「Friends」番外「結婚します!」
遂にこの日が来たんだなあ。
イルカは感慨深い気持ちでその日の朝を迎えた。
いつもより早く起きて慰霊碑に前に向かい、両親にもきちんと報告してきた。
隣には始終頬を染めて、軟体動物のようにくねくねしているカカシを連れて。
大安吉日の今日、二人は人生の新しい門出を迎える。
そう、つまり結婚式の日なのだ。
仲人は火影様だ。火影様は最後までイルカの翻意に望みをかけていた。
「イルカよ、いつでもドタキャンOKじゃ!キャンセル料はわしが払ってやってもいいぞ!!
ああっ;男と・・・しかもあんな変態男と結婚とは・・・わしは孫の顔を見るのを楽しみにしとったのに・・・!」
錯乱気味の火影様に、あんたにはもう木の葉丸という孫がいるでしょうが、とイルカは心の中で突っ込みながらも、よよよと泣き崩れる火影をよしよしと宥めたものだ。
火影様には悪いが仕方がない・・・!
イルカは昇る朝日に誓った。
俺はこの変態を一生面倒見ます・・・!
隣ではなんだか興奮しているカカシが一人鼻血をたらしてニコニコしている。
よっぽど嬉しいんだな・・・
イルカは優しく微笑みながら、慣れた手つきでポケットからティッシュを取り出し、ティッシュでこよりをつくるとカカシの鼻に詰めてやった。えへへ、と笑うカカシの股間が恐ろしいほど膨らんでいる。
よっぽど・・・嬉しいんだな・・・はは、は・・・
イルカはナチュラルにその光景をなかった事にして、もう一度朝日に拝んだ。
どうか今日という一日が恙無く済みますように。
イルカのささやかな願いは叶えられなかった。
ふー・・・。今のところ、何の問題もないな・・・。
イルカは着付け係りに紋付袴を着せられながら、ほっと胸を撫で下ろした。
この結婚式の衣装を決める時、イルカはてっきりカカシに白無垢やらウェディングドレスやら、この時ならではのコスプレを強要されると思っていたが、カカシは何も言わなかった。
そのまともな反応に拍子抜けしながら、何処か腑に落ちない気持ちになって不安になった。
てっきり「お代官様許して〜」「よいではないかよいではないか」と帯をくるくる〜とされると思っていたのに・・・
何か悪いものでも食べたのかな・・・
まともな態度のカカシに不安を覚える自分が少し物悲しかったが、今回はどうやら取り越し苦労だったようだ。
そうだよな・・・幾らあの人でも・・・今日は人生で一度きりの晴れの舞台だし・・・
招待客もいるんだし、変なことはしないよな!
イルカが扇を手に控え室の扉を開けた瞬間、眼前に広がるその光景に激しい眩暈を覚えた。
「イルカ先生・・・!紋付袴姿、素敵ですねっすっごく似合ってます・・・!!あ、あの、俺はどうですか・・・?」
どうですかって・・・
イルカはどう答えていいのか分からず、音の無いまま口をパクパクさせた。
目の前には頬を染めて恥ずかしそうに俯くカカシ。
そのカカシの頭には角隠しがのっている。
そして下は白無垢姿で、
しかも激しくサイズが合っていない。
袖から肘は出てるし、足なんか膝小僧まで見えている。
ど、どうしてこんな格好を・・・というより、何でつんつるてんなんだーーーー!?
