(22)

「はあ・・・?さっきのって・・・何の事ですか?」

胡乱な表情を浮かべるイルカに、

「さ・・・さっき、アレの紐を解く直前に・・・イルカ先生が俺に言った事です・・・」

カカシはもじもじと消え入りそうな声で答えた。その事かと合点のいったイルカはすぐに教えてあげようとして、はて、と首を捻った。

カカシ先生が暴れるのを止めようと、何か驚かせるような事を言った筈なんだけど・・・
な、何て言ったんだっけ・・・?

幾ら考えてみてもイルカはその言葉を思い出せなかった。非常に焦っていた時に閃いた咄嗟の言葉だった所為もあるし、紐を解く事に考えが集中していた所為もある。

俺、何て言ったのかなあ・・・?俺の一言で動きが止まったくらいだ・・・
ひょっとして余程えげつない事を言ってしまったんだろうか・・・?

カカシが自信がなさそうに何処かおどおどとした様子でイルカの返事を待っていた。そんな様子に何かカカシの自信を喪失させるような事を口にしてしまったのかと、イルカは胸をひやりとさせた。

ま、まさか俺・・・「この早漏野郎!」「こっちは眠いんだよ、手間かけさせんな!」なんて、正直に叫んだんじゃないんだろうな・・・?

心の中で幾らなんでもそんなまさかと思うのに、否定する事もできずにイルカは顔を青くした。

い、いや、所詮俺の考える事だ・・・「布団がふっとんだ・・・!」とか身も凍る駄洒落を言ったのかもしれないぞ・・・!

大いにあり得る、とイルカはうんうんと頷いた。しかし今一つ説得力に欠ける。第一寒い駄洒落ではカカシの自信なさそうな表情の説明ができない。そう考えるとやはり何かカカシが自信喪失するような事を口走ったのだろう。そんな言葉を「覚えていません」とは告白し辛く、ましてや「俺、何て言ったんですか?」と蒸し返すような事もできなかった。カカシはなかなか返事をしないイルカを追い詰めるように、もう一度「本当ですか・・・?」と尋ねてくる。イルカはだらだらと冷や汗を掻きながら、

ど、どうしよう・・・どうしたらこの場を切り抜けられるんだ・・・?

忙しなく頭を働かせた。カカシは「本当ですか?」と訊いている。多分酷い言葉投げつけたのだろうから、ここは思いっきり否定しておけばいいんじゃないだろうか?そうだ、そうしよう。イルカはそう結論付けて、あっはっはっと豪快に笑い声を上げた。

「カカシ先生、そんな筈ないじゃないですか・・・!冗談ですよ、冗談!ほら、しゃっくりも驚かせると止まるとか言うように、カカシ先生を驚かせたら暴れるのを止めてもらえるかな、と思って。吃驚させ過ぎちゃいましたか?すみません・・・・」

これでもかというくらい惜しみなくニコニコと微笑みながら、カカシの丸くなった背中をばんばんと叩く。これで問題解決・・・!とばかりにカカシの表情を覗き見ると、予想に反して浮かない顔がそこにあった。浮かないなんてものじゃない。沈痛と呼ぶに相応しいような表情だった。

お、俺、何かまずった・・・?

イルカが自分が失態を犯したのではと焦った時、

「な、なんだ・・・そうですか・・・そう、ですよね・・・じょ、冗談でしたか・・・・」

カカシがにっこりと笑顔を浮べた。それが如何にも「無理してます」という感じの作り笑顔で、イルカは益々焦りを募らせた。

俺は何て言ったんだろう・・・?ひょっとして褒め言葉だったんだろうか・・・?
「なかなか筋がいいですよ」とか「これで彼女ができるのも間違い無しです」とか・・・
社交辞令が普通の言葉と同義語の俺のことだ・・・あ、あり得る・・・!何で気がつかなかったんだ・・・?
ああ〜!カカシ先生をよいしょしておいて、俺は突き落としてしまったのか・・・!?さ、最低だろう、それ・・・!

だが今更前言を撤回できず、また撤回できないほど豪快に笑い飛ばしてしまったので、イルカは最早どうすることもできなかった。これ以上この事に言及すると深みに嵌まってしまいそうだ。イルカはそう考えて、強引に話を転換させる事にした。

「とにかく、今はそんな話をしてる場合じゃないですよ!カカシ先生には忘れないうちに愛撫の復習をしてもらいます・・・」

自分で言いながらイルカは心の中で頭を抱えた。できるなら避けて通りたい事を自分から促す。何となく泣けてきても仕方がないだろう。

「それでは俺の手順を思い出しながら、今から俺に愛撫をしてみてください・・・!」

嬉々として飛びついてくるだろうと思っていたカカシは、しかし暫しの間顔を俯けて黙ったままだった。恥ずかしい言葉を高らかに言い放ったイルカは居た堪れなかった。沈黙が針の筵だ。

な、何だよ・・・!?愛撫の復習はさすがにちょっと勘弁してください、とか言うわけじゃないだろうな・・・!?

でもよく考えると、愛撫を教えてくださいとは言われたが、復習の事まで言っていなかった気がする。

まさか愛撫に関してはそこまで求めていなかった・・・?

自分が思い違いしていたのかとイルカはカアアア!とこれ以上ないほど顔を赤くした。その時。

「俺・・・頑張ります・・・!」

カカシが酷く真剣な瞳をしてイルカを見詰めた。

「愛撫の復習、頑張ります・・・すごく頑張ります・・・お、俺、何だかすごく・・・頑張りたい気持ちです!頑張れば今は無理でも、好きな人を振り向かせる事はできますよね・・・?」

何だかよく分からなかったが、イルカは無責任にも頷いてしまっていた。取り合えず、カカシから憂いが払えればよかった。

「大丈夫ですよ・・・!頑張ればきっと報われます!頑張ってください、カカシ先生・・・!」

ギュッとカカシの手を握れば、

「はい・・っ頑張ります・・・!」

カカシが今はキラキラとやる気に満ちた瞳で答えた。

「それじゃあ、イルカ先生・・・」

早速イルカの耳朶を指先でふにふにと揉みながら、カカシが耳元に唇を寄せてくる。その舌先がねっとりと舐るように耳孔の奥へ侵入してきた時。

「う・・・っ・・・」

イルカはそれだけの刺激でビクビクと体を震わせた。カカシの舌は休む事無く孔の中を執拗に嘗め回している。ちゅくちゅくと湿った音が鼓膜に直接的に響いた。

「あ・・・あぁ・・・っ」

思わず艶やかな嬌声を上げながら、急速に熱の集まる下半身を感じてイルカは動揺していた。

そ、そんな嘘だろう・・・?

たったそれだけの愛撫でイルカのモノはパジャマのゴムの端から顔を出し、いやらしい汁を先から零していた。あまりに早過ぎる。

そそそそ、そんな・・・!!!!!お、俺はこれからどうなってしまうんだ・・・・!?

その時ようやく、カカシが早漏だったのではなく、己の愛撫が凄まじい威力なのだという事にイルカは気付いたのだった。

続く

戻る