられるような行為も考えられないような行為も、今までの内に散々カカシにされてしまった。縛られたり、吊るされたり、変なものを突っ込まれたり、塗られたり。勿論バレンタインデーも凄かった。思い出しただけで赤くなったり青くなったりしてしまう。

それの三倍返し・・・思いつくわけがねえ・・・っっっ!!!!

楽しみにしています、と言わんばかりのカカシの態度に、イルカは妙なプレッシャーを感じて胃がキリキリしてしまう。だが、こんなことは誰にも相談できない。何かいい変態プレイはありますか、なんて訊ける訳がない。

一際大きい溜息を吐くイルカの前に、カカシがニコニコしながら何かチラシのようなものを置いた。

「何ですか、これ・・・?」

イルカが訝しげな顔をしてそのチラシに目をやると、大きく「平安京コース」と書かれた下に、「閑静な離れに和風庭園、広々とした個室風呂に衣装着付けのサービスまで。」という謳い文句があった。部屋の内装や庭園の写真までついている。何か宿屋の宿泊パックの宣伝らしい。どうしてこんなものを、とイルカが首を捻っていると、

「ねえ、イルカ先生、俺ホワイトデーはここで過ごしたいです!一生の思い出になるし。一泊二食つきの宿泊プランなんですよ、それ。バレンタインのお返しに・・・。駄目ですか?」とカカシが強請るような顔をして迫ってきた。

「え・・・えぇ・・・!?」

思いがけないカカシの申し出に、イルカは素っ頓狂な声を上げてしまった。正直、何てまともなお願いなんだ、と耳を疑ったくらいである。淫らなお返しばかり悶々と考えていた自分が、恥ずかしくも情けない。

「そ、そんなんでいいんですか・・・?」

イルカは何処か拍子抜けしたような気持ちで確認すると、

「これがいいです。」とカカシがにっこり笑う。その笑顔が蕩ける蜂蜜のようで、ああ、この人は本当に俺のことが好きなんだなあ、とイルカは顔が火照る思いだ。

「わ、分かりました・・・ホワイトデーはここで過ごしましょう・・・」

イルカの言葉にカカシが更に顔を綻ばせる。そんな顔をさせることができてイルカも心底嬉しかった。悩みの種だったお返しの問題が片付いて、イルカも晴れ晴れとした笑顔を浮かべた。手にしたチラシの宿泊料金を見ると、少しナーバスになってしまうのだが、生活を切り詰めて少しばかりの箪笥預金を足せば何とかなりそうだった。何より、カカシをがっかりさせることがなくてよかったと思った。

思ったのだが・・・。

ホワイトデー当日、イルカは自分の認識の甘さを痛感することになるのである。当日足を向けた宿屋は、何だか入り口からして怪しかった。高級そうは高級そうなのだが、入り口に「ベルサイユコース」だの、「千夜一夜コース」だの「メディチ家コース」だの、訳の分からない料金表があるところが既にとても怪しかった。しかし、通された離れの立派さに、イルカはそんなことも忘れてしまった。忘れたところに、ドヤドヤと入ってきた着付け係と称する人たちに、抵抗するまもなくあっという間に着替えさせられていた。

「なんですか、これ・・・・」

イルカは着付け係りが帰った後の自分の格好に、現実を忘れ暫し呆然とした。イルカは平安時代の女官のような格好をしていた。小袖の上に五衣、小袿を羽織り、下は長袴、ご丁寧に括った髪まで下ろされて、手には扇まで持たされてしまっていた。対するカカシも狩衣に指貫という、平安時代の公家の格好をしていた。

これって、まさか・・・

イルカの内心の叫びを肯定するかのように、カカシがうっとりと呟いた。

「ああ・・・やっぱりいいですねえ・・・平安京コース・・・今日は思う存分、お姫様ごっこしましょうねえ・・・・」

やっぱり、そうだったか・・・!!

イルカが虚脱したようにがくりと膝をつく。よく見ると、立派な部屋の片隅に、さりげなく縄やら猿轡やら鞭やら蝋燭やら、ティッシュやらコンドームやら、怪しげなものがオブジェのように飾られている。あまりに見慣れた品々だったので気がつかなかった。

でも、でも今日はカカシ先生を喜ばせるって決めてたんだ・・・さ、三倍返しするって・・・・・・
そうだ、最初はこういう展開を考えてたじゃないか、頑張れ俺!!