しかしその時、イルカはその白無垢に見覚えがあることに気付いた。
桐の箪笥にしまわれたままだった・・・
「これ、イルカ先生のお母さんの形見です。」
カカシは嬉しそうに微笑みながら言った。
「以前イルカ先生、これを見せてくれたでしょう・・・?」
「あ・・・っ」
そういえば、とイルカは思い出していた。この白無垢を手にイルカはしみじみ言ったのだ。
これは母ちゃんが結婚式に着た白無垢なんです・・・母ちゃんが将来俺の嫁さんになる子にこれを着てもらうのよって・・・
だけど無駄になっちゃったなあ・・・
何の気なしに言った。笑いながら。あの時の事を覚えていたのか。
「俺、絶対これを着ようって決めてたんです。」
カカシの言葉にイルカは脱力した。
阿呆らしい。
なんて阿呆らしい人なんだとイルカは思った。
それなのになんだか涙が込み上げてきた。滑稽なはずのカカシのその格好がとても輝いて見える。
どうかしてるよ、全く・・・
イルカはズズッと鼻を啜ると、
「よく似合ってますよ・・・母ちゃんも天国で喜んでくれていると思います」
優しく微笑んだ。
カカシはその言葉に、こぼれんばかりの笑顔を浮かべた。
式は神前式で、親族の無いイルカとカカシは列席者も無く、後方に仲人役の火影が沈痛な顔でたたずんでいるだけだった。
誓詞はイルカが読んだ。本当はイルカがはたけ姓に入るのだからカカシが読まなければならないところだが、カカシの格好を見た神官が、「あなたが読んで下さい」と伏目がちにイルカに誓詞を手渡した。
「今日の佳き日に私どもが夫婦の契りを結び、相和し、相助け、家を整え・・・・」
イルカは読みながら、何だかぐっと込み上げてくるものがあった。
ああ、俺は本当に結婚するんだな・・・ずっと一人だったけど、これからはカカシ先生がいてくれるんだ・・・
父ちゃん、母ちゃん・・・色々あったけど、俺幸せになるよ・・・!なってみせるよ・・・!
目を赤くしながら、イルカは必死で最後まで誓詞を読み上げた。
「・・・・終生変わらぬことをお誓いいたします。」
いい終わると遂には堪えきれなくなって、イルカは「ううっ」と大粒の涙をボロボロと零した。
その瞬間後方の仲人席からも、「ううっ」と火影が泣く声が聞こえた。
「イ、イルカ先生泣かないでっ、」
イルカの隣でカカシも感無量といった感じで、ボロボロと涙を零しながら必死になって言った。
「俺も・・・俺も誓います・・・終生添い遂げます・・・!!イルカ先生を幸せにしますっっっ!!」
「カカシ先生・・・!」
ぐわし!とカカシがイルカの手を握った瞬間。
ぱりん。
神棚に祭ってあったご神体の鏡が音を立てて割れてしまった。
な、何て不吉な・・・!!
冷静になったイルカは思わず顔を蒼白にした。
だ、大丈夫なのかなこの結婚・・・
「神様も俺達の愛の強さにあてられちゃったんですね、きっとvv」
嬉しそうな顔をして、どさくさ紛れにあらぬところをもみもみするカカシの手を思い切りつねりながら、イルカは嫌な予感に身を震わせた。
「イルカ先生、おめでとうだってばよ!」
ナルトを筆頭に七班の子供達が披露宴会場に姿を現すと、金屏風の前で待ち受けていたイルカは浮かべていた笑顔を更にほころばせた。
「カカシ先生も決まってるわ・・・!でもその口布はどうにかならないの・・・!?」
折角の結婚式なのに、とあからさまに呆れた様子のサクラに、
いや、サクラ・・・これでもさっきよりは十分マシなんだ・・・
イルカはそっと心の中で呟いた。
そうなのだ。イルカは式と同じ紋付袴のままなのだが、カカシの白無垢はタキシードに着替えてもらったのだ。
別にイルカはつんつるてんの白無垢姿でもいいような、カカシマジックが掛かっていたのだが、火影の米噛みの血管の浮き具合が気になった。
火影様・・・最近血圧が高いんだよな・・・も、もし火影様に何かあったら・・・!
カカシもイルカの意見に頷いて着替えてくれた。
だがしかし。
ちょっとずるいよなあ・・・
イルカは何となくそう思ってしまう。
胸に百合の花を挿し、鬱陶しい前髪をオールバックに決めたカカシは、口布で顔半分は隠していても、その端正な顔立ちが容易に窺える。更に長い足と細い腰が際立つその格好に、訪れる列席者の口から、ほう、と溜息が漏れる。
そしてイルカの同僚が心底羨ましそうに耳打ちする。
「上手くやったなイルカ!玉の輿の上にこんな格好いい人と・・・おまえにゃ勿体無いな」
言われる度に、俺の苦労も知らないくせに、この人は変態なんだぞ!と、わなぶるってしまうイルカだ。
イルカは顔が緩みっぱなしのカカシを見詰めて、何となくむかむかしてきた。
でも・・・変態と結婚すると皆に知れるよりマシか・・・俺もそういう性癖かと思われちゃうもんな。
イルカはささやかに自分を慰めた。
しかしその後の披露宴で、「本日式をあげた二人の初めての共同作業です!」式場の司会者が高らかに言った後。
運ばれてきたウェディングケーキを目にした瞬間、イルカはそんなささやかな慰めも許されていないことを知った。
「このケーキはなんと、新郎はたけカカシさんの手作りです!
