(15)
確かにカカシ先生の面倒を見ると心に決めたけど・・・さ、流石にこればかりは・・・
イルカは眉間に皺を寄せ、う〜んと唸り声を上げながら腕組みをした。これから先、たとえカカシを幾ら格好良く抜本から大改造しても、閨での意識改革を執り行わなければ結果は同じだろう。女達は必ずカカシの元を去っていく。そして彼女ができなければカカシはずっと自分に纏わり付くのだ。これからずっと。
じょ、冗談じゃない・・・!この二週間の事を思っただけで心労が絶えないのに・・・。
イルカは想像して蒼白になった。だからといってカカシに閨の手解きをするのもどうかと思う。少しやり過ぎだ。言葉の説明だけで済むなら良いが、カカシはセックスについて基本的なことが分かっていそうになかった。だが、絶対に実地で教えるなんて事は御免だ。
と、取り合えず、この件は保留だ・・・!ほ、他にもっと先に直さなくちゃいけないところがあるもんな・・・!
イルカがウンウンと一人頷いていると、じいっと熱い視線を感じた。それはカカシの視線だった。カカシが真剣な瞳をして、イルカのよからぬ場所・・・つまり股間を覗き込んでいた。
そ、そうだ、俺、真っ裸だったんだ・・・・!!!!
さっき目にも留まらぬ速さで、カカシに何時の間にか服を脱がされていたのだ。すっかり忘れていた。
「ど、何処を見てるんですか・・・!?」
イルカはカアッと顔を赤くして、怒気を孕んだ声でカカシを一喝した。そうしながらも片手で股間を隠し、もう片方の手をパンツを探して彷徨わせる。カカシはそんなイルカに膝一つ、ズイッと近付いた。
「何処を見てるって・・・イルカ先生のアレを見てたんですけど・・・あのう・・・随分と俺のと違うようなんですが・・・や、やっぱり俺のアレは何処かおかしいんじゃ・・・」
またその話かーーーー!?
イルカは心の中で大絶叫しながらも、
「あの・・・ほんと、カカシ先生のソレはおかしなところはないですから・・・」
カカシに対し背中を向ける。カカシの視線から自分の股間を守るためだ。別に男同士なのだから見られても良いのだが、何処か今のカカシには危険なものを感じていた。
「本当ですか?イルカ先生のをちょっとよく見せてください・・・!」
カカシはイルカの肩越しに体を密着させるようにして股間を覗き込む。そのカカシにしてもすっぽんぽんのままだ。
ううう・・・何だよ、この状況・・・
目尻をじわりと熱いものが濡らすのを感じながら、イルカもカカシから逃れようと必死になっていた。
「皆容姿が違うように、ここも若干違うものなんです・・・!」
「ええー!?でも若干なんてもんじゃなかったですよ・・・!?大きさとか色とか・・・すごく違・・・」
「わーわーわー!!!!あんた何ていう事言うんです!?い、いいですか!?耳をかっぽじってよく聞きなさい!カカシ先生のおかしいところはソレじゃありません・・・!女性が『役立たず』と罵るのは別の理由なんです・・・!俺にはその理由が分かりました・・・!」
え、とイルカの股間を隠す手をどけようとしていたカカシが驚いた声を上げた。
「イ、イルカ先生、分かったんですか!?何処が・・・何処が駄目だったんですか・・・!?」
詰め寄るカカシは鼻息が荒く、縋るような必死の形相をしていた。その顔を見詰めながらイルカはゴクリと唾を飲み込んだ。一時の自分のアレの平穏の為に、なんだかもっと不味い事になった気がする。もう逃げられない袋小路に入り込んだ気持ちに。イルカはハアと深い溜息をつきながら、少しだけ投げやりな気持ちで言った。
「カカシ先生はセックスの仕方を間違えています・・・セックスは自分だけじゃなく、相手にも気持ちよくなってもらうものなんですよ・・・キスや愛撫も何もしないでセックスなんて・・・ありえません!」
なんちゅう事を堂々と言うかな、俺。
そう思うものの、ここで恥ずかしがったらお終いだとイルカは分かっていた。あくまでも淡々と教師然とした態度で、保健体育の授業の様に流すのだ。わざと厳しい表情を浮かべてイルカが言い切ると、正座をして真剣に聞き入っていた筈のカカシが、首をかしげて「はあ、」と困惑したような声を上げた。
「キスや愛撫って・・・俺からするものなんですか・・・?キ、キスはされた事ありますが・・・あんなの、気持ちよくはならなかったですよ・・・それに愛撫ってなんですか・・・?胸を揉んだりとかですか?」
「いいから、ちょっと黙ってください。」
イルカは痛む頭に米噛みをゆっくりと揉んだ。色々非常識な出来事が一気に自分の身に降りかかって、まともにものを考える事ができない。キスが気持ちよくないってどういうことだとイルカは思う。好きな相手とのキスに、心が痺れるような充足感に捕らわれた事はないのだろうか。
カカシ先生はひょっとして・・・今まで好きな人ができなかったんじゃ・・・
そしてカカシ自身、それに気がついてないのではないかとイルカは疑った。彼女が欲しいばかりにホイホイと付き合って。心がそれに伴っていなかったのだ。
だから思いやりのあるセックスを知らずに来てしまったんだろうか・・・?だとしたら少し可哀想だな・・・
イルカは今更考えても仕方がない事を考え、首を横に振った。
「イルカ先生・・・?」
心配そうに覗き込んでくるカカシに、イルカは諦めたように乾いた笑みを浮かべた。そう、こうなる事は予想していたのだ。遅かれ早かれ、避けて通れない道なのだと自分に言い聞かせながら、
「・・・キスの仕方、少しだけ・・・教えてあげますよ。」
イルカは苦笑して、カカシの薄い唇にしっとりと吸い付いた。
続く