(35)

カカシの手がイルカのズボンの中に滑り込んだ次の瞬間。

「いでーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」

イルカは体の中心から全身にビリッと走った激痛に失神してしまいそうになった。痛かった。物凄く股間が。もっと正確に言うとアレが。痛いなんて言葉じゃ表現しきれないくらいだった。チャックに間違って挟んでしまった時もあまりの痛みにもんどりうったが、その比ではない。滑り込んだカカシの手が何を思ったのか、ギュウウウウ!とまるで牛の乳を搾り出すかのようにイルカのアレを扱いたのだ。
カカシの巧みな愛撫の手で、また天国の両親と邂逅してしまうのではと戦々恐々としていたが、別の意味で天国に行きかけてしまったイルカだ。

「ううううう〜〜〜〜〜っ…い、いた…痛い…ううっ……!」

口からは思わず苦悶の呻き声が零れた。ボロボロと滝の様に零れる涙に滲む視界は、ちかちかと散る火花にハレーションを起こしていた。鼻水も涎も出ているようだったが、もうどうでもよかった。
カカシはイルカの異変にハッとして、すぐに股間から手を離した。その顔は真っ青で「失敗してしまった」と後悔に歪んでいた。

「だ、大丈夫ですか…イルカ先生…っ!?く、口から泡が・・・あわわ!あっ、こ、これは駄洒落じゃありません…!俺っ、決してふざけているわけでは…!!」

カカシが動転した様子で捲くし立てる。

「イルカ先生、しっかり…しっかりして…!」

うわーん、俺が、俺の愛撫が下手糞な所為でイルカ先生が…っ、と泣き喚くカカシにガクガクと揺さぶられ、イルカは「うう…っ!」と眉間に深い皺を寄せた。

い、今俺を動かさないでくれ…!まだあそこが痛むんだからそっとしておいてくれ…頼む!

イルカはじっとりと冷や汗を滲ませながらも、カカシを落ち着かせようと無理矢理微笑んで見せた。

「大丈夫、ですよ。カカシ先生…お願いですから揺さぶらないで、ください……」

ポンポンと優しく背中を叩いてやれば、暴れるカカシは腕の中で徐々に大人しくなった。

「ごめんなさい、イルカ先生……」

そうっとイルカの体の上からどくと、傍らにうつ伏せに突っ伏してウグウグと肩を震わせる。泣きたいのはこっちだよ、とイルカはハアーと溜息をつきながらも、哀れ臭いカカシの様子が気になっていた。一方的に痛い思いをさせられた自分の方が気を遣ってもらいたいくらいだが、カカシを見ていると何だか自分の方が泣かせてしまったかのような罪悪感を覚える。やってられないよなあ、とイルカは心の中で呟いた。

はあー…これでまた愛撫に自信喪失してなきゃいいけど…腐れチ○ポ野郎の称号を大分気に病んでいるからなあ…
しかし何でこんなところを擦ろうとするかなー…大体女性にこんなものはついていないし、この前のレッスンでも下半身には触れなかったぞ…勘違いにも程がある…

不可解に思いながらも、相手が不可解の塊のカカシなのだから、何となく仕方がないような気持ちになる。イルカはどんどん泣き声を大きくするカカシをどうにかしてやりたかったが、じんじんと痛む股間に暫くの間それ以上動く事もしゃべることもできないでいた。

俺のアレ、大丈夫かなあ…?使い物にならなくなったらどうしよう…

ようやく少し体を動かせるようになると、イルカはゆっくりと慎重に体を起こして、そうっとパンツの中を覗いた。それは見たこともないほど縮んでまさにグッタリとした様子だったが、特に問題はなさそうだった。

よしよし、

イルカがホッとして緊張した顔を綻ばせると、その隣でやはりホウッと安堵の溜息が聞こえた。えっ!?と視線を走らせると、何時の間にか顔を上げたカカシが、イルカと一緒にパンツの中を覗きこんでいた。

「な、なななな、何見てるんですか…!?」

何時の間に、と慌ててイルカがパンツの覗き口を閉じると、カカシは目尻に涙を浮べたままホニャリと笑った。

「イ、イルカ先生のアレが無事で…よかったです…俺、俺…てっきり握り潰しちゃったのかと…ごめんなさい…」

笑顔はすぐに歪んで、カカシはボロボロと大粒の涙を零した。何度も擦ったのか目の縁が赤く腫れている。鼻先も真っ赤で、冬の北風の中を駆けてきた子供みたいだ。

物騒な事を言っているのに…なんだか可愛いんだよなあ…

イルカは枕元に置いてあるティッシュとって、鼻水を拭ってやりながら困ったように微笑んだ。

「男のアレへの愛撫なんて俺は教えてないですからねー…そんなの俺も知らないし…上手にできなくて当然ですよ。というか、上手にできなくてもいいんです…なんでそんな事しようとしたんですか?カカシ先生は記憶違いをしてるんだと思います。愛撫のレッスンで俺は下半身には触ってませんよ?」

なんじゃそりゃあ!?と思うような台詞だったが、カカシは少しタラリラリンなところがあるし、誰もが分かっているだろうという事も噛んで含めるようにいっておく必要があるとイルカは感じていた。

そうだよ、この人の場合、些細な事も言葉で確認しながら進まなくちゃな。またこんな事が無いように…。

「だからカカシ先生は今日の失敗を気に病む事はないですからね?まあ、女性にはこんなもの付いていないし、いざという時俺みたいにな事にはなりませんよ!心配ないです、」

あっはっはっ!とイルカは無理して豪快に笑い飛ばした。少しでもカカシを励ましたい一心だったが、そんなイルカの努力もむなしく、カカシは何故かより一層顔を曇らせた。

ど、どうしたのかな…?俺何かはずした…?

「カカシ先生…?」

俯くカカシの瞳から零れる涙がポトポトとシーツに落ちては染みを作った。なんだか大分うちひしがれている様子だった。

「……くなりたいです…」

カカシが何かポツリと呟いたが、それはとても小さくてイルカには良く聞こえなかった。

「え?カカシ先生、今何か言いましたか?」

イルカの言葉にカカシは俯いたままフルフルと首を横に振った。

「……俺の事、嫌になっちゃいましたか?イルカ先生……」

恐る恐るといった風に告げられた言葉にイルカは「なんだ、」と思わず小さく笑った。

なんだ…愛撫の下手糞さを気に病んでいたんじゃなくて、俺が怒っているかと気にしていたのか…!
そうか…それなのに俺は見当違いな励ましをして…!

「そんな事ないですよ。嫌になってなんかいないです。寧ろ、カカシ先生が頑張り屋で感心してるくらいです!」

イルカが何も気にしていないといわんばかりに会心の笑顔を浮べると、今まで消沈していたカカシが感極まったようにイルカの手をぎゅっと握ってきた。

「俺、頑張ります…!イルカ先生が安心してくれるくらい頑張ります…!一人でも…努力します!」

俺を安心させるって…なんだろう?一人で努力って…?

その言葉の意味を計りかねながらも、意欲に満ちたカカシの様子に気圧されて、

「そ、そうですか…頑張ってください。」

イルカは思わず頷いてしまっていた。

続く

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