(11)


カカシは苛立っていた。
あれから何度もイルカを嬲っては暗い愉悦に浸った。イルカの苦痛と悲しみに濡れた瞳を見ると、胸がスーッとして溜飲が下がる思いだった。ところが非日常的な営みも、回数を重ねるうちにそれは平凡な日常となり、最近イルカは泣かなくなった。どんなに非道くしても泣かなくなった。それどころか、何処か痛ましげな瞳でカカシを見る。

それは、憐恕の瞳だった。

その瞳がどうしようもなくカカシを苛立たせた。足りなかった。イルカの涙が。嗚咽が。絶望が。苛立ちを覚える度に、右足が痛みを訴えてカカシを嘖んだ。それはまるでイルカに対するカカシの手緩さを糾弾しているようだった。




「ほら、自分で動いて。」

イルカは特殊な紐で後ろ手に縛られたまま、カカシの上に跨っていた。対面に抱きような姿勢で、カカシが離れようとするイルカの腰を押さえつける。カカシは相変わらず着衣のままで、イルカだけが淫らに衣服を肌蹴させていた。

「...あっ...!」

浮かした腰を上から押し戻され、結果より深くなった結合にイルカは思わず声をあげた。イルカは自分の声にハッとして、慌てたようにキョロキョロと辺りの様子を窺がった。と同時にきつく歯を食いしばる。下からの衝撃はまだ続いていた。堪えなければ、とイルカは思った。声を堪えなければ。音に敏感な忍の聴力を持つあの子達に聞こえてしまう。

「はたけ上忍が昼休みに西の森に来るように言ってたぜ。」下忍の子供達に関する急ぎの用事みたいだぞ。
所用で席を外していたイルカが受付所に戻ってくると、同僚がイルカに告げた。カカシにそんな風に呼び出されたことが無かったイルカは驚いた。カカシの言葉を全て信じたわけではなかったが、ナルトに何かあった可能性も拭いきれなかった。不安な気持ちで西の森まで急ぐと、待ちうけていたカカシに茂みの蔭へと引き摺りこまれた。突然の出来事に抵抗する間もなく、イルカは下半身を裸に剥かれ腕を紐で拘束された。そしていつものように言葉も愛撫も無いままに、カカシの腿の上に跨らされ貫かれた。

こんな真昼間にこんな場所で。もし誰かに見つかったら。

イルカは焦った。カカシのこんな振る舞いは始めてだった。狼狽するイルカの様子を楽しむように、カカシが緩く腰を回すようにした。手を拘束され口を押さえられないイルカが、くう、と小さく呻いた時、がさがさと茂みを掻き分ける音が遠くで聞こえた。

「....っ!」

イルカは胸をヒヤリとさせた。まさか。そう思うと全身から血の気が引いていく。

「おっかしーなあ。絶対この辺にいるってばよう!」

「そうよねー、こっちの方に逃げていくの見たもんねー。」

「フン。」

ナルト達だ。そういえば今日の下忍任務は猫探しなのだとナルトが言っていた。

俺ってば頑張るから!そんでもってそんでもって、サスケの野郎よりはやく猫を見つけてみせるってばよ!そしたら一楽でラーメン奢ってくれよな、イルカ先生!

イルカを慕って、はにかんだ笑顔を向ける少年。その少年が、今、近くに。今この姿を、この淫らな姿を見られたら。
ようやくカカシの意図を悟って、イルカはカカシをキッと睨みつけた。こんな姿をカカシは見られても構わないと言うのか。信じられなかった。カカシがわざとらしく、おやおや、といった風におどけて肩を竦めた。そうしている間にも子供達の気配が段々近付いてくる。自分の気配を消すように、口を結んだままじっと動かないでいるイルカを、カカシは下から激しく突き上げた。カカシに押さえられた腰は奥までみっしりとカカシのものを受け入れ、そのいつもより深い結合にイルカは身を震わせた。イルカは歯を食いしばって耐えた。気を抜くと叫んでしまいそうだった。

だがそんなイルカの努力も虚しく、子供達はもうすぐそこまで来ていた。

「こっち探したぁ?」

サクラがイルカの居る方へ駆寄ろうとしたその瞬間。


にゃあ〜。


遠くで猫の鳴き声がした。

「あっちだーーーー!!」見逃すな、追かけろ。

途端に子供達の足音が遠ざかっていく。イルかはもう気配を消す必要が無いほど子供達が離れたのを確認すると、体の緊張を解いた。カカシを殴ってやりたい。思いきり、罵倒してやりたい。そう思うのに腕は自由が利かず、下からの突き上げは止む事が無く、零れそうになる嬌声を我慢するので精一杯だ。もう勝手にすればいい。はやく終れ、とイルカが思っていると、カカシの動きがピタリと止んだ。

「ほら、自分で動いて。」

カカシの言葉にイルカは呆然とした。カカシは歪んだ笑みを浮かべていった。

「俺をいかせられなきゃ、ずっとこのままだよ?」ま、俺は別にいいけど。

カカシの声がひどく遠かった。カカシは本気だろう。本気で言ってる。本気でイルカを嬲るつもりなのだ。従うのは嫌だった。今日のカカシの振る舞いはイルカには許せないことだった。それが愛する人でも。いや愛するからこそ許せなかった。

俺だけじゃなく、子供達を巻き込もうとした。

見つかったら傷つくのはイルカだけじゃなかったはずだ。
しかし、逡巡したのは一瞬だった。また子供達がいつ戻ってくるかも知れないのだ。その恐怖の方が勝った。
イルカはゆっくりと自分の腰を揺らし始めた。
それをカカシが満足そうな顔で見つめる。

貶めているつもりなのだ、イルカを。

「...ふ....ん....っ」自ら腰を揺らし痴態を晒しながら、イルカは憤っていた。

そうだ。あの時も俺は怒っていたんだ。
6年前も。
ちっとも自分を大切にしないあの人に。
自分を貶めてばかりのあの人に。

貶めることを、他人にも強要するあの人に。

ちっとも変わっていない。嫌になるほど。

俺は。自分の愛するあの人が。
自分の愛する体を心を、全て蔑ろにするのが許せなかったんだ。

だから。

吐き出したカカシがイルカの拘束を解くと同時に、イルカは殴っていた。

カカシを。


続く