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はあ〜・・・まさかカカシ先生とキスすることになるとはなあ・・・

イルカは唇を合わせながらも溜息を吐きそうになって、ぐっと堪えた。

いかんいかん・・・!キスの時に他の事を考えるなんて・・・そんな事ではキスの重要性についてカカシ先生に伝わらないだろう・・・!!難攻不落の美女を攻め落とす時の勢いで、本気で行かねば・・・!

男同士のキスに抵抗はあったが、イルカはこれは溺れた人の人工呼吸と一緒なのだと自分に言い聞かせた。ある意味、人生に溺れかかっているカカシの救助なのだから間違ってはいない。イルカは気を引き締めなおしてキスに集中した。
カカシの唇の形を確かめるように舌先でなぞると、躊躇う事無くその合わせ目に舌先を忍び込ませる。すると意外にもがっちりときつく閉じられた歯列に迎えられた。

あれ・・・?ひょっとして緊張してる・・・?

カカシが小刻みに震えているのに気付いて、イルカがうっすらと目を開けると、いつもは眠たげな瞳を冴え冴えと開いたカカシと遭遇した。あまりの出来事に目を閉じるのも忘れ、動転しているようだった。

そうか・・・カカシ先生も男同士のキスに抵抗があるはずだよな・・・
で、でもここで止めたら、それこそこのキスの意味がなくなってしまう・・・よ、よし、カカシ先生が暴れないうちにどさくさ紛れに一気にいくぞ・・・!

イルカはきつく閉じられた歯列を優しく舌先で舐めながら、そっとカカシの背中を撫でてやった。するとカカシはびくんと体を大きく震わせ、溜息をつくようにその口を緩く開けた。イルカはその瞬間を逃さず、舌先を奥へと滑らせた。カカシの舌は戸惑うかのように縮こまっていた。イルカはその舌に自分の舌を強引に絡め、自分の培ってきたテクニックの限りを尽くしてカカシの口腔内を愛撫した。くちゅくちゅと唾液の混ざり合う音をわざと大きく立てて興奮を煽る。それもセックスへと気分を盛り立てて行く為に大事な事の一つだった。

もういいかな・・・?これでキスがくらくらするほど気持ちのいいものだって分かったかな・・・?

イルカのキスは女性の間で「天国のキス」と謳われていた。大体の女性はイルカのキスだけで前後不覚になるほど腰砕けになってしまうのだ。しかもキスの間本当に天使がラッパを吹く音が聞こえるらしい。勿論イルカ自身はそのラッパの音を聞いた事はないのだが、自分のキスの威力がそれほどまでのものだとは認識していた。
イルカが吸い上げた舌先に甘く歯を立てて唇を離すと、

 「は・・・ふっ・・・」

自由になった口からカカシが熱い息を吐いた。その顔は上気し、瞳は恍惚に潤んでいる。

「こ・・・これが・・・キス・・・ですか?ど・・・して・・・今までのと、は、全然・・・違います・・・・っな、なんか・・・ラッパの音が聞こえたんですけど・・・っ」

上がる息に途切れ途切れに紡がれるカカシの言葉は驚きに満ちていた。

「気持ちいー・・・」

カカシは目を閉じて僅かに眉間に皺を寄せ、切ないような声でぽつりと零した。イルカはそんなカカシの様子に心の中でガッツポーズをとった。

「どうですか、カカシ先生。キスが如何に大事なものかって分かったでしょう?これからはカカシ先生も女性にこんな風にキスしてあげてくださいね・・・!」

何故か胸をそらしてイルカが得意げに言うと、カカシは黙ったままこっくりと頷いた。

よしよし、第一段階はクリアーだな・・・カカシ先生の俺のアレに関する興味も上手くそらせたようだし・・・
とりあえず、今日はこの辺で有耶無耶の内に話を終らせてしまおう・・・!

イルカがこのチャンスを逃してなるものかと、

「カカシ先生、今日はもうそろそろ寝ませんか・・・?俺明日仕事が早いんですよね・・・」

不用意に密着していた体を離そうとすると、カカシが突然イルカの肩をがしっと掴んできた。焦ったイルカがカカシの顔に視線を向けると、そこにはうっとりとしながらも大真面目なカカシの顔があった。

「今、復習して見せますから・・・ど、どこか間違ってたり変だったりしたら言ってください。」

そう言って唇を近づけて来るカカシに、イルカは一瞬意味が理解できずに抵抗が遅れてしまった。気が付いた時にはカカシに熱く唇を重ねられていた。

「ちょ、ちょっと待ってくださ・・・」

イルカは慌ててカカシの胸板を押し返してその唇から逃れたが、その途端、

「えっ・・・もう駄目でしたか?何処か間違っていました・・・?」

泣きそうな顔をしておろおろとしだすカカシにぐっと言葉に詰まった。

はあ・・・確かに反復学習は大切だけど・・・俺にそれに付き合えと・・・?

イルカは自分も泣きたいような気持ちになっていたが、元はといえば自分からキスをしてしまった所為なのだ。やはり最後まで面倒を見ないといけないだろう。しかし、果たしてイルカの及第点に到達するまで、何回カカシとキスをしなければいけないのだろうか。それとも適当なところで合格を出すべきか。イルカが悶々と考えている間もカカシは不安そうに目元をウルウルとさせている。その様子を見ていたら、

ああ、もう本当、俺の負けだ・・・

イルカはいよいよ自分というものを諦め始めた。とにもかくにも、カカシを何とかしなくてはいけない。自分の心の葛藤は取り合えず置いておいて、無我の境地でカカシに接せねばならない。それこそ教師の真の姿だ、と己を慰めながらイルカは言った。

「いえ・・・大丈夫ですから、そのまま続けてください・・・」

イルカの言葉にカカシは心底嬉しそうに頷いた。

続く

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