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どうしてこんな事に・・・

客布団の上で上はパジャマ、下はすっぽんぽんという倒錯的な姿で横たわるカカシを前に、イルカは意識が遠退くのを感じた。いっそそのまま気絶したいと思うのに、そこまでやわじゃない自分の神経に腹が立った。今となってはイルカ自慢の和紙の間接照明が、何となく安っぽい連れ込み旅館の照明を思わせて、更にイルカを苛立たせる。

明日からは全部蛍光灯だ・・・蛍光灯に入れ替えてやる・・・!!

そんなどうでもいい事を心の中で咆哮して、イルカは虚しさにがっくりと肩を落とす。幾ら吼えてみたところで、事態は変わらないのだ。首が回る扇風機がサーッと風を送る度に、カカシの股間でそよそよと下生えが揺れている。なんだか物悲しい。物悲し過ぎてイルカは泣いてしまいそうだった。

大人の男が何を泣きそうになってるんだ・・・俺は今は医者だ、医者なんだ・・・!これは人助けなんだ・・・!

イルカは熱くなる目頭を押さえながら、自分に高速回転で何万回も言い聞かせた。そんなイルカの心の葛藤も他所に、カカシは何処か緊張した面持ちで、

「イルカ先生、よろしくお願いします。」

妙に礼儀正しい口調で告げる。カカシは何処か不安げな、それでいて何処か期待に満ちた瞳でイルカを見詰めていた。長年一人で悩んできた問題が解消される瞬間に、結果がどうであれ、心躍っているようだった。

「はあ、こちらこそ・・・」

イルカはぺこりと頭を下げて気の抜けたような返事をした。こちらこそ、なんて適切ではない気がしたが、この場合他に何と言ったらいいのか分からなかった。

さ、触らなくちゃいけないのかなー・・・

イルカが尚も躊躇っていると、

「裏までよく見てくださいね。」

カカシが止めを刺す。

はは、は・・・う、裏までか・・・も、持ち上げねえと見れないよなあ、そりゃあ・・・

イルカは心の中で明るく笑い飛ばしながらも、目の縁にはもう既に熱いものがじわりと込み上げていた。
実はカカシは風呂に入っている途中から、「イルカ先生、今ぴかぴかに洗い終わりました!すぐに見てください!」と水滴を撒き散らしながら、飛び出してきたりしていたのだ。それを「俺も風呂に入ってからです」「晩飯を食ってからです」「このテレビを見てからです」「この書類が片付いてから・・・」と可能な限り引き伸ばしていた。イルカは湯にあたるほど風呂に浸かり、米粒一粒一粒を噛み締めるようにしてゆっくりと食事をした。その間に上手くこの問題を回避できる方法はないかと頭を働かせてみたが、何のいい考えも思いつかなかった。お陰で久し振りに折角残業無しで帰宅したというのに、もう真夜中になってしまっていた。

とんだ悪足掻きだったな・・・嫌な事は先に終わらせるべきだった・・・

イルカは一日の最後をまさか野郎のアレを握って締め括る事になるとは、努々思ってもみなかった。

俺が一体どんな悪い事をしたっていうんだ、畜生・・・

神様に罵詈雑言を吐きながら、往生際悪く愚図愚図していると、

「イルカ先生・・・さっきからどうして黙ったままなんですか・・・?どうしてそんな深刻な顔をしてるんです・・・?ま、まさかやっぱり俺のアレは・・・っ!」

カカシがワナワナと震えだし、イルカはその様子に大いに慌てた。また大泣きされては困る。イルカのアパートは壁が薄く、しかも意外に口煩い住人がいるのだ。

「ち、違います・・・ちょ、ちょっと緊張しちゃって・・・!ははは・・・そ、それではカカシ先生、失礼します・・・!」

イルカはぶるぶると震える手をカカシの股間に伸ばし、触れる前にゴクリと唾を呑み込んだ。自分以外のソレに触るのなんて生まれて初めてだった。

できればそんな経験の無いまま、一生を終えたかったな・・・

人生に哀愁を覚えながらも、勇気を振り絞って、えいやっ!はっ!と自分に掛け声をかけてソレを握った。
瞬間、

「ひ・・・っ!」
「あ・・・っ!」

イルカとカカシのお互いの口から、何ともいえない奇妙な叫びが漏れた。ビクッと身体までも震わせてしまっている。

「「す、すみません」」

咄嗟に謝った声までもが被っていた。
イルカはもう何だか訳が分からなくなっていた。女性の裸を前にしてもこんなに焦った事はただの一度もない。

ああ〜!しっかりしろ、俺・・・!

そう気合を入れた瞬間、誤ってカカシを握っていた手にもギュッと思わず力をこめてしまった。その途端手の中でぶわっと膨れ上がったカカシが、

「ああ・・・っ!」

なやましい声を上げて勢いよく弾けた。

えっ・・・!?

イルカが茫然と自分の手を眺めた時には、吹き上がる熱い液体に濡らされていた。

続く

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