(8)

「服脱いで。」

雪崩れ込むようにして上がったイルカの部屋で、カカシは性急にイルカに求めた。
鍵を閉める間もなかった玄関のドアが、僅かな隙間から吹き込む風に軋んだ音を立てていた。

憎しみをも甘受した上で、カカシを好きだと告白するイルカ。
最後に明かそうと思っていたカカシの手の内を知られているのは残念だったが、また別の愉悦がカカシを支配していた。
そしてその方がイルカにとって、より残酷な仕打ちだと分かった。

もう優しくする必要はないのだ。

縋ってきたのはイルカなのだから。俺が憎んでいると知っても、イルカは縋ってきたのだから。
ならば俺は縋ってきたその手を払い続けよう。伸ばされたその手を靴底で踏み躙るようにして。憎悪の赴くままに。

あんたはそれでもいいんでしょう?
それでも、俺が好きなんだよね?

まるで甚振られるための玩具のように、その身を差し出すんだよね?



イルカは少しの間躊躇っていたが、やがて諦めたように、のろのろと自分の衣服を脱ぎ始めた。カカシは黙ってその様を見つめた。衣服の下から現れるイルカの裸体は、ほどよい筋肉に引き締まった男らしいものだった。健康的な色をした肌の上に任務で受けたのであろう無数の傷跡がピンク色に浮き上がって、それがカカシの嗜虐的な欲望を煽った。カカシは性欲処理として任務先で男を抱いたことはあったが、こんなに興奮したことはなかった。これは性欲処理ですらない、もっとそれ以下の。陵辱なのだから。

「下着も。」カカシは冷たい声で短く言った。

イルカは瞬間ピクリと体を震わせて、カカシの言葉に従った。イルカがようやく全てを脱ぎ去ると、今度はその場に仰向けに寝転がるように促した。そこは畳の上だったが、構わなかった。カカシはイルカに布団の柔らかささえ許す気になれなかった。カカシは自分は着衣のままジッパーを下ろし、ズボンの前だけを寛げさせた。カカシはイルカの足を持ち上げて膝を胸につくまで曲げさせると、露になった後孔に怒張した自分のものを一気に押し込んだ。

「あああぁぁぁ...っ!」

解されてもいないそこに捩じ込まれる激痛に、逃れようと反射的にイルカの身体が辷り上がるの許さず、カカシはイルカの腰を引き戻すと最初から激しく腰を使った。イルカの中が進入を拒むようにカカシをきつく締めつけるのを、乱暴に抉るように突き上げて振り切る。カカシはイルカに快楽を与えるつもりはなかった。カカシが何度か出し入れを繰り返すと、濡らしもしないイルカのそこからにちゃにちゃといやらしい水音が上がった。蹉跌の匂いがした。イルカの後孔が切れてしまったようだった。

「ふぅ...っ....く...んっ...」

カカシが腰を突出す度に、イルカは眉を寄せて苦しげに呻き声を上げた。イルカの顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。カカシはそんなイルカの様子に満足しながら自分の追い上げのために腰を振っていると、次第にイルカの呻き声に艶やかな色が混じり始めたのに気付いた。

「あっ...んっ....ふぅ...ん」

ゆさゆさと揺すぶられるイルカの顔はまだ苦しげだったが、腿の間で揺れるイルカ自身がその快楽を訴えて、ゆるゆると首をもたげ始めていた。こんなに酷くされておっ勃ててるなんて、とんだ変態野郎だ、とカカシは侮蔑を込めた目でイルカを見遣った。酷くされて感じてる。後で感じてる。イルカは男を咥えこむのがこれが初めてではないな、とカカシは思った。清廉な顔をして。SEXなんてしたことがないというような顔をして。今までも男相手に腰を振ってその痴態を晒していたのだ。なんておぞましい。なんてあさましい。

だけど、なんていやらしい。

イルカの痴態にカカシは急速に腰に熱が集まるのを感じた。自分でも驚くほどの欲が込み上げてくる。欲望の赴くままにカカシは激しくイルカを突き荒らした。

「あっ...あぁっ、はぁっ...んっ」

今はもう苦痛とは別の、艶やかな喘ぎがイルカの口から零れ出していた。

「こんなに酷くされて感じてるなんて...あんたは本当に淫乱だね。」カカシはわざと意地悪く言った。

一体何本ここに咥えこんだの?

カカシの言葉にイルカは大きく目を見開いて、傷ついた顔をした。

「ち、ちがう....お、俺っ...俺は....っ!」

「違わないでしょ。」

カカシはイルカの言葉を遮って、最後の追い上げとばかりに激しく腰を打ち付け出した。イルカの最奥を目指して深く捻り込んでは後孔の入り口ぎりぎりまで引いて、また抉る。激しいストロークにイルカの身体はガクガクと揺れた。

「ひゃ...はっ...や...やら...っ....やらぁっ...っ!」カカシせんせい...っ。

カカシの背中に縋ろうと、無意識のうちにイルカがその手を伸ばした瞬間。
カカシはパシッとその手を払いのけた。快楽に揺れていたイルカの瞳が正気に戻って、驚いたようにカカシを見る。
カカシは酷薄な笑みを浮かべた。驚いたイルカの顔が滑稽で、声を出して笑ってしまいそうだった。

ああ、気持ちがいい。

「何勝手に俺に触ろうとしてんの。」カカシは吐き捨てるように言った。

触らないでよ。おぞましい。


暫しの間固まったままだったイルカの顔が、悲しみと絶望にくしゃりと大きく歪んだ。

いいねえ、その顔。

これからも、もっともっと、俺に見せて?

だって、こんなに酷くしてもあんたは構わないんでしょう?


俺のこと、嫌いになれないんでしょう?


カカシは抵抗を見せるイルカを押さえつけて熱い迸りを吐き出しながら、うっとりと呟いた。



続く