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イルカは一瞬頭の中が真っ白になった。真っ白になったのは握っている自分の手も同じだった。自分の手の中ではカカシのモノがぴくぴくと震え、まだ先っぽから汁を吐き出している。イルカはその様子を暫し呆然と見詰めていたが、つんと鼻をつくイカ臭さにハッと正気に返った。

カ、カカシ先生に手の中でいかれてしまった・・・・!

イルカは愕然としながら、ぺいっとカカシのモノから乱暴に手を離したが、既に後の祭りだった。自分の右手は生暖かい白濁した汁でぬるぬるしていた。何となく鰻のつかみ取りをした時の事を思い出してしまったイルカだったが、その時のような楽しい気持ちは今は微塵も感じなかった。

ってゆーか・・・お、男をいかせてしまうなんて・・・手で・・・いかせてしまうなんて・・・お、俺は・・・っ!

イルカは眼窩の奥にぶわっと込み上げてくる熱いものをぐっと堪えた。人生が嫌になった一瞬だった。とりあえずこの右手を洗いたい。そう思うのにイルカはあまりの衝撃に動けないままだった。その時、

「イ、イルカ先生、ごめんなさい・・・」

カカシがはあはあと熱い息を吐きながら、固まるイルカに向かって申し訳なさそうに言った。ティッシュ何処ですか、などと訊いて何のてらいもなく自分のモノをふきふきしている。その呑気な様子を見ていたら、イルカは喩えようもないほど苛々としてきた。

そりゃあ、あんたは欲望を吐き出して気持ちよかっただろうよ・・・!
でも俺の右手は今までの人生の中で、一番惨めな思いをしているんだ・・・あ、あんたのせいで・・・っ!!

「カ、カカシ先生、あああ、あんたって人は・・・・・っ」

怒鳴りかけて、イルカは一瞬躊躇した。男の堪えきれない生理現象を自分は詰る権利があるのだろうか。カカシも何でもない振りをしているが、それは男としてあまりに早すぎた気まずさを誤魔化そうとしているのではないか。
それに。

何となく、カカシ先生が「役立たず」で「腐れチ○ポ野郎」な理由が分かったような・・・

イルカは萎えていく怒りにハアーと溜息をつきながら、諦めたようにティッシュで自分の右手も拭った。

「イルカ先生・・・す、すみません・・・何だかイルカ先生に握られたら信じられないくらい気持ちよくなっちゃって・・・い、いつもはこんなんじゃないんですけど・・・」

カカシが猫背な背中を更に丸めて、恥ずかしそうにぼそぼそと呟く。

「はあ・・・」

そんな事を言われても答えようがなくて、イルカは曖昧な返事をした。二人ともまるでお通夜のようなしめやかさだった。暫くの沈黙の後、カカシがあのう、とまた申し訳なさそうに言った。

「それで・・・あの・・・俺のアレはどうだったでしょう・・・?何処かおかしなところはありましたか・・・?」

またその話か・・・!

イルカは今晩はもう、そっとしておいて貰いたかったが、カカシはその事が余程気になって仕方がないようだった。そんなに検分していないうちに吐き出されてしまったので、例えイルカが医者であったとしても何もいえないと思うのだが、そんな事知ったことではなかった。イルカはこんな馬鹿馬鹿しい事から早く解放されたい一心だった。

「何処もおかしなところはありませんでしたよ・・・大丈夫です・・・俺が保証します・・・!」

にっこりと曇りのない笑顔を浮べれば、カカシは今度こそ本当にほっとしたようだった。

「ほ、本当ですか・・・よかった・・・!」

しかし、顔を輝かせていたのも束の間、すぐにがっくりと肩を落とす。その落胆振りに、イルカは「お、俺何か悪いこと言ったか?」とまたしても訊かなければ良いのに、余計な一言を漏らしてしまった。

「ど、どうかしたんですか、カカシ先生・・・?まだ何か気になる事でも・・・?」

「ええ・・・だって・・・俺のコレがおかしいんじゃなかったら、どうして『役立たず』とか『腐れチ○ポ野郎』とか罵られていたんでしょうか・・・?何が・・・何が駄目なんでしょう?そ、そそ、それが分からなくちゃ・・・結局同じじゃないですか・・・っお、俺、何時までたっても彼女できないじゃないですか・・・っ」

カカシの瞳にウルウルと滴が溜まっていくのを見て、イルカは思わずティッシュを取ってそれを拭ってやった。しかし、さすが上忍。意外に鋭い。他に駄目なところがあると気がつくなんて。

気がつかないまま、騙されてくれると思ったんだけどなあ・・・それだけ深刻に悩んでいるということか。

イルカはとりあえず、もうアレを触るような事はないだろうと安心しながら、カカシに向かって言った。

「その問題に関してですけど・・・こんな事訊くのはあれなんですが・・・その・・・カカシ先生はいつも女性とする時、どんな風にしてるんですか・・・?差し支えなかったら、教えていただきたいんですが・・・」

イルカは先ほどのカカシのいきっぷりから、カカシが経験が少なくて早漏過ぎるんじゃないかと踏んでいた。それが女性の不満に繋がっているのではと。それを裏付けるような話を聞かせてもらえればと思っていた。

もし早漏が問題だったら、する前に一回抜いておけばいいんだよな・・・そうすれば長持ちするし・・・してるうちにそのうち慣れてくるし・・・カカシ先生にアドバイスしてあげられるかも・・・

そう思っていると、突然カカシがパジャマの上を脱ぎだした。えっ、とイルカが予想外の光景に度肝を抜かれていると、全裸になったカカシが布団の上にそっと横になった。カカシは動揺も露わなイルカに真剣なまなざしで言った。

「いつもこうして横になってるだけです。後は女の方が勝手にやってくれるんですよ。」

「はあ・・・?」

イルカは素っ頓狂な声を上げてしまっていた。

よ、横になってるだけって・・・ま、まさか本当にそれだけって事はないよな・・・?た、多少前戯とか・・・愛撫とか・・・え・・・?

「し、失礼ですけど、カ、カカシ先生が何か女性にしたりとかないんですか・・・?」

恐る恐る尋ねたイルカに、「ああ、そりゃありますよvv」とカカシはにっこりと笑顔を浮べた。

「そ、そうですよね・・・!あの、例えばどんな事を・・・?」

突っ込まなければ良いのに、イルカはカカシの笑顔を訝しんで、ついそんな事を訊いてしまっていた。どうも怪しい。するとそれを証明するように、突然カカシがイルカの体をくるっと反転させた。あれっとイルカが思った時には何故かイルカは全裸で四つん這いにされていた。背中からカカシが伸し掛かっている。

うわ・・・俺何時の間に裸に・・・・!?ぜ、全然分からなかった・・・さすが上忍・・・じゃなくて、この状況やばいだろ!?

「ちょちょちょちょちょ・・・ちょっと待ったーーーーー!!!!!!カカカカ、カカシ先生・・・何すんですかーーーー!?」

イルカが大絶叫を上げると、

「え?だって、イルカ先生が自分からはどうしてるのかって訊いたから・・・自分からする時は、こうやって裸にしてすぐに入れるんですよ〜」

カカシはのほほんと悪びれずに言った。

っこ、この人・・・!!

イルカは茫然とカカシを見遣った。

玄人さんのサービスか、強姦まがいのセックスしかした事がないんじゃ・・・

タラリと冷や汗を掻くイルカに、「どうかしましたか、イルカ先生?」とカカシが爽やかな笑顔を浮べた。

続く

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