この日の為にケーキ教室に通い、イルカさんには内緒で1週間をかけて作り上げた超大作だそうです!!」
司会者がその場を盛り上げるように熱弁をふるう。
そのテンションとは裏腹に会場は水をうったように静まり返っていた。
列席者の顔に戸惑いの表情が浮かぶ。ここは笑うべきところかどうなのか、判断しかねている様子だ。
現れたケーキは等身大のイルカの形をしていた。
しかも何故か全裸だ。
あの部分にはハート型のチョコのプレートが掛かっており、「Forever Love」とクリームでデコレーションされている。
キューピーのようにデフォルメされていたら、それでも笑えたのだろうが、笑えないほどとってもリアルな出来だ。
その巧みの技はまさに木の葉一の業師の名に恥じないものだった。
イルカはそのケーキを呆然と見詰めながら、一週間前のことを思い出していた。
そ、そういえば・・・あの時石膏のようなものを体に塗られたっけ・・・
あ、新しいプレイかと思って何も疑問に思っていなかったけど・・・
きっとあれがケーキの為の型取りだったのだと今更気付いて、イルカはがっくりと肩を落とした。
何で俺だけなんだよ・・・ってゆーかなんで裸・・・
変態相手に言っても仕方が無い事をイルカは心の中で叫んだ。
思わず涙ぐむイルカに、
「おや、新婦のイルカさんは感動のあまり涙ぐんでいるようです」
司会者が微笑ましい突込みを入れる。
この状況に動じずに淡々と話を進める司会者に、イルカは「プロってすごいな、」と見当はずれな感心をした。
それだけでなく司会者は更に、
「忙しい中、これほどのケーキを作るのは大変だったでしょう。一番苦労なされた点は何処ですか?」
と余計な質問をカカシに振った。
カカシはそうですねえ、と真面目な顔をして答えた。
「この体の傷には苦労しました。傷のある場所から数、その傷の色合いの濃淡にまでこだわりました〜!この首筋の辺りにある色合いの違う箇所は、傷じゃなくて俺のつけたキスマー・・・」
「うわ〜うわ〜うわ〜!!!!」
イルカは思わず叫んでいた。
これ以上喋らされたらボロが出てしまう・・・!
イルカは何とかこの場を取り繕おうと必死だった。
「ほ、本当にすっごいですね!!お、俺も吃驚しました!感激です!さっ、早くケーキカットしましょう!!!
カカシ先生との初の共同作業・・・俺、ま、待ちきれません!!」
「イルカ先生・・・!」
カカシはバッと手のひらで鼻先を覆った。多分鼻血が出ているのだろう。
ああ、この大事な時にと思いつつも、イルカは予めこよりにしておいたティッシュをサッと取り出し、こっそりカカシに渡した。
カカシはそれを来賓に背を向けて、口布を下げてこっそりと鼻に詰め、何事も無かったようにまた引き上げた。
口布をしていてよかったと思える一瞬だ。
司会者はそれを見計らって、
「それではケーキカットです!ささ、カメラをお持ちのお客様は前に・・・」
ケーキカットのまとめに入る。
その声に会場も俄かに和やかさを取り戻す。
カメラを持った来賓に囲まれながら、渡されたナイフをカカシとイルカは二人でしっかと握り締めた。
握り締めながらカカシはイルカに向かってにっこりと笑った。
「何も怖くありませんからね!全部俺に任せちゃってください・・・!」
え?とイルカが首をかしげているうちに、「ケーキ入刀です!」と司会者が合図した。
次の瞬間。
ぷす。
ナイフの先がケーキのイルカのお尻に刺さっていた。お尻の・・・双丘の間に。
温度を失くす周囲に蒼白になるイルカ。プロの司会者もフォローが浮かばないようで無言のままだ。
その中で一人興奮気味の変態上忍。
「ああ・・・っイ、イルカ先生、い、痛くないですからね・・・!」
カカシはハアハアといいながら、ナイフの先をブスブス〜とどんどんめり込ませていく。
「カカカカ、カカシせんせ・・・っ!!!!」
いち早く正気付いたイルカが必死になってその手を止めようとしたが、カカシは既に暴走して我を見失い始めていた。
「う、動きますよ〜〜〜〜!」
叫びながら怪しくナイフをぐさぐさ出したり入れたりしている。
ひいいい〜〜〜〜!!か、神様〜〜〜〜!!!