イルカは精一杯の笑顔を浮かべて言った。

「お姫様ごっこ、しましょう・・・・」

 

「あっ・・・あぁ・・・は・・・うっ・・・っ」

解かれた長袴を半分摺り下げた状態で、背後からカカシがイルカを穿っていた。既に何度も吐き出されたカカシの精液でぬかるんだそこは、カカシの固く猛った熱棒が抜き差しされる度に、グチュグチュと淫らな音を立てていた。

「ああ・・・いやらしいお姫様だなあ・・・何も知らないって顔をして、こんなに汁を零してよがり捲くって・・・・っ」

ねえ、気持ちいですか?カカシは上体を倒して、イルカの耳元でそう囁きながら、ふっくらとした耳朶を舌で舐った。ついでとばかりに突き上げはそのままに、右手を前に回し、自分で零すものでしとどに濡れたイルカのものに指を絡ませ、緩急をつけて上下に扱いてやる。

「ひああっ・・・ん!ああっ、と、殿・・・そ、んなご無体な事を・・・はっあぁっ・・・き、聞かないでくださいまし・・・!」

あまりの刺激に息も絶え絶えに、イルカは馬鹿馬鹿しい台詞を懸命に吐いた。今日は頑張ると決めたのだ。いつもだったら、顔を赤くして黙ったままでお終いだったが、イルカは頑張った。今日はお姫様になりきるのだ!言いながら恥らうように身を捩ると、カカシが口の端を吊り上げた。

「今日イルカ先生・・・なんかノリノリ・・・・すげ・・・やらしー・・・いつも嫌そうなのに・・・・・うれしー・・・」

激しくなる抽挿に、反射的に逃れようとする体を捕らえて、カカシは一気にイルカの最奥まで自分のものを押し込んだ。

「あぁ・・・っ!」

弓形に反り返るイルカの、無防備な喉元に噛み付きながら、カカシが焦らす様に、奥に押し込んだものを今度は一気に引き抜く。

「ねえ・・・どうして欲しい?俺の淫乱なお姫様・・・強請って・・・もっと俺を。欲しいって言って。」

カカシのあんまりな台詞にイルカは卒倒しそうだった。しそうだったが、イルカは頑張った。カカシがいつも以上に欲に濡れた目で自分を見ている。興奮している。自分のいつもと違った振る舞いがカカシを喜ばせているのだと思うと、羞恥を通り越して甘美な陶酔がイルカを支配した。

「ふぁ・・・っ・・・も、もっと・・・もっとして、くださいませ・・・奥まで・・・・」

イルカは淫らにもそう言うと、四つん這いになった腰をゆっくりと高く突き出した。そして欲しいという言葉の代わりに、誘うように腰をまるく揺する。自分の淫らな振る舞いに頭がショートしそうだった。ごくりと喉を鳴らす音がして、カカシが「姫〜〜〜〜〜っっっ!!」と雄叫びを上げながら性急にまたイルカの中に入ってきた。ガンガンと怖いほど激しく打ち付けられて、イルカももうお姫様ごっこどころではない。

「ひあぁっ・・・やっ・・・ああぁ・・・ん!」

引っ切り無しに上がる嬌声の合間に、「いい声・・・もっと鳴いてよ・・・・春の桜に鳴く鶯みたいにいい声で・・・・」とカカシが恍惚と囁く。
激しい動きにパタパタと落ちるカカシの汗に、赤いものが混じっていることにイルカは気付いた。どうやら鼻血を噴いてる様だ。しかもそれを拭う余裕もないらしい。

阿呆だなあ、この人・・・・本当に俺に夢中だよ・・・・

イルカはカカシの要望通り、いい声を上げながら考えていた。

来年は「ベルサイユコース」にしてあげようかな・・・・

本当に俺も末期だなあ、と薄く笑いながら。

 

*ご奉仕企画で「酒神」のバッカスさんが挿絵を描いてくれました!!(><)
なんて豪華な企画なんだ(恍惚)皆さんもイルカのこの気持ちよさそうな表情を堪能してくださいvv

 

終わり