(14)

アスマは何と言ったのか。
俺があの中忍に惚れていたと言っていたのではないか。
馬鹿なことを。そんな戯言を一体誰が信じるというのか。

だが6年前、俺はあの男を庇ったのだという。爆発から、この身を呈して。
そうだ、そのことを知った時、俺は不思議に思ったのだ。自分はどうしてそんなことをしたのかと。
誰かを庇うなんてありえなかった。己の身は己で守るしかないのだ。忍なら皆それを自覚しているはずだ。

庇われた奴は愚図だ。忍失格だ。庇った奴も馬鹿だ。大馬鹿だ。そんな愚図を庇ってどうする。弱者が淘汰たされるのを阻んでどうする。

だから俺は疑った。俺が庇ったんじゃなくて、あの男が俺を楯にしたのではないかと。
その疑念は俺にとって至極納得のいくものだった。それならば理解できた。きっと俺もそうする。
訊いてみたかったが、会ったら俺は殺してしまいそうだった。
忍としては見所があると思いながらも、片端にされたという恨みが勝っていた。

だからあの時イルカに会わなかった。
あの時会っていたら。あの時訊いていたら。
今の俺とイルカの関係は、もっと違ったものになっていただろうか。

イルカの口から俺達は愛し合っていたのだと、聞く事ができたのであろうか。

暗部を退いてから。
平穏な日常という真綿で首を締められて、俺はいつも窒息しそうだった。生まれてから死と隣り合わせの世界しか知らなかった。戦うことしか知らない俺は、平和な里から常に弾かれた存在だった。体だけでなく、自分は人としても片端だったのだと思い知った。

何処にも居場所が無かった。
上忍としての任務に縋るしかなかった。でもそれだけでは足りなかった。

イルカに会った時、歓喜に震えた。
この男を憎めばいいと思った。憎むことで心の隙間が埋まる気がした。
イルカを憎悪する時、俺は生きていていいのだと感じた。

憎んで。憎んで。
本当に憎んでいたのだろうか。

足が痛い。痛むはずの無い足が痛い。
俺は忍として生きる事しか知らないのに。それを奪われたらどうしたらいいのか。
憎まなくては。イルカを。今まで以上に怨嗟を込めて。
この狂おしいまでの強暴な感情は、憎しみ以外の何ものであるというのか。

わからない。

アスマは何と言ったのか。
俺があの中忍に惚れていたと言っていたのか。

そんな感情は、知らない。


居酒屋を後にしてから、カカシは酩酊した体を引き摺って、馴染みの郭へ足を運んだ。
泥酔した頭でまともな答えを弾き出そうとしても、それは到底無理なことだった。
それなのに少しでも考えてしまうと、心の中の何処かが。何処かがジクリと痛んだ。それがどうしてなのかわからなかった。
だからもうカカシは何も考えたくなかった。何も考えずに済むように、肉体の欲望に溺れたかった。
郭に来るのは随分と久し振りだった。以前は頻繁に訪れていたのに。
どうしてなのか、とカカシは首を傾げる。

そうだ、イルカを抱くようになってから。

そのことに思い至って、カカシはまた落ち着かない気持ちになった。イルカを抱くようになってから、郭から足が遠のいていたのだ。
だがそのイルカとも、イルカに殴られたあの日以来、顔を合わせていなかった。どうしてなのかわからない。

イルカに会うのが、怖かった。




女は申し分の無い体をしていた。
カカシの上に跨る女が腰を振る度、豊満な胸がユサユサと揺れた。
それをカカシは下から掬い上げるようにして揉みしだいた。
そうしてやると、女は美しい顔に眉根を寄せて艶やかな嬌声を放った。
しかし、カカシは何の興奮も覚えなかった。カカシのものは反応して固くなっていたが、全ても飲みこむ熱いうねりは訪れなかった。
カカシは焦って体を起こすと、上になっていた女の体を布団に押し倒して、今度は自ら腰を振った。
快楽を得るために、激しく穿っても。穿てば穿つほど。カカシは自分の内側が冷えていくのを感じた。

女が最後の嬌声をあげても。中に埋められたカカシのものは、遂に精を吐き出すことは無かった。

女は満足していないカカシの様子をしきりに気にしていたが、カカシは構わずに女を追い払った。
女の去った部屋の中で、カカシは布団の上で動かないままでいた。

どうして吐精できないのか。カカシは苛立った。
カカシのものは欲望の燻りを訴えて、そそり立っているのに。刺激を求めて熱く疼いているのに。
しかし、どんなに女の体に突っ込んでも、いけそうになかった。

あのブルブル揺れる豊かな胸が興醒めだった、とカカシは思いながら、自分のものに手を伸ばした。手のひらに包み込むようにして、ゆっくりと上下させる。

あの女は華奢で折れそうな体をしていた。そうだな、もっと乱暴にしても壊れそうも無い、しっかりとした体つきの方がよかったかな。

カカシの握る手に力がこもった。激しく自分のものの裏側を擦り上げるようにしながら、時々先端の割れ目を指先で円を描くようにグリグリと嬲った。先端から零れる汁がカカシの手を汚し、ぬちゃぬちゃといやらしい音を立てた。カカシの閉じられた目蓋の裏に、いつの間にかあの男の姿が浮かび上がっていた。黒い髪、黒い瞳。鼻の上を走る傷。思い浮かべた途端にカカシの腰は甘く痺れてズンと重くなった。

イルカの喘ぎを。
汗の臭いを。
ぎゅうぎゅうと締めつける熱い中を。

カカシは思い出しては自分を慰める手の動きを速めた。痛いほど興奮が高まっていた。込み上げる射精感を我慢せずに、カカシは強く扱くと思い切り精液を噴出させた。

ハアハアと荒い息をつきながら、カカシは激しく動揺していた。

何故イルカの姿が。
違う。これは違う。そんなわけない。

何処かが痛い。心の何処かが。違う。心が痛むはず無い。
痛いのは別の場所だ。
痛いのは。
痛いのは。

右足、だ。


突然カカシの右足がズキリと痛んだ。



続く