「イルカせんせ〜〜〜〜〜!!!!」
カカシが大絶叫してグサーーーと一際激しくナイフを突き入れた瞬間、そのあまりの勢いにボロボロッとケーキであるイルカの腰から下が砕け散った。ついでに上半身が頭から床に落ちてぐしゃりと潰れる。
その姿に未来の自分を見たような気がして、
父ちゃん母ちゃん・・・お、俺大丈夫かな・・・
イルカは心の中でひっそりと涙した。
砕け散ったケーキを式場側は上手に回収し、何食わぬ顔で皿に盛って来賓のテーブル席に配った。
皆それを沈痛な顔をして見詰めていた。勿論イルカも。
誰も食わねえよ・・・!
そう思っていると、一人屈託ないナルトが、
「うわーこのケーキすっごくうまいってばよ!
サクラちゃんもサスケも、遠慮してねえで早く食べろってば!!絶対感動するって!!」
がががとケーキを一気に頬張ったかと思うと、サクラのフォークを握ってそのケーキを無理矢理口に運んだ。
その途端、「何すんのよ!?」と叫んだサクラの顔が急にホッコリと綻んだ。
「え・・・やだ嘘・・・何このケーキ・・・すっごくおいしい・・・」
素朴な賞賛の声に、えっと会場中の視線が集まる。
だろ、だろ!?と得意顔のナルトの隣でサスケが無表情に口をもぐもぐさせていた。
「この生クリームは・・・濃厚でありながら淡雪のように口どけがよく、まったりとしていながら全然しつこくない・・・しかも気泡が満遍なく入ったスポンジの歯ごたえは絶妙で間に挟んだ五種のベリーの爽やかな酸味と蜂蜜の甘みがマッチして、至高のハーモニーを奏でている・・・!やるじゃないか、カカシ。」
クールな笑みを浮かべるサスケの説得力のある薀蓄に、会場中がごくりと喉を鳴らす。
恐る恐る口に運んだ来賓から、
「う、うまい・・・!」「こ、こんな味があったなんて・・・!」
と次々と賞賛の声が上がり、いつのまにかもっとないのか、もっとよこせ、うけけけけ、と皆おかしな具合になっていた。
イルカの隣では火影様までもが無心にがつがつと食べている。その光景をイルカは信じられない気持ちで見つめていた。
みんな、マジか・・・?それでいいのか・・・?ってか、食べられてるの、俺の体なんだよなあ・・・
イルカはげんなりとして悪戯にフォークを弄んでいた。
「イルカ先生も食べてみてくださいーvv俺の自信作です!」
カカシが期待に満ちた眼差しで、もじもじとしながらイルカを見詰める。
その姿にイルカは嘆息した。さっきのケーキカットのショックからまだ立ち直っていなかった。とても食欲が湧かない。
第一、これ何処の部分だよ・・・
イルカの心の声が聞こえたようにカカシが言った。
「イルカ先生のケーキは顔の部分みたいですねvv」
へえ、顔かあと思いながらイルカはケーキをつついた。
「それじゃあ、この巨峰二粒は俺の目の部分なんですね・・・」
感心したように言うと、カカシがかああ!と顔を茹蛸のように赤くした。
「そ、そんなイルカ先生・・・きょ、巨根だなんて・・・なんですか突然・・・ほ、欲しくなっちゃったんですか?」
照れるなあ、もう、と嬉しそうに体をくねくねさせるカカシに、「巨根じゃなくて巨峰だろうが!」とイルカは最早突っ込む気も失せていた。
もう好きにしてくれ・・・
イルカの隣でカカシは嬉しそうに例のチョコプレート部分を頬張っていた。
よく見るとカカシの皿の上にはそのほかにデコレーションされたバナナとチョコエッグ×2が乗せられていた。
それを見たイルカは心底泣きたくなった。泣きたいなんてもんじゃない。今すぐこの場を逃げ出したい衝動に駆られた。
早く披露宴よ、終ってくれ・・・・!
イルカが心の中で叫んだ時、再び司会者が姿を現した。それとともにセットされる映写機にイルカは首をかしげた。
なんだろう?何が始まるんだろう・・・?
