ずっと俺を好きでいて。
遠く離れていても。
ずっと会えなくても。
いつか俺が俺でなくなってしまっても。
俺が先に逝ってしまっても。
ずっとずっと、好きでいて。
あんたの心は俺だけのものだと誓って。
ふたりの、約束。
胸に頬を寄せて確かめる
(1)
「こっちに来るな!」
逃げろ、と叫びながらもカカシは駄目だと分かっていた。
駄目だ。
近すぎる。
間に合わない。
カカシは一瞬たりとも迷わなかった。
駆寄るカカシの腕が庇うように愛しい人を掻き抱いた、その瞬間。
ドゴオオオォォォン…!
夜の静を切り裂く爆発音が大地を震わせた。
カカシは今度受け持つことになった下忍候補生の履歴書に目を通していた。
狐付きに、うちはの生き残り、か。
おもしろくなりそうだとカカシは口の端を吊り上げた。俺の退屈を紛らわせてくれるような玩具だといいんだけど。
正直カカシは下忍担当教官なる自分の仕事に辟易していた。
その合間に割り振られる上忍としての任務はそれよりは幾許かマシだったが、カカシの欲求を満たすようなものは殆ど無かった。
平和過ぎるとカカシは思っていた。この里は平和過ぎる。
カカシは6年前まで暗部に所属していた。物心が附いた時からカカシは戦場に身を置いていた。
戦いは生き残りを賭けたゲームのようなものだった。勝ち進んで歩を進めることにカカシは無上の喜びを感じた。
足元に積み重なる死が、カカシが生きているという証だった。
それが今はどうだ。
カカシは皮肉な笑みを浮かべた。平穏な日常はカカシから生きているという実感を奪った。生きていることを感じない毎日。それは死んでいるも同然だった。暗部に帰りたかった。だが、それももう叶わぬ願いだ。
カカシは自分の右足を擦った。
カカシは6年前戦地で敵の仕掛けた爆発に巻きこまれて瀕死の重傷を負った。
意識が戻った時、よく助かった、奇蹟だと皆が口を揃えて言った。
命は取り留めた。
だがその代償として、失ったものがあった。
ひとつは、右足を僅かに引き摺るようになったこと。
見た目にはまるで分からないが、左足に比べ反応が少し遅れるのだ。その1秒の遅れが暗部には命取りだった。
そのためカカシは暗部を退くことを余儀なくされた。
ふたつめは。これはカカシにとってあまり支障がなかったのだが。
記憶の一部を、失った。
爆発の衝撃に脳が激しく振れて頭蓋骨に叩きつけられたかのようになったらしい。
脳を一部損傷したのだ。重い障害が残るかもしれないと憂えていた周囲は、安堵で胸を撫で下ろした。
失われた記憶はほんの僅かだったからだ。
爆発にあうまでの、僅か半年ほどの記憶。
カカシはそれを永久に失った。
あの時、あの男を庇わなければ。
カカシは急に思い出して苦々しい気持ちになった。
自分が重症を負ったのはその男を庇った所為だと後で知った。自分が他人を庇うなんて信じられなかった。なんでそんなことをしたのか。記憶を失う前の自分に詰問したいくらいだ。
どうしてそんなことになったのか、その男に訊いてみたかったが、やめた。
どんな返事を貰っても、その男を殺してしまいそうだったからだ。
それにその男も重症で、カカシの意識が戻った時はまだ面会謝絶だった。
カカシはその男と顔を合わせないまま、早々に木の葉に戻った。
その男がそのまま死んだのかどうかも分からなかった。興味が無かった。
だから、その名前を聞いた時、カカシは心底驚いた。
「アカデミーでナルト達の担任をしておりました、海野イルカといいます。よろしくお願いいたします。」
この男が。
生きていたのか。
カカシはどす黒い炎が心の中で煙るのを感じた。
続く