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「ふー・・・・っ!あ、暑くて死にそうです・・・!イルカ先生・・・水、水を貰えませんか?」

イルカの家に着くなり、カカシは冷蔵庫を玄関口に下ろすと共に、ドサリとその場に座り込んだ。もう一歩も歩けません〜、と上がってしまった呼吸に胸を隆起させながら、カカシは額からしとどに流れ落ちる汗を拭った。しとどなんてもんじゃない。まるで土砂降りに見舞われたかのように、忍服のベストの端からさえもぽたりと滴が落ちている。それはカカシの掻いた汗だった。

そりゃあ、水の一杯も飲みたくなるだろうよ・・・

気を利かしてビールジョッキ(大)に汲んでやった水を手渡すと、カカシはプハーッと一気に飲み干した。その時の満ち足りた顔と言ったらなかった。なんせ自分の背丈よりも大きいスリードアだ。最新式だ。それを身体に鎖で巻きつけ、行商のオバサンのような姿勢で歩いてきたのだ。バケツの水を被ったような汗も掻くだろう。喉が渇かない方がおかしい。おかしい・・・

・・・ってか、この人自身がおかしいんだよ・・・!

イルカは今更言っても仕方が無い事を心の中で叫びながら、はあーっと一際大きい溜息をついた。もう今日一日で何度目の溜息だろうか。明日もこんな調子じゃ、受付所で色目を使う輩が殺到だ、断り状が追いつかんぞ・・・空元気でもしっかりしろ、と自分を叱咤する端から、イルカはまたしてもハアァァァーーーと溜息を零す。今晩これからの事を考えると頭が痛かった。

だが、何はともあれ。

「カカシ先生、俺、今すぐ風呂を掃除して沸かしてきますんで・・・適当に荷物を置いて寛いでいてください。」

こんな汗だくのカカシを放って置く事はできなかった。それに、そんなに汗の滴を床に落としながら家の中に上がって欲しくない。イルカは一瞬の躊躇の後言った。

「その服も家に上がる前に脱いじゃってください。玄関口に脱いだままでいいですから。後で俺が洗濯機に放り込んでおくんで、とにかくここで脱いでください。」

するとカカシは「えぇ〜!?」と急に恥ずかしそうにもじもじとし始めた。

何でだよ、あんた昨晩はパンツ一丁で外をうろついていたじゃないか。何を今更恥ずかしがっているんだ!?

イルカが少し苛立ちを覚えていると、

「分かりました・・・!イルカ先生が言うなら・・・俺脱ぎます・・・!」

カカシが意を決したように、突然服を脱ぎだした。ベスト、アンダー上下、シャツにパンツまで。次々と。

・・・え?パンツ?

イルカがぼんやりと見詰めている間に、カカシは何時の間にか生まれたままの姿になっていた。つまり、すっぽんぽんのオールヌードに。イルカはあまりにも想像していなかった展開に、驚きで固まったまま、しげしげとカカシのアレを見詰めてしまった。

さすが天下の上忍。いいモノ持ってる。

そんなイルカの視線に「あんまり見ないでくださいよ〜・・・」とカカシが股間を手で覆い隠しながら、赤く頬を染めて目を伏せる。

イルカはハッとして、何やってんだ俺!?と自分も顔を赤らめ、カカシに向かって窘めるように言った。

「な、何考えてんですか!?パンツまで脱げなんていってませんよ!?銭湯じゃないんですから!!い、いや男同士だからいいんですけど・・・いや、よ、よくないか・・・ととと、とにかく、よそ様のうちでいきなりパンツまで脱ぐ人いますか!?」

だから恥ずかしがっていたのか、と今更ながらにその事に気付くイルカに、「えー、だってイルカ先生が・・・」とカカシが不満そうな声を上げる。

ああ、確かに言ったよ、服を脱げと。でもだからといって、全部脱ぐとは思わないじゃないか。
それが常識だろ?アレを隠しておくのは暗黙の了解だろ?違うのか、俺の方が間違っているのか?

イルカは段々とよくわからない感じになってきた。危険だ。カカシに毒され始めている。

「とにかく、パンツだけははいてください!俺、風呂場いきますから・・・!」

イルカが不自然に顔を逸らしながらそう言い放つと、あのう、とカカシの情けなさそうな声がした。まだなんかあんのかよ!?とイルカが米噛みをぴくぴくさせながら振り返ると、カカシが何処か思い詰めたような苦悩に満ちた顔をして立っていた。その口が何か言いたげに開いては閉じる。余程言いにくいことらしく、カカシは何度も何度もそれを繰り返していた。

ど、どうしたっていうんだ・・・?

そのあまりに深刻な様子に、イルカはまた身体を向き直してしまった。そんな顔をされると放っておけない性分なのだ。世話焼きにも程があるってくらい世話焼きなのだ。そしてその時その場に踏み止まってしまった自分を、イルカは激しく後悔することになる。

「俺・・・俺・・・あの・・・その・・・・」

さっきから彼是30分以上経っているのに、なかなか言わないカカシにイルカは痺れを切らしていた。第一家に帰って来て、まだ晩飯も食べてないのだ。本当だったらもうこの時間、とっくに食事が終っている筈だ。グウと鳴る腹の虫が空腹を訴える。それがイルカの苛立ちを増した。女性には気が長く、決して怒鳴った事のないイルカだが、相手は男。野郎にまで気を遣ってられるか!と遂にはぷちりと切れて、苛々と怒鳴りつけていた。

「早く言ってくださいよ!何ですか、もう・・・いい加減、俺腹減ってるんですから・・・!」

「は、はいっ!」

イルカの剣幕にカカシはビクッと身体を震わせ、意を決したように言った。

「俺の・・・俺のアレは何処かおかしいんでしょうか・・・?ふ、普通の人に比べて何か欠陥があるんでしょうか・・・?お、俺、いつも付き合った女達に、この役立たず、腐れチ○ポ野郎が、っていつもHの時に罵られて・・・それで何処かおかしいのかなってずっと悩んでて・・・」

イルカ先生、俺のをよく見てください。いい機会ですから。お願いします。

はい、どうぞ、と言わんばかりにイルカに腰を突き出すカカシの顔は、あくまでも真剣で、その上泣きべそをかいていた。

 

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