イルカが疑問に思っていると司会者が言った。
「これから新郎はたけカカシさんと新婦うみのイルカさんの馴れ初めから結婚までをつづった、愛のメモリーの上映があります。」
はあ?
イルカが胡乱な目つきをしていると更に司会者は言った。
「18歳未満の列席者の皆様はこれを装着してくださいね。」
そう言って取り出したのはアイマスクと耳栓だった。
何故にアイマスクに耳栓・・・!?
「ちょ、ちょっと待ったーーー!!!」
イルカが思わず立ち上がった時、無情にも映写機が回り始めた。
しかしイルカの心配を他所に、スクリーンに映ったのは至極まともな映像だった。
「新郎うみのイルカさんは25年前の9月にこの世に生を受け、」と司会者が虎の巻を読み上げる傍らでは、赤ちゃんの頃のイルカの写真が映し出されていた。たらいの中で行水している微笑ましいものだ。
あ、あれ・・・?俺の考え過ぎだったのかな・・・?て、てっきりいやらしい映像が流されるのかと・・・
イルカは自分の行き過ぎた破廉恥な想像に顔を赤くしながら、浮かしかけた腰をすとんと下ろした。
「どうしたんですか、イルカ先生?顔が真っ赤ですよ〜?」
隣からカカシが心配そうな顔をして覗き込む。
「あ・・・いや・・・その・・・あ、あんな写真あったのかって吃驚して・・・」
苦し紛れに応えた言葉だったが、
「うみの家の一粒種としてすくすくと育ったイルカさんはアカデミーにご入学なされ、11歳で卒業、16歳で中忍となりました」
その言葉とともにスクリーンに次々に映し出される写真に、イルカはその思いを強めた。
アカデミーの水泳の授業でふんどし一丁の俺。
体育着に着替える途中でパンツ一丁の俺。
夏の林間学校で友達と楽しそうに風呂に入っている、
腰にタオルを巻いただけの俺。
こ、こんな写真撮ったっけ・・・?ってゆーか、赤ちゃんの頃から俺なんだか、裸の写真ばかりのような気がするんだけど・・・
しかしその間においしそうに棒アイスを舐めている写真や、
収穫した胡瓜を両手で握っている写真、
牛乳を口から零している写真など、
普通の写真も入っているので、やはり考えすぎかとイルカは思い直した。
「それにしても見覚えの無い写真ばかりだなあ・・・」
イルカが思わずポツリと呟くと、傍らでカカシが恥ずかしそうにくねっと体を捩った。
「俺はイルカ先生の為なら金に糸目はつけない男です!この写真を揃えるのに苦労しました・・・!」
「はあ・・・?」
イルカはカカシの言葉に間の抜けた声を上げた。この写真をカカシは誰かから買ったというのだろうか。
多分俺の友達からとかだろうけど・・・勿体無いことするなあ・・・
イルカがそんなことを思っていると、カカシはさらりと恐ろしいことを言った。
「それに・・・俺はイルカ先生の為なら、どんな汚い事にも手を染める事ができます。金でどうにかならないものは・・・
多少手荒な事をしましたが、大丈夫、殺してはいません!!」
「ええええ?こ、殺すって・・・はああ?」
イルカは蒼白になった。まじですか?と聞くのが怖いほどカカシはマジな顔をしている。そういわれてみると、映し出された写真の何枚かの端っこに、赤黒いインクの染みのようなものが散っていて、変だなあと思っていたのだ。
あの染みはまさか・・・
イルカはガクガクと体を震わせながら、今更ながらに本日何故か欠席の目立つ、自分の招待客の事を思って神に祈った。
二人の生い立ちが終ると、「ここからは仲睦まじいお二人の愛の日々をお見せしましょう!」と司会者が朗らかに言い放った。
それにあわせてバーンと画面に大きく「カカシ×イルカ愛の嵐」とタイトルロールが出ると、BGMにベートーベンの運命が流れる。
な、なんじゃこりゃあ・・・!?
