(3)

密やかな決意のもと、カカシは微笑んで言った。

「こちらこそ。」

その微笑みは秘めた悪意を微塵も感じさせない、綺麗なものだった。

「.....っ!」

イルカが息を詰めたのが分かった。
一瞬、その顔に切ないような苦しいような表情が浮かんで消えたのを、カカシは見逃さなかった。
カカシはその表情をよく知っていた。

カカシが傍らを通り過ぎる時、ホウという甘い溜息と共に女どもが見せる表情。

へえ。この人....。

カカシはそのことに気付くと、卑下た笑みを浮かべた。
それは自惚れではなく、経験による確かな事実だった。

俺のことが好きなのか...。

カカシは今まで色事の誘いに事欠いたことはなかった。一方的に思いを寄せられることにカカシは慣れていた。イルカもその類かと思うとカカシは内心可笑しくて腹が捩れそうだった。

真面目そうに見えて、とんだ変態野郎だとカカシは思った。もっさりとしたこの男が自分に懸想してる。自分はこの男に性的欲望の対象として見られているのだ。なんておぞましい。おぞましいけれど。

これを利用しない手はないな。

無味乾燥な6年間を潤す突然の愉悦の訪れに、カカシは興奮して眩暈がするほどだった。

優しくしてあげる。あんたが錯覚するほどに。

「よろしくね?イルカ先生」

優しくして、いい気分にさせて。

そして。

踏み躙って、
突き落としてあげる。

絶頂で。

それでもあんたは笑っていられるかな。

「ねえ、お近づきの印に、よかったら今晩飲みにいきませんか?」

カカシは驚くほど優しい声音で言った。

イルカがビクリと体を震わせた。返事は聞かなくても分かっていた。
ゆっくりとイルカが頷く様に、カカシは満足げに口の端を吊り上げた。


続く