イルカはまたしても嫌な予感に身を凍らせた。
「お二人はどんな時もお互いを支えあっています」
司会者はしんみりといった。
「病める時もお互いを助け合い、」と口にする司会者の後ろのスクリーンにパッとカカシの姿が映った。
その姿にイルカはおろか会場中が固まった。皆がそこに見たのは。
全裸の上に白衣を纏い、聴診器を耳にはめたカカシ。
その片手には怪しげな注射器を持っている。そしてその体の下に黒抜きの人型。
それを呆然と見つめるイルカに、カカシがにっこり微笑みながら言った。
「俺以外の奴にイルカ先生のあられもない姿を見せるわけにはいきません・・・だからイルカ先生の部分は黒抜きにしときました!!」
意味ねえーーーーっっっ!!!
イルカは心の中で絶叫していた。
幾ら黒抜きでもそれが俺だとわからない奴なんているか!?
ってゆーかあんたのやばいものとかぽろっと見えてるんですけど・・・!!
いや、そんなことよりも・・・これが病める時もお互いを助け合いって映像かーーーー!?
至極真っ当な事を心の中で叫びながらも、あまりの衝撃にそれは全て声にならなかった。
しかも映像の音声はそのまま垂れ流しだ。
「お、俺熱があるんです・・・止めてください・・・!」と黒抜きの人型が涙声で訴えると、
「それは大変だ〜★とっておきのお注射をしましょうね〜直にヨクなりますよvv」
カカシが嬉しそうにモザイクの掛かったものを取り出している。
ひいいい〜〜〜〜!!
イルカが止めさせようと腰を浮かしかけた時画面は切り替わった。
司会者は全く動じないまま、話を進めた。
「また、貧しき時もお互い分け合い、」
その言葉とともに画面いっぱいに映し出されたのは。
茄子。
画面の中でカカシは全裸で叫んでいた
「イルカ先生、俺に遠慮しないでいいですからっ、好きなだけ食べちゃってください〜〜〜〜!!!!」
カカシの手にしたナスが黒抜きの人型の、お尻の部分と思われる狭間からズボズボと出たり入ったりしている。
「俺はっ秋茄子を嫁に食べさせる男です〜〜〜!!!」
イルカは最早失神寸前だった。
こ、これが貧しき時もお互い分け合い・・・!?食ってんの俺だけじゃねえか!しかも無理矢理だろうが!!
ああ、違うだろ俺、俺が言いたいのは・・・
イルカは手のひらで熱くなる目頭を覆った。
神様っ・・・俺を見捨てないでくれ・・・!!
胸で祈るように手を合わせながら、イルカが気を失いそうになったその瞬間、
「うぐ・・・っ!」
それより先に、隣にいた火影様が口から泡を吹いてばたーんと倒れこんでしまった。
「ほっ、火影様!!し、しっかりしてくださいーーーーー!!!!」
大急ぎでイルカが駆け寄った時、スクリーンの中ではカカシが腰を振りながらがらカメラの方向に向かってピースをしていた。
里長が倒れた事により、披露宴会場は騒然とした。
駆けつけた救急班の担架にのせられた火影が、うう〜と呻き声を上げながら、「考え直すんじゃ、イルカよ・・・!」と繰り返した。
ほ、火影様・・・お、俺・・・俺は・・・!
火影が運ばれていくのを心配そうに見送るイルカの隣でカカシが背中を丸めてのほほんと言った。
「いや〜急にどうしちゃったんでしょうね?やはり日頃の激務が祟ってるのかなあ。仲人頼んじゃって悪かったですかねえ?」
イルカはカカシの言葉にカッとなった。
「・・・っざけんな・・・・っ!!」
教師生活で鍛えた天下一品の怒鳴り声が会場中に響き渡った。
「あんなフィルムを上映した所為に決まってるでしょう・・・!?大体あんなの上映するって俺は聞いてませんよ?」
イルカの剣幕にカカシが縮こまる。
「だ、だって、内緒にしてイルカ先生を喜ばせようと思って・・・」
だから、あれの何処を喜べっつーの!!
イルカはこめかみを揉みながら尚も続けた。もう止まらなかった。
「俺は・・・俺は今日を楽しみにしてたんです・・・!今日、火影様の前でちゃんとしたところを見せて・・・この結婚を反対する火影様を安心させようって・・・!」
それは本当のことだった。披露宴の最後に親に向かって礼を述べるべき時、火影に向かって言うつもりだった。
今までありがとうございました。これから俺はカカシさんと幸せになります。心配しないでください。
小さい頃から親代わりだった火影に向かって。それなのに。
「こんな大切な日にも・・・認めてもらえなかったじゃないか!!」
そうなんだ。俺は・・・火影様に認めてもらいたかったんだ・・・
だってこんな変態でも俺は好きなんだ。全くやってられねえ。こんな変態なのに。畜生。
「イ、イルカ先生・・・」
ブワッと涙を浮かべるイルカに、カカシはおろおろとしていたが、突然意を決したようにその場に土下座をした。
「ご、ごめんなさい、俺・・・でも・・・俺・・・本当にあのフィルム編集するの頑張ったんです・・・よ、喜んでくれるかと思って・・・」
うん、何となくそれは分かる。方向性が間違ってるけど。
「内緒でケーキ作ったりフィルム編集したり・・・この一ヶ月、不眠不休で・・・」
・・・そんなに頑張ってたのかよ。そういえばあんまりうちに泊まっていってなかったなあ。
「きょ、今日をいい事で一杯にしたくて・・・俺・・・がん、頑張ったつもり・・・なんですけど・・・」
ひいっくとしゃくりあげる声がする。
「ごめんね、イルカ先生・・・ごめんなさい・・・」
擦り付けた額を窺う様にあげる少し上げるカカシの顔にイルカは脱力した。口布を下げたカカシの顔は鼻血と鼻水と涙でぐちゃぐちゃだった。詰めていたこよりは鼻水に流されてどこかへいってしまったらしい。
そんで俺はもうほだされてんだよなあ・・・
イルカは自分の目元を手のひらで拭った。大の男二人で泣いてるなんて恥ずかしい。
「・・・後で火影様のところへ一緒にいってくださいよ。」
イルカがカカシに手を伸ばすと、固唾を呑んで事の成り行きを見守っていた場内から「結婚おめでとう!」「いい披露宴だった!」と、わっと拍手が起こった。
披露宴を終えた後、イルカとカカシは火影の運びこまれた木の葉病院へと急いだ。
カカシは何回も頭を下げて、イルカ先生を幸せにします、と寝込む火影の耳元で何百回、何千回、いや何万回と、睡眠学習枕のごとくエンドレスに繰り返した。狸寝入りをする火影が根負けして目を開けるまで。
遂に火影がうんざりとした顔をして目を開けると、「それでいいのか?イルカよ。」と一言だけ訊いた。
イルカはきっぱりと答えた。
「はい、俺はカカシ先生がいいです。」
イルカの言葉にカカシは目を潤ませ、火影は嘆息した。
「お前がそれでいいならわしは何もいう事はない。」
火影は満面の笑顔を浮べて言った。
「幸せにな、イルカよ。」
火影様・・・
イルカは目元を濡らしながら頷いた。今更でなんだという感じだが、結婚したんだなあ俺、とイルカはようやく実感した。
「火影様、俺、本当に世界一イルカ先生を幸せにしてみせます!俺の命を懸けて!」
同じく感極まった様子のカカシが叫んで、突然ぶちゅうとイルカにキスしてきた。
「な、何するんですか・・・!?」
焦るイルカに、「ち、誓いのキスです〜〜〜!」とはっはっと息を必要以上に荒げながら、カカシが尚も唇を突き出してくる。
ついでとばかりに硬くなった下半身も。その攻防に火影が「うっ」とまた胸を押さえた。
「ほ、火影様・・・!」
イルカは先ほどまでの感動が全て吹っ飛んでいた。
だ、台無しだ・・・全てが・・・こ、この・・・!
「変態野郎が〜〜〜!」
イルカの強烈な膝蹴りがカカシの大事な部分を強襲していた。
「うう・・・うううう・・・ひどいです、イルカ先生・・・」
病院から愛の巣(イルカのボロアパート)に戻ったカカシはあそこを押さえながら、開口一番そうのたまった。
ちょっと可哀想だったかな・・・。
ただ変態なだけでカカシに悪気がないのが分かっているだけに、イルカは罪悪感にかられていた。
もう許してやろうかな。そう思った時。
「しょ、初夜なのに・・・いっぱい頑張ろうと思ったのに・・・つ、使い物にならないです・・・」
しくしくと泣きながら訴えるカカシにその気持ちも萎えたイルカだった。
それしか頭にねえのかよ・・・
イルカは思いながらも溜息をついて、カカシに自分からキスをした。そんな事滅多にしない。
「イ、イルカ先生・・・!?」
案の定それだけでカカシは浮上した。
「好きですよカカシ先生。幸せになりましょうね・・・?」
結局許してしまう。
甘やかしすぎだな俺は。変態がエスカレートする原因は俺にもあるな。でも今日は特別な日だから・・・まあいいか。
イルカの言葉に嬉しそうにブンブンと頷くカカシの鼻から、鼻血が飛び散っている。
使い物にならないはずの例のものもいまやすっかり元気だ。
なんだかなあとイルカは思いながら、またカカシの鼻にこよりを詰めてやろうとポケットを弄った。
だが今日の日の為に沢山用意していたはずのこよりは、もう残っていなかった。
はー・・・輸血できるくらい鼻血を噴いたんじゃないか、この人・・・?
イルカは呆れながらも、こんなに日々大量に血液を失っていて大丈夫なのかなあ、と心配する。
吐き出される精液を換算すると、体の水分の三分の一が失われてるんじゃあるまいか?
本当に俺に命をかけてるよ・・・
小さく笑ったイルカにカカシもにっこりと微笑んだ。
「はい、幸せになりましょうね、イルカ先生・・・!」
だらだらと流れ続ける鼻血を見詰めながら、長生きしてくださいね、とイルカは心の中で呟いて、カカシの背中にそっと腕を回した。
翌日鼻血と精液で体の水分の半分以上は失ったんじゃないかと思われるカカシはは溌剌としていた。
「清清しい朝ですね、イルカ先生vv」
爽やかな笑顔の下で、しかもカカシの息子は朝立ちしていた。
この人、ほんとに人間か・・・?
イルカは虫の息でベッドに横たわりながら、長生きできないのは俺のほうかもなあと感じていた。イルカはこの時、自分の結婚した相手が変態な上に人間で無いことを痛感したのだった。
終わり
おまけ披露宴の帰り道の七班の子供達 の会話
「カカシ先生が変態なのは知ってたけど・・・今日は特別すごかったよね・・・」
「俺はいつもと同じに見えたってばよ!イルカ先生のほうが赤くなったり青くなったり、いつもと違っておかしかったってば!」
「そりゃあ、あんな結婚式じゃイルカ先生も赤くなったり青くなったりするわよ!それが普通よ!」
その二人の会話を隣で黙って聞いていたサスケがボソッと呟いた。
「俺は・・・カカシの変態振りよりも、カカシの歌が一番痛かったけどな・・・」
その一言にサクラもナルトも「うっ」と呻いて顔を俯けた。
カカシが披露宴でイルカに捧げた歌。
チャコの海岸物語、イルカバージョン。
「心から好きだよ、イルカァ〜抱き締めたい〜浜辺で天使を見つけたのさ〜」
愛してるよお!とくねくねと踊りながらシャウトするカカシは究極の音痴だった。そして鼻には鼻血を十分に含んだこよりを詰めていた。
うわあ・・・・!こっぱずかしい。寒いぼだ。ってか、ちょっと腹よじれそうなんですけど!
会場の誰もがそう思って伏目がちになっていたのだが、至極まじなカカシに誰一人クスとも笑い声を上げる事ができなかった。
腹筋の鍛えられる、しかも何だか居た堪れない一時だった。
「でもあの時のイルカ先生、今までで一番幸せそうだったってばよ・・・」
カカシの歌にイルカ先生が幸せそうに微笑んで手を打ちながら、感激のためか男泣きに泣いている姿を思い出して、サスケとサクラは深い溜息をついた。
「お似合いの二人って事かしら・・・」
「そうだな・・・」
「変態でも赤くなったり青くなったりでも、幸せならいいってばよ!!」
ナルトの言葉に残りの二人もコクリと頷いた。
因みに引き出物を開けたら、「はたけカカシ・イルカ FOREVER LOVE」と書かれた仲睦まじい二人の写真が底の部分にプリントされたラーメン丼が入っていた。二人の意向を妥協の上融合させたのであろうその一品は、熱い汁を注ぐと隠し写真が浮き上がる仕掛けになっていて、しかもそれはまり嬉しくない二人の写真だった。勿論そのことをイルカは知らない。
しかし不幸中の幸いな事に、その丼を実際に使ったのはナルトくらいなものだった。ナルトはラーメンを食べる度に、
「なんでこの二人は裸なんだってばよ・・・?」
一人不思議に思っていたらしい。
おしまい